「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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「死刑制度について考える (18) ~ 多数決原理で死刑を選ぶことの是非」 

「死刑制度について考える (18) ~ 多数決原理で死刑を選ぶことの是非」

裁判員制度における審理は、裁判官3人と裁判員6人によって行われます。そして、裁判官1人以上を含むことを条件とする特別多数決によって有罪が決定します(例えば9人のうち5人が有罪を選んだ場合、それは過半数ですが、もしその5人が全て裁判員であった場合は、無罪になります)。それは死刑も同じです。

非常に微妙な事案で、4人が死刑にすべきではないという強い確信と信念を持って主張しても、多数決で5人が死刑に票を投じれば(その中の一人は裁判官であることを条件として)、被告人は死刑になります。たった1票の差で無期懲役刑と死刑とが分かれるという場合もあるということです。

人の命を多数決で決めることに違和感を覚える人は少なくないのではないでしょうか。

裁判官のみによる死刑の審理においては、原則全員一致とされていますが、そもそも反対意見を述べた裁判官がいたかどうかは明らかにされません。死刑判決は、最高裁まで審理されることが少なくないのですが、そこで反対意見が付されることはほとんどありません(光市母子殺害事件の最高裁第一小法廷判決に、宮川光治裁判官が反対意見を述べたことは、事件の特殊性を伺わせる例外中の例外のことです)。

しかし、横綱級冤罪の袴田事件でも、一審裁判体の一人の裁判官が無罪心証を抱きながらもほかの二人が有罪心証であったため、有罪判決、しかも死刑判決を書かなくてはいけなかったことを、彼が退官後明らかにしたことは有名な話です(注1)。

最近読んだ文献に永山則夫裁判に関するものがあります(注2)。1968年から1969年にかけて連続ピストル射殺事件で4人を射殺した永山死刑囚の裁判は、一審死刑判決を控訴審が破棄(無期懲役)、そして検察が事実上量刑不当として上告した歴史上初めての事件(それまでも一審死刑判決が控訴審で無期懲役となった例は約200件に上るが、検察が上告することはかつてなかった)です。そしてその最高裁判決は、その後の死刑の基準として「永山基準」と引用される有名な事件です。

その船田三雄裁判長による控訴審判決に次の一節があります。

「ある被告事件につき死刑を選択する場合があるとすれば、その事件については如何なる裁判所がその衝にあっても死刑を選択したであろう程度の情状がある場合に限定せらるべきものと考える」

死刑適用はあくまで例外として謙抑的に適用しようとする精神を表したものとして、腑に落ちるものです。

判決文はその後に次のように続きます。

「立法論として、死刑の宣告には裁判官全員一致の意見によるべきものとすべき意見があるけれども、その精神は現行法の運用にあっても考慮に値するものと考えるのである」

「死刑宣告は裁判官全員一致によってのみなされる」、即ち、地裁9人、高裁3人、最高裁5人の合わせて17人の全員が全員死刑で仕方がないという事案のみ死刑判決が適用されうるとするものですが、それは一考の価値があるのではないでしょうか。

自分は死刑にすべきではないと考えながら、多数決によって、人の命を奪うことを選択せざるを得ない者の心の傷は言葉以上に大きいものだと想像します。自分がもし裁判員に選ばれて、そうした状況に直面した場合のことを考えると、本当に恐ろしくなります。

死刑を適当でないとする意見が、(無期懲役や有期刑ではなく)無罪を支持する場合もあり得ます。例えば、責任能力が問題になる場合(あるいは冤罪だと思う場合も)です。死刑と無罪に票が分かれた場合、死刑が多数派の場合、無罪を支持する人が死刑を宣告しなければならない精神的苦痛はいかほどのものでしょうか。死刑判決は全員一致のみという場合、判決は無期懲役が相当となるはずですが、無罪だと思っている人にとっては、無期懲役であればまだましということになるのではないでしょうか。

しかし、全員一致でのみ死刑を選ぶことにはデメリットもあります。それは、裁判員一人にかかる責任が今以上に大きくなることです。

例えば、自分一人が死刑に反対という状況を考えてみます。ほかの8人が全て死刑を選択していると事案においては、世論がかなり死刑を後押ししていると想像されます。もし自分の一票で、裁判体全体の判断が死刑を選ばないという場合、メディア及び世論のバッシングが懸念されます(例えば、先に挙げた光市母子殺害事件での一審、控訴審無期懲役判決に対してのように)。判決に至る審理で、ほかの裁判官、裁判員の批判に耐えられるかどうかも微妙です。

全員一致の精神は正しいと思いますが、運用面では難しいこともありそうです。

今までは、死刑を支持したかどうか外部に分からなかった裁判員が、全員一致となれば死刑を支持したことが分かってしまうという問題もあります。

誰しもが死刑を求刑する立場になり得る以上、是非、一緒に考えてほしい問題です。

(注1)
ここをクリック→ ブック・レビュー 『美談の男 ― 冤罪袴田事件を裁いた元主任裁判官・熊本典道の秘密』 尾形誠規著

(注2)
『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』 堀川惠子著
ここをクリック→ Amazon『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』
非常に興味深く読みました。できれば、永山則夫著『無知の涙』を読んでからの方が心に響きます(但し、『無知の涙』は9割駄文なので少々読むのは辛いです。しかし、1割には素晴らしい輝きがあります)。

永山則夫事件に興味がある方は、こちらも是非ご覧になって下さい。
ここをクリック→ 「ETV特集 永山則夫 100時間の告白 ~封印された精神鑑定の真実~」













ここをクリック→ Amazon 『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』 カスタマーレビュー

表紙1


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category: 死刑制度について考える

2017/01/30 Mon. 05:44 [edit]   TB: 0 | CM: 3

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この記事に対するコメント

八田さま

いま文部科学省では事務次官を始めとする人事課・OBなど国家公務員法違反の再就職斡旋をやっていた報道が有りました。事務次官は退職させられたそうですが関わった他の方々はどうなるのでしょうかね?警察・検察は捜査に入るのでしょうか?恐らく事務次官が責任を取って辞められたのでしょうが、それで終わりなら検察は何の為にあるのか?と言う事になりませんか?普通の感覚で考えたら可笑しな美濃加茂市長事件や国循サザン事件・・・無理やり起訴して事件とし、何で裁判にしなければいけないのか?理解出来ないところがあります。美濃加茂市長の警察の取り調べでは「美濃加茂を焼野原にするとか、はなたれ小僧とか」滅茶苦茶な取り調べが行なわれた事を本人が話しておりましたが、この事は問題になっていませんよね?日本の司法はどうなっているのか?府に落ちない気持ちです。警察にも検察にも天下りはあるのでしょうね・・・警察・検察の組織防衛のためにも文部科学省の国家公務員法違反を事件にするわけには行かない・・・これが本音でしょうか?
八田さんはどう思います・・・

名無し #- | URL | 2017/01/30 Mon. 13:55 * edit *

警察・検察の天下り

役人が役人を取り締まるのはかなり想像に難いです。日本の有罪率の高さの一因は、裁判官と検察官の仲間意識もないではないと想像しますから。それでも検察官の場合は、資格があるので強いと言えます(ヤメ検弁護士という道がありますから)。とはいえ、検事総長レベルになると、添付のURL(下の「URL」参照)にもあるように、企業への天下りへの道は開かれています。それよりも警察OBの天下りは、下はパチンコ屋から上は大企業まで相当ありそうです。一般国民からすると腹立たしい以外の何物でもないのですが。再就職等監視委員会のグッドジョブを今後も期待します。

八田隆 #- | URL | 2017/01/30 Mon. 15:30 * edit *

八田さま

コメントありがとうございます。警察も検察も個人の犯罪に対しては(役人に対しても)厳しいところがあるように感じられます(身内には甘いようですが)、反面組織となったら全くと言って良いほど手はつけませんよね・・・誰かに責任を押し付けてハイ1件落着ですね・・・(村木事件などは結果として3人逮捕でしたが良い例かと)今回の文部科学省は個人と言うより組織の問題と思いますが・・・如何でしょうか。それこそ逮捕され関わった者の全てを刑事責任に問えば少なくとも数年間は天下り斡旋は出来なくなると思うのですが・・・

名無し #- | URL | 2017/01/31 Tue. 13:06 * edit *

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