「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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嘆願書 (32/146) 松本直久 

嘆願書 (32/146) 松本直久

犯罪の契機は、結局動機と人品に関わると思っています。その人品に関して、私の友人・知人に「あなたの知っている八田隆を文章にして下さい」と依頼しました。そして集まったのが146通の「嘆願書」です。検察特捜部に提出したものですが、本人の了承を得て実名公開します。

32通目の嘆願書は元クレディ・スイス証券の同僚からのものです。

彼の嘆願書には重要なインフォメーションがありますので、是非じっくりお読み下さい。

クレディ・スイス証券で税務調査対象者は約300人。その大部分が申告漏れ、そして実に約100人が私と同じく株式報酬の無申告であったことは既に報道されています。

正しいとされる申告は、株式取得時に給与所得として総合課税申告というものです。

これを、取得時ではなく売却時に申告であるとか、退職時にもらったものを税率の低い退職金として申告とか(ことこれに関してはかなりの議論がありますが)、全額ではなく譲渡益分だけ総合課税で申告とか、給与所得ではなく一時所得として特別控除額(50万円)を引いた残りの1/2を総合課税で申告とか、あるいはそれらの組み合わせといったように、間違った申告のパターンは様々だったようです。

これは会社の指導が周知徹底していたとは程遠い状況だったということの証左です。

私は今までも、あるいは今後も、会社に責任転嫁して事なきを得ようというつもりはありません。あくまで「過少申告は100%私の責任。そして脱税は犯罪そのものが存在しないから、誰も悪くない」というスタンスは変えないものです。

むしろ犯罪を作り出しているのは、国税局であり検察です。彼らは、犯罪の対立項としてしか自分を定義できないため、このようないびつな状況を引き起こしているのだと思います。

国税局・検察は、給与プログラムや雇用契約書や株式受渡時の通知といった大部の英文書類の隅々を探して、「会社は源泉徴収する義務はない」といった文言をいたるところで拾って、私がそれを意図的に看過したという状況証拠を固める作戦でしょうが、社員の申告状況という事実は、何よりも雄弁に真実を語るものだと言えます。

給与プログラムの書類など、極端な話、社員が何万人いてもそれを書いた人間しか読まないのではないかと私は思ってしまいます。別にその内容の隅々を理解したところで給料が上がるわけでもなし、もし私の部下がそのような書類を読んでいたら、「そんな暇があれば仕事しろ!」と怒鳴ったものだと思います。

外資系証券で働く人間は、報酬金額にこだわる人間は多いと思います。私も、勿論、その中の一人です。しかし、そのこだわりとは、経済的価値ではなく、それが会社の自分に対する評価、通信簿の成績のようなものだからです。

私は21年間外資系証券に働いて、一度たりとも報酬金額に文句を言ったことはありません。それはナンセンスだからです。通信簿の成績が悪いからといって、その点数をつけた先生に文句を言うものなのでしょうか。少なくとも私はそう考えていました。

勿論、私がマネージャーであった時、報酬金額に文句を言う部下もいました。彼らには、「俺は交渉には応じないよ。もっとパフォーマンスを上げれば、希望する金額は喜んで払うから、もっと頑張んな」と言ったものです。

もし会社の評価が自分の実力より低いと考えているのであれば、会社を辞めればいいだけの話です。それだけの自信があるのであれば、自分を高く売ることに何ら不安はないはずです。

私は、報酬金額の点で、会社を辞めようと思ったことは一度もありません。実際のところ、ソロモン・ブラザーズに14年間、あるいはクレディ・スイスに6年もいるよりは、早く転職した方が、よっぽど金銭的には恵まれていたはずだと思います。

他社からの誘いは、14年間の間に数えきれないほどありましたが、結局行くことはありませんでした。それらは、私の心を動かすものではありませんでした。なぜなら、私はソロモンの仲間が好きだったからです。ソロモンでの成功、それは昇進ということですが、それが夢だったからです。

刑事告発の報道後、私が元クレディ・スイスの者に株式の税務処理の件を尋ねたのは20人あまりですが、彼らのほぼ全員が無申告でした。

彼らはフロント・オフィス(日本の企業でいう総合職)に属していますが、そこで無申告が多いのは、彼らの納税意識が低いからではありません。業務の多忙さにかまけて、税務をおろそかにしていたことは確かですが、税金を逃れようという意識はなかったものだと思います。

その中で正しく申告をしていたのはわずか2人でした。

その正しい申告をしていた数少ない者の一人が今回、嘆願書を公開する松本直久氏です。

私は、彼に直接嘆願書を依願していません。私の元部下が口を利いてくれ、彼自身申し出てくれたものです。彼自身は正しい申告をしているわけですから、何ら自己弁護する必要もなく、また私を弁護するメリットもありません。むしろ、間違った者たちを嘲笑ってもいいようなものです。彼の正義心が嘆願書という形になって現れたものだと思います。

検察は執拗に関係者の取調べをしていますが、その選択は恣意的なものです。会社に在籍する正しい申告をした数少ない者を探し出して、彼らに「八田は悪い」と言わせたところで、何の説得力もないということを理解できていないようです。

彼らは、会社に在籍しておりかつ申告漏れであった人間から「なぜ申告漏れであったか」ということを聞くべきです。あるいは、逆に会社を辞めかつ正しく申告していた人間から「どうして正しく申告できたか」ということを聞くべきです。

もしかしたら、そんなことは分かっているのかもしれませんが、彼らの仕事が、真実の追求ではなく犯罪を捏造することである以上、そうした合理的な行動も取れないのかもしれません。

<嘆願書>

松本直久と申します。クレディ・スイスで1998年から2006年まで勤務しました。八田さんは外債で私はデリバティブ担当でしたが、同じ債券部門で近くに席があり、部門のミーティングでは一緒になることも多くありました。彼は、仕事の結果だけでなく、その内容に真剣に取り組むタイプでした。

外資系の金融機関では上に行けば行くほど収益さえあげればよしとする者が多いのですが、彼は単純に外債が好きなのか彼なりの美学なのか、自分にも他人にも合理的で美しい仕事を求めていました。当然、お客さんのことを考えた提案になるので評判は良かったようですが、怠慢やつじつまの合わない行動には厳しく、部下の中にはついていけないと感じていた者もいるようです。

今回のクレディ・スイス社員の申告漏れ報道には、驚くと同時に「やっぱり」とも思いました。私自身も非常に面倒に感じていましたが、そもそも株式を支給された場合の納税のルールや仕組みの理解が難解なのにもかかわらず、会社からは積極的な説明はなく、個人の納税は個人の責任でというだけでしたので。今回100人を超える申告漏れがあったという報道でしたが、クレディ・スイスが納税意識の低い人間を選んで採用したとも考えられないので、やはり会社の説明不足だったのだと思います。

給与所得になるのか、いつの時点で収入があったとみなすのか、いつ申告するのか、など会社は何にも教えてくれませんので個人で必死に調べないとわかりません。しかも、外資系金融はどこでもそうだと思いますが、社員の間でも申告や納税の話題はつっこんでしづらい雰囲気があり(結局金額を類推できてしまうので)、納税に詳しい人がいても口コミで広まりません。

クレディ・スイス株の受け取りにあたって、日本の証券会社ではなく米国の証券会社を指定したのも会社側です。すべての社員はいやおうなく米国の証券会社で株を受け取らざるをえませんでした。脱税目的であえて海外に口座を作るわけではありません。社員の側は、ボーナスは全額現金で欲しいと思っていますし、やむをえず一部を株式にするのであれば、支給時に自動的に売却して現金化して振り込んで欲しい、とにかく、納税とかそういう面倒な手間から解放してほしいと考えています。

外資系金融の社員は、世間との比較でいえば高い給料をもらっていますので、脱税というリスクをとるのは割に合いませんし、日本で外資系に勤務するような人間は、社長になる夢を放棄した「小物」ですので、脱税なんて大それたことをする度胸もありません。

八田さんの場合は金額が大きいだけ目を引いてしまいますが、他の単純な理解不足の人と同じで、理解が不足していただけだろうと思います。一方、知りませんでしただけで済むような金額でないのも事実です。非常に不運なのは、もっと早く申告漏れを指摘されていれば、金額も大きくならなかっただろうし、その後はきちんと納税しただろうと思うことです。

もし、それでも同じことを繰り返したのであれば、それは故意または重大な過失ということになるのでしょうが、誰からも何も教えてもらえず、指摘も受けず、いきなり重罪では厳しすぎるのではないでしょうか。ひとつの会社に長く勤めるという真面目であったことが仇になるのではやりきれません。

すでに加算税なども支払い、実名で報道されてしまったり、もう社会的な制裁は十分に受けていると思います。これ以上の処分がないことを望んでいます。

松本直久

<以上>


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category: 嘆願書

2012/02/10 Fri. 21:31 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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