「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

09« 2017 / 10 »11
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

#検察なう (247) 「過失でも矛盾のない証拠」 1/9/2013 

#検察なう (247) 「過失でも矛盾のない証拠」 1/9/2013

(強制捜査から1485日)

先日、ツイッターにこうした書き込みがありました。ツイートされた方も、だから私が有罪ということではなく、自然に疑問を持ったのだと思いますが、検察の論証のいいケース・スタディだと思い取り上げさせて頂きます。

そのツイートはこういうものでした。

「外資系金融では、確定申告のシーズンは源泉徴収されない株式の申告の話題が社内で飛び交います。さらに、確定申告の義務があり、源泉徴収票の税額が付与株式の価値に比較してあまりにも過小であることは気づくはずと思うのですが、この辺はどうなんでしょうか???」

このツイートでは二つの事項が取り上げられています。

その一つは

「外資系金融では、株式報酬が源泉徴収されていないことは常識であり、確定申告のシーズンになると税務に関する話題が社員間で持切りとなる」

というものです。

もう一つは

「確定申告をする者は、源泉徴収票を必ず確認し、源泉徴収票を確認すれば、そこに記載されている金額と、自分が実際に受け取った金額の大きな齟齬に気付かないはずはない」

というものです。

まず前者に関して評価してみましょう。

外資系金融というのは特殊な世界です。一般人にとってはなかなか伺い知れないものです。そこで、業界通とおぼしき人に「こういうものである」と言われると、妙な説得力があります。

果たしてそれが事実であるかどうかは一旦置いておいて、この意見が故意の脱税の証拠となるかということを考えてみます。それは、このことにより過少申告が「故意でなければ説明が不可能である」のか、あるいは「故意であることの方がより合理的である」と言えるのかということです。

検察は、多数のクレディ・スイス証券の職員・元職員の取調べを行っています。そこでは「(確定申告シーズンに限らず)株式報酬に係わる税務に関してのディスカッションが行われていたか」の質問は執拗にされたものです。

そしてそれが「Yes」であれば、それをもって私の過少申告が、「故意であることの方がより合理的である」と言えるものです。また、誰かの証言で、「八田さんは、株式報酬の申告義務について尋ねていた」というような証言が取れれば、それこそ「故意でなければ説明が不可能である」証拠となります。

しかし、検察は、冒頭陳述・論告において、こうした主張を全くしていません。なぜなら、複数の調書で、「税務に関するディスカッションが会社内でされることはなかった」ということが裏付けられているからです。クレディ・スイス証券の社内において、税務に関しての議論は、個人の給与水準を類推させるものであることから、避ける風潮がありました。

クレディ・スイス証券の雇用契約でも、「Confidentiality」の項で、以下のような規定があります。

“The terms of this letter and of your ongoing compensation should not be discussed with any employee of the Company or its affliates except your immediate supervisors.”

机を並べる同じ肩書の人間でも、給与が倍(あるいは半分)ということはザラにありますから、モラルの低下を防ぐために会社は自分の給与に関して話すことを禁じています。

ここで調書を引用することは避けるものですが、クレディ・スイス証券の元従業員の嘆願書にも、同様のことは語られています。

「外資系金融はどこでもそうだと思いますが、社員の間でも申告や納税の話題はつっこんでしづらい雰囲気があり(結局金額を類推できてしまうので)、納税に詳しい人がいても口コミで広まりません。」
(松本直久嘆願書より)

ここをクリック→ 松本直久嘆願書

つまり、「外資系金融では、株式が源泉徴収されていないことは常識であり、確定申告のシーズンになると税務に関する話題が社員間で持切りとなる」というのは単なる推論に過ぎないということです。実際には、株式報酬を当時から源泉徴収していた会社(ゴールドマンサックス証券)もあります。そして現在では、クレディ・スイス証券ですら株式報酬を源泉徴収しています。

もしかすると、このツイートをされた方は、実際に外資系金融に働いていて、その方の会社ではそうしたことがあったかもしれません。しかし、それが業界の常識と言えるものではなく、少なくとも私が在籍していた時点のクレディ・スイス証券債券部においては、全くそうしたことはありませんでした。

客観的な証拠に裏付けられなければ、裁判においては証明力はありません。それは、それが「社会通念」と言えるものでないことは明らかだからです。人は、「自分の常識」が「全ての常識」と思い易いものです。

「自分の常識」が「全ての常識」と思い易いことは「源泉徴収票を確認したか、否か」においては更に分かり易いと思います。

「確定申告をする者は、源泉徴収票を必ず確認し、源泉徴収票を確認すれば、そこに記載されている金額と、自分が実際に受け取った金額の大きな齟齬に気付かないはずはない」という点に関しては、検察も論告で同様の主張をしています。

しかし、私が源泉徴収票を確認し、かつその内容の認識があったという事実が裏付けられなければ、それは全くの推論でしかないということは説明するまでもないと思われます。そして私が、源泉徴収票を確認したということの立証は全くされていません。そして、いくつかの事実関係は、むしろ確認していないということを示しています。

「自分は毎回源泉徴収票を受け取る度にその内容を確認する」という方に、「源泉徴収票を確認することがサラリーマンとして普通の行動だと思うか」と尋ねれば、「それはそうだろう。それが当然の行為だ。」と答えると思います。「自分の常識」が「全ての常識」の典型例です。

それでは、その方に、「世の中の全ての給与所得者が源泉徴収票を確認して、その内容を理解していると言えるでしょうか。」と尋ねた場合、答えはどうなるでしょうか。「全て」が極端であるならば、95%以上でも結構です。

そのように問えば、「そうだなあ。確認する方が勿論、普通だと思うけれど、そうでない人がいても不思議じゃないかもなあ。」と思われるのではないでしょうか。

勿論、源泉徴収票を毎回確認などしない人にとってみれば、ほかの人が確認しなくても、なんの不思議もないことだと思います。

これは「証拠の評価」の問題です。「源泉徴収票を確認すれば、金額の齟齬に気付くはずだ」ということは、「源泉徴収票を確認しない人もいる」ということや、「確認しても、その内容を理解しない人もいる」という可能性を完全にオミットした評価です。

検察論告においても、源泉徴収票や税理士作成の確定申告書の確認に関しての検察の主張は、「そもそも源泉徴収票を手渡された時点でその収入金額を確認するのが通常である上、(中略)給与収入や雑所得の金額等が記載された確定申告書の原案に押印するに当たっては、その内容を確認するのが社会常識に照らして当然である。」としています。

「社会常識」!?全く空虚な論証です。

検察が論告で挙げた証拠の全ては、同じような立証構造で構成されています。

つまり、過失であったとしても矛盾のない証拠を、一方向の可能性を完全にオミットして、有罪方向に解釈したものです。そして、そのどの証拠一つを取ってみても、「故意でなければ説明が不可能」な証拠はありません。

検察論告が、推認・推論に基づいた推定有罪の主張であると私が断じているのは、検察の立証がそうした恣意的な証拠の抽出、評価に依っているものだからです。

但し、何度も繰り返しますが、我々弁護団の主張は「証拠がないから推定無罪」という弱々しいものではなく、「過失でなければ説明が極めて困難、あるいは不可能」という証拠を提示して、完全な無実を主張しているものです。

これまでの公判で我々弁護団が提示した「過失でなければ説明が極めて困難、あるいは不可能」という証拠に関して、検察は、論告での論駁を放棄して完全に沈黙しています。

「検察の理念」の第四項には、「被疑者・被告人の主張に耳を傾け、積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め、冷静かつ多角的にその評価を行う」とあります。郵便不正事件後、検察の在り方検討会議を経て、検察が高らかに標榜した「検察の理念」は、結局のところ絵に描いた餅であって、現場の検事は歯牙にも掛けていないように思えるのは私だけでしょうか。

1/9/2013












ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 「20分で分かる『クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件』~日本の司法を正す会ダイジェスト版」(動画)


ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 過去のお勧めブログ記事


ここをクリック→ 過去のお勧めブログ記事 Part2

ここをクリック→ 過去のお勧めブログ記事 Part 3

ここをクリック→ 過去のお勧めブログ記事 Part 4

ここをクリック→ 嘆願書まとめ

ここをクリック→ 上申書まとめ






TwitterやFacebookでの拡散お願いします
↓ 

category: クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

2013/01/09 Wed. 07:00 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://fugathegameplayer.blog51.fc2.com/tb.php/481-d939fad7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top