「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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冤罪ファイル その1 「名張毒ぶどう酒殺人事件」 

冤罪ファイル その1 「名張毒ぶどう酒殺人事件」

「冤罪ファイル」として過去の冤罪を取り上げていきます。まずその第1回としてこの事件を取り上げるには理由があります。それはこの事件が「今」の事件だからです。

冤罪被害者の奥西勝氏は現在86歳。7年前の再審開始決定(再審が開始されると無罪の可能性は非常に高いものです)が今年5月に取り消され、精神的にもかなり厳しい状況だと思われます。

先日も肺炎をわずらって病院に移送されましたが、常に手錠をされて非人道的な扱いであったと報じられたばかりです。

<事件経緯>

今から半世紀以上前の1961年。三重県名張市の山村の寄り合いで供されたブドウ酒に混入された農薬の中毒で、女性5人が死亡する事件が起きます。これが「名張毒ぶどう酒殺人事件」です。

会に参加した男性12人(彼らには清酒が供されました)のうち、重要参考人として3人の聴取が行われ、事件から6日後に奥西勝氏が逮捕されました。

逮捕前の取り調べで、奥西氏は犯行を自供。逮捕直前には記者会見にも応じ、罪を認めました。

動機は、会に参加した女性20人の中に妻と愛人がおり(狭い村ゆえ、この三角関係は広く知られており、妻と愛人の間の確執もさほどなかったものです)、彼女たちとの関係を一気に解消しようとしたと見られました。

しかし、逮捕後の取調べ中から犯行否認に転じ、以来一貫して無実を訴えています。

<裁判経過>

一審無罪(1964年)→検察控訴→二審死刑判決(1969年、以来現在まで死刑囚として拘置)→弁護側上告→最高裁上告棄却で死刑確定(1972年)→6度に亘る再審請求棄却→7次再審請求が高裁で認められ再審開始決定(2005年)→検察異議申立→高裁再審開始決定取消(2006年)→弁護側特別抗告→最高裁差戻し(2010年)→高裁再審開始決定取消(2012年)

特筆すべきは、一審と高裁での再審開始決定と2度までも無罪相当の判決が出ていること。

7次再審請求の最高裁差戻しの際には「差戻し審の証拠調べは必要最小限の範囲に限定し、効率よくなされるべき」とまで述べているのであれば、最高裁が自判すべきであったと言えます。弁護側の再度の特別抗告には最高裁の自判が望まれます。

<争点>

一審無罪の判決では、自白が強要によるものであると信用性が問われ、また村人の証言(犯行時間特定に重要、奥西氏以外に毒混入ができる者がいたかどうかに関わります)の変遷も「検察の並々ならぬ努力」の誘導によるものとされました。

二審有罪の判決では、全く同じ証拠で「自白は信用できる」「証言の変遷は単なる記憶違いを言い直したもの」とされました。

百聞は一見に如かず。こちらのNHKクローズアップ現代の映像(約8分)をご覧下さい。

ここをクリック→ NHKクローズアップ現代 「揺らぐ死刑判決~検証・名張毒ぶどう酒事件~」 (2010年4月放送)

再審開始決定の決め手となったのは、凶器とされた農薬の科学鑑定でした。奥西氏の自白ではテップ剤(有機リン系の農薬で、その毒性の強さから現在は農薬の指定から外されています)の一種である「ニッカリンT」という商品名の農薬が使われたとされましたが、科学鑑定の結果、「ニッカリンT」で検出されるべき不純物が、飲み残したブドウ酒からは検出されず、そのほかのテップ剤の農薬が凶器とされたのではないかという可能性が出てきたためです。

第7次再審開始決定までの事件の経緯を、中京テレビが制作したドキュメンタリー「裁きの重み 名張毒ぶどう酒事件の半世紀」でご覧下さい。

ここをクリック→ 「裁きの重み 名張毒ぶどう酒事件の半世紀」

しかし、奥西氏の再審開始決定の喜びも束の間、検察は異議を申し立て、同じ名古屋高裁のほかの部が再審開始決定を取り消します。弁護側は最高裁に特別抗告。最高裁は、自判せずに「取消に際して科学的検証が十分にされていない」と高裁に差し戻します。そしてこの5月に高裁は、農薬が「ニッカリンT」である可能性もないとはいえないとし、「捜査段階での被告人の自白に信用性が高い」として、再審開始決定を取り消しました。

このドキュメンタリーの中にある、奥西氏の釈放を待つ二人の子供のうち、2010年に長男が死亡していたことが最近、奥西氏に告げられました。親族は、長男の「おやじには(拘置所から)出てきてから伝えてくれ」との遺言を守り続けてきましたが、これ以上隠し通せないと判断。5月に奥西氏の妹が事実を伝えたものです。

親族によると、奥西氏は長男が亡くなったとの知らせにしばらく絶句し、「残念だが人間には運命というものがある」と静かに話したといいます。彼の無念はいかばかりのものであったか。胸が張り裂ける思いです。

<論評>

名張毒ぶどう酒事件に関しては、これまでも書いてきましたので、そちらもご参照下さい。

ここをクリック→ #検察なう (92) 「名張毒ブドウ酒殺人事件」

ここをクリック→ #検察なう (141) 「名張毒ブドウ酒殺人事件再審請求棄却 + 高杉ナツメ・アゲイン」

再審取消に関して。

再審が「ラクダを針の穴に通す程」厳しく「開かずの扉」と言われたのも、再審開始の要件が、刑事訴訟法435条6号にある「無罪を言い渡すべき明らかな証拠の新たな発見」であると考えられたからです。

十分に審理を尽くし、色々な証拠を当たった後で、確定判決を覆すほどの「明白」な「新しい」証拠を見つけるのは非常に困難です。そしてそれは事実上不可能に近いとも言えます。

しかし、戦前の刑事訴訟法で認められていた「不利益再審」(無罪であった人を有罪にするための再審)が現行法で廃止されたことからも明らかなように、再審制度は有罪とされた冤罪被害者を救済する措置です。

新たな証拠を見つけることが事実上不可能であり、再審制度が冤罪被害者の救済のためであるのであれば、その理念から、再審開始の要件は、証拠が「新しい証拠単独」である必要はなく、「無罪を言い渡すべき」ということの解釈も無実の証明は要しないとすべきです。そして再審開始においても「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の大原則が適用されると確認されたのが、1975年の白鳥決定であったはずです。

過去の証拠を全く評価せず、再審請求時に提出された証拠のみをもって「確定判決を覆すに足らない」とし、また凶器の農薬が「ニッカリンT」でない可能性も依然残るにも関わらす、それを評価しなかった再審開始決定の取消は過去の判例に反するものだと思います。

「疑わしきは被告の利益に」に関してはこちらを参照下さい。

ここをクリック→ #検察なう (159) 「疑わしきは被告の利益に」

奥西勝氏に残された時間は限られています。彼を獄死させることは、彼から雪冤の機会を奪うとともに、検察と裁判所が自らの過ちを正す機会を永遠に失うことを意味します。

FREE OKUNISHI !

P.S.
昨日、東海地方では、名張毒ブドウ酒殺人事件を題材にした東海テレビ制作のドラマ「約束 ~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~」が放映されました。全国ネットではなかったのですが、ツイッターのTLを見ていると、かなりよかったようです。このドラマが全国ネットで再放送されるといいのにと思います。

ここをクリック→ 「約束 ~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~」

6/30/2012








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category: 冤罪ファイル

2012/06/30 Sat. 18:06 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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この記事に対するコメント

白鳥決定とは

 まずは本の引用から。

 七五年五月、『白鳥事件』について、最高裁は再審開始の条件について画期的な判決を出した。
 「(中略)再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生じしめれば足りるという意味において、『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」。つまり、再審にも、「無罪推定の原則」を適用し、確定判決に対して「総合的に評価して」合理的な疑いをいだかせるものであればよいとする、再審開始の条件を大幅に緩和するものであった。

 ――以上、『司法殺人』根本行雄著、影書房二〇〇九年二月初版(二〇五~二〇六頁)より。

 この本は有名な冤罪事件を幾つも取り上げて、「冤罪を生む構造」について具体的に論じています。
 私のような法律の素人にも、面白く(?)読めます。
 冤罪に興味のある方には是非お勧めしたい一冊です。

高杉ナツメ #- | URL | 2012/07/01 Sun. 13:16 * edit *

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