「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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冤罪ファイル その5 「高知白バイ事件」 

冤罪ファイル その5 「高知白バイ事件」

毎年3月3日が来ると思い出します。6年前の桃の節句に、高知白バイ事件が起こりました。

高知県の県道交差点で、スクールバスと白バイが衝突し、白バイを運転していた県警交通機動隊員が死亡。バスの運転手片岡晴彦氏は業務上過失致死罪で禁固1年4ヶ月の実刑判決を受けます。

この事件は、冤罪の疑いと共に、検察側最大の証拠であるスリップ痕を警察が捏造した疑いが強く持たれています。なぜ警察がそこまでしなければならなかったのか。

恩給という制度をご存知でしょうか。それは、公務員が一定の年数以上在職して退職した場合や、 公務でけがを負ったり病気で退職した場合、また、公務のために死亡した場合において、国が公務員またはその遺族に給付する国家補償の性格を有する年金や特別給付金のことを言います。

公務中に死亡した場合は、亡くなった人の配偶者に、およそそれまでの支給額の7割がその人が死ぬまで与えられます。

警官がもし亡くなった場合、それが殉職であるかそうでないかは残された遺族にとっては経済的に非常に大きな違いとなることはお分かりになって頂けると思います。

この事件で亡くなった交通機動隊の巡査長は当時まだ26歳。しかも双子の子供が生まれたばかりでした。残された遺族が路頭に迷わないよう、警察組織が彼らのために、巡査長のミス(スピード超過及び前方不注意)による事故の責任を、片岡氏に転嫁する誘因は小さくなかったのではないでしょうか。

組織への帰属意識が強いことはあながち悪いことではないのですが、身内の過ちに甘くなる体質は排除すべきです。特に公務員の方々の責任は重大であり、国民不在で自ずからの利益を優先する姿勢は断じて許されるべきものではありません。

<事件経緯>

高知県の国道56号で、 県警交通機動隊の巡査長が運転する白バイと道路左側のレストラン駐車場から大通りを横切り右折しようとしていた中学校のスクールバスが衝突。スクールバスにはボーリング遠足帰りの中学校3年生22人と教員3人が乗っていた。

バスを運転していた片岡氏は、変型四差路交差点に面したレストランの駐車場から、車道に侵入前、歩道の境界付近で一時停止した後 、交差点内を横断する形でバスを進行させた。中央分離帯付近で右折方向車線に合流のため停止、右折のタイミングを計っていたところへ突然、何かがぶつかってきた。驚いて窓の下を見ると白バイだった。

巡査長は約1時間後に高知市内の病院で胸部大動脈破裂で死亡した。

<裁判経緯>

一審、禁固1年4ヶ月の実刑判決(2007年) → 弁護側控訴 →高裁、弁護側の証拠・証人を却下し、即日結審。第一審で十分な審議がなされたとして控訴棄却(2007年) → 弁護側上告 → 弁護側、スリップ痕についての証拠は捏造されたものと、被告訴人不詳のまま、証拠偽造罪で刑事告訴(2008年) → 最高裁、上告棄却(2008年) → 証拠偽造について、高知地検は嫌疑なしの不起訴処分。検察審査会に対して、審査の申立て(2008年) → 片岡氏、収監(2008年) → 証拠偽造に関する不起訴処分について、検察審査会が不起訴処分不当の議決(2009年) → 証拠偽造について、高知地検は再び嫌疑なしの不起訴処分(2009年) → 片岡氏、満期出所(2010年) → 高知地裁に再審申し立て(2010年)
  
<争点>

バスと白バイの挙動に関し、検察と弁護側主張は大きく食い違います(リンクで、バスと白バイの動きのシュミレーションをご覧下さい)。

【検察側主張】 バスは車道にはいる前に一旦停止したが、右方向を一瞥しただけで安全であると軽信し、時速5~10km/hで6.5メートル進んだ地点で60km/hで通常走行中の白バイを跳ね、急ブレーキを踏んだ。バスは白バイを2.9メートル引きずりながら停止した。

ここをクリック→ 検察の主張するバスと白バイの動き

【弁護側主張】バスは車道に入る前、一旦停止し十分右方向の安全を確認した。白バイは見えていなかった。ゆっくりと中央分離帯付近まで進み、対向車線の安全確認のため一旦停止中に白バイが高速で衝突してきた。

ここをクリック→ 弁護側の主張するバスと白バイの動き

特に重要な争点とされているのは、「その時バスは動いていたか」という点です。そしてその重要な検察側証拠として提出されたものが、かの有名な「スリップ痕」の写真です。バスが止まっていたと証言したのは、バスに乗っていた複数の生徒、バスの後ろに乗用車で止まっていた校長ですが、彼らの証言は関係者の証言であるとして裁判所により排除されました。

しかし、今回事件を検証して、バスが動いていようがいまいが、そんなことは関係なく、これは白バイ巡査長のスピード超過及び前方不注意であることを確信しました。

この20秒の動画をご覧下さい。

ここをクリック→ 高知白バイ事件事故現場動画

これは事故現場の手前から、検察側の主張する白バイ走行速度である時速60Kmで走行した動画です。

ビデオ最初から遠くに見える赤い看板がレストラン入口の手前に立っている看板です。動画の9秒当たりでレストラン入口奥脇に立っている白地に緑の小さな看板が見えます。この時点では、白バイからレストラン入り口をバスが出て、進行方向の道路をふさいでいたことが見えるはずです。ここから衝突するまでの時間(信号手前の停止線を越えるまでの時間)は7.61秒程度です。

私自身バイクに乗っていますが、バイクに乗っていなくてもこの7秒というのはブレーキをかけるには、余りに十分な時間だということが実感できると思います。

20秒程度のビデオなので、繰り返しご覧下さい。黄色信号の点滅している交差点(事故当時も信号は黄色点滅)が事故の起こった交差点です。その交差点に、左から片岡氏の運転するバスは進入し、走行車線をさえぎるように止まっていました。

検察が主張する時速5~10Kmというのは人間の速歩き程度のものです。全長9mのバスが止まっていようが、人の速歩きの速度でのろのろ前進していようが、7秒手前からは全く関係なく視認できます。

もう少し細かく検証します。このサイトを参考に色々計算してみました。

ここをクリック→ 「交通事故における車速と停止距離」

時速60Km(秒速16.67m)の白バイが7.61秒間に進む距離は、16.67 x 7.61 = 126.86mです。つまり巡査長が前方を注視していれば、120m以上手前でバスを認識していたはずです。そしてバスが完全に止まっていようが、のろのろ前進していようが、その時点で気付いていれば、確実に止まることはできます。

白バイの制動距離を計算します。制動距離の計算式は

制動距離=時速の二乗 ÷ (254 x 摩擦係数) です。

ここで乾いたアスファルトの摩擦係数を0.7とすると、制動距離は時速60Kmの場合、それは20.25mとなります。

実際には、バスを認識してすぐにブレーキをかける動作をしても反応時間が必要なため「空走距離」というものがあります。通常人の反応時間は約0.75秒とされています(訓練を積んだ白バイ隊員はもっと短いとしてもここでは保守的に通常人と同じとします)。

空走距離は

16.67 x 0.75 = 12.50m となります。

空走距離 + 制動距離  = 32.75m であり、120mよりはるかに短い距離で止まれることは明らかです。

しかし、これが複数の人が証言しているように、白バイが時速100Km(秒速 27.78m)で走行していたとしていたらどうでしょうか。同じ計算をすると

空走距離 + 制動距離 = 68.74m

となります。これでも十分に止まれるはずですが、時速100Kmでは1秒に27.78mも進みますから

(128.86 – 68.74) / 27.78 = 2.16

2秒やそこらわき見をしていれば衝突してしまう計算です。

これが実際に起こったことだと思います。つまりバスが完全に止まっていようが、時速5~10Kmで前進していようが関係なく、白バイ巡査長が速度超過+前方不注意でなければ事故は起こらなかったということです。
白バイの走行速度に関しては、二つの相反する証言があります。

時速60Kmと証言するのは、対向車線をたまたま走っていた同僚白バイ隊員です。彼は事故の瞬間は見ていませんが、その直前に対向車線を走る白バイの速度を目視して時速60Km程度であったと証言します。

時速100Kmと証言するのは、軽四で同じ車線を運転していて白バイに追い抜かれた第三者の目撃者です。

裁判所の判断は、前者を「目視訓練をしている白バイ隊員の証言は信用できる」と「身内証言」を支持しながら、後者は「第三者の証言だからといって信用できるわけではない」という驚くべき理由で排除しています。

バスは動いていたという証拠のスリップ痕は、警察の捏造であると弁護側が主張していることは有名です。時速5~10Kmで超徐行運転のアンチロックブレーキ付きのバスがいかに急ブレーキをかけようが、1mに及ぶスリップ痕がつくわけがありません。そしてそのスリップ痕には、タイヤの溝がなく、解析では「ハの字」になっており、また後輪のスリップ痕が全くなく前輪だけという、結構ありえないくらいお粗末な捏造証拠です。

<論評>

ある時、ジャーナリストの方とこの事件の話になったことがあります。その方が言ったのは、「あー、あれはひどい事件ですね。地方の裁判官は検察ががっちり押さえてますから。転勤族の裁判官が地方に着任すると、まず歓待をするのが検察ですからね」でした。裁判というのは、なかなか一見の客(弁護側)は常連客(検察)には勝てないようにできてるようです。ただその方は「でもそれは地方の話ですね。都心部では検察はそこまで裁判官を押さえ込んでることはないですから、八田さんはその心配はないと思いますよ」と付け加えました。

この事件での最大の被害者は言うまでもなく片岡晴彦氏とその家族の方々です。しかし冤罪というものは冤罪被害者当事者だけではなく、多くの人を不幸にしてしまいます。

事故現場でバスに乗っていた22人の当時中学生の少年、少女は昨年成人式を迎えました。彼らは国家権力、警察・検察・裁判所に対してどのように感じたでしょうか。正義とは何かをどのように考えたでしょうか。世の中の薄汚い部分を知るには余りに早すぎます。彼らの精神的な痛手を考えると彼らも被害者です。

「警察職員の職務倫理及び服務に関する規則」の第5条では「信用失墜行為の禁止」として、「警察職員は、国民の信頼及び協力が警察の任務を遂行する上で不可欠であることを自覚し、その職の信用を傷つけ、又は警察の不名誉となるような行為をしてはならない」とあります。一部警察官による証拠捏造は、警察全体の信用失墜を招く最大の過ちであり、日々勤勉に職務に励む大多数の警官の自負心をずたずたにするものです。

そして私は、死亡した巡査長の遺族もこの冤罪の被害者だと思っています。スクールバスは公立中学のスクールバスであったため、遺族は市と片岡氏に対し民事訴訟を起こし1億円の和解金を得ています。それに関し遺族への嫌がらせは相当のものだと聞いています。人は信じたいものを信じます。遺族の方々は、警察から彼らのストーリーを聞かされ、この事件が冤罪だとは思っていないと思います。もしこの事件が冤罪と明らかにされたなら、遺族の方々はどのように感じるでしょうか。警察の安易な「親心」がどれほどの手ひどい仕打ちを遺族の方々に与えるかどうかの思慮が全く欠けていたと思います。

そして更に、死亡した巡査長の魂はどうでしょうか。間違っても、死んでから冤罪の加担者とされるような不名誉は望んでいなかったと思います。ご冥福をお祈りします。

この事件に関しては、テレビ朝日が「ザ・スクープ」の中でかなり踏み込んだ検証を行っています。こちらの動画も是非ご覧になって下さい。

ここをクリック→ ザ・スクープ 「警察が証拠をねつ造?白バイ隊員“事故死”の真実」

また以前に私が高知白バイ事件に関して書いたブログはこちらです。こちらもご参照下さい。

ここをクリック→ #検察なう (75) 「高知白バイ事件で思うこと」








ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

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category: 冤罪ファイル

2012/08/17 Fri. 06:14 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

太字の文ありがとうございます、高知白バイ事件の当事者の片岡です。
殉職になることは大いに賛成ですが、国道上を訓練走行中の事故、それを隠蔽するために私を一方的に犯罪者にしたてた事は、警察組織の犯罪に他なりません。

だから再審請求審において事故の事実を明らかにするために闘っているのです!

力は及びませんが、前向きに頑張っていきます、応援よろしくお願いします。

片岡晴彦 #fMpBcAyo | URL | 2017/01/24 Tue. 13:01 * edit *

コメントありがとうございます

まさにおっしゃる通りです。冤罪(と戦争)は国家の犯罪行為です。片岡さんの権力に屈せず、正義を貫き通そうとする姿は、多くの人、特に冤罪被害者に勇気を与えています。私もその一人でした。この場を借りてお礼を述べさせて下さい。そして、今後も応援し続けます。なにとぞ、お身体にはお気をつけ頂き、頑張って下さい。いつか直接お会いして、ご挨拶できる時を楽しみにしております。

(八田)

八田隆 #- | URL | 2017/01/24 Tue. 13:36 * edit *

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