「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (88) 「証拠開示と公判前整理手続」 1/18/2012 

#検察なう (88) 「証拠開示と公判前整理手続」 1/18/2012

国税局査察部や警察、そして検察といった捜査機関には捜査・押収などの強制権限が与えられています。そして以前述べたように、逮捕勾留という「人質司法」の手段をもっています。それにより証拠を集めて、公判となればその証拠を提出します。国家捜査機関は、証拠収集能力において、被告人や弁護士に対し圧倒的優位に立っていることはお分かりになって頂けると思います。

彼らが集めた証拠の中には、被告にとって有利なものもあれば、不利なもの、あるいは全く関係ないものもあります。

夏目漱石の小説「門」の挿話にあるように、泥棒は犯行前に侵入する家の周りで脱糞をするということがあります(ちょっと時代がかったジンクスですが)。例えば、泥棒に入られた家の外にふんが落ちていたとします。「もしかしてこれは犯人のものかも」と思って採集したら、それは犬のものであった、ということもあるわけです。その場合には、検察も公判でわざわざ「窓の外にあったふんを採集したが、人糞ではなかった」とは言わないでしょう。しかし、もしそれが人糞であったとして、犯行時間近辺のものであったとしたら、犯人特定の有力な証拠になるはずです。被告の血液型がA型であり、その人糞から検出された血液型がB型だとすれば、当然被告に有利な証拠となります。この証拠を検察が公判に提出するでしょうか。しなくてもいい、というのが日本の法律なのです。そして過去の冤罪において、こうした被告に有利な証拠が開示されないということの問題点が強く指摘されています。

刑事訴訟法では、「検察は、証拠として裁判に提出する予定のものは、あらかじめ被告人・弁護人に見せておかなければならない」という条文があるだけです。つまり彼らが、被告に不利な証拠だけを抽出して公判に提出しても、それは別に法律違反でもなんでもないということです。そしてどういう証拠を検察が持っているか分からなければ、被告に有利な証拠が永遠に日の目を見ないということもあります。もし弁護士が、「~という証拠があるはずだ。出してくれ」と言っても、検察は「見当たりません」とか「必要がないと判断します」と言って出さないことが普通です。

そんなんフェアじゃないじゃん、と思われました?そうなんです。この国の司法の建て付けは、残念ながら被告に圧倒的に不利にできています。それは、本来、検察が正義を守る、秋霜烈日の気概を持って事に臨むということが大前提であれば、それほど問題でもないのですが、そうでないことは、私の起訴からもよく分かって頂けたと思います。

さすがにそれじゃいかんだろ、ということで少しずつ証拠開示の義務化に世の中は進んでいるようです。何しろ、捜査権力の集めた証拠は、税金を使って集めているわけですから、捜査権力固有の所有物ではなく、国民共有の財産だからです(それにしても、役人というのは、民間企業の我々と違って、コスト意識が極めて希薄な感じがします)。それを一部担保するようになったのが、裁判員制度新設に伴ってつくられた「公判前整理手続(こうはんぜんせいりてつづき)」です。

なんか長ったらしい名称ですが、「こうはんぜん」と略して言うと、ちょっとそれっぽいので、もし言及する機会があれば「こうはんぜん」と言ってみて下さい。

裁判というのはとかく時間がかかるというイメージがあるかと思います。閉廷時に、「じゃ、次回の公判は、1か月後の~ということで」といった流れで、延々と続く感じです。2009年から裁判員制度が始まっていますが、さすがに何ヶ月も裁判で拘束されたら裁判員の負担はとても大きなものになってしまいます。そのため、公判をスピードアップするために、公判が始まる前に、検察と弁護士の当事者間で、争点及び証拠の整理をしましょうというのが公判前です。言ってみれば、事前に公判のシュミレーションをやるようなものです。

公判前を採用した場合、公判までの助走期間が相当長くなり、その分、公判はスピードアップします。ホリエモンの一審では、公判前が採用されましたが、公判前整理手続の期間は9ヶ月、公判の期間は3ヶ月程度でした。

そして、先の証拠開示との関連で言うと、裁判員裁判制度を見越して改正された刑事訴訟法の中に、ある類型にあてはまる証拠に関しては、検察の提出義務を明示化しています。

― 証拠物、検察官が証人申請した者の供述録取書、被告人の供述録取書等(刑訴法316条の15)

― 弁護側が予定している法律上、事実上の主張に関連する証拠(刑訴法316条の20)

がそれです。

公判前は、裁判員裁判対象事件だけではなく、「争点が複雑であったり、証拠の数が多く、その整理をする必要がある事件」や「検察官が被告人に有利な証拠を開示していないことが予想される場合に、証拠開示を有効利用する必要があると考えられる事件」で採用される可能性があります。これは運用上、弁護側の請求を、裁判所が認めることによって採用されます。

以前から述べていますように、私の事案で、国税局査察部、検察特捜部はありもしない証拠を探して、膨大な資料を集めています。そこには当然、私に有利なものも大量にあるはずです。この証拠の開示をより確実にするために、私は公判前を求めるつもりでした。

ところが、弁護士との合議の中で私の勘違いが分かり、結論から言うと、公判前を求めないことを決めました。

それは先程、検察、弁護士の当事者間で証拠の整理をするのが公判前の意義であると述べましたが、私は当然裁判官もその席について、証拠の現物を見ながら中身を検証すると思っていました。ところが、「当事者」に裁判官は含まれず、裁判官はその席上にいるものの、証拠が渡されないまま、結局、レフリーが証拠検討の蚊帳の外におかれてシュミレーションするのが公判前だということを理解しました。

弁護士としては、公判前のメリットとして、検察の証明予定事実が分かるという点を重視していました。検察がいかなる虚構のストーリーを作ってくるかというのは、故意の事実がない以上、こちらとしては全く予測不可能なので、それを早く知ることで、対応策を講じたいと思っていたものです。

ただ私としては、裁判官に証拠検討の時間が十分にあることが重要だと思っていますので、むしろそれができない公判前は全く意味がないと思いました。検察が請求した証拠ですら、十分に検討すれば無実は明らかだからです。

証拠開示に関しては、不十分と思われる場合、裁判所を通じて要求する事になりますが、最終的には検察の良心に頼るしかありません。これは仕方ありません。

公判前を採用せず、通常の公判を行うことによって起こる変更は、初公判のタイミングです。公判前を採用すれば、初公判は少なくとも3-4ヶ月後かと思っていましたが、実際のところ、初公判のタイミングは随分と前倒しになります。それは2月後半になると思いますので、私の帰国は2月中旬を予定しています。

いきなり忙しくなりそうです。引き続き応援お願いします。

1/18/2012

P.S.
Wikipediaに「クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」が掲載されています。是非検索してみて下さい。

ここをクリック→Wikipedia 「クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」


category: 刑事司法改革への道

2012/01/18 Wed. 20:59 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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