「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (540) 「冤罪が確実に増える刑訴法改正をどう捉えるか」 5/30/2016 

#検察なう (540) 「冤罪が確実に増える刑訴法改正をどう捉えるか」 5/30/2016

郵便不正事件を端として刑事司法改革、特に検察改革の国民的要請により発足したのが「検察の在り方検討会議」。その第1回会議は2010年11月でした。当時の私の状況と言えば、その年の2月に刑事告発され、いつ逮捕されるかと構えながら特捜部の取調べを待つばかりでした(特捜部の取調べは、結局、翌年2011年の9月まで始まらず)。

郵便不正事件は、私の刑事裁判主任弁護人の小松正和弁護士と私の間では「神風」と呼ばれています。もし郵便不正事件がなければ、私の無罪判決という奇跡も起こらなかっただろうと、当事者は肌で感じています。

それから6年、「新時代の刑事司法制度特別部会」の審議を経て、先日、刑事訴訟法の一部改正が議会で可決されました。

冤罪被害者の当事者感覚をもって述べれば、大変期待した刑事司法改革が、このような結果になったことには落胆せざるを得ません。冤罪を減らすために始まったはずの刑事司法改革が、冤罪を増やすとしか思えない制度改正になってしまったからです。

今回の改正での目玉とされた取調べの全面可視化に関して言えば、義務化対象事件が全刑事事件の3%に過ぎない裁判員裁判対象事件と特捜独自捜査事件に限定されたことが問題ではありません(それも問題ですが)。最終的には裁判員裁判の対象となる事件であっても、別件逮捕や任意同行の取調べの間の録音・録画が義務化されておらず、かつ(プライバシー保護とかのお題目があれば)捜査官の任意で録音・録画を停止することができ、また録音・録画資料を検察の恣意的な編集で公判での証拠とできることがより重大な問題です。そうしたループホールがあれば、今回の刑訴法改正のとりあえずの成果とされる3%の取調べ可視化ですら全く無に帰する可能性があるからです。

その破壊力が実証されたのが、この4月に一審有罪判決が下された栃木県今市市の女児殺害事件の裁判員裁判でした。自白の録画がなければ判断できなかったと裁判員が認めている(注1)事件ですが、証拠とされた録画は、約80時間の録画のうち本人の自白を含む7時間が編集されたものです。私が裁判員であれば、「その7時間は見なくてもいい。どうせ検察官の主張を裏付けるように編集されたものだから。それ以外の部分を見せてほしい。特に被告人が否認から自白に転じたその前後を」と言いたいところです(実際には彼が最初に自白したのは、別件逮捕の時であり、その状況は録画されていません)。

そして今回の刑訴法一部改正では、取調べの可視化と抱き合わせで、「密告型取引司法」(注3)と「盗聴法拡大」(注4)が盛り込まれ、まさに捜査権力の焼け太り、盗人に追い銭という状況です。法務検察官僚は、この結果をさぞかしほくそ笑んでいることだと思います。

この状況は、私が以前ブログに書いたところの危惧が現実化したものです。
ここをクリック→ #検察なう (467) 「取調べ可視化が目的化することのリスク」

今回の刑事訴訟法一部改正の問題点を的確に指摘したのが、神保哲生氏のインタビューを収録した荻上チキ氏のラジオ番組です(注2)。是非、お聞き下さい。
ここをクリック→ 5月24日放送 TBSラジオ セッション22 神保哲生×荻上チキ「改正刑事訴訟法が成立。神保哲生さんが感じる不自然なポイント」

特に神保氏の「捜査権限がフェアなものになっていないと、仮に有罪になっても、本当に有罪かどうか疑義が残ってしまう。せっかく、ちゃんと捜査をやってちゃんと有罪にしても「でもあの制度の下でだろ」という話になっちゃうと一番もったいないと思うんですよ」という捜査機関の信頼性を損ねる改正だという指摘は重要です。

それでは、この改正は「改悪」でしょうか。この時点での評価はそうせざるを得ないと思います。しかし、この改正が「蟻の一穴」となる可能性をもって、私はその評価を留保したいと思っています。この改正の歴史的評価は今後の運用次第、あるいは我々の姿勢、働き掛け次第で変わると思っているからです。

今回の刑訴法一部改正を評価する人とそうでない人の最大の差は、この改正が「最初の一歩」なのか「最初で最後の一歩」なのかの認識の差です。

ギブ・アンド・テイクにおいて、今回の刑事訴訟法一部改正で、捜査権力はフルにテイクしましたが、ギブしたものはごくわずかです。そして彼らの譲歩を引き出すのは、実はこれからの課題という状況です。「新時代の刑事司法制度特別部会」に参画した、市民を代表する改革派の村木厚子氏や周防正行氏も、今後、見直しを継続的にするという条件があって、この非常にアンフェアな改正を飲んだと理解しています。

そして我々国民が、この結果を批判的に評価し、今後の運用にたがをはめ、よりよい刑事司法改革を目指すことにより、今回の改正が「蟻の一穴」になると考えます。

その意味で、冤罪被害者が中心になって声を上げ、そしてこれからも批判し続けると宣言している動向は勇気づけられるものです。「なくせ冤罪!市民評議会」の今回の刑訴法一部改正を受けての声明をご一読下さい。

「「刑事訴訟法等の一部改正案」の可決は、司法の自殺行為」
ここをクリック→ なくせ冤罪!市民評議会緊急声明「「刑事訴訟法等の一部改正案」の可決は、司法の自殺行為」

これが最終到着地点ではなく、出発点だという認識が我々国民に求められているものです。我々の日々の安全に直結する深刻な問題だと、お考え頂ければ幸いです。

(注1)
ここをクリック→ 下野新聞「取調べ映像「見て印象固まった」裁判員ら会見、宇都宮地裁」

(注2)
ラジオ番組は16分でしたが、興味のある方は是非、ビデオニュース・ドットコムの神保哲生氏と宮台真司氏が同じ問題をディスカッションしたビデオ(42分)をご覧下さい。
ここをクリック→ ビデオニュース・ドットコム「冤罪のリスクを上昇させる刑訴法の改悪をなぜ止められないのか」

(注3)
司法取引が多用されているアメリカで行われている「自己負罪型」(自分で罪を認める代わりに裁判の手続きを簡素化したり減刑したりするもの)ではなく、「捜査訴追協力型」(他人の罪を証言すれば自分の罪が軽減されるというもの)が、「日本型司法取引」。「自己負罪型」を認めないのは、「俺たちが逮捕して立件しているのに、それを取引の材料とするのはけしからん」という発想に基づくものと想像します。

(注4)
「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」の対象事件が現行の組織的殺人、薬物、銃器、集団密航の4つから大幅に拡大され、詐欺、窃盗、強盗、傷害、児童ポルノ事件が加えられました。それ以上に重要なことは、これまで傍受に際しては通信事業者の立ち会いが必要とされていましたが、これからはそれが不要とされ、捜査権力による通信傍受の監視が事実上全くなくなったというのが今回の改正です。

5/30/2016










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2016/05/30 Mon. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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フィルム・レビュー 『MUD マッド』 『テイク・シェルター』 『イースタン・プロミス』 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』 

フィルム・レビュー 『MUD マッド』 『テイク・シェルター』 『イースタン・プロミス』 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』

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2016/05/29 Sun. 02:47 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (539) 「桑田氏自身による経緯説明~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(5)」 5/24/2016  

#検察なう (539) 「桑田氏自身による経緯説明~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(5)」 5/24/2016

これまで4回に亘り、冤罪現在進行形の「国循サザン事件」について論じてきました。

ここをクリック→ #検察なう (535) 「特捜に正義はあるのか~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(1)」

ここをクリック→ #検察なう (536) 「初公判傍聴記 巨悪を眠らせる特捜~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(2)」

ここをクリック→ #検察なう (537) 「報道に見る特捜の思惑(弁論の併合)~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」 (3)」

ここをクリック→ #検察なう (538) 「訴因変更に見る特捜の弱気~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(4)」

ここで、刑事被告人という立場に置かれた冤罪被害者の桑田さん自身による経緯説明を紹介させて頂きます。やはり当事者の声を聞くことで見えてくるものもあるはずです。

「おわりに」と書かれた文から抜粋します。

「最後に申し上げたいことがあります。

私が国循に着任してから,国循の情報システムは,電子カルテも含めて大きく進歩しました。職員の方々からも,数多くの感謝の言葉をいただいてきました。ただ単に,情報システムの質が向上しただけでなく,企業に価格競争をさせることで,国循では,以前よりはるかに安価な金額で情報システムが調達できるようになりました。

これまで,国循は十数年にわたり,ほぼすべての情報システム関連委託業務をNECが受注してきました。情報システム機器も,ほぼすべてがNECから購入されているものでした。たとえば,入札1の保守対象機器やソフトウェアは,そのすべてが過去にNECから購入したものであったうえ,実際には使われていない不要な機器や,NECからしか購入できないようなものまで含まれていました。さらに,国循のサーバ室は,NEC製の不要な機器であふれかえり,ネットワークも整理されず,セキュリティ対策も不十分なまま放置されていた状態でした。

これは,当時のNECに実力がなかった,といえばそれまでですが,別の見方をすれば,NECはこのような「天国」にあぐらをかき,漫然と高額な受注を繰り返していたともいえます。いわば,国循はNECの「カモ」にされていたのです。

このような状況は,まさに国のいう「一者応札」の弊害そのものです。国循の情報システムは,私の着任によって,「NEC地獄」から抜けだし,大変貌を遂げました。しかし,今回の私の逮捕・起訴によって,国循は,また振り出し,あるいはマイナス状態に戻ってしまいました。また,かつてのように税金の無駄遣いが始まっていることでしょう。」

この事件が、桑田さん個人の問題だけではなく、納税者である我々国民全ての問題であると私が感じているポイントです。そして郵便不正事件を初めとする一連の不祥事で、その傲慢なやり方が白日の下にさらされ、猛省すべき検察、しかも一連の不祥事の発端である大阪特捜自身が全く反省がないということを我々は十分に理解する必要があります。

そして桑田さんは、以下のように結んでいます。

「この裁判での戦いを通じて,より多くの方々と知り合いになり,また,既知の方々とはより深く知り合い,それらがこれからの私の新しい人生を踏み出していくための端緒となることを希望しています。

今後ともご支援のほど,よろしくお願い申し上げます。」

経験した者でなければ分からない心からの叫びを私は受け止め、引き続き支援したいと思っています。

是非、以下のリンクから全文をお読み下さい。

ここをクリック→ 経緯説明 公判後公開版

次回公判は、来週水曜6/1に予定されています。ご注目下さい。

ここをクリック→ 桑田成規氏ブログ「誰か知る松柏後凋の心」

ここをクリック→ 支援者のフェイスブック・グループ「国循サザン事件ー0.1%の真実ー」

ここをクリック→ Wikipedia 「国循官製談合事件」

5/24/2016














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2016/05/24 Tue. 15:44 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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フィルム・レビュー 『海よりもまだ深く』 『パパが遺した物語』 『Concussion (原題)』 

フィルム・レビュー 『海よりもまだ深く』 『パパが遺した物語』 『Concussion (原題)』

海よりもまだ深く

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ここをクリック→ フィルム・レビュー 『パパが遺した物語』 (2015) ガブリエレ・ムッチーノ監督

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ここをクリック→ フィルム・レビュー 『Concussion (原題)』 (2015) ピーター・ランデスマン監督






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2016/05/22 Sun. 12:47 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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フィルム・レビュー 『世界から猫が消えたなら』 『続・夕陽のガンマン』 『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』 

フィルム・レビュー 『世界から猫が消えたなら』 『続・夕陽のガンマン』 『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』

せか猫

ここをクリック→ フィルム・レビュー 『世界から猫が消えたなら』 (2016) 永井聡監督

the good the bad and the ugly

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the return of the king

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2016/05/16 Mon. 01:46 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (538) 「訴因変更に見る特捜の弱気~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(4)」 5/9/2016 

#検察なう (538) 「訴因変更に見る特捜の弱気~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(4)」 5/9/2016

先日、大阪で桑田成規さんにお会いした時に、私は彼に、ダンテックにいかなる情報を渡したのかを尋ねました。

彼は、持っていたラップトップコンピューターを開き、「この資料をメールに添付してダンテックに送りました」と言いました。私は、その資料を見て少なからず驚きました。なぜなら、競争入札を有利にする情報を渡したと特捜が主張している以上、私は、その情報とは入札価格に関する見積書といった計算書や、少なくとも「数字」を想定していたからです。

彼が、ダンテックに渡したとする資料のイメージを再現してみました。
ここをクリック→ 資料のイメージサンプル

「何ですか、これは?これでNECの入札価格が推定できるものなのですか?」
「これは私が、当時、「現行の保守・運用体制表だと思って」送付した資料です。この網掛け(注:黄色部分)は私がしたものですが、保守・運用の「現行の」常駐の人員数を示しています」

桑田さんは、慎重に言葉を選んでいるように見えました。

「人件費には常駐の者だけではなく、非常駐の人員数もカウントされます。しかし、この表での常駐以外の人員数全てが非常駐というわけではなく、非常駐の人員数を何人としているのかは分かりません。また、人件費はコストの約1/3です。つまり、常駐の人員数だけでは、入札価格の概算すら困難だと思います」

桑田さんは、ダンテックからNECの現行の保守・運用の人員数を聞かれ、競争入札を公正に行うために、彼らにそれを示す資料を渡そうとしました。現行の保守・運用の人員数は、既得権業者であるNECは当然知っていますが、競争入札に参加するほかの業者は知りようがないからです。

この「現行の保守・運用体制を、既得権業者以外の競争入札参加業者に知らせる」行為が、競争入札の「公正を害する」即ち官製談合防止法に抵触するものでないことは、むしろ公正を期するために行われた行為であり、かつ、その情報では入札価格の推定が困難であることから、明らかなように思えます。

官製談合は、発注する行政官が、通常は金品の見返り(あるいは天下りの就職先提供という場合もありますが)を得ることを動機として、競争入札に関わる情報を漏洩するものです。つまり、官製談合は贈収賄とセットであることが通常のパターンです。

国循サザン事件においても、特捜の当初の見立てはそうであったに違いありません。しかし、現金授受の事実がないことが分かったため、贈収賄罪の立件がなされることはありませんでした。当然、官製談合そのものも実際にあったかどうかを疑うべきところ、振り上げた拳を収めることができない特捜は、官製談合防止法違反のみの立件を狙ったものです。

しかし、桑田さんがダンテックに渡した情報は、入札価格を推定させるためには不十分であると理解した特捜は、官製談合防止法違反の立証すら危ういと考えたに違いありません。

桑田さんの起訴は、2014年12月8日にされました。主な罰条は、「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反」(いわゆる官製談合防止法)第8条(注1)でした。

そしてその起訴から1年3ヵ月も経た、今年2月29日に、特捜は突然、訴因変更(注2)をして、罰条に「高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反」第11条を追加しました。

「高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反」第11条の条文は以下の通りです。

「国立高度専門医療研究センターの役員及び職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用してはならない」

この訴因変更は、どのような意味を持つのでしょうか。

ダンテックから現行の保守・運用体制を尋ねられた桑田さんは、国循で入札実務を担当する事務方にその資料の用意を依頼しました。その後、彼のデスクの上に、ある資料が置かれていました。彼はその資料を見て、現行の保守・運用体制表だと思って、pdf化し網掛けの処理をした後、メールに添付してダンテックに送付しました。2012年の3月のことでした。

もう一度、上に添付した体制表のサンプルをご覧下さい。桑田さんは、右肩の「2012年3月時点」という記載を見て、「現行の保守・運用体制表」だと思ったものです。

しかし実のところ、この資料は、NECが翌年の競争入札のために用意した資料の一部でした。表題の「2012年度」が翌年の保守・運用体制表であることを示しています。

つまり彼は、事務方の用意した資料が、入札に関わる資料の一部であることに気付かず、それをダンテックに渡してしまいました。そのことが、競争入札の公正を害するとまで言えなくとも、入札に関わる資料は「職務上知ることのできた秘密」であるという主張を特捜がするであろうと思われます。それが訴因変更の意味です。

法定刑の上限が7年である受託収賄罪に問えなかった特捜は、法定刑の上限が5年である官製談合防止法違反を狙ったと思われます。しかし、それも厳しそうだと見ると、法定刑上限が1年の国立研究開発法人に関する法律違反を「つっかえ棒」として加えました。しかも起訴から1年3ヵ月も経過した後に、です。この訴因変更から、本丸(といっても受託収賄罪に比較するとはるかにインパクトは小さいものですが)の官製談合防止法違反の立証には、特捜が相当弱気であるということが読めます。

桑田さんが資料の準備を事務方に頼み、その資料を事務方が用意したということを桑田さんは供述していますが、それを裏付ける事務方の証言はありません。事務方がなぜそのことを記憶していないと言ったかに関しては、次の4つの可能性が考えられます。

① 本当に記憶になかった
② 事件に巻き込まれたくなかったため、「記憶にない」と言ってしまった
③ 頼まれたことは記憶していたものの、特捜の取調べにより、彼らの都合のよい証言に誘導された
④ 桑田さんを陥れる悪意をもって、虚偽の証言をした
(一応、考えられる可能性の高い順に並べました)

実際のところ、事務方の記憶がなかったとしても、何ら不思議はありません。2年前に業務で頼まれた資料のコピーをしたことの記憶のある方がおかしいとも言えます。また、検察の取調べにおいて、彼らに不利な「記憶にありません」は執拗に取調べがされる(そして往々にして彼らの意向に沿った調書となる)のに対し、彼らに有利な「記憶にありません」は、「そうでしょう、そうでしょう。それでは、その旨記述されたこの調書に署名して下さい」と特捜は、易々と受け入れるに相違ないからです。

桑田さんの公判においては、多くの検察側「敵性証人」の証言が予定されています。競争入札の実務を担当する事務方もそのうちの何人かだと思われます。彼らの「桑田さんに資料の準備を頼まれた記憶はない」という証言をもって、桑田さんが、自分で資料を用意しダンテックに渡したという立証を、特捜は狙ってくるものと思われます。

桑田さんが資料をダンテックに渡したことは、争いのない事実です。しかし、その事実をもって、競争入札の公正を害したとする官製談合防止法違反の特捜の主張を裁判所が受け入れるのか。また、その資料が入札に関する資料だとは気付かず、あくまで過誤で渡したという桑田さんの主張を虚偽だとして、国立研究開発法人に関する法律違反という立証が通るのか。

くもの糸のような証拠と立証にすがる特捜を、裁判所が救うのかどうか、今後の展開に注目です。

(注1)
「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反」第8条

職員が,その所属する国等が入札等により行う売買,貸借,請負その他の契約の締結に関し,その職務に反し,事業者その他の者に談合を唆すこと,事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により,当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは,5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

(注2)
訴因変更
検察官が公判の途中で、起訴状に記載した事実の範囲内で該当する罪名を変更したり追加したりすること。

5/9/2016












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2016/05/09 Mon. 22:46 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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ここをクリック→ フィルム・レビュー 『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』 (1987) プリンス監督

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ここをクリック→ フィルム・レビュー 『キッド』 (1921) チャーリー・チャップリン監督

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2016/05/08 Sun. 00:50 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (537) 「報道に見る特捜の思惑(弁論の併合)~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」 (3)」 5/2/2016 

#検察なう (537) 「報道に見る特捜の思惑(弁論の併合)~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」 (3)」 5/2/2016

前回ブログ(注1)で記したように、先週初公判が行われたこの事件の公判の一つの大きなポイントは、競争入札において情報を漏洩したとされる国循情報統括部元部長の桑田成規さんと、その情報を得たとされるダンテック社長の高橋徹さんの弁論が併合されていることです。

弁論の併合に関しては、刑事訴訟法第313条に規定があります(注2)。刑事裁判では、一被告人、一公訴事実ごとに審理されるのが原則ですが、複数の被告人や複数の公訴事実が同じ公判で審理されることもあります。

なぜ大阪特捜部が弁論の併合を選択したのか、その意図は次の記事を読んで頂ければよく分かります。

ここをクリック→ 2015年2月12日朝日新聞「国循と徳島大病院 便宜供与事件」

実は、ダンテック社長高橋さんは、徳島大病院の医療情報システムの導入を巡って、贈賄罪に問われています。徳島大病院の情報センター部長森川被告は、既に収賄の罪を認めて、有罪(懲役2年6月、執行猶予4年)が確定しています。

朝日新聞の記事は、国循と徳島大病院の事件が、一方当事者が同じであることから、全く同列に扱い、国循官製談合事件の桑田さんを有罪視した記事となっています。朝日新聞記者は当然、大阪特捜部のレクを受けてこの記事を書いたと思われますが、まさに特捜の意向を反映した典型的な御用記事です。

この記事が公平でないことは、当事者の主張が全く書かれていないことです。桑田さんが否認していることは勿論のことですが、ここで重要なことは、高橋さんが徳島大病院事件では贈賄を認めていながら、国循官製談合事件では贈賄どころか情報を得たことすら否認していることです。

朝日新聞記事と同日の他紙の記事を見てみると、森川被告がどういう人物であったかが伺えます。

ここをクリック→ 2015年2月12日産経新聞「“花形”慶応大准教授の裏の顔」

受注業者が発注者にリベートを求められた場合、それをはねつけることは容易ではないのかもしれません。高橋さんは、そんな誘惑に負けてしまったことを後悔し、徳島大病院事件では罪を認めています。その同じ人が、なぜ国循官製談合事件では嘘をつく必要があるのでしょうか。贈賄というより重い罪を認めていながら、一方で、官製談合防止法違反という軽微な罪において虚偽の否認をするということは、全く不合理です。

それが、桑田さんの弁護人が、弁論の併合に関して異議を唱えなかった理由だと理解します。

マスコミに風を吹かせて押し切ろうとした特捜と、二つの事件をじっくり比較すれば真実は明らかになると見切った弁護人。どちらに軍配が上がるのか。今後の展開に注目です。第二回公判は5月10日に予定されています。

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (536) 「初公判傍聴記 巨悪を眠らせる特捜~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」 (2)」

(注2)刑事訴訟法第313条第1項
「裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる」 

ここをクリック→ Wikipedia「国循官製談合事件」

桑田さんを支援する会フェイスブック・グループページ
ここをクリック→ 国循サザン事件ー0,1%の真実ー

5/2/2016











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2016/05/02 Mon. 00:47 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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フィルム・レビュー 『光りの墓』 『レヴェナント:蘇えりし者』 『夕陽のガンマン』 

フィルム・レビュー 『光りの墓』 『レヴェナント:蘇えりし者』 『夕陽のガンマン』

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ここをクリック→ フィルム・レビュー 『光りの墓』 (2015) アピチャッポン・ウィーラセタクン監督

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category: フィルム・レビュー

2016/05/01 Sun. 07:26 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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