「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう 550 「田中周紀著『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』」 11/24/2016 

#検察なう 550 「田中周紀著『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』」 11/24/2016

今月17日に、新潮新書から田中周紀氏著『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』が上梓されました。

会社はいつ道を踏み外すのか

本の裏表紙からの口上を引用します。

「東芝、オリンパス、NHK、第一勧業銀行、山一證券…なぜ彼らは道を踏み外したのか。いかにして法の網の目をくぐろうとしたのか。長年、社会部の経済事件担当記者として企業の不正を追及してきた著者が、独自取材をふんだんに盛り込み、事件の裏の裏まですべて明かす。バイセル取引、のれん代、にぎり、飛ばし等々、複雑な経済用語も徹底解説。あなたの会社は大丈夫?全ての組織人必読の経済事件講座、開講!」

10章に章立てられ、その第9章は私が巻き込まれたクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件を扱っています。

第1章 東芝「不正経理」問題(2015年)
歴代3社長はなぜ「チャレンジ」を求め続けたのか?

第2章 山一證券「飛ばし」事件(1997年)
老舗証券を破綻させた「エリート」の資質とは何か?

第3章 オリンパス巨額「粉飾決算」事件(2012年)
巨額損失は如何にして20年間も隠蔽され続けたのか?

第4章 NHK記者「インサイダー取引」問題(2008年)
NHK記者に良心の呵責は存在していなかったのか?

第5章 第一勧業銀行と大手証券4社「総会屋利益供与」事件(1997年)
大銀行はなぜ気鋭の総会屋に絡め取られたのか?

第6章 石橋産業「手形詐欺」事件(2000年)
稀代の詐欺師許永中の“人たらし"の手口とは?

第7章 早稲田大学・マネーゲーム愛好会の「相場操縦」事件(2009年)
仕手筋顔負けの早大生は如何にして転落したのか?

第8章 ニューハーフ美容家「脱税」事件(2010年)
ニューハーフ美容家は誰にカネを渡したかったのか?

第9章 クレディ・スイス証券元部長「脱税(無罪)」事件(2009年)
単なる勘違いの申告漏れがなぜ脱税に問われたのか?

第10章 ライブドア「粉飾決算」&村上ファンド「インサイダー取引」事件(2006年)
誰が無敵のホリエモンを潰したかったのか?

第9章は、私の事件を取材し続け記事にしてきた田中氏の著述ゆえ、これまで以上に簡潔かつ濃い内容になっています。

章の初めにテーマを書き記しています。

「「徴税権力」と粘り強く闘い続けた八田は、査察から5年余りをかけて史上初の無罪判決を勝ち取る。この章は「会社は社員を守らない」「国家権力は無実の人間を平気で罪に陥れても恥じるところがない」という教訓である。」

是非、お手に取ってお読み頂ければ幸いです。

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11/24/2016













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2016/11/24 Thu. 09:34 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (528) 「田中周紀氏著文庫本『国税記者の事件簿』発売!」 1/21/2016 

#検察なう (528) 「田中周紀氏著文庫本『国税記者の事件簿』発売!」 1/21/2016

私の巻き込まれた「クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」を最初に世に知らしめたのは、当時テレ朝の国税担当記者であった田中周紀氏による日刊ゲンダイに5日間連載の「実録 マルサの事件簿」でした。

ここをクリック→ 日刊ゲンダイ連載「実録 マルサの事件簿」 

私の事件を含め、20を越える脱税事件を扱った「実録 マルサの事件簿」を単行本化したのが、『国税記者 実録マルサの世界』です。

国税記者

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初版が上梓されたのは2011年12月21日ですから、タイミングとしては丁度私が起訴された時(12月7日)に重なります。私の件を扱った章は、初版時には特捜部の取調べまで。増刷時に起訴されたことが加筆されました。

その単行本が文庫化され、本日(2016年1月21日)発売されます。

国税記者の事件簿

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私のことを扱った章は、単行本では30ページでしたが、文庫本では56ページに拡大しています。そして元々の内容も、大幅に書き換えられています。

文庫本では公判の結果もカバーしているため、章のタイトルは「無罪―外資系証券元部長の孤独な闘い」となっています。

その第7章の導入です。

「スイスの親会社のFS(ファントム・ストック)やSO(ストック・オプション)を付与された約300人の社員と元社員のうちの約100人が、所得税を源泉徴収されていないことに気づかず無申告だったという「クレディ・スイス証券集団申告漏れ」を取り上げる。東京国税局査察部が見せしめのためにただ一人告発した元部長の八田隆(46)は一貫して脱税の意図を否認。5年を越える孤独な戦いの結果、脱税史上初の歴史的な無罪判決を勝ち取った。私自身も告発の直後から深く関わった、この事件の経緯を詳しく記す。」

このイントロダクション通り、告発直後からの何度もの取材を元にした事件の顛末が、詳細に記載されています。特に、私とのやり取りは非常に「ライブ」な感じです。

その章の結びは次の通りです。

「東京国税局査察部の強制捜査から判決まで5年1ヵ月を費やしたこの事件。八田は14年5月16日、検察庁と国税庁を相手取り、5億円の損害賠償の訴えを東京地裁に起こした。請求金を勝ち取った暁には、刑事訴訟対策の基金を設立するという。最強タッグを相手にした戦いは、攻守を入れ替えて今も続いている。」

この章に先立つ第2章は、「「マネーの警察」国税当局の正体」と題し、国税局の実態をつぶさに記述しています。そこでは、私の無罪判決以降、国税局査察部が委縮して小口事案ばかりを手掛けていることが記されています。引用された査察部OBの言葉です。

「冷静に考えれば告発を途中で思いとどまれたはずの八田氏の事案を、無理やり告発まで持って行ったのは、明らかに査察部と特捜部の勇み足だった。しかし、このケースはあくまでも例外的。事業規模がショボい業種にしか目を向けず、巨悪に挑まないようでは、国税当局に対する国民の期待に応えることはできない」

続けて田中氏はこう記します。

「関係者によると特捜部は15年夏以降、ようやく“八田ショック”から抜け出してやる気を見せていると言われる。査察部も一日も早く、かつての勢いを取り戻してほしいものだ。」

これを受けて、あとがきでもこう記されています。

「「沈黙の艦隊」と呼ばれる国税当局。記者という職業を生業とするものにとっては最も難関かつ最も魅力的な取材対象だ。「はじめに」でも記したように、危機的な財政難に直面する財務省=国税庁の徴税権力は、マイナンバー制度や出国税など新たな武器を手にして徴税力のさらなる強化に本腰を入れている。マルサも第七章で取り上げた“八田ショック”から脱して、海外のPB(プライベートバンク)に巨額の「たまり」を隠している業者の摘発などに力を入れてもらいたいものだ。」

私は自分の身に降りかかった火の粉を払っただけですが、徴税権力は自分の首を自分で締めたようなものです。その結果、脱税という我々国民全ての不利益になるような行為が見逃されているようでは、全くもって理不尽極まりないと言えます。こうした結果が、彼らの奢りから生まれたという自覚を持って、公僕としての職務を全うしてほしいと思うのは、私だけではないと思います。

是非、田中氏著の『国税記者の事件簿』を手に取って、徴税権力の行動を監視すべく理解を深めて頂ければと思います。

1/21/2016














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2016/01/21 Thu. 01:16 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (508) 「前田恒彦氏寄稿『デイリー・ダイヤモンド』の記事が無料閲覧可」 10/19/2015 

#検察なう (508) 「前田恒彦氏寄稿『デイリー・ダイヤモンド』の記事が無料閲覧可」 10/19/2015

愛知弁護士会主催の講演でご一緒した(注1)元特捜検事前田恒彦氏(注2)が、主に寄稿している媒体は、『週刊ダイヤモンド』のインターネット版増刊の『デイリー・ダイヤモンド』です。これを購読するためには、『週刊ダイヤモンド』を購入し、本誌掲載のパスワードを入力する必要がありますが、前田氏寄稿の過去の記事が、今月末までパスワード入力なしで無料閲覧できます。

daily diamond

これがこれまでの記事一覧です。

ここをクリック→ 『デイリー・ダイヤモンド』「元特捜部主任検事のざわめき」

一覧の60本の記事のうち、「いいね!」と「ツイート」の合計数が今日現在で一番多い記事は、なんと彼が昨年2月、私の控訴審において検察官控訴棄却の後に、私に関して書いた記事です。

最後で彼が、「特捜検察が手がける事件の多くは、こうした被疑者や関係者の「あきらめ」で成り立っていると言っても過言ではない」とする指摘は、さすが最前線の現場にいた者だからこそ理解していることだと言えます。是非記事をご一読下さい。

ここをクリック→ 「クレディ・スイス証券元部長に再び無罪判決 当局が告発や起訴に至った背景とその問題点」

この機会に是非、ほかの記事にも目を通してほしいものですが、特に私が重要だと思った記事を3つピックアップします。

ここをクリック→ 2014年3月24日掲載 「開示証拠のネット投稿で有罪判決 法の初適用で問われる『証拠は誰のものか』」

ここをクリック→ 2015年6月29日掲載 「再犯必至の凶悪事件で注目される知られざる仮釈放の決まり方」

ここをクリック→ 2015年7月10日掲載 「安保法案の影で静かに審議が進む刑事司法改革法案に思うこと」

インサイダー、特に特捜という検察組織の中でも良くも悪くも最も「検察的」な部署にいた彼の見識を共有しない手はありません。刑事司法改革は他人事ではなく、我々国民の日常生活にダイレクトに影響を及ぼす事柄です。是非、関心を持って頂ければ幸いです。

(注1)
前田氏とご一緒した講演の模様がこちらです。

名古屋8

ここをクリック→ #検察なう (460) 「愛知県弁護士会主催「3・7取調べの可視化市民集会」講演全文」

(注2)
ここをクリック→ Wikipedia 前田恒彦

10/19/2015













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2015/10/19 Mon. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (507) 「『告発の正義』とクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件~各論 第四章「激変する「告発の正義」と「検察の正義」の関係」(下)」 10/15/2015 

#検察なう (507) 「『告発の正義』とクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件~各論 第四章「激変する「告発の正義」と「検察の正義」の関係」(下)」 10/15/2015

前回ブログに引き続き、郷原信郎氏最新刊『告発の正義』よりクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件に関する各論的論述を引用します。

ここをクリック→ #検察なう (506) 「『告発の正義』とクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件~各論 第四章「激変する「告発の正義」と「検察の正義」の関係」(上)」

告発の正義

(承前)
<当時の東京地検特捜部が置かれていた状況>

その事情として考えられるのは、八田氏の告発が行われた2009年12月頃に、東京地検特捜部が置かれていた状況である。

その頃、2009年8月末の衆議院議員総選挙で民主党が圧勝し、同党を中心とする連立政権が誕生し、小沢氏が政権与党の民主党の幹事長に就任した。特捜部は、その頃から小沢氏に政治的ダメージを与えるとともに、西松建設事件の失敗捜査の汚名を晴らすべく、陸山会の世田谷区の土地取得にかかる政治資金収支報告書虚偽記入事件の内偵捜査を進めていた。

2009年12月というのは、東京地検特捜部が、そのような陸山会事件の捜査に組織を挙げて取り組んでいた時期だった。

当時の特捜部の幹部は、小沢氏を起訴して、その政治生命を絶つという「妄想」に取りつかれており、関連する人物、団体等についての税務申告や資金の流れについて様々な情報を保有し、調査を行うことができる国税局との緊密な連携・協力関係を維持することが不可欠だった。

そのような状況において、国税当局の幹部から、八田氏の告発を何とかして受けてもらいたいとの強い要請を拒絶することができず、有罪判決を得る十分な見込みがない事件の告発を了承したとの推測も可能だ。

そして、その告発の約2年後の2011年12月7日に八田氏は在宅起訴されるが、その間、2010年9月、郵便不正事件で、村木厚子氏に対して無罪判決が出され、検察が猛烈な社会からの批判にさらされ、特捜部は捜査に対するチェック強化や組織見直しの影響下に置かれていた。

<検察不祥事が不当な告発・起訴・控訴の背景か>

従来は、脱税事件で被疑者が嫌疑事実を否認している場合には、逮捕・勾留したうえで起訴するのが一般的なやり方だった。しかし、特捜部は、八田氏を逮捕・勾留せず、否認のまま在宅起訴した。これは、当時の検察不祥事・特捜改革という検察をめぐる状況の下では、証拠が希薄で有罪判決の十分な見込みのない中で逮捕・勾留することが困難だったからだと考えられる。

しかし、そうであれば、起訴自体を差し控えるのが当然だ。ところが、そこには、「告発要否勘案協議会において検察官が了承したうえで国税局が告発した事件について、不起訴にすることは許されない」という国税当局の「告発の正義」と「検察の正義」のとの深い関係があった。

東京地検特捜部は、有罪判決を得る見込みがほとんどないことを承知のうえで起訴する、という「暴挙」に出ざるを得なかった。そして一審判決を覆す見込みもほとんどないのに、本来、無罪判決に対しては極力慎重であるべき検察官控訴が行われたのも、「告発の正義」と「検察の正義」の関係の下では、国税当局や検察の組織の面子を潰すことになる控訴断念という判断ができなかったということであろう。

検察が完全敗北を喫した八田氏の事件は、国税当局の「告発の正義」と「検察の正義」の歪んだ関係が、徴税という国家作用のための検察官の権限の濫用を招き、源泉徴収によって納税している多くの給与所得者の市民に対して重大な脅威を与えかねないことを示している。

八田氏は、脱税で告発され、起訴され、控訴までされたことで、長期間にわたって、脱税の被疑者、被告人の立場に立たされ、多くのものを失った。それによる損害の賠償を求める国家賠償訴訟を提起し、私も、その代理人に加わっている。

国側は、不当な告発、起訴、控訴に関する国側の過失を主張する八田氏側の請求に対して、一審判決、控訴審判決の「当然の判断」を前提にすると、過失を否定する余地がないと判断したためか、無罪判決が誤っているかのような「苦し紛れ」の主張を行って、必死に賠償責任を否定しようとしている。
(了)

私を刑事告発した国税局と、起訴・控訴をした検察に本当に正義があるのか、それを問う私の国賠審にこれからもご注目下さい。

10/15/2015
















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2015/10/15 Thu. 00:49 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (506) 「『告発の正義』とクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件~各論 第四章「激変する「告発の正義」と「検察の正義」の関係」(上)」 10/12/2015 

#検察なう (506) 「『告発の正義』とクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件~各論 第四章「激変する「告発の正義」と「検察の正義」の関係」(上)」 10/12/2015

郷原信郎氏最新刊『告発の正義』の第二章では、「法律上の告発」が論じられ、その中で「公務員の告発」としてクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件が概論的に述べられていました。

ここをクリック→ #検察なう (503) 『告発の正義』とクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件~概論 第二章「「法律上の告発」の諸相」

続けて第四章から各論的な論述を、二回に分けて抜粋引用します。

告発の正義

<国税局と特捜検察の完全敗北>

2013年3月1日東京地裁刑事8部は、元クレディ・スイス証券の八田隆氏に対して無罪の判決を言い渡した。検察は控訴を申し立てたが、控訴審での検察官の証拠請求はすべて却下され、第一回期日で結審、2014年1月31日に控訴棄却の判決が言い渡され、八田氏の無罪が確定した。

東京国税局に告発され、東京地検特捜部に起訴される脱税事件では、起訴された脱税額が一部変更されることはあっても、無罪となった例はなかった。

国税局の税法違反の告発については、国税局の査察部門と検察庁の担当検察官との間で「告発要否勘案協議会」と称する事前協議が行われ、検察官の了解を得たうえで告発が行われることになっている。その協議会の枠組みの中で、告発の対象事件を、確実に有罪判決が得られる事件に絞り込むことになっているので、告発された事件は100パーセント起訴され、有罪率も100パーセントだった。

国税局という税の専門機関が調査したうえ、告発すべきと判断し、検察も有罪判決が得られると判断したうえで、告発・起訴が行われた事件、つまり、国税の「告発の正義」と「検察の正義」が一致して「有罪の判断」を示しているのであるから、裁判所が、その判断を否定して無罪判決を言い渡す余地はあり得なかった。

国家が個人から税を徴収するに当たって、自ら所得を申告して納税させるという「申告納税制度」の下では、当局による所得の把握を困難にするような仮装・隠蔽行為が行われると、制度の運用に支障が生じる。そこで、そのような行為を罰することで、納税者の正直な所得申告を確保しようというのが脱税犯処罰の趣旨であり、まさに、税を徴収する国の側の事情による処罰である。

そうである以上、脱税による処罰の対象は、結果的に申告すべき所得が申告されていかったとか、過少だったという「申告漏れ」ではなく、所得を隠蔽する工作を行ったことや意図的に所得を過少申告して税を免れようとしたことが客観的に明らかな場合に限定されなければならないのは当然である。

八田氏は、高額納税者ではあったが、「給与所得者」だった。本来は、会社からの給与支払については、株式報酬についてもすべて源泉徴収が行われるべきであった。八田氏は、2006~07年にかけて勤務していたクレディ・スイス証券から現金の代わりに現物支給されていた株式報酬について無申告であったとして、2009年12月22日に、脱税(所得税法違反)で東京国税局に告発されたが、捜査段階から、株式報酬は源泉徴収されていると認識していたもので、脱税の犯意はなかったとして全面否認した。

しかも、同社において税務調査の対象とされた約300人のうち、約100人が株式報酬について無申告であったこと、ゴールドマン・サックス証券会社など、クレディ・スイス証券会社と同様の立場にある外国証券会社では、株式報酬について源泉徴収を行っていたことも明らかになった。

給与所得者の場合、所得税が給与から源泉徴収されることで、「申告納税制度」によらず、国家も徴税コストをかけず、多くの国民から税を徴収しているのであり、そのような給与所得者に、源泉徴収されていない「納税申告すべき所得」があり、申告が行われていなかったとしても、その不申告ないし過少申告が意図的なものでなければ、税務当局がそれを指摘して納税申告を求めればよいのであり、脱税犯として処罰の対象とすることなど、絶対にあってはならない。

そういう意味では、給与所得者だった八田氏が、結果的に過少申告であったことは認めつつも、源泉徴収が行われていたと認識していて脱税の意図はまったくなかったと一貫して主張し、それを裏付ける十分な証拠もあったのに、脱税で告発を行うというのはおよそ考えられないことだ。

<「見せしめ」としての脱税告発>

ところが八田氏は脱税で告発され、東京地検特捜部によって起訴された。そして、一審の公判審理の結果、「当然の無罪判決」が出された。検察は、その当然の結果をも受け入れずに控訴を申し立てたが、控訴は棄却され無罪が確定した。

基本的な証拠関係は、起訴の時点から、いや告発の時点から変わっていない。公判での「全面敗北」の可能性が高いことは、告発の時点で十分予想できたはずだ。

このような事件については「不告発」という結論を出すことが、「告発の正義」と「検察の正義」が合体した酷要否勘案協議会の枠組みの下では当然だったはずだ。それが、なぜ告発されたのか。

まず、国税当局が、八田氏を所得税の脱税で告発しようとし、それにこだわった背景に、2008年秋のリーマンショックまでの数年間、世界的な株高、金融市場の活況という状況の下で、億単位の高額給与の支給を受ける証券マンが多数に上っていたことがあったものと考えられる。その報酬には株式報酬も含まれており、現金給与のように、金額や支給の事実は単純なものではない。

そのような証券マンの高額の所得について、漏れなく所得税を徴収するためのアプローチとしては、二つの方向が考えられる。

一つは、給与所得者の所得税徴収のための源泉徴収を徹底させる方向である。源泉徴収によって給与から控除して徴収するのが給与所得者の所得税徴収の原則であり、給与支給の際に、事業者が所定の源泉徴収を間違いなく行うことは「企業のコンプライアンス」である。そこで、給与支払者である証券会社にコンプライアンス強化を要請していくのが、本来の原則に沿ったアプローチである。

もう一つのアプローチとして考えられるのが、給与支払を受ける側に、株式報酬を含めて、自らの所得金額を正確に把握して申告納税させる方向である。このような方向で、所得者側の義務を徹底していくうえで最も効果的な方法は、その義務を怠った場合に厳しいペナルティが科されることを認識させることである。

そこで、高額所得者の一人であった八田氏の過少申告の問題を取り上げて、「見せしめ」として脱税で告発し、所得者側が申告義務を怠ると、刑事処罰を受けることもあり得ると世の中に示そうとしたのが、国税当局が八田氏を告発しようとした事情だったのではないかと考えられる。

しかし、国税当局が、そのような理由で八田氏を告発しようとしても、刑事処罰を行うためには、脱税の犯意がなければならない、というのが大前提である。給与所得者のほとんどは、所得税は源泉徴収されていると思っており、そう思って、株式報酬を申告しなかったのであれば脱税の犯意はない。告発しても有罪判決を得る見込みはないのであるから、当然、告発要否勘案協議会の枠組みの下で、検察が告発すべきではないという意見を述べるはずである。

しかし、八田氏の事件については、検察には、そのような国税当局としての政策判断に基づく、無理筋の脱税告発を受け入れた。そこにはそうせざるを得ない事情があったはずである。
(続く)

10/12/2015



















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2015/10/12 Mon. 01:50 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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