「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (85) 「人質司法」 1/13/2012 

#検察なう (85) 「人質司法」 1/13/2012

日本では極端に否認事件が少ないと言われています。今回はその原因である人質司法について考えてみたいと思います。

「人質司法」とは聞きなれない言葉かもしれませんが、(起訴前の)被疑者や(起訴後の)被告人が否認をする場合、逮捕勾留され、その身柄拘束が長期化してしまう現行司法制度の実態を説明する際に用いられる言葉です。こうした状況が冤罪を生んでいると批判されるものです。

私は、自分がこの事件に巻き込まれるまでは、逮捕される人というのはよほど悪い奴なんだろうな、としか思っていませんでした。ところが実態は、凶悪犯罪を除くほとんどの事件で、逮捕され身柄が拘束されるのは、自分が無実だと訴えたためということを知って驚きました。

これを知って私は、自分は確実に逮捕されると覚悟しました。実際には、逮捕されることはありませんでしたが、取材する記者には、「八田さん、前代未聞ですよ。これだけ否認を貫いて逮捕されなかったというのは戦後初じゃないでしょうか」と言われたものです。

私の特捜部の取調べで、「否認したから逮捕、自白したから逮捕されない、そんな簡単なものじゃないんです。私が担当した事件では....」と検事が語ったのは、警察から上がってきた自白事件。「警察は自白があるから逮捕の必要なしとしたんですが、私は逮捕しました」。私は「ちょ、ちょっと、それって『否認=逮捕』じゃない例じゃないじゃん。結局、逮捕してんじゃん」と思いましたが、敢えて突っ込みませんでした。

私の弁護団は最初二人、そして起訴後にもう一人追加しました。それは三人寄れば文殊の知恵ということもありますが、逮捕の時の接見対応を見越したものでもありました。弁護士曰く、「八田さんは強いから、毎日行かなくてもいいかなと思ったんですけど、一応毎日面会に行ける体制にしました」ですって。「先生、それはないでしょ、毎日来て下さいよー。寂しいなあ」と言ったものです。

逮捕されるとどうなるか。

まず私の場合は、小菅にある東京拘置所に勾留されることになります。検察の勾留期限は20日間。その間に検察は起訴・不起訴の判断をします。被疑者勾留の間は、弁護士以外とは会うことができない接見禁止となることが多いようです。

逮捕勾留は、罪証隠滅及び逃亡すると疑うに足る相当な理由がある場合に裁判所が許可をするものです。私の場合、強制捜査を受けて証拠は全て押収され、単独犯ですから共犯者と口裏を合わせることもなく、取調べの度にえっちらおっちら海外から戻って来て律義に対応していても、理由などは何とでもなるみたいです。

拘置所から出るには保釈を請求して、それが裁判所に認められる必要があるわけですが、その保釈請求というのは起訴された後からすることができます。そしてこれが大抵は認められないんだそうな。私は、逮捕勾留が、事実上検察が取調べにおいて自白強要のものであると思っていたので、起訴されてしまえばそれですんなり保釈されるかと思っていたのですが、調べてみると保釈請求はいとも簡単に却下されるようです。確かに、起訴されたからといって、起訴前と比べて証拠を隠したり、逃亡したりというリスクが減るわけではないと言われればそうなのですが。

下手をすると公判が始まって、ある程度審理が進まないと保釈は認められないということも十分に可能性としてあります。そうすると、私の場合は半年くらいは拘置所に入っていなければならなかったわけです。接見禁止は、起訴後に解かれることは多いようですが、それでも面会は一日一回のみ(一度に3人まで)。

更に辛いのは公判の時の状況です。今のイメージは、公判の当日は、鎌倉から電車で内幸町の弁護士事務所に立ち寄って打ち合わせをし、日比谷公園を横切って裁判所に向かって、公判に臨むというものです。そして弁護士と一緒に入廷です。

これが勾留されているとなると、小菅からバスで裁判所に移送され、公判前の弁護士との打ち合わせもガラス越し、そして入廷時のいでたちは、スーツの差し入れは認められてもネクタイ不可、そして腰縄・手錠です。あといやなのが靴が認められずスリッパ。スーツにスリッパですよ、ありえない(あ、普段そういう格好の人がいたらすみません、これは美意識の問題です。腰縄・手錠は百歩譲っていいとしても、スリッパで裁判というのはいやだなあ)。

そして否認を続ければ、当然公判も長引き、判決においても否認が「反省の色なし」と評価されて、量刑の軽重に影響してきます。私の場合、有罪でも執行猶予が付くことは確実なので、その執行猶予が2年半の代わりに3年とか、そういう感じです。

刑事裁判での有罪率は99.9%ですから、起訴されればどうあがいても有罪。で、あるなら何ヶ月も拘置所に入れられて、刑罰も厳しくなるくらいなら「諦めて無実でも自白した方がよっぽど得策だ」と考える人の方が多いのではないかと思っても不思議ではないのではないでしょうか。

私は「やってないものはやったとは言えない」というシンプルな理由で当然のように否認していますが、無謀といえば無謀な行為です。少なくとも、もし私が故意に脱税をしていたとするならば、嘘をついて否認するメリットは全く感じられません。実刑確実なのであれば、どうせ刑務所に入るんだから、とギャンブルもできますが、認めれば拘置所に行く必要がないのに、敢えて逮捕拘留のリスクを取るという合理性が全くないと思います。

捜査初動時の見込み違いというのはそれ程少なくないと思います。そしてこの人質司法を嫌って、無実であるのに認めてしまう、あるいは人質司法に音を上げて認めてしまう冤罪というのが、実は山のようにあるんじゃないかと思ってしまいます。

先進国の法治国家として、この人質司法というのは本当に恥ずべきことだと思います。どげんかせんといかんでしょ。

1/13/2012


category: 刑事司法改革への道

2012/01/13 Fri. 05:42 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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