#検察なう (572) 「東海テレビ制作『眠る村~名張毒ぶどう酒事件 57年目の真実~』上映会」 6/8/2018
#検察なう (572) 「東海テレビ制作『眠る村~名張毒ぶどう酒事件 57年目の真実~』上映会」 6/8/2018
この4月に東海地方で放送された東海テレビ制作のテレビ番組、『眠る村~名張毒ぶどう酒事件 57年目の真実~』の上映会に行って来ました。
上映に先立ち、弁護団の野嶋真人弁護士から、第十次再審請求審(棄却)に関しての報告がありました。第十次再審請求審において弁護団が提出した新証拠は、ぶどう酒瓶の封緘紙に関するものでした。
最新科学鑑定によれば、封緘紙にはぶどう酒製造時のものとは違う糊が上塗りされていたことが分かりました。それは奥西勝氏の自白とは異なるものです。確定判決の認定は、奥西氏が事件現場で毒物をぶどう酒に入れたことになっていますが、弁護団の提出した新事実は、事件現場とは別の場所でぶどう酒瓶が開栓され、偽装するために犯人が手持ちの糊で再封緘したことを意味します。
この科学鑑定に関し、再審棄却判決文はわずか三行しか言及しておらず、否定するのに全く科学的根拠はないものでした。弁護団は、更に精緻な封緘紙の鑑定を新事実として、次の再審請求を準備しているとのことでした。
『眠る村~名張毒ぶどう酒事件 57年目の真実~』は、この事件についてそれなりに知っている自分にとっても興味深いものでした。それは、生存する関係者への直接の取材によって、彼らの生の姿を見て、生の言葉を聞くことができたからです。
特に、事件が起きた葛尾の村の人々のそれは印象的でした。村の多くの人々は、57年前の奥西氏の自白後から今日まで奥西氏が犯人であることを信じて疑わないとされています。名張毒ぶどう酒事件に関するこのような報道番組を見る人々の多くは、奥西氏が冤罪被害者であると思って見ていると思われます。奥西氏が冤罪被害者であることを伝えるこうした報道番組の質問に答える村の人々の気持ちはどのようなものであったか、改めて思いをはせる機会になりました。
奥西氏が犯人でなければ、真犯人はほかにいるという不安を打ち消すために、自分に言い聞かせるように奥西氏以外が犯人であることはあり得ないと繰り返す村の人々。しかし、自らの証言が警察・検察の取調べで変遷させられたこと(注)を身をもって知っている彼らこそが、奥西氏の自白は警察・検察の強要である可能性を理解していると思われます。
そして今日、当時の被害者が逝去して代替わりになっている村では、「もう終わりにしてほしい」という声が支配的です。彼らも、平穏な生活が常に脅かされている冤罪事件の被害者であり、そうした者の正直な気持ちであると理解します。「もう司法が判断したのだから、それでいいじゃないか。もうこれ以上蒸し返さないでほしい」というものです。
しかし、そうした声の中にただ一人、はっきりとは言明していませんでしたが、毒入りのぶどう酒を飲んだ被害者を母親に持つ男性が、その母親に「今まで一度として、奥西さんが犯人じゃないと、少しでも思ったことはない?」と繰り返し尋ねる様子は印象的でした。
そして、犯行の動機の弱さが、冤罪事件として立証の難しさであることも理解しました。奥西氏は三角関係の清算のため、妻と愛人殺害を企て、農薬を女性が飲むぶどう酒に入れた(死亡した5人の女性の中の二人が彼女たちでした)とされています。しかし、男女関係が実におおらかな素朴な村であり、全ての村人が彼らの関係を知っている中で、奥西氏が、なぜその関係を二人を殺害するという方法で清算する必要があったのか、大いに疑問が持たれるところです。そして動機が弱いところは、そのほかの考えられうる容疑者にも同じことであり、納得感のあるアナザー・ストーリーが考えにくいことが、この事件の難しさを物語っています(勿論、奥西氏以外の真犯人を推認するアナザー・ストーリーは、奥西氏の無罪立証には不必要ですが、それがあれば大いに納得感が増すところです)。
再審請求は本人ないし親族のみができますが、奥西氏が逝去した後は彼の妹が引き継いでいます。彼女も既に老齢(88歳)。請求権利者の死をもって幕引きとするかのような、この冤罪事件は、このままで終わるのであれば、日本の刑事司法における一つの大きな汚点となって語り継がれることと思います。弁護団や支援者の熱意に、裁判所が応えることを切に望みます。
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(注)
当初の証言では、村の懇親会のために、村の若者が酒屋でぶどう酒と清酒を買って村の会長宅に運んだ時間から、奥西氏がそれらを懇親会の会場に運ぶまで約3時間の空白があった。しかし、奥西氏の自白以降、村人の証言は変遷し、会長宅にぶどう酒と清酒が運び込まれたのは、奥西氏がそれらを運ぶ直前であるとされた。確定判決は、変遷後の証言を採用して、奥西氏以外に農薬をぶどう酒に混入できた者はいないとした。
6/8/2018
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上映に先立ち、弁護団の野嶋真人弁護士から、第十次再審請求審(棄却)に関しての報告がありました。第十次再審請求審において弁護団が提出した新証拠は、ぶどう酒瓶の封緘紙に関するものでした。
最新科学鑑定によれば、封緘紙にはぶどう酒製造時のものとは違う糊が上塗りされていたことが分かりました。それは奥西勝氏の自白とは異なるものです。確定判決の認定は、奥西氏が事件現場で毒物をぶどう酒に入れたことになっていますが、弁護団の提出した新事実は、事件現場とは別の場所でぶどう酒瓶が開栓され、偽装するために犯人が手持ちの糊で再封緘したことを意味します。
この科学鑑定に関し、再審棄却判決文はわずか三行しか言及しておらず、否定するのに全く科学的根拠はないものでした。弁護団は、更に精緻な封緘紙の鑑定を新事実として、次の再審請求を準備しているとのことでした。
『眠る村~名張毒ぶどう酒事件 57年目の真実~』は、この事件についてそれなりに知っている自分にとっても興味深いものでした。それは、生存する関係者への直接の取材によって、彼らの生の姿を見て、生の言葉を聞くことができたからです。
特に、事件が起きた葛尾の村の人々のそれは印象的でした。村の多くの人々は、57年前の奥西氏の自白後から今日まで奥西氏が犯人であることを信じて疑わないとされています。名張毒ぶどう酒事件に関するこのような報道番組を見る人々の多くは、奥西氏が冤罪被害者であると思って見ていると思われます。奥西氏が冤罪被害者であることを伝えるこうした報道番組の質問に答える村の人々の気持ちはどのようなものであったか、改めて思いをはせる機会になりました。
奥西氏が犯人でなければ、真犯人はほかにいるという不安を打ち消すために、自分に言い聞かせるように奥西氏以外が犯人であることはあり得ないと繰り返す村の人々。しかし、自らの証言が警察・検察の取調べで変遷させられたこと(注)を身をもって知っている彼らこそが、奥西氏の自白は警察・検察の強要である可能性を理解していると思われます。
そして今日、当時の被害者が逝去して代替わりになっている村では、「もう終わりにしてほしい」という声が支配的です。彼らも、平穏な生活が常に脅かされている冤罪事件の被害者であり、そうした者の正直な気持ちであると理解します。「もう司法が判断したのだから、それでいいじゃないか。もうこれ以上蒸し返さないでほしい」というものです。
しかし、そうした声の中にただ一人、はっきりとは言明していませんでしたが、毒入りのぶどう酒を飲んだ被害者を母親に持つ男性が、その母親に「今まで一度として、奥西さんが犯人じゃないと、少しでも思ったことはない?」と繰り返し尋ねる様子は印象的でした。
そして、犯行の動機の弱さが、冤罪事件として立証の難しさであることも理解しました。奥西氏は三角関係の清算のため、妻と愛人殺害を企て、農薬を女性が飲むぶどう酒に入れた(死亡した5人の女性の中の二人が彼女たちでした)とされています。しかし、男女関係が実におおらかな素朴な村であり、全ての村人が彼らの関係を知っている中で、奥西氏が、なぜその関係を二人を殺害するという方法で清算する必要があったのか、大いに疑問が持たれるところです。そして動機が弱いところは、そのほかの考えられうる容疑者にも同じことであり、納得感のあるアナザー・ストーリーが考えにくいことが、この事件の難しさを物語っています(勿論、奥西氏以外の真犯人を推認するアナザー・ストーリーは、奥西氏の無罪立証には不必要ですが、それがあれば大いに納得感が増すところです)。
再審請求は本人ないし親族のみができますが、奥西氏が逝去した後は彼の妹が引き継いでいます。彼女も既に老齢(88歳)。請求権利者の死をもって幕引きとするかのような、この冤罪事件は、このままで終わるのであれば、日本の刑事司法における一つの大きな汚点となって語り継がれることと思います。弁護団や支援者の熱意に、裁判所が応えることを切に望みます。
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(注)
当初の証言では、村の懇親会のために、村の若者が酒屋でぶどう酒と清酒を買って村の会長宅に運んだ時間から、奥西氏がそれらを懇親会の会場に運ぶまで約3時間の空白があった。しかし、奥西氏の自白以降、村人の証言は変遷し、会長宅にぶどう酒と清酒が運び込まれたのは、奥西氏がそれらを運ぶ直前であるとされた。確定判決は、変遷後の証言を採用して、奥西氏以外に農薬をぶどう酒に混入できた者はいないとした。
6/8/2018
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