「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (262) 「最終弁論解説 ~ 無実の論証 (6)」 2/13/2013 

#検察なう (262) 「最終弁論解説 ~ 無実の論証 (6)」 2/13/2013

(強制捜査から1520日、判決まであと16日)

最終弁論での無実の論証では、以下の5つの項目を挙げています。

1 「株式報酬も源泉徴収されていると思い込んだことは自然なことである」

2 「株式報酬が源泉徴収されておらず、別途確定申告が必要であると気付かなかったことも自然なことである」

3 「確定申告の時点で、株式報酬が源泉徴収されていないことに気付くきっかけはなかった」

4 「故意犯であれば説明のつかない事実が多数ある」

5 「故意犯であれば必ず存在する事実が存在しない」

前2回のブログでは、上記4点目の論点、脱税を意図していたとすれば矛盾の生じる実際にあった事実を列挙しました。

今回は、5点目の論点の、逆に、脱税を意図していたとすれば当然あるべきなのに存在しない事実を列挙します。

この論点の初めに、弁論では次のように述べられています。

「会社から支給される給与所得を脱税しようというのは極めて成功確率の低いものである。しかも被告人のような3億円強に上る申告漏れは刑事罰の可能性も高く、そのような過少申告を故意で敢行しようとするには、相当の準備や仮装隠蔽の画策を行うものである。

少なくとも、以下に述べるような事実は故意犯であれば必ず存在するはずである反面、本件では不存在であることから、被告人に故意がなかったことは明白である。」

(1) 「被告人がクレディ・スイス証券において株式報酬が支給される従業員の範囲、各従業員の申告状況を調査した事実が存在しない」

(2) 「被告人が株式報酬にかかる説明会に出席した事実が存在しない」

(3) 「被告人が脱税や査察部等に関する調査を行った事実が存在しない」

(4) 「被告人が、税理士、弁護士に対して、故意と認定された場合を想定した相談を行った事実が存在しない」

(5) 「被告人が確定申告を税理士に依頼するに際し、吟味して選択した事実が存在しない」

(6) 「被告人が自白した事実は存在しない」 

解説します。

(1) 「被告人がクレディ・スイス証券において株式報酬が支給される従業員の範囲、各従業員の申告状況を調査した事実が存在しない」

本来、脱税という犯罪は、所得そのものを隠すことによって成功する犯罪です。それを理解するだけでも、会社の給与を脱税しようとするのはあまりに荒唐無稽な行動といえます。なぜなら、この犯罪の成功は、クレディ・スイス証券が社員に株式を支給していることを、税務署が知ることはないということが前提になるからです。

勿論、それは、会社が税務署の照会に答えれば、ただちに露見する事実です。また、多数の社員が株式報酬を実際に申告していれば、それだけで税務署が知り得る事実です。

もし脱税を意図していたとすれば、税務署が「クレディ・スイス証券では一定の給与水準以上の社員には高額の株式報酬が支給されている」という事実を既に把握していないかどうか、あるいは将来把握するおそれがないか、必ず調査するはずです。

税務署に直接問い合わせるわけにはいきませんから、当然、会社の周りの者の申告状況を確認したり、シンガポールのエグゼブティブ・コンペンセーション部(株式報酬を担当する部署)の者に受給者数等を尋ねて回るはずです。

検察は、会社の何人もの従業員・元従業員や、エグゼブティブ・コンペンセーション部のスタッフをシンガポールから出頭させ、執拗に取調べを行っています。ところが、こうした事実は当然ながら全く出てきませんでした。

弁論では、以下のように主張しています。

「被告人が、株式報酬が支給されている従業員の範囲や他の従業員の株式報酬申告状況を調査していない事実は、被告人に故意があったとすれば合理的な説明がほとんど不可能である。」

即ち、クレディ・スイス証券で株式報酬の支給が行われていることを税務署が知り得ているか否かの調査を行っていない事実が、無実の証拠です。

(2) 「被告人が株式報酬にかかる説明会に出席した事実が存在しない」

会社は、年に一回、株式報酬給与プログラムの説明会を行っていました。説明会をしなければ理解できないような複雑な給与プログラムであり、やっかいなことに毎年その内容が変わっています(実は、私は、税務調査が始まって、自分で調べてみるまで給与プログラムが毎年変わっていたことすら全く知りませんでした)。

私は、この説明会に出席しておらず、その存在さえ知ることはありませんでした。

しかし、脱税を意図するのであれば、かなりアンテナを張り巡らせて情報収集に努めていたものと思われ、株式報酬に関する説明会を見逃すはずがありません。

弁論では、以下のように主張しています。

「被告人が故意犯であれば、株式報酬に関して、会社がいかなる説明を行い、他の従業員が申告するか否かといった情報収集に余念がなかったはずである。特に、シンガポールのエグゼブティブ・コンペンセーション部スタッフが行った株式報酬についての説明会には必ず出席して情報収集したはずである。

従って、被告人が株式報酬にかかる説明会に出席していない事実は、被告にが故意犯であるとすると合理的な説明が極めて困難である。」

即ち、株式報酬に関する情報収集を社内で行っておらず、それに関する説明会にも出席していない事実が、無実の証拠です。

(3) 「被告人が脱税や査察部等に関する調査を行った事実が存在しない」

脱税をしようとするのであれば、当然、脱税のノウハウを吸収すべく、あるいは、発覚した場合のダメージコントロールの方法を事前に調査するものです。

金額が大きいだけに、脱税犯であれば、もし「知らなかった。気付かなかった」という言い訳が通用しなかった場合には、どういう事態になるかというリスクの評価は必須だと思われます。

脱税犯であれば、当然、税務署や国税局の組織・行動の研究に余念がなかったであろうと思われます。

私は、強制捜査の際に、手帳を押収されましたが、そのスケジュールに国税局資料調査課との面談を「査」の字を丸で囲んで書き込んでいました。つまり、税務調査が始まった後であっても、資料調査課を査察部だと思い込んでいたということです。一般人の知識レベルでは、「税務調査をする役人はみんなマル査」だと思っているのではないでしょうか。私もそうでした。

押収されたパソコンのインターネット履歴、私の読書履歴の記録(私は読んだ本のタイトルを全て記録していました)、家宅捜査時に確認したであろう蔵書、そのどれをとっても脱税や税務署関連の資料どころか、節税や一般的な税金に関する情報を私が収集していた形跡は全く見られません。私が、税務に関して、全く無頓着・無関心だったからです。

弁論では、以下のように主張しています。

「故意犯であれば、どの程度のほ脱金額であれば「知らなかった。気付かなかった。」との過失の主張が通りそうか、どの程度のほ脱金額であれば国税局査察部の調査対象となり、刑事事件に発展するか等、発覚後のリスクについて調査するはずである。

しかし、被告人が雑誌以外の読了した書物を全て記録していた読書履歴にもそのような関係の書物はなく、会社同僚や税理士等に質問してまわっていた事実もない。これは、被告人が故意犯であるとすると合理的な説明が極めて困難である。」

即ち、脱税や税務署に関する情報収集を事前に全くしていない事実が、無実の証拠です。

(4) 「被告人が、税理士、弁護士に対して、故意と認定された場合を想定した相談を行った事実が存在しない」

私は、税務調査開始以降、査察部の強制捜査を経て、告発に至る15ヶ月の間、税理士と彼を紹介してくれた弁護士に、逐一経過報告をしていました。取調べがあると、何を聞かれたか、どう答えたかをメールで送っていたものです。特に助言を求めるものでもなく、ほぼ一方的に報告し、愚痴を聞いてもらっていたようなものです。

もし脱税をしていたのであれば、彼らに、「仮に、故意だと認定された場合は、どうなりますか」といった質問は当然すると思われます。また、自白したらどうなるかであるとか、告発されたらどうなるかといったことも、脱税犯であれば、当然の関心事だと思われます。

しかし、当時私は、無邪気にも捜査権力が無法なことをするはずがないと信じ込んでおり、まさか刑事告発されるとは思っていませんでした。脱税犯であれば、当然あるはずの覚悟も全くなく、刑事告発の報道を、会社の元部下から知らされた時は、本当に驚く共に、「証拠がないことが分かっていながらよくできたな」とあきれたくらいです。

刑事告発されることを全く予測していなかったことは、弁護士に正式に事件を委任していないことからも明らかです。

弁論では、以下のように主張しています。

「被告人が査察調査の段階で正式に弁護士に委任せず、税理士、弁護士にも自白した場合等の質問も一切していないことは、被告人が故意犯であるとすると合理的な説明はほとんど不可能である。」

即ち、税理士、弁護士に対し、「脱税が発覚したら」ということを想定した行動を一切取っていない事実が、無実の証拠です。

(5) 「被告人が確定申告を税理士に依頼するに際し、吟味して選択した事実が存在しない」

私の以前契約していた税理士が、書類を渡していながら過怠で確定申告をしていなかったため、弁護士を通じて書類を取り返した経緯は以前にも述べたところです。そして税務調査対象期間の確定申告をお願いしていた税理士の先生は、その弁護士に紹介してもらった方です。

税務調査以前においては、彼とは、電話でのやり取りを数回したのみで、一切の面識はありませんでした。

検察が主張する脱税の手口は、馬鹿馬鹿しい程に単純なもので、確定申告に株式報酬の金額を加えていなかったというものです。

まず、この単純な手口の脱税をするために、見ず知らずの税理士に依頼して脱税をする脱税犯というのは世の中にいるのでしょうか。そして、もしそのような脱税犯がいたとして、最初から税理士を騙すにしても、その「共犯者」を吟味しない脱税犯はさすがにいないのではないでしょうか。

弁論では、以下のように主張しています。

「仮に、故意犯であれば、その手足となるべき税理士の素性や性格を吟味して、犯罪の道具たりうるかを検証して選択したはずである。被告人が何ら吟味せず税理士に依頼した事実は、被告人が故意犯であるとすると合理的な説明は困難である。」

即ち、確定申告を税理士に依頼した事実、及び、その税理士を選定する際に一切の吟味をしていない事実が、無実の証拠です。

(6) 「被告人が自白した事実は存在しない」 

この論点に関しては、弁論を全文引用します。

「一般に自白は被告人に不利益であるから信用でき、否認は被告人に利益であるから信用できないとされる。

しかし、実態は逆である。本件は、自白すれば、身体拘束をされるおそれもなく裁判も短期間で終わり、執行猶予も確実につく事案である。他方、否認すれば、かなりの確度で逮捕されることが予想され、裁判は長期にわたり、執行猶予がつく可能性は高いものの統計上は有罪判決が下される可能性が極めて高いという実態がある。事実、故意で脱税していなくとも、故意で脱税したと虚偽自白した方が極めてメリットが大きいのである。

こうした場合、東京地検特捜部が狙い撃ちにするような社会的地位のある者は、最初は虚偽自白に抵抗があるものの、自身の置かれた上記状況を冷静に分析し、最終的には犬にでも噛まれたものと頭を切り換えて、その時点におけるベストの選択肢として、虚偽自白をして執行猶予付き有罪判決をもらい、すみやかに社会復帰する道を選ぶのが通常である。有罪判決が下される極めて高いリスクを抱えながら、逮捕勾留され年単位の裁判を経る覚悟で否認を貫くことは、社会経済合理性を無視しなければとりえないものである(いわゆる遠隔操作ウィルス事件でも逮捕された4人中2人が虚偽自白をするに至ったことは周知のとおりである)。

実際、被告人は弁護人を吟味するなかで、いわゆるヤメ検の弁護士より、虚偽自白を暗に勧められている(なお、かかる助言も、全て自己責任のとれる被告人のような者に対しては弁護士倫理上の問題はないであろう)。

しかし、被告人は、嘘のつけない性格とはいえ、「やってないものはやったとはいえない」ということで、虚偽自白をせず否認を貫くこととした。ある意味では、不合理かつ不利益な選択といえる。

故意犯でなくとも、災害に巻き込まれたとでも考えて虚偽自白によるダメージコントロールが合理的である中で、ましてや、故意犯であれば、本件において逮捕を覚悟して否認を貫き裁判を長期化させることなど全く考えられない行動である。

被告人が故意犯であるとすると、本件事案で否認を貫いている事実は、合理的に説明することがほとんど不可能である。」

即ち、私が、故意犯であることを否認している事実が、無実の証拠です。

次回以降は、検察論告への反論です。

2/13/2013















ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 「20分で分かる『クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件』~日本の司法を正す会ダイジェスト版」(動画)


ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

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category: 訴訟記録等

2013/02/13 Wed. 07:00 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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