「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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嘆願書 (30/146) 倉永良通 

嘆願書 (30/146) 倉永良通

犯罪の契機は、結局動機と人品に関わると思っています。その人品に関して、私の友人・知人に「あなたの知っている八田隆を文章にして下さい」と依頼しました。そして集まったのが146通の「嘆願書」です。検察特捜部に提出したものですが、本人の了承を得て実名公開します。

30通目の嘆願書は、ソロモン・ブラザーズでの先輩、倉さんからのものです。

アメリカでのサブプライム・ローン危機は全世界規模での経済不況を引き起こしました。勿論、日本も例外ではありません。

かつて日本においては常に右肩上がりの成長を続けていたため、国の税収は安泰でした。むしろ減税を繰り返し行うことで、自民党の長期政権が実現したものです。なんだかんだ言っても、民衆というのは生活がうるおっていれば大概文句は言わないものです。

そしていつのまにか政権維持のためには消費税増税がタブー視されるようになり、日本は先進国では突出して消費税率が低い国となりました。私の住むバンクーバー市のあるカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の消費税率は12%です。ヨーロッパ諸国では20%に達する国もあります。日本は5%という低率にも関わらず、これを上げようとすると、国民は一斉に文句を言います。

国が国民を養うには当然、お金がかかります。医療保障は必要です。老人やシングル・マザーの面倒も見なければなりません。橋や道路も作らなければいけません。その財源はどこから来るのでしょうか。その答えは、税金と、国債発行による借金です。

日本は既に国債発行による財源調達は限界に来ています。借金時計というのをご存知でしょうか。映画「バブルへGo!!」でも紹介されていましたね。これです。

ここをクリック→ 借金時計

日本の借金の残高は、国が生産することができる価値(GDP)の150%に達しています。つまり稼ぐ以上に借金の残高が多くなり、その利子負担だけでもどんどん借金がかさんでいる状況です。借金を返すには税収を上げて、その税金で返済すればいいのですが、税金が借金返済に回る程十分ではなく、新たな債券を発行して満期償還に充当しています。サラ金の期限が来たら、ほかのサラ金から借りて返す状況に似ています。

同じような状況はギリシアでもあり、経済破綻したことは記憶に新しいと思います。ギリシアと日本の違いは、ギリシアの場合、借金の相手(国債の買い手)が外国であったのに対し、日本はその借金のほぼ全てを日本国民が負担しています(日本国債の国内消化率=94.8%)。日本国民の誰も日本がつぶれるとは思っていないので、貯蓄の代わりに日本国債を買っています。海外に売ろうとすると当然リスク・プレミアムとしてより高い金利を要求されますから、何も知らずに買ってくれる国民にその借金を押し付ける方が、国としても有り難いということです。

消費税を上げることはできず、それでも経済が伸びているうちは会社からの法人税と一部富裕層からの個人所得税でなんとか国の税収はまかなえていました。消費税以上にフェアな税制は、必要な税額を国民全員で頭割する人頭税ですが、そうすると一人当たりの税負担は数百万という金額(大体300万円くらい)というものになります。それだけの税金を払えない人が大勢いるのは明らかなので、個人所得税は累進課税となって、収入が高い人はより多く負担するという構造になっています。国民の多くは(その300万円より負担税額の低い人は)、法人税を払う会社や一部高額納税者にパラサイトしているということです。

そこにサブプライム・ローン危機です。ブーン!

国家の財政は火の車。「何とか税金をかき集めろ。日本が沈没するぞ」と当然、徴税吏にプレッシャーがかかります。飢饉の時に鬼のように年貢を取り立てるような感じですね。ま、そうした構造は時代がいつでも変わらないということです。

そこで彼らが注目したのが、外資系企業の海外給与でした。内偵してみると、かなりの申告漏れがありそうです。「おほっ!金鉱見っけ!」とほくそ笑んだことでしょう。彼らは、「うーむ、これは問題だ。ちゃんと指導しなければならない」などとは考えなかったのでしょう。「よっしゃ、一網打尽で、税金を絞り取れるだけ絞り取ってやろう」と思ったのだと思います。ねずみ小僧を義賊だという思考回路に近いものです。金持ちから盗むのは罪じゃない。高額納税者が「じゃあ儲けるのや―めた」と言ったら国が衰退の一途だということを考えていない、行き当たりばったりの税収かき集め作戦とも言えます。

そこで一番最初にターゲットになったのが、当局から覚えの悪いクレディ・スイス証券です。

ここをクリック→ #検察なう (74) 「クレディ・スイスへの差別」

案の定、300人の税務調査対象者のほとんどが正しい申告をしておらず、修正申告の山です。そしてそのうち約100人が完全申告漏れという状況でした。

私は、国税局の取調べの際に、「ほかにも大勢の申告漏れが出ています。その状況をどうお考えですか」と査察官に尋ねました。彼は、うれしそうに「八田さん、みなさんそうおっしゃるんですよ。『みんな脱税してるのに、何で自分だけつかまるんだ』って」と言いました。私は色をなして、「私はそんな下等な考えは持ち合わせていません。彼らも私と同様に過失だと信じています。ただ300人のうち100人もの申告漏れがでるというのは、異常ではないですか。それは例えば、『道を歩いている人300人のうち100人が万引きしていた』というよりも異常なことなんですよ。おかしいと思いませんか」と言いました。査察官は全く腑に落ちないという表情でした。「納税者を見れば脱税犯と思え」という発想しか彼らは持ち合わせていないのかもしれません。

別の機会に、同じようなことを述べた時も、査察官の言葉は「それでも200人の人は、正しくないかもしれないけれど、何らかの申告はなさってるんですよね」と、あくまで完全無申告=脱税を決めてかかっている様子でした。

その「200人は申告」というのは、個人の注意力の差ということもあるでしょうが、それよりも大きいのは彼らの社歴の差だと思います。外資系証券の給与プログラムや指導のあり方は各社まちまち。クレディ・スイスで指導らしい指導が全くなかったことは明らかとしても(でなければ、300人のうち100人が無申告ということにはなっていないでしょうから)、以前に働いていた会社で、「株式による海外給与は自己申告、別途納税の義務あり」ということを知らされていたのであれば、クレディ・スイスに来ても同じ税務処理をしたということでしょう。

私は、クレディ・スイスが2社目で、それ以前はソロモン・ブラザーズにいました。私の知る限り、ソロモン・ブラザーズ→クレディ・スイスという社歴の者は私を含めて5人おり、その5人が5人とも完全無申告です。そこでは1/3どころか、100%という高い確率での無申告の状況です。

私は、クレディ・スイスで株式をもらったということは当然理解していました。そして思ったのが、「あれ、ソロモンにいた時、株もらってたっけな。なんかもらってたような気もするけど、もしかしたらあれも申告漏れだったのかな」と、税務調査の対象期間ではありませんでしたが、自分がかつても同じ過ちを犯していたかと少し不安になり、後輩に確認しました。「なあ、ソロモンってさ、社員に株って渡してたっけ?」。答えは「株そのものじゃないけど、株みたいなもん。価値が株価に連動して変動するシンセティック(=「合成」という意味です)でもらってたよ」というものでした。それは経済価値としては株と同じなのですが、形態はあくまで現金なので、税務処理は会社の源泉徴収で完結していました。先に公開したソロモンの別の後輩、中野和美の嘆願書にある「条件付株式報酬制度」というのがそれです。

ここをクリック→ 中野和美嘆願書

私は、外資系証券に長く勤めていましたが、毎年同じ税務処理をして(といっても関連書類を税理士に渡すだけのことですが)、全く問題になることはありませんでした。それが突然、脱税犯扱いです。「勘弁してくれよー。今までいくら俺が税金払ったと思ってんだよー」とくさる気持ちを少しはご理解頂ければ本当にうれしく思います。まして、私は本税以外に追徴課税として、過少申告加算税や延滞税を払っています。その時点で原状回復以上の経済効果は得られたはずです。それを3年もかけて、莫大な捜査費用をかけて、メンツを保つために個人を犯罪者としたいとする役所の経済センスのなさには辟易してしまいます。本末転倒も甚だしいものです。

倉さんは、私がソロモンにいた頃お世話になった先輩です。外資系証券では、「フロント・オフィス」「バック・オフィス」という役割分担があります。前者を「プロフィット・センター(=収益を上げる部署)」、後者を「コスト・センター(=費用を使う部署)」とも言います。フロント・オフィスは取引の際、前面に立って執行、トレーダーの私はフロント・オフィスです。バック・オフィスはその取引の後、決済処理(債券の引渡や決済金額の受渡)といった事務処理を担当します。彼らは縁の下の力持ちです。私が取り扱っていたモーゲージ証券は、商品構造が複雑で、それは事務処理も複雑であることを意味します。日本のお客さんは、とにかく事務処理の煩雑さを嫌いますので、モーゲージ証券のビジネスをやる上で、一番重要なことは、私や営業の能力ではなく、彼ら事務スタッフが間違いなく事務処理をしてくれることにかかっていたと思っていました。彼ら、バック・オフィスの方々には、本当にお世話になったものです。

倉さんの嘆願書は、私が先に述べた外資系証券各社での税務指導の違いについて、非常に正しい論点の指摘をしています。仕事でも助けられ、ここでもまた助けられました。ありがとうございました。

<嘆願書>

私、倉永良通は、平成22年2月19日のマスコミ報道により、八田隆氏(以下八田さん)がクレディ・スイス証券株式会社(以下クレディ・スイス証券)在職中に親会社株の取得及びその売却で得た利益の所得を申告していなかったことから、所得税法違反の疑いで東京国税局から貴庁に告発されていたことを知り大変驚きました。しかし、クレディ・スイス証券の100人以上の社員が集団で申告漏れを指摘されている状況の中で、八田さんが故意に所得を隠した容疑については疑義が生じます。

以下におきまして、八田さんの人物像をまじえながらに今回八田さんの申告漏れは過失であったという私の所見を述べさせていただきたく思います。検事殿には、今後の寛大なご配慮にお役に頂ければと思い嘆願いたします。

私が八田さんと知り合ったのは、平成5年のことです。当時私は、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社東京支店(以下ソロモン・ブラザーズ)に勤務しており、業務部債券事務課の課長補佐として人事異動した直後でした。八田さんは、モーゲージ債券のトレーダーとして活躍していました。私が最初に八田さんの人柄に好印象を抱いたのは、八田さんが私に対して年上の者としての敬意を払ってくれたことです。

日本人社会であれば年上の者に敬意を払うのは当然のことですが、外資系証券という組織では、収益をあげるトレーディング、セールス方のフロント・オフィスの若手社員の中には、費用をつかう事務方のバック・オフィスの社員に対して、たとえ年上の者であっても横柄な態度をとる社員がいました。そのような中でも八田さんは、私に対して、倉永さんと「さん」づけでと接してくれた数少ないフロント・オフィスの一人です。

検事殿には、ごく当たり前の話と思われるでしょうが、その当たり前のことができない社員がいた中で、八田さんはモーゲージ債券のトレーダーという優秀な立場でありながらも傲慢さが無く、私は、八田さんが社会人としての根源にある常識、礼節をわきまえている人間であることを知りました。もちろん、私はモーゲージ債券のトレーダーとしての八田さんに敬意を表していましたので、時が経つにつれて、八田さんが親しみをこめて私の名前を、倉さん、と呼んでくれることに全く気になりませんでした。

当時、私は債券事務については不慣れであり、毎日が残業の連続でした。特にモーゲージ債券については理解が足りない状態で、私と部下が残業している席に八田さんが立ち寄りに来てくれて、モーゲージ債券の商品知識を説明してくれたことがしばしばありました。八田さん自身も私たちに教えることが好きだったようで、楽しんでいたと思っています。夕食を取らずに遅くまで残業をしていた私たちを、八田さんは一緒に食事に誘ってくれ、仕事以外の雑談をしたものです。私は八田さんの気配りと面倒見の良さを感じていました。当時のソロモン・ブラザーズのフロント・オフィスの中で、このような気さくな付き合い方ができたのは、八田さんだけでした。八田さんに対して同様な印象を持っていた事務方の社員は他にも多くいたと思います。

業務上においても、私は八田さんの助けを借りることがありました。モーゲージ債券の仕組み上、顧客に支払い済みの利払い金額が遡及して訂正される不測の事態が発生しました。顧客から苦情を受け事態の収拾に悩んでいる私に、八田さんは何故そのような不測の事態が発生するかを丁寧に説明してくれました。私自身の知識を理解力が未熟であったため、もし私の説明で顧客が納得しなければ八田さんも協力してくれると応援してくれました。モーゲージ債券を熟知している八田さんは、事務方、顧客、セールスのそれぞれの立場を理解しながらも、感情に流されず、事実関係に基づいて、自分が扱った商品のアフター・サービスを忘れない職人気質の冷静な論理構成で問題解決に協力してくれました。

クレディ・スイス証券は、今回の社員の集団申告漏れに関して、「社員個人に関することでコメントする立場にはないが、納税義務などについては社員に対して適切に通知している」と発表しています。しかし、私は、本当にその通知とは適切なものであったかについて疑義を抱いています。100人以上の社員が申告漏れをしていた状況下で、私が考えたことは、
1. クレディ・スイス証券には、会社の通知を無視して所得隠しを働く社員が集団で雇用されていた
2. クレディ・スイス証券が行った通知は、実は社員が親会社株の取得や売却に伴う納税義務を理解するには十分なものではなかったために集団申告漏れに発展した
ということです。

1についてですが、クレディ・スイス証券は、スイスのチューリッヒに本社を置く金融グループであるクレディ・スイスの中で、証券・投資銀行業務を展開する中核事業会社として知られています。クレディ・スイス証券は、日本で事業を展開しているトップクラスの外資系証券会社であり、社会的信用力があるクレディ・スイス証券だけにこのような社員が集中的に雇用されてきたとは考えにくいことです。

2についてですが、発表されている「適切な通知」について、私は、その通知の内容が、今回所得の申告漏れを指摘された社員たちが親会社株の取得や売却で得た利益の申告方法について十分理解するに値する内容のものであったかの事実を精査する必要があると思います。

会社が親会社株によって賞与を支給する制度を運用するのであれば、会社は十分な社内体制を確立して、例えば、親会社株の取得や売却で得た利益の課税基準について社員に説明会を開き、会社側がすること及びしないこと、社員側がすべきこと、それらの責任の所在を明確にし、社員が説明会に参加した記録を取るなど周知徹底をはかり、社員の申告漏れを事前に防止する手段を講じることが可能であると思います。

それにも拘わらず、今回のような100人以上の社員が申告漏れを指摘されるような事態が発生したのであれば、それは社員が故意に脱税を働いたと認定されるべきでしょう。しかし、クレディ・スイス証券がいう「適切な通知」というものが、もし親会社株を取得・売却した社員たちが課税基準を理解するに十分な内容のものでなかったとすれば、社員たちの間で申告方法の解釈が一様でなくなることは十分に予測されると思います。

八田さんを含めて100人以上の社員が集団で申告漏れを指摘された状況下では、「適切な通知」と呼ばれるものが実は適切なものではなかったために、このような混乱が生じたと思慮せざるを得ないかと思います。今回クレディ・スイス証券において100人以上の社員が集団申告漏れを指摘されたことは、未然に十分防止できた案件でありながらも、親会社株による賞与支給についての申告方法が社員に十分周知されていなかったために起こるべきことが起こった必然の結果であり、社員による故意の所得隠しではなく過失から発生したものであったと私は考えます。

八田さんは、優秀なモーゲージ債券のトレーダーですが、内面は礼節をわきまえた職人気質の実直な人です。外資系証券会社のフロント・オフィスで高額の報酬を得ていたと思いますが、金銭に執着した性悪な人間ではありませんでした。過失とは言え、申告漏れという事態に及んだのは八田さんの責であるものの、その過失は、クレディ・スイス証券内において親会社株の取得や売却で得た利益の課税基準について社員の間で理解の統一性が取られていなかったことに起因した集団申告漏れの一例であったと思います。

八田さんの申告漏れは、故意ではなかったと私は信じております。それは給与所得という税務調査ではガラス張りの分野で、八田さんが故意に所得を隠ぺいするとは思えないからです。八田さんは全国に脱税容疑者として実名報道されたことで、すでに社会的制裁を受けております。ご親族や友人に心配をかけていることを反省しています。しかし、私は、八田さんにはプライドがあると信じています。それは、自分を大切にしてくれる人たちを裏切らないように、いわれのないことに対して正直を貫く八田さんの職人気質のプライドです。何卒検事殿には、以上の考慮をご勘案頂き、寛大なご配慮をお願いする所存であります。

倉永良通

<以上>


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category: 嘆願書

2012/02/08 Wed. 12:20 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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