「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (530) 「映画『ふたりの死刑囚』と『袴田巌 夢の間の世の中』」 2/6/2016 

#検察なう (530) 「映画『ふたりの死刑囚』と『袴田巌 夢の間の世の中』」 2/6/2016

最近、冤罪がらみの映画を二本続けて観る機会がありました。一本は袴田巌氏と奥西勝氏を描いた『ふたりの死刑囚』、もう一本は袴田巌氏の最近の状況を映し出した『袴田巌 夢の間の世の中』です。

ふたりの死刑囚

『ふたりの死刑囚』は、直球、しかも剛速球のストレートでした。袴田事件の冤罪被害者袴田巌氏と、名張毒ぶどう酒事件の冤罪被害者奥西勝氏を扱ったドキュメンタリー映画です。

二人とも依然再審叶わず死刑囚という身分で一人は生きながら釈放され、一人は獄死しています。二人の死刑囚を対比してより浮き彫りにされるのは、奥西勝氏の獄死だと感じました。名張毒ぶどう酒事件を追い続けている東海テレビ制作であればこそ、そうした意図もあったと思われます。

奥西氏には一旦、再審開始が決定されながらも、検察の異議申立を受け入れ、裁判所が開始決定を取り消す(名古屋高裁)という不正義が行われました。袴田氏の再審開始決定(静岡地裁)には、その反省もあったのではと、深読みします。それに対して、袴田氏の再審開始決定に、真実の追求を捨てて、有罪にすることが自分たちの仕事と言わんばかりの検察の姿勢には、全く反省、進歩がないと感じます。

映画を観て感じたことは、二人の死刑囚には未だ再審がなされていないという事態は、過去の過ちを反省しないという捜査権力、司法当局の姿勢を表しています。それは単に過去のことだけではなく、その姿勢が今も冤罪を生み続けているということです。

また映画を観て、再審請求は親族しかできないということを初めて知りました。帝銀事件が紹介され、平沢貞通死刑囚の獄死以降も再審請求を続けるため、彼の生前、支援者の方が養子縁組をしました。名張毒ぶどう酒事件弁護団も長期戦の構えで、若手弁護士を育成していることも映画で描かれていましたが、奥西氏の死後に再審請求を引き継いだ彼の妹の岡美代子氏も高齢ゆえ、再審請求の「後継者問題」は由々しいとも感じました。

映画の中で、市川寛氏が「良証拠主義」に解説を加えていました。

「有利な証拠と不利な証拠、すべてを見ているのは検察。自分たちは有罪だと信じて起訴するわけだから、裁判所にも有罪と信じてもらうのが検察の務めであるというポリシーがある。裁判所が判断に迷うような余計なものは出さない」

この言葉に、検察がなぜ被告人に有利な証拠を隠すのかの本質を見たような気がしました。

ここをクリック→ 『ふたりの死刑囚』予告編

『二人の死刑囚』を剛速球とすれば、『袴田巌 夢の間の世の中』はチェンジアップです。

この映画には、映画ファンとして正直期待していませんでした。金聖雄監督は、以前にも、冤罪関連の映画として狭山事件を扱った『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』がありますが、それがあまり映画として面白くなかったからです。

彼の作品は、実在の人物の普通の生活を切り取るドキュメンタリーですが、石川一雄氏夫妻の日常が、あまりに日常であり、時々裁判所の前で抗議活動をする「非日常」を挿入しても、そこから彼が経験した冤罪という過酷な状況がそれほどにじみ出ているとは感じられなかったからです。

ところが『袴田巌 夢の間の世の中』は、自分の予想を大きく裏切る味わい深い作品でした。

映画製作サイドのうまさがランクアップしたこともあると思われますが(特に、袴田氏の獄中からの手紙の引用の仕方や音楽の使い方など)、何よりもキャラ立ちした袴田巌氏と姉の秀子氏の存在は大きいと言えます。特に、主役の巌氏を完全に食った感のある秀子氏の存在感が、この映画を映画として面白くしていると感じました。

映画は説明的ではなく、袴田巌氏の奇妙な言動にも解説を加えず淡々と描く作風です。部屋の中をぐるぐる歩く姿は、拘禁反応による障害だとは分かっても、例えば彼が時折見せる「ピース、オッケー、ピース」のハンドサインは宇宙との交信をしているであるとか、うちわを常に手放さないのは拘禁反応の障害の影響であるとか、ジャンケンでもパーしか出せないとか、そうした説明は一切ありません。

彼の奇妙な言動が観客席の笑いを誘うシーンも多々ありましたが、私は正直笑うことはできませんでした。それが苛酷な仕打ちの結果だからです。それを思い知ったのは、映画の中に登場した桜井昌司氏の言葉でした。彼は29年間の投獄生活の一部を、袴田巌氏と同じ東京拘置所で過ごしていますが、死刑執行が朝に告げられることから、その時間が過ぎるまで東拘全体が水を打ったように静かになるそうです。そうした毎日を死刑囚として送ってきた袴田巌氏のストレスがまざまざと心に迫る一瞬でした。

それに対し、超然とした秀子氏の言動には思わず笑わされることも度々ありました。離婚後、独り身で月一度の弟への面会を遠方から欠かさず、彼の無実を信じて支える秀子氏のタフさとそのポジティブさには、頭が下がる思いです。

事件を知らない人の入門としては、事件の説明がほとんどないため、物足りない部分はあるかもしれませんが、ある程度のバックグラウンドの知識があれば、映画として楽しめる良質の作品だと感じました。

ここをクリック→ 『袴田巌 夢の間の世の中』予告編

2/6/2016








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category: 袴田事件

2016/02/06 Sat. 09:28 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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#検察なう (511) 「袴田事件におけるちゃぶ台返しは、刑事司法に対する信頼を失わせるのみ」 10/29/2015 

#検察なう (511) 「袴田事件におけるちゃぶ台返しは、刑事司法に対する信頼を失わせるのみ」 10/29/2015

冤罪に全く関心がない人でも、袴田事件と聞いて知らない人はいないと思います。しかし、関心がなければ、昨年3月の袴田巌氏の刑執行停止による釈放の映像を見て、「無罪放免になったんだ。48年も無実の罪で投獄なんてひどいよね」と思っている方も少なくないのではないでしょうか。

実際には、確定判決を再審理する再審はこれからで、しかも検察の即時抗告により、現時点では、再審開始決定が妥当かどうかの抗告審理が行われているという状況です。

静岡地裁(村山浩昭裁判長)の再審開始決定文の末尾はこう結ばれています。

「袴田は、捜査機関によりねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ、極めて長期間死刑の恐怖の下で身体を拘束されてきた。無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在、これ以上、袴田に対する拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反する状況にある。」

不正義に対する裁判官の憤りが伝わってきます。

しかし、これほど明快に袴田氏の救済こそが正義であるという再審開始決定を受けながら、現在進行中の抗告審理の雲行きが怪しくなっているという状況が伝えられています。

そもそもDNA型鑑定は、袴田事件においては、袴田氏の無実を立証する証拠としてはダメ押しのダメ押しとして扱われるべきものですが(注1)、検察の論理は「DNA型鑑定こそが決定的証拠であり、それを崩せば袴田無罪の立証は崩れる」と意図するものです。

再審開始決定文では、DNA型鑑定に関しては、

「5点の衣類の血痕は、袴田のものでも、被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる」

「白半袖シャツ右肩の血痕は袴田のものではない蓋然性が高まった」

「検査方法としては弁護側鑑定の方がより信頼性の高い方法を用いているから、検察側鑑定の結果によって、弁護側鑑定の結果の信用性が問われることはない」

としています。

5点の着衣の中で、白半袖シャツ右肩の血痕が重視されているのは、そのほかの血痕は被害者が殺害された際の返り血とされていますが、この白半袖シャツ右肩の血痕だけは袴田氏のものとされている(彼は事件時の消火活動の際に、右上腕部に引っかき傷を作っています)からです(注2)。

袴田事件 白半袖シャツ

検察が問題にしているのは、弁護側鑑定の鑑定結果ではなく、裁判官が「より信頼性の高い」とした方法そのものの信頼性です(そもそも科学鑑定は、誰がやっても同じ結果になる再現性が重要視されるはずですが、「弁護側」「検察側」という時点で、お手盛り感一杯です。いっそのことアメリカのイノセンス・プロジェクトに依頼するとか、もっと誰もが納得するすっきりした方法にしてもらいたいものです)。

弁護側鑑定が取った方法は、複数種類の組織(唾液や皮脂、汗など)が付着していることが考えられる試料から、血液のDNAのみを選り分けて取り出す「選択的抽出方法」というものでした。その鑑定方法が適正であることを立証せよと検察が主張し、弁護側も容認したのは①科警研で保存している20年前の古い血痕だけの試料、②新しい血痕に別人の新しい唾液を混ぜた試料、からそれぞれ選択的抽出方法で血液のDNAだけを取り出せるかどうかというものでした。

そして今回の報道にあるように、弁護側が反対しながらも裁判所の職権で行うことになった実験とは、③20年前の古い血痕に別人の新しい唾液を混ぜた試料からでも血液のDNAのみが取り出せるかどうかというものです。

付着したDNAは、時間の経過とともに分解して減少します。それに新しい組織を混ぜ合わせた場合、古い組織のDNAを鑑定しようとして増幅すれば、当然新しい組織のDNAがより強く増幅され、古い組織のDNAは全く反応しなくなることが容易に考えられます。

異議を唱える弁護団に対し、裁判官は、「それなら加える新しい唾液をごく微量にすればいいじゃないか」として、この実験に踏み切った模様です。どれだけの微量が、新旧のDNAの混合試料に影響を与えないかといった科学的根拠の全くない「ごく微量」を裁判官が主張しているということです。これは、弁護側の取ったDNA型鑑定法が適正ではないという結論を導き出したいがための指揮ではないかと危惧されるものです。

そしてもしDNA型鑑定が信用ならないとされたなら、それを言い訳にして(ほかのより重要な無罪の証拠を無視して)、再審開始決定取消ということにもなりえます。そうなれば当然刑の執行停止は取り消され、袴田巌氏はまたもや塀の向こうへ押し込められるということになります。

袴田巌氏の残り限られた人生を更に踏みにじる不正義が許されるべきではないことは言うまでもありませんが、私が憂慮することは別にあります。

冒頭で述べた「無罪放免になったんだよね」と思っている人が、そうなった時にどう思うか。彼らの一部は「へー、やはり彼を犯人だとした警察・検察や有罪判決を出した方の裁判官がやっぱり正しかったんだ」と思うかもしれません。しかし少なからず、いやあれほど大々的に釈放が報じられ少しは事件の内容を知った人の多くは、「ひでー!また同じ過ちを繰り返して人の人生を台無しにすんのかよ。とんでもねえな。やはり日本の司法は中世並みだわ」と思うのではないでしょうか。

「自分たちは間違っていない」と言い続ければ、それを真に受けて信じるというほど国民は愚かではありません。なぜ検察や一部裁判官にそのことが分からないのか。

百万歩譲って、検察と裁判官が神の目を持っていて、真実のところ袴田氏が真犯人だとしても、彼を再び投獄して、彼らが得るものと失うものを比べた場合、失うものの方がはるかに大きいという、なぜ長期的ヴィジョンに立った「ビジネス・ディシジョン」ができないかということを本当に残念に思います。そこで失うものとは、国民の信頼です。そして正義に与えられた力は、国民の信頼に裏打ちされたものであり、国民の信頼を失えば、いずれその力は彼らから奪われることになります。

せっかく勇気ある裁判官が再審開始というお膳立てをしたのに、それをちゃぶ台返しすることのリスクとリターンを検察・裁判官は重々理解すべきだと思います。

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (385) 「犯行着衣が捏造でないことと袴田巌氏が犯人であることは両立しない」

(注2)
犯人性に直接関係するのが5点の着衣の中の血痕でも、白半袖シャツ右肩の血痕だということです。

そのほかの血痕に関しては、もし被害者のものでなければ、5点の着衣は犯行着衣ではありえず、捏造の疑いが強くなり、捜査機関の主張は根底から覆って(結果として)袴田氏が犯人ではないということになります。

弁護側鑑定も検察側鑑定も、白半袖シャツ右肩の血痕に関しては、袴田氏と同一型のDNA型は検出できず。5点の着衣のほかの血痕に関しては、弁護側鑑定は被害者と同一型のDNA型は検出できずとしながら、検察側鑑定では、「緑色のブリーフについた血痕は、被害者由来のものであるという可能性を排除できず」という実に微妙な結果でした。

ちなみに、上半身の着衣が体を動かしてずれる場合には、常に上方にずれるため、もし体についた傷の血液が付着する場合、血痕の位置は傷より下(上方にずれた衣服と位置が一致する)にあるはずですが、白半袖シャツ右肩の血痕の位置は、袴田氏の右上腕部の傷より上にありました。

10/29/2015















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2015/10/29 Thu. 08:27 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (385) 「犯行着衣が捏造でないことと袴田氏が犯人であることは両立しない」 4/3/2014 

#検察なう (385) 「犯行着衣が捏造でないことと袴田氏が犯人であることは両立しない」 4/3/2014

よもや今更、袴田事件の犯行着衣の矛盾を論じる必要があるとは思っていませんでした。再審開始決定に対し、検察が即時抗告するほど愚かとは思っていなかったからです。

即時抗告の意図するところは警察・検察のメンツ保持以外の何物でもなく、捜査機関による証拠捏造、更には冤罪製造がオフィシャルとなることを回避したいというだけのものです。

私は、自分が刑事告発された時「世の中狂ってる」と思いましたが、その感覚を今思い出しています。検察も袴田氏が無実であることは百も承知です。その無実の人間を48年も獄につなぎ、ようやくその鎖を勇気ある裁判官が解いたにも関わらず、また彼を再び地獄に落とそうとしています。それは「世の中狂ってる」と言う以外、表現しようがありません。

人の命より役所のメンツがそんなに大切なのでしょうか。私には全く理解できません。同じ人間だとも思いたくないくらいです。仕事だから仕方ないとでもいうのでしょうか。ハンナ・アーレントは「凡庸な悪」と表現しましたが、それは戦時下の状況です。平時の今日の日本での、確信犯的な国家権力による殺人には断固として反対します。

ともかく、袴田氏の再審開始決定に検察が即時抗告したことは、この日本の歴史における汚点の一つとして(名張毒ぶどう酒事件の冤罪被害者奥西勝氏を地獄に引き戻したことと並んで)我々の心に刻むべきだと強く思っています。

袴田事件の有罪立証はわずか1通の自白調書と、訴因変更で証拠提出された5点の犯行着衣に依拠しています。その5点の犯行着衣に関し、検察は「DNA型鑑定の信用性を争う」と発表していますが、DNA型鑑定によらずともその証拠は矛盾したものであることは明らかです(それも検察は百も承知です)。

そして犯行着衣が捏造でないことと袴田氏が犯人であることは両立しません。袴田氏が犯人であるとするならば、それは犯行着衣が捏造であることを意味します。検証します。

この写真は控訴審において、犯行着衣とされたズボンの装着実験です。ズボンが小さくて履けなかった理由は長く味噌に浸かっていたため縮んだ、袴田氏が太ったためとされました(「太った」という点に関しては、逮捕以前からのほかのズボンが問題なく履けるため全く不合理なものです)。

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次の写真は、右がズボンに付けられた寸法札、左は2011年に新たに開示された証拠の中にあった同じメーカーからの寸法札の見本の写真です。第二回再審請求に際し、それまでの裁判官より積極的な裁判官が開示勧告をしたため、事件後45年を経て初めて開示されたものです。

IMG_0002.jpg

先の装着実験において警察の実況見分調書では、ズボンに付けられた寸法札の「B」の文字は「型」を表すものと記載されました。実際には左にあるように「色」を示すものです。警察は事件当時この見本を押収しており、当然「B」が色を示すことを知りながら、袴田氏が履けない理由をズボンが縮んだということにするため、「型」とでっち上げたものです。実際には、このズボンはJIS規格で、B体よりも細身のY体でした(B>AB>A>Y)。

仮に、このズボンを含む5点の犯行着衣が捏造ではなく、実際に犯人が犯行時に着ていたものとします。そうするとどういうことが言えるか。

犯人は、Y体を着ることができる細身な人間であるということになります。袴田氏は元ボクサーのがっちりした筋肉質です。つまりこの犯行着衣が捏造でなければ、自動的に袴田氏は犯人ではなくなり、逆に、もし袴田氏が犯人であると主張するためには、この犯行着衣が捏造であることになります。犯行着衣が捏造でないことと、袴田氏が犯人であることは論理的に両立しないということです。

images.jpg

この犯行着衣の鮮やかなカラー写真も新たな証拠開示で出されたものです。それまでの証拠写真は白黒やカラーでも不自然に色があせたものだけでした。元東京高裁判事・最高裁調査官の木谷明氏は先日出演したラジオ番組の中で、この写真を見てその血液の色の鮮やかさに驚き、「普通の常識があれば、1年2ヵ月経過した血液の色ではないと分かる」と言っていました。

そして5点の犯行着衣は矛盾に満ちています。その矛盾点を列挙します。被害者4人の血液型はみな異なり、A型、B型、O型、AB型でした。袴田氏の血液型はB型です。

矛盾点① 犯行着衣は相当量の返り血を浴びたことを物語っているが、検出された血液型はA型、B型、AB型のみで、一番刺し傷が多いとされる次女のO型の血液が付着していない。

矛盾点② ブリーフからB型の血液が検出されているが、その上に履いていたはずのステテコ及びズボンからはB型の血液は検出されていない。

矛盾点③ ステテコには大量の血がついているが、その上に履いていたはずのズボンの裏地にはそれよりはるかに少ない量の血しかついていない。

矛盾点③ 袴田氏は事件の際の火事の消火時に右腕上部にケガをした。犯行着衣とされる半袖シャツ、長袖スポーツシャツの右腕上部には穴が開いており、半袖シャツの穴の付近には袴田氏と同じB型の血液がついていた。しかし、パジャマの右腕上部にも同じ位置にかぎ裂きの損傷があり、そこにも血がついていた(自白時にはパジャマを着て犯行に及んだとされていたが、訴因変更後は、犯行時に5点の着衣を着ており、それをパジャマに着替えて犯行着衣を味噌樽の中に隠したと検察は主張)。

矛盾点④ 半袖シャツの右腕には穴は2つあるのに、その上に着ていたはずのスポ―スシャツの穴は1つ。上に着ていたものに穴が2つで、下に着ていたものに穴が1つならまだしも、それが逆になっている。

矛盾点⑤ 装着実験では、袴田氏の右腕の傷と、半袖シャツ、スポーツシャツの穴の位置は、右腕の傷が一番下になり、その次がスポーツシャツの穴、一番上が半袖シャツの穴。内側に着ている半袖シャツの方がずれは少ないはずなのに、内側の半袖シャツの方がずれが多くなっている。

矛盾点⑥ 通常、着衣は上にずれ上がるもの。つまり、ずれ上がった状態でついた穴は、普通に装着すると、腕の傷よりも下になるはず。もし仮に、長袖スポーツシャツの袖を引っ張られた状態で傷がついたとしても、内側に着ていた半袖シャツの方がより引っ張られることはありえず、やはり半袖シャツとスポーツシャツの穴の順序が逆転していることになる。

矛盾点⑦ 緑色ブリーフは事件当時、袴田氏は1枚だけ持っており、犯行着衣に含まれる緑色のブリーフがそれとされた。ところが、その後緑色のブリーフは袴田氏の家族が持っていた事が判明し、緑色のブリーフは2枚になった。

矛盾点⑧ 袴田氏はクリーニングに出す衣料には「ハカマタ」と記名していた。この犯行着衣(特にズボン)にはそうした記名は一切ない。

このように数多くの矛盾点から、DNA型鑑定をせずともこの5点の犯行着衣は捏造であることが明らかだと思われます。

また、この5点の犯行着衣は事件から1年2ヵ月も経過して味噌樽の中から発見されていますが、味噌の漬け込み実験では、犯行着衣の色と同じだけ「味噌色」に染まるにはわずか20分しか要せず、1年2ヵ月漬け込んだ着衣は、血液の判別も目で識別不能なほど茶色に染まることが実証されています。

検察は味噌の成分の一部が明らかにされていないため実験は不正確だと主張していますが、わずかの成分の違いがあっても味噌は「味噌色」です。どんな成分を使えば1年2ヵ月漬けても色が付かない味噌ができるのでしょう。「可能性がある」というのは検察の典型的論法ですが、可能性だけで弁護側実験を弾劾できないのは明らかです。そのような世の中に有るかどうか分からない(そして常識ではありえない)味噌の存在の立証責任は検察にあります。

袴田氏が犯人であれば、すぐ見つかるであろう自分の職場の味噌樽の中に犯行着衣を隠すというようなことがあるでしょうか。また彼は、事件のおよそ1ヵ月半後に逮捕されていますが、もし彼が犯人であればその間なぜ味噌樽の中の犯行着衣を処分しようとしなかったのでしょうか。

この犯行着衣が袴田氏のものだとされたのは、この犯行着衣が見つかった後、袴田氏の実家を再捜索し、「たまたま」ズボンの共布を見つけたことによります。警察が逮捕時に散々捜索した実家を再捜索することも不自然なら、偶然のように共布が見つかるのも不自然です(狭山事件の鴨居の万年筆を彷彿とさせます)。

そして極め付けは犯行着衣が見つかった時には味噌樽の中には味噌が80Kgしかなかったという点です。これも新たに開示された証拠の中の捜査報告書に記載されていたものです。味噌樽の大きさは底辺が2m四方。味噌の比重は1.2g/mlですから、味噌の深さをXcmとすると、

80000 = 200 ・ 200 ・ X ・ 1.2

という簡単な数式を解いて、味噌の深さは平均約1.67cmということが分かります。事件から1年2ヵ月も経って、着衣がわずか2cm足らずの味噌の中から発見されたというのはありえないとしか言いようがありません。勿論、事件当時、警察官により味噌樽のあった味噌蔵の捜索は行われています。

これら全ての状況を勘案すると、やはり1年2ヵ月後に捏造された犯行着衣が味噌樽の中に置かれたと考える方が合理的だと思われます。

警察の捏造証拠はこの5点の犯行着衣だけではなく、逃走路とされた裏木戸の再現実験写真も強く捏造が疑われています。興味のある方はネットで検索してみて下さい。

上記の「寸法札見本の写真」「犯行着衣のカラー写真」「犯行着衣発見時の味噌樽の味噌の量の報告書」といった証拠が一審段階で提出されていれば、袴田氏は合理的に考えて無罪であった可能性が高いと思われます。

袴田事件は、このように警察捏造の証拠と検察による悪質な証拠隠しが生んだ超ド級冤罪です。検察の「DNA型鑑定の信用性を問う」というのは、あくまで言い逃れであり、DNA型鑑定の評価次第では自分たちの主張が正しいかのような印象を与えようとする卑劣な戦略です。

我々は、今後の動向を冷静に注視し、いかに捜査権力が人権を非道にも踏みにじるかを検証する必要があります。

FREE HAKAMADA!!

参考資料:
雑誌『冤罪File』 No.14 2011年11月号「「袴田事件」5点の衣類はやはりねつ造か!?」今井恭平
『はけないズボンで死刑判決 検証・袴田事件』 袴田事件弁護団編

4/3/2014

追記(4/5/14)

4/3にNHKクローズアップ現代で、『埋もれた証拠~"袴田事件"当事者たちの告白~』が放送されました。番組を紹介するサイトです(9分42秒のダイジェスト動画及び全文書き起こしあり)。

ここをクリック→ NHKクローズアップ現代『埋もれた証拠~"袴田事件"当事者たちの告白~』

事件当時、味噌樽の中を確認した捜査官の「徹底的に捜索したから、味噌樽の中に何もなかったのは間違いない」という重要な内部告発が含まれています。ダイジェスト版にない本編の部分では、アメリカ・ダラス検察局の誤判究明部CIUを紹介。また、木谷明氏が解説を務め、捜査の問題点を指摘。特に、証拠の全面開示が不可欠であることを強く主張し、裁判所による証拠開示勧告が重要であることを強調していたことが印象的でした。





















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2014/04/03 Thu. 00:39 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (384) 「袴田事件再審開始決定に思うこと」 3/31/2014 

#検察なう (384) 「袴田事件再審開始決定に思うこと」 3/31/2014

事件の経緯に関しては、散々報道もされているので今更論ずる必要もないかと思います。そして再審開始決定(+死刑の執行停止+拘置の執行停止)という歴史的な判断を下した村山浩昭裁判長の英断は高く評価されるものだと思います。その判断は市民感覚では当たり前のものですが、今までその当たり前のものが当たり前でなかっただけに。

それについては、裁判官の義憤が乗り移ったかのような江川紹子氏渾身の記事をお読み頂ければと思います。

ここをクリック→ 『「刑事司法の理念からは耐え難い不正義」――袴田事件で再審開始&釈放を命じた決定を読む』

DNA型鑑定が冤罪救済にパワフルであることは、アメリカのイノセンス・プロジェクト(注1)の成果を見ても明らかですが、DNA型鑑定を抜きにしては冤罪を防ぐことができないかのように考えるのは大変な間違いだと思います。

そもそも袴田氏が自白させられた時点では、犯行着衣をパジャマと自白しているにも関わらず、1年以上後に犯行着衣を味噌樽から見つかった5点の着衣とする訴因変更を裁判所が認めたことに冤罪の原因があります。その相矛盾した虚偽自白と証拠が有罪の最有力証拠であるということが袴田事件の根本的問題で、それは証拠の捏造以前の問題です。この構図は、未解決の冤罪事件である御殿場事件(注2)と全く同じものです。

また真相究明に大きく寄与したのはDNA型鑑定ではなく、600点にも及ぶ証拠開示です。その中には、一審公判に提出されていれば、有力な無罪方向の証拠も複数含まれており、検察による悪質な証拠隠しが冤罪を作ったものです。これも証拠の捏造以前の問題です。この構図は、東電OL事件(注3)と全く同じものです。

袴田事件のような露骨な証拠捏造はもう起こり得ないと事件を極めて稀な例外扱いすることは冤罪原因の矮小化以外の何物でもなく、上に指摘した冤罪の構図はこれからも普通に起こり得るものです。そして正しい原因究明が行われなければ、適切な防止策を講じることができず、冤罪は繰り返されるばかりです。

メディアに関して。

再審開始決定を受けて、袴田氏がいかに悲惨だったか、捜査当局の捜査がいかに杜撰であったかの突然の大合唱です。私はふと、これでもし再審請求が棄却されていたら報道はどうであったろうかと思ってしまいます。再審が開始されようがされまいが、事実は全く変わらないにも関わらず、もし棄却であれば袴田氏の悲惨さや捜査当局の捜査の杜撰さは全く批判されることがなかったのだろうと思います。それは25日付で再審請求が棄却された仙台筋弛緩剤事件(注4)の報道を見れば分かります。今日31日には飯塚事件(注5)の再審開始可否の決定がなされます。今後のメディアの動向にも注意したいと思います。

また事件当時のメディアリークに関しては神保哲生氏が批判しています。

ここをクリック→ 『袴田事件再審決定・捜査情報を垂れ流したメディアに警察・検察を批判する資格があるか』

「刑事司法の理念からは耐え難い不正義」とまで不当・違法な捜査が裁判所から批判されながら、よもや検察は再審開始決定に対し不服申立の即時抗告するほど愚かでもないと思いますが(今日31日がその期限)、検察幹部の彼らに不利な判決・決定に対して、いつもながらの裁判所の判断が間違っていると言わんばかりの「主張が認められず遺憾である」という発言は一体何なのでしょうか。私は、是非若い検察官に彼らの率直な意見を聞いてみたいと思います。これだけ有名な事件ですから、法曹関係者であれば誰しも袴田事件は知っているはずです。そして事件の内容を知れば、これが冤罪であることは明らかです。それでも彼らはこの発言をした検察幹部と同様に、「検察主張が認められず遺憾である」と言うのでしょうか。自分で過ちを認めなければ、虚構の無謬性を固守できると考えることは実に愚かしく哀れなことです。検察幹部をして一般市民はもう少し賢いと思った方がいいと思います。

袴田氏個人の救済は彼本人と周りの支援者に任せる問題です。我々がすべきことはこれをどのような教訓とするかということです。冤罪問題に触れるといつも感じることは、個別冤罪被害者救済に焦点が当たり過ぎて(それはそれで必要なのですが)、包括的な予防的観点がおろそかになっているということです。我々が考えることは、いかに将来の冤罪を防ぐことかだと思います。

また捜査当局や司法当局の過誤を必要以上に糾弾することも慎んだ方がいいと思われます。郵便不正事件から陸山会に係る虚偽不正事件の検察の対応の変化を見ても、結局は隠蔽や矮小化を招くだけです。

なぜ冤罪が起こるのかという原因究明なくしては、予防策の講じようがありません。その原因究明のために袴田事件をケーススタディとする原因究明委員会を捜査当局、司法当局の権限の外に作り、その結果を現在行われている法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」にフィードバックする必要があると思われます。

そしてこれをきっかけに再審を審理する第三者機関の設立の議論を起こすべきです。なぜ確定判決を覆す可能性のある再審を開始することが「ラクダを針の穴に通す」ほど困難か。それは再審請求審が確定判決を下した裁判所でなされるからにほかなりません。

イギリスでは、1974年に起こった「バーミンガム・パブ爆破事件」(注6)により、6人が16年間投獄される冤罪被害がありました。彼ら「バーミンガム6」が無罪釈放された後、社会的に大きな議論が起こります。そしてそれをきっかけに再審審査委員会が設置され、以降、再審の審理はその特別委員会でなされています。イギリスでできたことが日本でもできないようでは、いつまでたっても日本の刑事司法は国際スタンダードでは「中世並み」ということです。

自分あるいは自分の愛する人が冤罪被害者となるリスクはリアルです。東京で災害対策の準備をしている人は少なくないと思います。ではその1300万人の中で実際に被災した経験のある方と冤罪被害者ではどちらが多いでしょうか。冤罪は構造的に生まれ、その被害者の数は一般の方が知るよりはるかに多いと思われます。袴田事件は氷山の一角です。

我々は過去を変えることはできませんが、未来は変えることができます。今が刑事司法の未来を変える千載一遇のチャンスです。我々自身、そして我々の子供を守ることは我々の責任です。それは国のお偉いさんがやってくれるだろうではありません。是非、未来のヴィジョンを持って考えて下さい。

袴田事件の再審開始決定の瞬間を捉えた一連のツイートをまとめました。是非、歴史が動いた瞬間の興奮を疑似同時体験して下さい。

ここをクリック→ 「袴田事件再審開始決定の瞬間をタイムカプセル(#検察なう)」

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (146) 「イノセンス・プロジェクト」

(注2)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その6 「御殿場事件」

(注3)
ここをクリック→ #検察なう (294) 「犯人血液型当てクイズ」

(注4)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その11 「北稜クリニック事件/仙台筋弛緩剤えん罪事件」

(注5)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その3 「飯塚事件」

(注6)
ここをクリック→ Wikipedia 「バーミンガム・パブ爆破事件」

3/31/2014













ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

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category: 袴田事件

2014/03/31 Mon. 01:14 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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