「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (556) 「大崎事件で再審開始決定!検察の正義が問われる」 6/28/2017 

#検察なう (556) 「大崎事件で再審開始決定!検察の正義が問われる」 6/28/2017

今日、帰省中の私は福井の病院で人間ドックを受診していました。検診が終わって食事をしていた私の目に飛び込んできたのは待ち望んだ朗報でした。

osaki news


以前から弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士のお話を伺い、今回(第三次)の再審請求審での再審開始決定の判断は確信していたものの、それはあくまで裁判所が公正な判断をするという前提に基づくもの。我々一般人の常識にかからないとんでもない判断を裁判所がすることを知ってしまった私は、やはり実際に決定が出るまでは安心できなかったものです。

これで、再審開始決定前の現地調査会の最後のチャンスと思い、鹿児島の大崎まで足を運んだ甲斐があったというものです。

ここをクリック→ #検察なう (549) 「大崎事件現地調査会に参加しました」

この事件はそもそも自白すらない、冤罪になるべきでない冤罪です。確定審までその有罪を支えていたのは、共犯者とされる三人の供述でした。しかし、彼らには知的障害があり、その供述の信用性は常に疑問視されていました。

2002年の第一次再審請求審で一旦は再審開始が鹿児島地裁で決定したのも、そうした危うい証拠構造を裁判所が否定したことによります。しかしその再審開始決定は、検察の即時抗告後、2004年に福岡高裁で取り消されることになります。その理由は、親族の一人が、アヤ子さんが夫に「邦夫(被害者)をうっころすので加勢しやんせ」と言ったことを耳にしたという証言でした。伝聞証拠にしか過ぎないこの証拠を裁判所が重視したのは、明らかに結論ありきの理由付けにしか過ぎないものです。

このあまりにも脆い有罪の証拠を打ち崩すために、一度目の再審開始決定から15年の月日が費やされました。2002年の再審開始決定当時、アヤ子さんは74歳で、まだまだかくしゃくとしていました。その彼女も今月15日に90歳を迎えました。認知症を患った彼女の様子を見れば、もう待ったなしの状況であり、いかに検察の抗告が不当なものであるかが分かります。

ここをクリック→ 共同ニュース「38年前の殺人、再審認める 「大崎事件」で鹿児島地裁」

この期に及んで検察が更に抗告するようなことになれば、更にアヤ子さんの貴重な人生の時間が無駄に費やされることになります。まさに検察の正義が今、問われているものです。アヤ子さんの存命中に、一刻も早く彼女の無実の罪を晴らすことが正義です。その日が来るまで、我々国民は注視すべきものです。

この事件に関心がある方は、是非過去のブログをご参照下さい。

ここをクリック→ #検察なう (522) 「大崎事件の真相に迫る(1) ~大崎事件の概要」

ここをクリック→ #検察なう (523) 「大崎事件の真相に迫る(2)~大崎事件の複雑性」

ここをクリック→ #検察なう (524) 「大崎事件の真相に迫る (3) ~ 被害者死因について」

ここをクリック→ #検察なう (525) 「大崎事件の真相に迫る (4) ~ 誰が死体を遺棄したのか」

ここをクリック→ #検察なう (526) 「大崎事件の真相に迫る (5) ~ 関係者供述の信用性」

6/28/2017











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2017/06/28 Wed. 23:10 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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フィルム・レビュー 『彼らが本気で編むときは、』 『3月のライオン(前編)』 『しゃぼん玉』 『それでも恋するバルセロナ』 

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2017/06/25 Sun. 22:49 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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フィルム・レビュー 『Megan Leavey』 『アモーレス・ぺロス』 『フレンチ・コネクション』 『キングコング』 

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2017/06/22 Thu. 08:40 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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冤罪ファイル その16 「栃木小1女児殺害事件」 

冤罪ファイル その16 「栃木小1女児殺害事件」

この事件は2005年12月、当時7歳の吉田有希ちゃんが誘拐され、翌日胸を10回刺された全裸遺体で発見されたという痛ましい事件です。

吉田有希ちゃん

容疑者は、事件の実に8年後に(別件)逮捕され、殺害に関する取調べにおいて自白した勝又拓哉氏(逮捕当時32歳)です。彼はその後全面否認に転じましたが、2016年に行われた裁判員裁判の第一審において無期懲役の判決を受け、控訴しています。

この事件においては、自白以外に有罪を裏付ける有力な客観証拠はありません。それは判決にも書かれているところです。

「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとまではいえず、客観的事実のみから被告人の犯人性を認定することはできないというべきである」(第一審判決文より)

裁判後の報道でも、裁判員が異口同音に、判決は法廷で公開された一部の自白の録音録画の影響が大きかったことを認めています。

「決定的な証拠はなかったと思いますが、あの録音録画を観て、間違いないかな、というのがありました」

「取調べの録音録画がなかったら、判決はどうなっていたかわかりません」

「私も録音録画を観て、考えがまとまりました」

憲法第38条第3項「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」に違反しているかのような判断を裁判官も容認したからには、彼らの心証も有罪あるべしというものだったということです。

この事件の報道に接しては、早い時点から少なからず違和感を覚えていました。その時点では勝又氏が否認に転じていたということもあったのですが、報じられる内容があまりに犯人像の「文脈」(ロリコン、引きこもり等)に拘泥するものであり、その「文脈」がしっくりこなかったことがその理由です。

そもそも事件から相当長期間を経て解決という場合には、次のいずれかが考えられる理由です。
1) 犯人の自首
2) 新たな目撃者等、関係者の証言
3) 決定的な物証の出現
このいずれにも該当しない本件の急展開の解決劇には懐疑的にならざるを得ませんでした。

そして資料に当り、自分の違和感が正しかったことを確認することができました。自白以外に有罪の客観的証拠はないと言われるこの事件ですが、私は勝又氏の自白そのものが無罪とすべき証拠だと感じています。しかし、勝又氏が真犯人ではないという確証を持っているわけではありません。自白が科学的客観事実と明らかに矛盾する以上、判決の事実認定は誤りであり、無罪相当というのが私の見解です。

<事件状況>
2005年12月1日、栃木県今市市(現日光市)では朝・晩に気温が氷点下を記録する寒い日だった。市立大沢小学校に通う1年生の有希ちゃんは、学校が終わると、友だち3人と連れ立って学校をあとにした。そして途中までは一緒に下校したが、午後2時50分頃、学校から数百メートルの三叉路で友だちたちと別れて一人になり、ほどなく行方が途絶えた。有希ちゃんが自宅に帰ってこないことを心配した家族が、駐在所に捜索願を出したのは午後6時頃だった。学校職員たちが所轄の今市署の署員らと翌日未明まで夜を徹し、懸命に有希ちゃんの行方を捜した。しかし、有希ちゃんは見つからなかった。

翌2日午後2時頃、茨城県常陸大宮市の山林内に、野鳥捕獲の下見に入った男性3人が、女児の遺体を発見、すぐに茨城県警大宮署に届けた。遺体は有希ちゃんだった。発見場所の雑木林は、大沢小学校から60kmも離れた場所だった。衣類は身につけておらず、胸を刃物で何度も刺されており、体内の血液がほとんど流出している状態だった。

この事件で特異なところは、誘拐現場と遺体遺棄現場が非常に離れていることです。そして地面に無造作に遺棄された状況から、遺体が発見されることを恐れている様子は伺えません。これらのことは重要な意味を持つと思います。

<裁判ほか経緯>
2005年12月1日  女児が下校途中に行方不明。
2005年12月2日  公開捜査開始。遺体が発見される。両県警が合同捜査開始。
2007年3月9日  遺体の複数個所から同じ男のDNA型が検出されたことが報道される。

yoshida yuki
(2006年8月1日にかけられた懸賞金の告知では、「冷酷で残忍な男です」となっていることから、その時点では遺体に残されたDNAが最有力証拠であったことが伺える)

2007年9月20日  3月に報道されたDNAは栃木県警の捜査一課長のものであったことが判明。
(この後の懸賞金告知からは「男」の特定が消える)
2014年1月29日  勝又拓哉氏、偽ブランド品販売に関わり商標法違反の容疑で実母と共に逮捕。
2014年2月18日  殺人に関する取調べが検察官により開始(録音録画はこれ以降行われる。但し、2月18日午前に行った最初の取調べと何度か今市署で行った取調べは録音録画されていない)。
2014年6月3日  勝又拓哉氏、殺人容疑で逮捕。
2014年6月24日  勝又拓哉氏、殺人罪で起訴。
2014年9月10日  情報提供者2人に懸賞金計500万円が支払われることが発表された(このうち一人は、勝又氏とそりが悪かった養父とみられる。勝又氏が捜査線上に浮上したのは、この養父の「息子の車にランドセルがあった」との情報提供から)。
2016年2月29日  宇都宮地裁にて初公判。
2016年4月8日  検察の求刑通り無期懲役の判決(松原里美裁判長)  

<争点>
検察が挙げた有罪立証の客観的証拠は次のものです。
①  有希ちゃんの遺体に付着していた獣毛様のものが、勝又氏の飼い猫のものである蓋然性が相応に高い。
②  有希ちゃんの消息が不明になった日の翌日である遺体発見日の未明に、勝又氏の車両が「茨城県方面に」向かい、数時間後に自宅方向に戻るという日常とは異なる特異な経路を走行した走行記録が残っている。
③  本件拉致現場周辺で目撃された不審車両の特徴が勝又氏所有の車両と矛盾しない。
④  有希ちゃんの遺体に認められた損傷が、勝又氏所有のスタンガンにより形成されたものとして矛盾しない。
⑤  勝又氏が、本件拉致現場周辺及び本件遺棄現場方面のいずれにも土地勘を有していた。

「蓋然性が高い」「矛盾しない」という言葉が並びますが、つまり勝又氏が「犯人でない可能性もある」「犯人でないとしても矛盾しない」ということです。

① ここで用いられている「ミトコンドリアDNA型鑑定」という鑑定方法自体信用性の低いもので、サンプリングもわずか570個体、猫のミトコンドリアDNA型鑑定の研究者は自分以外にはほとんどいないと鑑定人自身が認めるかなり怪しいものです。刑事事件に一般に使われている人間のDNA型鑑定(STR法)とは精度そのものが違い、かつその獣毛がいつどのような経緯で付着したかも不明です。

② まさに捜査当局が手詰まりという状況を表す証拠です。これは「Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)」というシステムによるものですが、従来、このデータ(「Nヒット」)を裁判における証拠として使うことはプライバシー保護の観点から禁じ手とされていたものです。詳しくは前田恒彦氏のブログをご参照下さい。そして、栃木県内でのデータが確認されたのみで、遺棄現場近くは勿論のこと、茨城県内において勝俣氏の車が確認されたわけではありません。

ここをクリック→ 前田恒彦 「なぜ栃木女児殺害事件の裁判で「Nシステム」を証拠として使うことが異例中の異例の事態なのか」

ちなみに「日常とは異なる特異」な経路の走行は、その日だけではなく、その4日後にも行われています。勝又氏の証言は、朝日の写真を撮影するために出かけたが、1回目は道に迷って戻り、2回目は写真を撮ってきたというものです(カメラ及び記録メディアは当然押収されているはずですが、そうした画像がないという立証がされているかは不明)。判決では、遺体発見日の走行を遺体遺棄のためとしながら、4日後の走行の理由は不問となっています。

③ 有希ちゃんと一緒に下校していた同級生は、有希ちゃんと別れる前に「古い白色セダン車が後ろから三叉路方向に追い抜いていき、その後、同じ車が再び前方から来てすれ違った」のを目撃、「若い感じの男が運転していた」のを確認している、とされています。車のナンバーはもとより車種すら特定されていません。そもそも、小学校1年生が(あるいは大人であっても)普段道を歩いていて、通り過ぎる車やそれを運転していた人を観察しはっきり記憶しているということはあるのでしょうか(事件直後は、「白いワゴン車」も不審車両とされていましたが、いつの間にか捜査線上からは消えています)。

④ 遺体の右耳介の下にあった3.5mm幅の2対のひっかき傷を指しています。弁護側は「やけどが認められず単なる擦り傷」、検察側は「やけどが生じないこともあり、被告人所有の3.8mm幅のスタンガンによる傷(姿勢によって間隔の誤差が生じうる)」としたものです。

私が一番注目したのは、⑤の土地勘、特に遺棄現場のものです。遺棄現場は、県道から舗装された車が対向できないほどの幅の林道を約200m入り、更に未舗装の林道を45m進んだところでした。その先は行き止まりになっています。遺棄した時間は冬の未明の時間であり、道路の状況、明度を考えると知っていなくては来ることができない場所だと思われます。

死体遺棄現場
遺体遺棄現場

なぜ勝又拓哉氏がこの遺棄現場に土地勘があったとされたかというと、彼は母親が偽ブランド品を毎月茨城県那珂市で開催される骨董市で販売するのを手伝っていましたが、自宅からその会場に行く途中、この現場近くを通っていたからです。

ここをクリック→ 遺棄現場(三美)

ここをクリック→ 鹿沼市(勝又氏自宅)~一乗院(骨董市)

先に述べたように、この事件の様相で一つ特異な点は、死体の発見を恐れていないことです。もし発見されることを避けるのであれば、埋めてしまえば各段に発見は困難になります。つまりその事実は、遺体遺棄現場と容易に結びつく者(即ち、その近辺に居住しているあるいはかつて居住していた者)の犯行ではなく、しかしその場所に土地勘があるという者の犯行であることを伺わせます。勝又氏が毎月通っていた道からは一本脇にそれ、しかもそこから林道に踏み入れなければならないため、勝又氏がこの遺棄場所を実際に知っていたかどうかは不明ですが、かなり上記のプロファイリングに勝又氏は合致します。そして、この私が重要視する証拠ですら、殺人の直接的証拠になり得ないことは明らかです。

<論評>
自白による誘拐時及びその後の足取りは以下の通りです。

2015年12月1日午後2時から3時頃、車で小学校付近に行き、一人で歩いている少女を見つけ、車を近づけて声をかけ、運転席ドアを開けてその少女を抱きかかえ、無理やり運転席を通して助手席に乗せた。「騒ぐと殴るぞ」と脅かし、ジャンパーを頭から掛け、途中、道路脇に車を止めて、粘着テープで少女の両手首を手錠のようにして巻き、口にも粘着テープを貼った。あちこち走っているうちに暗くなり、当時住んでいた自宅の部屋にいた方が安全だと思って帰宅した。午後6時か7時頃、駐車場から少女を抱きかかえて自分の部屋に連れてきた。わいせつ行為をした後、少女を遠くで解放すれば自分が犯人だとばれないかもしれないと思った。足首にも粘着テープを巻き、全裸の少女にジャンパーを被せて部屋を出た。時間は、翌2日午前零時を過ぎていた。運転している最中にいろいろ考えてしまって、わけの分からない道に入ったので、とりあえず車を止められる場所を探して、殺害現場となった林道に行き着いた。車を止めて、少女をどうしようか10分程考えたが、自分の顔や車も見られているし、住んでいる場所も知られているので、もうこのまま少女を殺害するしかないと思い、助手席のダッシュボードに入っていた軍手とバタフライナイフを取り出し、軍手をはめ、ナイフを持って、運転席から外へ出た。車から降ろした少女を車の前方に立たせ、その肩を押さえてナイフで胸の辺りを10回ぐらい刺し続けた。その後、自分の指紋が付いているおそれのある粘着テープを目、口、手首、足首から外し、遺体を林道の下の斜面に投げ入れた。殺害時刻は午前4時頃だと思われ、殺害現場は初めて来た場所である。林道を離れて車を走らせたが、道に迷い、途中で、ナイフ、軍手、粘着テープを運転席から道路脇の林のような場所に投げ入れ、公衆便所で血が付着した両手を洗ってから自宅に帰った。自宅にあった少女のランドセル、服、靴は、1週間か2週間ぐらいかけてはさみで細かく切り、これらや血の付いた自分の衣服は、ゴミ捨て場に捨てた。

以上が、自白に基づき裁判において認定された勝又氏の行動ですが、客観的事実と科学的に矛盾する点がいくつかあります。その指摘の前に、まず、自白に「秘密の暴露」がないことを述べておきます。報道されていない重要な事柄(例えば、有希ちゃんのランドセルの中身)といったことは一切自白には含まれていません。また今回の事件では、凶器ほか遺留品、及び有希ちゃんの衣服、所持品は発見されていません。つまり犯人でなければ知り得ない事柄が自白には全く含まれておらず、物証で自白の信用性が担保された(例えば、それまで見つかっていなかった凶器が自白により見つかった)ということもありません。

自白と客観的事実が矛盾する点は主に次の三点です。
①  殺害時間は自白にある午前4時ではなく、それより相当早い時間であった。
②  殺害場所は遺棄場所の近辺ではなく、拉致後に連れ去られた場所(おそらく屋内)であった。
③  わいせつ行為がなされることはなかった(あるいは、わいせつ行為があった場合には被害者の体は洗われている)。

①  胃に入った食物の消化時間は概ね3-5時間程度です。有希ちゃんの胃の中には、行方不明になった当日に食べた給食の野菜片や米飯が極少量残っていました。

裁判所の認定は「給食を食べた時刻から本件自白供述において被害者を殺害したとされる翌日午前4時までの約15時間もの間、被害者の胃内部に極少量とはいえ未消化の食物が残っていた点は、一見疑問が残るものである。しかし、想定し難い極限のストレス状態に置かれていたため、消化活動がほぼ停止した状態になっていたとしても必ずしも不合理とはいえない」(一審判決文より)というものです。

確かにストレスによって消化活動が極端に鈍くなったり、一時的に止まったりすることは想像されます。即ち、消化にかかる時間が3-5時間ではなく、それよりかなり長時間となる可能性は十分に考えられます。しかし、有希ちゃんの消化活動が15時間もの間停止したとするのは、かなり無理があるように感じます。

この殺害時間の問題は、次の殺害場所の問題と大きく関係してきます。

②  自白に不自然な印象を受けるのは、これだけ物証がない犯罪にも関わらず、全く計画性がないとされているところです。それは取調べをした捜査官の印象から、勝又氏が用意周到に物事を運ぶ性格ではないと見て取ったからだと思われます。しかし、「被害者を遠くで解放」しようとする者が、全裸で被害者を連れ出すでしょうか。そして逡巡した挙句、切羽詰まってその場で殺害を決めたというのは、物証の少なさから私には不自然に感じられます。用意周到かつ計画的に殺害されたと考える方が合理的であると思われます(全裸で連れ出す場合、最初から殺害するつもりだった)。そして殺害をするには、いかに人気のない時間・場所とはいえ屋外よりは、誰に見られることもない屋内、自宅で行うことがより自然だと思われます。勝又氏の家宅捜査においては、その疑いをもって捜査が行われたものと思われます。しかし、その痕跡がなかったため、勝又氏犯人ありきで殺害場所が遺棄場所近辺とされたものと思われます。

検死時、遺体の重量は約19kg、体内に残留していた血液量は200ccないし300ccでした。人間の体内の血液量は体重の8%程度です。有希ちゃんの体重をX (kg)とすれば、
0.92 X = 19 - 0.3
X = 20.33 (kg)
体外に流出した血液量は 20.33 x 0.08 – 0.3 = 1.33 (L)

1L以上もの血液が刺殺現場に流れたことになりますが、ルミノール反応で検出されたのは滴下した少量の血痕に過ぎませんでした。裁判所の認定は「捜査報告書によれば、目視できるだけでも多数の血痕があり、単なる滴下痕としては説明できない量の血痕が残っていると考えられる」とルミノール反応鑑定を無視する解釈をし、かつ「軍手、勝又氏の衣服についた返り血及び遺体を運ぶ時に流れ出た量も無視できない」と、胸をナイフで10回も刺されながら、地面にはほとんど血が流れて落ちなかったという非科学的な解釈をしています。(注1)

給食を食べてから約4時間後前後に、室内で殺害されたとしたのでは、勝又氏を犯人にすることが難しいところから来ている、つじつま合わせの非科学的解釈です。「勝又氏自宅に殺害の痕跡がない」→「Nヒットが午前1時50分と2時20分及び午前6時12分と午前6時27分に栃木県内であり、その間に茨城県の遺棄現場と往復しかつ殺害が行われたとすると都合がいい」→「殺害時間は当日午後5時前後ではなく、翌日午前4時前後である」という論法です。

③  そして、最大の問題点はDNA型鑑定に関係しています。

この事件では、一旦は遺体の複数個所に残された同一男性のDNA型が最有力証拠とされ、そのDNA型を持つ男性の特定に捜査が注力したことは明らかです。そしてそれが栃木県警捜査一課長のものであったことが判明し、事件はふりだしに戻ります。この初動捜査の大ミスが事件解決を困難にした可能性は多分にあります。DNAの付着は捜査一課長が素手で遺体を触ったことによるものと考えられています。

また、遺体に残された遺留品として、口をふさぐために巻かれていた粘着テープの一部(幅約5cm、長さ約5.5cm)が後頭部に残っていました。その粘着テープには有希ちゃんのものでもなく勝又氏のものでもない二人のDNAが残っていましたが、一つは鑑定人の一人のものだと認定されています。そして残りの一人が誰かということが問題です。弁護側はそれを真犯人由来のものであるとし、検察側は別の鑑定人のものであるとしました。そして裁判では、検察側の主張に沿う形で「鑑定人以外の第三者の細胞組織が混入した可能性も厳密には排除できないものの、これが本件犯人に由来するものである蓋然性が高いと判断することもできない」(一審判決文より)としました。

この判断が妥当かどうかを議論する以前の問題として、そんなに簡単にDNAというのは残留するのだと少なからずの方が驚かれたと思います。私もそうでした。栃木県警捜査一課長が素手で触っただけで彼のDNAが遺体表皮に残留しています。また、DNA型鑑定人が自分のDNAを鑑定対象の物証に容易に付着させるわけがないと思われます。そのように細心の注意を払ってもDNAというのは残留するということのようです。

そして、自白に基づくわいせつ行為の様態は以下の通りです。

「被害者の陰部の外側を右手の中指で撫で回し、左胸を右手で揉み、被害者の頬にキスをし、自分の陰茎を被害者に両手で握らせ、その両手を自分の両手で握って手淫させた」「陰茎を被害者の陰部、尻の割れ目にこすり付けた」「そのうち射精した」(以上、一審判決文より)

それにも関わらず、遺体から勝又氏のDNAは検出されていません。また検死の結果「外陰部には、損傷異常を認めず、姦淫等と示唆する所見はない」(一審判決文より)とされています。

この大いなる矛盾に対し、裁判所の認定は「そのわいせつ行為の態様からすれば、被害者の遺体に痕跡が残っていないことが不自然であるとはいえないし、被告人の細胞片や体液が必ず被害者に付着しているともいい難い」(一審判決文より)というものです。これが、私が「自白が科学的客観事実と明らかに矛盾する以上、判決の事実認定は誤りであり、無罪相当」と考える理由です。

DNAを残さないため被害者の体が洗われた可能性(自白にはない)もありますが、私は、むしろ(これも自白に反して)わいせつ行為は行われていなかった可能性が高いと考えています。

私が報道に接して感じた違和感は、犯人像の「文脈」であることは述べました。「7歳の少女が誘拐され、全裸の遺体が発見されれば、ロリコンによる犯行」と考えるのは短絡的だと直観的に感じました。少女への性的嗜好よりも無抵抗なものへの残虐性を強く感じたからです。つまり自分がイメージした犯人像は、人間を殺す前に動物を殺傷している可能性が高いというものです。

初めに「勝又氏が真犯人ではないという確証を持っているわけではない」と述べましたが、逆に勝又氏が犯人であるということにも違和感を覚えます。それは彼に動物虐待をするような印象を持たなかったからです。

勝又拓哉 猫

私の妄想の中では、勝又氏が撮ったという朝日の画像を収めた記録メディアが警察資料庫に眠っています(それは無罪方向の積極証拠となるものです)。ダニエル・デイ=ルイス主演の1993年の映画『父の祈りを』で、検察がアリバイの証拠を隠蔽したように。(注2)

そのほかこの事件の捜査~裁判の経緯は、刑事司法において非常に重要な問題点をはらんでいます。それは取調べの可視化に関わる問題ですが、別件逮捕(それそのものの違法性も問題視されるべきものです)が取調べ可視化のループホールになっているという点と、本来取調べの任意性を担保するための可視化であるはずなのに、その録音録画が実質証拠として使われるという、取調べ可視化が検察の実に狡猾な戦略により逆利用されているという点です。これらについてはまた機会を改めて議論したいと思います。そもそも自白の証明力を過大評価し、「自白が取れれば事件解決」とする捜査手法の在り方が最大の問題点でもあります。

吉田有希ちゃんの冥福を祈ります。

(注1)
ここをクリック→ 産経ニュース「遺棄現場での殺害は「ありえない」 遺体解剖の法医学者が証言」

弁護側鑑定人の法医学者が「現場の地面は落ち葉に覆われていて、血がほとんど染み込まない」としたのに対し、判決では「その根拠が明らかではなく合理的とはいい難い」とされています。落ち葉に覆われていても、血が落ち葉をすり抜けるわけはなく、また地面に染み込んだにしても、そこからルミノール反応が出ないということはないように思えます。

(注2)
ここをクリック→ フィルム・レビュー  『父の祈りを』 (1993年) ジム・シェリダン監督


参考文献
『冤罪File』 No.22 2015年3月号 「今市幼女殺害事件 犯人と断定したDNAが実は捜査一課長のDNAだった!?」 片岡健
『冤罪File』 No.24 2016年3月号 「栃木吉田有希ちゃん殺害事件 被告人の実母が明かしたタブーすぎる捜査の内幕!」 片岡健
『冤罪File』 No.25 2016年7月号 「今市幼女殺害事件 全判決詳報!」 片岡健
















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2017/06/04 Sun. 15:48 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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フィルム・レビュー 『エイリアン:コヴェナント』 『ワンダー・ウーマン』 『Bon Cop Bad Cop2』 『オール・ザット・ジャズ』 『父の祈りを』 『何がジェーンに起こったか?』 『私を愛したスパイ』 

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ここをクリック→ 『何がジェーンに起こったか?』 (1962) ロバート・アルドリッチ監督

the spy who loved me

ここをクリック→ 『私を愛したスパイ』 (1977) ルイス・ギルバート監督













category: フィルム・レビュー

2017/06/04 Sun. 04:10 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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