#検察なう (221) 「東電OL殺人事件に見る刑事司法の問題点~Part II~再審制度の限界」 11/24/2012
#検察なう (221) 「 東電OL殺人事件に見る刑事司法の問題点~Part II~再審制度の限界」 11/24/2012
(強制捜査から1439日)
再審無罪決定後のゴビンダさんのコメントを引用します。
「もちろんうれしいけれどくやしいきもちもあります。どうして私が15年かんもくるしまなければならなかったのか日本のけいさつけんさつさいばんしょはよくかんがえてわるいところをなおして下さい。無実のものがけいむしょにいれられるのは私でさいごにして下さい。」
ここをクリック→ 再審無罪後のゴビンダさんコメント
「無罪になったからいいじゃないか」というのは、全くお門違いだということは冤罪に苦しんだ人の全てが感じることです。それは「なぜ自分が?なぜこんなことが?」という答えを、渦中にいる間中、常に求めているからです。私が今まさにその状況であるがゆえによく分かります。
「再審制度の限界」と題した今回のブログの結論を先に述べます。
再審が誤判の原因追求の機能を持っていないことは大きな間違いだと思います。再審無罪といって、「無罪になったからいいじゃないか」というのが現在の再審制度の精神です。
そしてそれは更に大きな問題を含んでいます。それは、再審制度が、確定判決は決して間違っていないという前提に立っているということです。
再審が「無罪を言い渡すべき明白な証拠が新しく発見された」場合に開始されるということは前回のブログで述べました。
つまり、「確定判決は間違ってはいなかったが、『新規明白な証拠』が出てきたから、審理をし直す」というのが再審制度の大前提です。
それが再審をして「針の穴にラクダを通すより難しい」と言わしめる理由となっています。「新規明白な証拠」の発見・立証を弁護側に課していることは、無罪の立証責任を弁護側に求めているもので、推定無罪原則にもとるものだと思います。
「いや、そんなことはない。『白鳥決定』(1975年)というのがあってだな、再審制度においても『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されることは確認されている。」とおっしゃる方もいらっしゃると思います。
それがその通りであれば、ゴビンダさん弁護団も苦労しなかったことだと思います。
東電殺人OL事件の一審(無罪)、二審(有罪、確定判決)の判決構造を対照してみます。
非常に多くの争点がある東電OL殺人事件ですが、重要なものとして以下のものを挙げます。
① 「殺害現場トイレに捨てられたコンドームの遺棄時期はいつか」
② 「被害者は、殺害現場となった渋谷区神泉のアパート喜寿荘101号室を自由に使えたか」
③ 「殺害現場にゴビンダさん以外の第三者がいた可能性はあるか」
④ 「被害者手帳にある記載がゴビンダさんを指すのか」
⑤ 「なぜ被害者の定期入れが巣鴨に捨てられていたか」
それぞれの争点に関し、一審と二審では180度異なる見解を示しています。
① 「殺害現場トイレに捨てられたコンドームの遺棄時期はいつか」
一審 - 精液の腐敗進行度によって判断すると、捨てられてから20日以上経過したものと考えられる。コンドームは犯行から10日後に発見されていることから、捨てられたのは事件よりさらに10日程度前ということになる。
二審 - 鑑定実験は清潔な水を使って行われたが、現場のトイレの水は汚れていたので、大腸菌によって腐敗が早く進行した可能性がある。清潔な水では20日間かかった腐敗が、汚れた水では10日程度で起こったと考えても矛盾しない。
② 「被害者は、殺害現場となった渋谷区神泉のアパート喜寿荘101号室を自由に使えたか」
一審 - 被害者は以前にもこの部屋を使用しており、空室で鍵がかかっていないことを知っていた可能性がある。
二審 - この部屋が空室だと知っていたのはゴビンダさんだけであり、被害者がここを独自に使用して、他の売春客とともに立ち入ることはあり得なかった。
③ 「殺害現場にゴビンダさん以外の第三者がいた可能性はあるか」
一審 - 殺害現場の部屋にはゴビンダさんのものでも、被害者のものでもない複数の体毛が落ちていた。従ってこの部屋にはゴビンダさん以外の者も立ち入った形跡があり、第三者が犯人である可能性も否定できない。
二審 - それら体毛は数ヶ月前まで住んでいた前居住者やその友人などのものである可能性もあるから、ゴビンダさん以外の第三者が侵入した形跡とは断定できない。
④ 「被害者手帳にある記載がゴビンダさんを指すのか」
一審 - 被害者は売春の内容(売春客の名前、住所、電話番号、金額等)を克明に記入していた。「2月28日?外人0.2万」との記載はゴビンダさんを指しており(ゴビンダさんはその手帳の記載を知ることなく、その前後に被害者の客となったことを主張していた)、ゴビンダさんが被害者と会ったのは事件当日ではなく、それより10日程度前と考えられる。
二審 - 被害者手帳の記載は、きわめて正確であり、以前にも客になったことのあるゴビンダさんに「?」の記号を付けることはありえず、支払い金額も「4500円かそれよりも少なかったかもしれない」というゴビンダさんの記憶とは矛盾がある。
⑤ 「なぜ被害者の定期入れが巣鴨に捨てられていたか」
一審 - ゴビンダさんに全く土地勘も関連性もない巣鴨付近から被害者の定期入れが発見されたことは、ゴビンダさんが犯人と考えると説明がつかない。
二審 - 定期入れがこのような場所で発見されたことは謎であるが、そのことが解明されなくても、ゴビンダさんが犯人であるという認定を妨げない。
明らかに二審の確定判決では、あいまいな状況証拠を恣意的に解釈し、全て被告人に不利益になるよう推認したものです。即ち、それ自体が刑事裁判の鉄則である推定無罪の原則に真っ向から反する違法な認定です。
そして再審前に開示された証拠がなくても、一審でも裁判官は無罪判決に到達することができています。
即ち、二審は検察の主張を無批判に取り入れた誤判であり、本来、「新規明白な証拠」がなくても是正されるべきものです。ここでは「白鳥決定」が全く考慮されていないことは明らかです。
この責任は、二審の裁判体のみならず、それを追認した最高裁の裁判体も負うものです。
裁判体の明らかな誤判を是正することを要求するためにも、弁護団に「新規明白な証拠」を求め、無罪の立証責任を負わせていることが再審制度の大きな問題点であり、冤罪回避の制度としての深刻な限界を認めます。
なりすましPC遠隔操作事件の例を取るまでもなく、冤罪はほぼ日常茶飯のように捜査権力によって作り出されています。三審制が機能せず、冤罪を防ぐ最後の砦である再審制度にもこのような限界があることを国民は十分に理解し、是正を求めるよう働きかけ続ける必要があると思います。
冤罪は特殊なことではなく、誰にでも降りかかるものであることを心に留め置いて下さい。
参考資料
冤罪File 第14号 (2011年9月発行) 「真犯人は別にいた!『東電OL殺人事件』検察の証拠隠しがまたもや発覚!」 本誌検証取材班
冤罪File 第17号 (2012年9月発行) 「『東電OL殺人事件』裁判所に届いた15年の無実の訴え」 今井恭平
11/24/2012
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(強制捜査から1439日)
再審無罪決定後のゴビンダさんのコメントを引用します。
「もちろんうれしいけれどくやしいきもちもあります。どうして私が15年かんもくるしまなければならなかったのか日本のけいさつけんさつさいばんしょはよくかんがえてわるいところをなおして下さい。無実のものがけいむしょにいれられるのは私でさいごにして下さい。」
ここをクリック→ 再審無罪後のゴビンダさんコメント
「無罪になったからいいじゃないか」というのは、全くお門違いだということは冤罪に苦しんだ人の全てが感じることです。それは「なぜ自分が?なぜこんなことが?」という答えを、渦中にいる間中、常に求めているからです。私が今まさにその状況であるがゆえによく分かります。
「再審制度の限界」と題した今回のブログの結論を先に述べます。
再審が誤判の原因追求の機能を持っていないことは大きな間違いだと思います。再審無罪といって、「無罪になったからいいじゃないか」というのが現在の再審制度の精神です。
そしてそれは更に大きな問題を含んでいます。それは、再審制度が、確定判決は決して間違っていないという前提に立っているということです。
再審が「無罪を言い渡すべき明白な証拠が新しく発見された」場合に開始されるということは前回のブログで述べました。
つまり、「確定判決は間違ってはいなかったが、『新規明白な証拠』が出てきたから、審理をし直す」というのが再審制度の大前提です。
それが再審をして「針の穴にラクダを通すより難しい」と言わしめる理由となっています。「新規明白な証拠」の発見・立証を弁護側に課していることは、無罪の立証責任を弁護側に求めているもので、推定無罪原則にもとるものだと思います。
「いや、そんなことはない。『白鳥決定』(1975年)というのがあってだな、再審制度においても『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されることは確認されている。」とおっしゃる方もいらっしゃると思います。
それがその通りであれば、ゴビンダさん弁護団も苦労しなかったことだと思います。
東電殺人OL事件の一審(無罪)、二審(有罪、確定判決)の判決構造を対照してみます。
非常に多くの争点がある東電OL殺人事件ですが、重要なものとして以下のものを挙げます。
① 「殺害現場トイレに捨てられたコンドームの遺棄時期はいつか」
② 「被害者は、殺害現場となった渋谷区神泉のアパート喜寿荘101号室を自由に使えたか」
③ 「殺害現場にゴビンダさん以外の第三者がいた可能性はあるか」
④ 「被害者手帳にある記載がゴビンダさんを指すのか」
⑤ 「なぜ被害者の定期入れが巣鴨に捨てられていたか」
それぞれの争点に関し、一審と二審では180度異なる見解を示しています。
① 「殺害現場トイレに捨てられたコンドームの遺棄時期はいつか」
一審 - 精液の腐敗進行度によって判断すると、捨てられてから20日以上経過したものと考えられる。コンドームは犯行から10日後に発見されていることから、捨てられたのは事件よりさらに10日程度前ということになる。
二審 - 鑑定実験は清潔な水を使って行われたが、現場のトイレの水は汚れていたので、大腸菌によって腐敗が早く進行した可能性がある。清潔な水では20日間かかった腐敗が、汚れた水では10日程度で起こったと考えても矛盾しない。
② 「被害者は、殺害現場となった渋谷区神泉のアパート喜寿荘101号室を自由に使えたか」
一審 - 被害者は以前にもこの部屋を使用しており、空室で鍵がかかっていないことを知っていた可能性がある。
二審 - この部屋が空室だと知っていたのはゴビンダさんだけであり、被害者がここを独自に使用して、他の売春客とともに立ち入ることはあり得なかった。
③ 「殺害現場にゴビンダさん以外の第三者がいた可能性はあるか」
一審 - 殺害現場の部屋にはゴビンダさんのものでも、被害者のものでもない複数の体毛が落ちていた。従ってこの部屋にはゴビンダさん以外の者も立ち入った形跡があり、第三者が犯人である可能性も否定できない。
二審 - それら体毛は数ヶ月前まで住んでいた前居住者やその友人などのものである可能性もあるから、ゴビンダさん以外の第三者が侵入した形跡とは断定できない。
④ 「被害者手帳にある記載がゴビンダさんを指すのか」
一審 - 被害者は売春の内容(売春客の名前、住所、電話番号、金額等)を克明に記入していた。「2月28日?外人0.2万」との記載はゴビンダさんを指しており(ゴビンダさんはその手帳の記載を知ることなく、その前後に被害者の客となったことを主張していた)、ゴビンダさんが被害者と会ったのは事件当日ではなく、それより10日程度前と考えられる。
二審 - 被害者手帳の記載は、きわめて正確であり、以前にも客になったことのあるゴビンダさんに「?」の記号を付けることはありえず、支払い金額も「4500円かそれよりも少なかったかもしれない」というゴビンダさんの記憶とは矛盾がある。
⑤ 「なぜ被害者の定期入れが巣鴨に捨てられていたか」
一審 - ゴビンダさんに全く土地勘も関連性もない巣鴨付近から被害者の定期入れが発見されたことは、ゴビンダさんが犯人と考えると説明がつかない。
二審 - 定期入れがこのような場所で発見されたことは謎であるが、そのことが解明されなくても、ゴビンダさんが犯人であるという認定を妨げない。
明らかに二審の確定判決では、あいまいな状況証拠を恣意的に解釈し、全て被告人に不利益になるよう推認したものです。即ち、それ自体が刑事裁判の鉄則である推定無罪の原則に真っ向から反する違法な認定です。
そして再審前に開示された証拠がなくても、一審でも裁判官は無罪判決に到達することができています。
即ち、二審は検察の主張を無批判に取り入れた誤判であり、本来、「新規明白な証拠」がなくても是正されるべきものです。ここでは「白鳥決定」が全く考慮されていないことは明らかです。
この責任は、二審の裁判体のみならず、それを追認した最高裁の裁判体も負うものです。
裁判体の明らかな誤判を是正することを要求するためにも、弁護団に「新規明白な証拠」を求め、無罪の立証責任を負わせていることが再審制度の大きな問題点であり、冤罪回避の制度としての深刻な限界を認めます。
なりすましPC遠隔操作事件の例を取るまでもなく、冤罪はほぼ日常茶飯のように捜査権力によって作り出されています。三審制が機能せず、冤罪を防ぐ最後の砦である再審制度にもこのような限界があることを国民は十分に理解し、是正を求めるよう働きかけ続ける必要があると思います。
冤罪は特殊なことではなく、誰にでも降りかかるものであることを心に留め置いて下さい。
参考資料
冤罪File 第14号 (2011年9月発行) 「真犯人は別にいた!『東電OL殺人事件』検察の証拠隠しがまたもや発覚!」 本誌検証取材班
冤罪File 第17号 (2012年9月発行) 「『東電OL殺人事件』裁判所に届いた15年の無実の訴え」 今井恭平
11/24/2012
ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件
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