「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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冤罪ファイル その4 「西武池袋線痴漢冤罪小林事件」 

冤罪ファイル その4 「西武池袋線痴漢冤罪小林事件」

痴漢冤罪は、痴漢被害者の言い分のみを信用し、犯人とされた人の否認を全く聞こうとしないことによって起こります。犯人だと最初から決めつけてしまうことによって起こる過ちであることは、ほかの冤罪と同じものです。

しかし、ここで紹介する痴漢冤罪事件は、その中でも特殊なものです。それは冤罪の原因に特殊な要因が関与しているからです。その特殊要因とは「判検交流」と呼ばれる制度です。

「判検交流」とは、3年程度の任期付きで、裁判官が検事になったり、検事が裁判官になる人事交流制度です。「制度」と言いましたが、法的根拠は無く、きちんとした記録も取られていない、いわば慣習です。

この事件の冤罪被害者小林卓之氏を、痴漢として1年10ヶ月の実刑に処した第一審の裁判官は、この判検交流により検事が出向で裁判官となっていたものです。

この判検交流の目的は、「互いの仕事を理解すること」とされていますが、元々は法務省に民事の専門家が不足していたその昔、民事部の裁判官を法務省に貸し出したのが始まりでした。なので刑事部の裁判官が検事になったり、検事が裁判官になるのは人員不足の解消のためではなく、そもそも法務省の人員不足は既に大方解消されているので、この判検交流という制度は惰性で続けられていたと言えるものです。

一時的に裁判官になっている元検事が、自分が本来所属しいずれ自分が帰って行く検察の肩を持つことは容易に想像されます。この事件の一審裁判官も判決の1ヶ月後には検事に戻っています。

また出向中の検事が裁判官になるケースならずとも、逆に判検交流で検察で3年間も机を並べた裁判官が、「元同僚」の検事の求める有罪を無下に否定できないという感情が起こりうるリスクもあります。

どうしてこのような異常な制度が、戦後間もない頃から続けられてきたのか理解に苦しみます。

2012年4月26日付朝日新聞によると、「誤解を生むような制度は続けるべきではない」との判断から、刑事裁判の部門における判検交流は、今年2012年度から廃止されたとされています。しかし、5月4日付産経新聞によると、民事裁判の部門における判検交流については規模を縮小するものの引き続き存続される方針であるとされています。

<事件経緯>

小学校教頭であった小林卓之氏は、膠原病全身強皮症により指に痛みを感じるようになり、チョークを持つのもままならなくなったため、36年に及ぶ教員人生に幕を下ろし、以後は教育センターの嘱託職員として、幼稚園・小学校・中学校教諭の研修業務に携わっていました。

2005年3月18日、出勤日でなかった小林氏は趣味の仏教講座を受講し、食事を取った後、帰宅の途に就きました。夜10時35分西武池袋線発の急行に乗り、次の駅の石神井公園駅までの間で事件は起こりました。

電車は満員で、肩がぎっしり詰まっている状態でした。乗り換えのため降りた石神井公園駅のホームで、小林氏は見知らぬ男性から肩をつかまれます。痴漢の疑いでした。自分には関係ないと言っても、その男性も駅員も小林氏の話を聞くことはありませんでした。

事情を説明するために小林氏は、警察官と警察署に向かいました。取調べ室で5人の捜査官に囲まれ、乗客によって私人逮捕されたと告げられます。不当逮捕だと小林氏が抗議すると、捜査官は「おやじ、ここにいるのはどういうことなのかわかっているのか!」と怒鳴りました。小林氏の髪をつかみ、羽交い絞めにして、無理やりジャンパーを開き、身体を調べました。警察は最初から小林氏が犯人だと決めつけていました。

小林氏のカバンには医者から処方された薬が入っており、毎日飲む必要がありました。小林氏の求めに「氏名と住所を言えば薬を返す」という看守。その言葉に従い、名前を名乗りましたが、薬は渡してもらえませんでした。「話が違う」。日に日に増す身体の痛み。保釈されるまで33日間勾留され、その間体重は10キロも減りました。

事件を紹介する動画はこちらです。

ここをクリック→ 西武池袋線痴漢冤罪小林事件(1)

ここをクリック→ 西武池袋線痴漢冤罪小林事件(2)


<裁判経緯>

第一審有罪(2007年)→ 弁護側控訴→ 控訴棄却(2008年)→ 弁護側上告→ 最高裁上告棄却(2010年)→ 収監(2010年10月)→ 痴漢事件で初めての再審請求(2011年)→ 仮釈放(2012年1月)

高裁での控訴棄却の判決後法廷は騒然となりました。その時の様子です。

息子「裁判長、質問です!なんで犯人が特定できないのに、犯人なんですか」

裁判長「退廷しなさい」

奥さん「カルテにはずーっと膠原病って7年前からなってるじゃないですか」

裁判長「退廷しなさい」

奥さん「もう命のない人間をどうするんですか」

裁判長「退廷させなさい」

奥さん「あなたがこの人を犯人と特定したんですよね。最初の段階からずさんなんですよ。顔を確認してないのに犯人になるんですか」

裁判長「退廷してください」

奥さん「主人が死んじゃいます。これは人権問題です」

裁判官「退廷させなさい」

奥さん「最初から見てください。最初の捜査から見てください。主人の命がなくなったら私はどうしたらいいんですか。主人が捕まるより私がつかまったほうがいいです。私が代わりに入ります。孫が生まれてその1週間後にそんなことするわけないじゃないですか。目も痛いんです、耳も痛いんです」

裁判長「退廷してください」

奥さん「お父さんと代わるわよ、私は!もう一度調べてください。捜査のはじめから。あなた達は命のことを考えないのですか!」

被告の小林氏はじっと顔を手で覆ったまま動きもしませんでした。

最高裁に上告後、小林氏は脳梗塞で倒れ、後遺症で半身まひが残りました。車いすで収監される収監当日の様子が写真雑誌に掲載されていたのを覚えています。難病を抱え、介護が必要である状態でありながら、小林氏は医療刑務所ではなく一般刑務所に収監されました。収監中は命の危険さえあり、私も昨年末の仮釈放を求める市民集会に参加しました。

<争点>

痴漢の冤罪の場合は、大概は人違いであり、わいせつ行為そのものは存在しているとされます。この事件も多分そうだとは思うのですが、私が腑に落ちない点がいくつかあります。

その一つは「なぜ被害者女性は膣内に指を入れるまで痴漢行為をそのままさせていたか」ということです。これに関して何人かの友人女性に聞いてみたのですが、「身動きが取れないほどの満員電車であれば可能性はある」とのこと。東京のラッシュ時の満員度合いは半端ないものがあります。しかし、この事件の犯行時間は夜の10時35分池袋駅を発車した急行電車が石神井公園駅に着くまでです。被害者女性の「痴漢です」という声に犯人は2Mほど車内を移動しているとされていることから、混んでいたにしろ「身動きが取れないほど」ではないことは明らかです。なぜ体を動かすとか手を払いのけるとかしなかったのでしょうか。「怖くて体が動かなくなることもあるんじゃないかな」という意見もありましたが、私の周りにそういう気の弱い女性がいないせいもあり、想像の域は出ませんでした。

また、犯人は、被害者女性の目の前に立ち、後ろ手で痴漢行為を行ったとされています。これも私の腑に落ちない点です。痴漢行為を行ったこともなければ、されたこともないので、想像でしかないのですが、通常、痴漢犯罪者は顔や姿を見られたくないため、後ろや横に立つものだと思います。身動きが取れないほど満員電車の中でならば、正面と向かってということもあると思いますが、その場合でも「後ろ手」というのはいかにも不自然な態勢です。

これらに関して、言及した資料は見つけることはできませんでした。

この事件でいくつか挙げられている争点のうち、特に重要だと思われるもの2点、小林氏が膠原病全身強皮症であり指の自由が制限されていた(指を動かすには痛みが伴う)という点と、犯人と小林氏の身長に明らかな相違があることを述べます。

判決文によれば、「被告人の手の診断をした医師は、公判供述及びその意見書において、『被告人の右中指も右示指と同様に可動域に制限があり、右中指を膣内に入れようとすると相当の痛みが出る』と説明するが、その医師の作成した診断書には右示指、左中指についての記載はあるものの、右中指についての記載はないことなどからすれば、同医師の上記記述は、右示指の診察結果から推測したことを交えて説明しているものとうかがわれ、その説明内容の正確性には疑問の余地がある」としています。

また小林氏は事件当時、指のリハビリのため、手品や尺八の講座に通っていましたが、それも「指は動いたはずだ」という不利な材料として判断されました。

これがこじつけであると感じる人は少なくないと思います。

犯人の背の高さに関して、被害者女性は、目の高さに犯人の肩があったと証言しています。被害者女性の身長は158cmであることから、犯人の身長は170cm前後と推定されます。しかし、小林氏の背の高さは161cm。小林氏と犯人の身長差は9cmもあります。これに関しての裁判所の判断は、実に滑稽です。

一審「被害者女性はかかとのある靴(かかと高約3cm)を履き、被告人もかかとのある靴(かかと高約3cm)を履いているため、被害者女性には犯人である被告人の正確な身長は分からなかったはずだ」

高裁「被害者女性はまず下着の上から軽く触れられ(第一行為)、その後下着に指を入れられ陰部を触られた(第二行為)。犯人の肩が顔の前に来たと被害者女性が証言しているのは、第一行為の時であり、第一行為と第二行為が同一人物であると限らないため、必ずしも第二行為の犯人の肩が被害者女性の目の高さであるとは言えない」

一審の理由は全く論理的ではなく、高裁の理由は荒唐無稽も甚だしいと誰しも思うところだと思います。

傍論ですが、この事件で痴漢行為が都迷惑条例違反ではなく、強制わいせつ罪に問われたことに関しては(注)を参照下さい。

<論評>

この冤罪の原因は判検交流で出向していた元検事の裁判官の誤審であることは述べました。それに加えて問題であるのは、その誤審を高裁、最高裁で、職業裁判官が安易に追認したことです。いかに刑事裁判での高裁は事後審(原判決の当否だけを審理し、新たな証拠調べをしない)、最高裁は憲法違反、判例違反であるかのみを判断するとはいえ、明らかな人権侵害があれば、踏み込んで審理すべきであったと思います。

また、痴漢の物的証拠として有力なのは繊維鑑定です。この事件でも、小林氏からサンプル採取されたものの、採取失敗により「鑑定不要」(なぜ「不能」と言えないのでしょうか)とされました。本当に鑑定不能であったのか、非常に強い疑念が残ります。

私が小林氏ならDNA鑑定もお願いしたところです。「指のにおいをかいでみろ!」くらい言ったかもしれません。

また痴漢は常習性が極めて高い性犯罪だと思います。つい出来心でというよりは、その道のプロ(?)が犯人のほとんどなのではないでしょうか。最高裁判決文に付された裁判官の補足意見でも「被告人にはこの種の犯罪性向をうかがわせる事情は見当たらない」としています。それでいながら、仏教講座帰りの小林氏が突然痴漢行為に及んだというのは納得いかないものです。

痴漢が犯罪としてあまりに一方的にそして安易に認定されるため、最近では、リストラや離婚のために痴漢犯罪者として人を陥れるアンダーグラウンド・ビジネスがあると聞いています。示談を狙った狂言痴漢もこれまで摘発されています(その事件では、娘と母親による狂言でした)。また人権運動家やジャーナリストが不自然な痴漢容疑で逮捕されるケースもあります。満員電車に乗る機会が多い男性は痴漢冤罪には十分に気をつける必要があります。冤罪は他人事ではないと理解できると思います。

(注)
痴漢行為が刑法上の強制わいせつ罪(6月以上7年以下の懲役)に当たるのか、都道府県の迷惑防止条例上の「卑猥な言動」(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)に当たるのかが問題になることがあります。女性の下着を上から触れば条例上の「卑猥な言動」に当たるが、下着の中に手を入れれば刑法上の「強制わいせつ」になるというのが実務上の処理だともいわれているようですが、そんなに簡単なものではないように思われます。

まず、刑法上の強制わいせつ罪は、13歳以上の男女に暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をし、また13歳未満の男女にわいせつな行為をすることです。ここで「わいせつな行為」とは、人の性的羞恥心を害するような行為をいい、暴行・脅迫によって強制するという点に特色があります。相手の反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要であると解されています。暴行・脅迫を伴えば、着衣の上からのわいせつ行為であっても強制わいせつ罪に問われることもあるわけです。

一方、迷惑防止条例上の「卑猥な言動」は、公共の場所や乗物の中で人を著しく羞恥させまたは不安を覚えさせるような卑猥な言動をすることで、府県の条例の中には、女子の衣服の上からまたは直接身体に触ることや、身体を覗きまたは写真をとるなどの行為が例示されています。ここでは、公共の場所や乗物の中という限定がある一方で、反抗を困難にするという強制的要素は含まれていません。

したがって、まずは、行為の場所が公共の場所や乗物の中で分けた後、人に対する強制の有無を考慮した上で、相対的に重い刑法犯か、軽い条例違反行為かを区別するということになります。

この事件の判決文を読む限り、犯人が強制的行為を伴ったわいせつ行為であったかどうかの明示的な記載はなく、かなり恣意的に線引きされているように思います。











ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―





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category: 冤罪ファイル

2012/08/14 Tue. 05:08 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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