「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (259) 「最終弁論解説 ~ 無実の論証 (3)」 2/8/2013 

#検察なう (259) 「最終弁論解説 ~ 無実の論証 (3)」 2/8/2013

(強制捜査から1515日、判決まであと21日)

最終弁論での無実の論証では、以下の5つの項目を挙げています。

1 「株式報酬も源泉徴収されていると思い込んだことは自然なことである」

2 「株式報酬が源泉徴収されておらず、別途確定申告が必要であると気付かなかったことも自然なことである」

3 「確定申告の時点で、株式報酬が源泉徴収されていないことに気付くきっかけはなかった」

4 「故意犯であれば説明のつかない事実が多数ある」

5 「故意犯であれば必ず存在する事実が存在しない」

今回は、「確定申告の時点で、株式報酬が源泉徴収されていないことに気付くきっかけはなかった」という点について述べたいと思います。

まずその前に、サラリーマンにとって確定申告とはどういう意味があるのでしょう。あるいは何のためにするのでしょう。

「そんなの当たり前じゃん、自分の納税額を申告するためでしょ」

そうでしょうか。少なくとも私は違いました。それでは私にとっての確定申告とは何だったのでしょうか。

私が確定申告をしていたのは、「還付を受けるため」でした。生命保険控除や医療費控除によって、確定申告をすれば還付が受けられると思っていました。

収入の99%は会社の給与であり、所得税は給与天引きされていると思っていましたから、確定申告で誤った申告をすることによって、納税額に間違いが生じるという発想がそもそもありませんでした。

もう少し具体的に話をします。あなたはサラリーマンだとします。所得の水準に関わらず、サラリーマンが確定申告をするという状況は、医療費控除をする場合です。

確定申告シーズンに、国税庁のホームページを開いて、確定申告書作成コーナーで確定申告をしようとします。

さて、源泉徴収票見本を見ながら、「ふむふむ、この金額をここに入力するのね。それで、こっちはここね」と、金額の入力をします。

確定申告書作成コーナーに表示される源泉徴収票の見本はこちらです。

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その時に、「ん?俺の会社からもらった給料って全部源泉徴収されてんのかな」と考えるサラリーマンは、世の中にどれだけいるのでしょうか。あるいはそこに記載されている金額がなんであれ、右から左に入力して、金額の違い(自分の手取り額と記載額の違い)に気付く人が世の中にどれだけいるのでしょうか。

「いやあ、金額によっては気付くんじゃないの」と言う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「確定申告の時点で、金額の齟齬になぜ気付かない」という議論をする時には、常に「源泉徴収票には間違いがありうる」あるいは「源泉徴収票には記載されていない会社の給与がある」ということが前提になっていると思います。そもそもそういう前提すら全く頭をよぎらなければ、数字の齟齬がいくらの金額であれ、それに気付く可能性は極めて低くなると思います。

私は、「会社からの給与が全部源泉徴収されているということに全く疑いを持たず」、「数字の入力の際に、金額の間違いがありうることなど想像すらしなかった」カテゴリーの者でした。

そのように思う者が、確定申告をするサラリーマンの中で多数派なのか少数派なのかは分かりません。「自分の常識は世の中の常識」と思いがちなので、私にすると、むしろ多数派だと思ってしまいます。それに対して、「確定申告の際に、源泉徴収票の金額に間違いがあれば、それに気付かない者は世の中にいない」というのが検察の論理です。「推定有罪」これに極まれりだと思います。

起訴対象年の1年目は自分で申告をしていますので、以上のような事情がありますが、実際には、更に「複雑な事情」がからんで、気付くことが難しくなっています。その「複雑な事情」に関しては後述します。

起訴対象年の2年目は、もっと単純で、前年の自分の申告に手間取ったこともあり、税理士に確定申告を依頼したのですが、彼に源泉徴収票を送付する際に、それをまじまじと見ることもなく(正直、見たとしても、やはり源泉徴収票に含まれていない会社の給与があるとは思わなかったと思います)、彼から確定申告書が送り返された時に、付箋のところにポンポーンと内容を確認することなくハンコを押したという状況です。

以上の状況を、弁論では更に精緻に掘り下げています。起訴対象年1年目の平成18年は、自分で国税庁ホームページから申告をし、申告漏れとなった金額(本税)は約1850万円でした。起訴対象年2年目の平成19年は、税理士に確定申告を依頼し、申告漏れとなった金額(本税)は約1億1300万円でした。

弁論では、この2年の事情を分けて説明しています。

(1) 「平成18年分の確定申告時に、被告人は平成18年中に受領した給与金額を足し上げて源泉徴収票記載の金額と比較するといったことはしておらず、また、2枚の源泉徴収票の取り扱いに四苦八苦しており、株式報酬が源泉徴収されていないことに気付くことはなかった」

(2) 「平成19年分の確定申告時に、被告人は平成19年中に受領した給与金額を足し上げて源泉徴収票の金額と比較するといったことはしておらず、また、加賀税理士に確定申告を任せており、株式報酬が源泉徴収されていることに気付くことはなかった」

解説を加えます。

(1) 平成18年度の申告に際し、先ほど述べた「複雑な事情」とは、この年には源泉徴収票が2枚出ていることです。転職もしていないのに、なぜ源泉徴収票が2枚出ているかというと、クレディ・スイス証券が、この年に株式会社化しているからです。

同じ会社に出勤して、状況は一切変わりはありませんが、ある日に一旦会社を退職した形にして退職金を払い出し、その翌日、新しい会社に入り直すということが行われました。名刺が変わったかどうかすら記憶にありません。その際に、退職金が払い出され、その源泉徴収票が追加の1枚ということです。

国税庁ホームページの確定申告書作成コーナーには、源泉徴収票が2枚の場合の解説はありません。「簡単、簡単」と思って始めた入力ですが、その2枚の源泉徴収票の金額を合算して入力したところ、何千万円もの追徴課税が結果として出て、「これは何かがおかしい」と思ったものです。困り果てて人に聞いてみると、退職金の源泉徴収票の金額は加えなくていいとのことでした。「聞いてないよ―。むっちゃ不親切だな、この確定申告書作成コーナーってのは」と感じました。

こうしたすったもんだの中でも、一貫してあったのは「会社から支給された給与は全て源泉徴収票に反映されている」という思い込みであり、「源泉徴収票に含まれていない会社給与の存在など全く考えもしなかった」ということです。

また、私は、自分の年収額のイメージはあったものの、それは1年の初めの年棒更改のミーティング(「コンペンセーション・ミーティング」と呼ばれます)で提示された金額のことです。その金額には、その年に払い出される基本給、現金賞与と、将来のいつか払い出される株式報酬と、退職時に支払われる退職金積立の金額が合算されたものです。

私は、自分の手取り額をカレンダー・イヤーで区切って足し合わせて、「今年はこれだけの『手取り』があった」と考える習慣を持ち合わせていなかったので、年収額のイメージはあくまで「その年に約束された、将来のいつかに分散されてもらう金額の合計額」であり、「カレンダー・イヤーに実際に受け取る金額」ではありませんでした。

この辺りは、外資系証券の複雑な給与プログラムに起因するものですが、ぶっちゃけ、もらった金額を「ごっつぁんです」と受け取るだけで、株式報酬がいくら入ってくるかを事前に想定することはほぼ不可能でしたし、自分の受け取り金額を税務年度で区切って考える発想はありませんでした。

(2) 平成19年度には、私は退職してベア―・スターンズ証券に移籍しています。この年には、源泉徴収票はなんと3枚も会社から発行されています。クレディ・スイス証券の給与の源泉徴収票、退職金の源泉徴収票、それにベア―・スターンズ証券の給与の源泉徴収票です。

ただこの年は、前年に自分でやろうとして苦労したこともあり、また仕事も転職したおかげで全く精神的ゆとりがなくなり、確定申告は税理士に任せることにしました。彼にその3枚の源泉徴収票を送ることに全く疑問はありませんでした。実際には、ベア―・スターンズ証券の給与の源泉徴収票のみでよかったにも関わらずです。なぜ1枚でいいかですって?聞かないで下さい。いまだになぜ複数の源泉徴収票が手元にありながら、申告に必要なものと不必要なものがある理由は全く分かっていません。

いずれの年も、実際にもらったと思った金額(複数の源泉徴収票の金額を足し合わせた金額)よりも、少ない金額(1枚の源泉徴収票の金額)の申告で正しいという実体験が、特に意識はしていなかったもののあったことになります。

いずれにせよ、確定申告という納税額をダイレクトに意識する機会であっても、私の「サラリーマンの所得税は給与天引き」という常識を覆すような出来事ではなかったものです。

おまけ

下の写真を見て、「ふーん、かわいい子だね」という方は、源泉徴収票を素直に信じる人です。ところが疑いを持って見れば見えてくるものもあります。

人は、「そんなところにあるなんて思いもしなかった」という状況では、見えてしかるべきものも見えないものです。

「金額の齟齬になんで気付かなかったの?」というのは、答えが分かってから、この写真を見て「なんで気付かなかったの?」ということに相似であると思います。

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2/8/2013



















ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 「20分で分かる『クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件』~日本の司法を正す会ダイジェスト版」(動画)


ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

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category: 訴訟記録等

2013/02/08 Fri. 07:00 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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