「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

05« 2017 / 06 »07
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

#検察なう (279) 「時代が判決を導き、判決が実務を変える」 3/18/2013  

#検察なう (279) 「時代が判決を導き、判決が実務を変える」 3/18/2013

(強制捜査から1553日、検察控訴から6日)

これまでの公判から判決、そして検察控訴に至る一連の流れを振り返ってみました。

裁判官も検察官も法律のプロフェッショナルであり、事実認定のスペシャリストです。それでありながらなぜ同じ判断に至らないのか、なぜ裁判官の無罪判決を検察が受け入れられないのか、この疑問を繰り返し自問自答しました。

私なりの見解は次の通りです。

「時代が判決を導き、判決が実務を変える」

検察改革が遅々として進まないことを謎解く鍵もそこにあるように思います。

説明します。

検察の捜査は、「法と証拠に基づく」ものとされます。しかし、それはあくまで建前で、実態は彼らなりの物差しで法解釈をし、事実認定をしています。そこには「検察基準」と言えるものがあると思われます。

この検察基準は、これまでの裁判実務体験に基づくもので、裁判実務における「この程度の立証で有罪とすることができる」という線引きです。それは厳格な法と証拠に基づく判断よりはかなり広いものです。但し、検察も、必ずしもこの実務上の検察基準を常に援用しているわけではなく、むしろ裁判官からの全幅の信頼を得て、広い検察基準がいざという時に機能するよう、普段の大半のケースにおいてはむしろコンサバに運用し、誰の目にも明らかに有罪と認定される事件のみ起訴しています。

この実務上の検察基準を裁判官が共有しているかということに関しては、裁判官の個人差が大きいと思われます。裁判官は、個人の主義、哲学、理念を反映した自由心証に基づいて事実認定し、証拠を評価します。有り体に言えば判決は彼らの胸先三寸ということです。裁判官の中には、同じ国家公務員として、検察に対し、何らかのシンパシー、同じ目的意識を共有していると個人的に思っている裁判官もいるかもしれません。

こうした状況を、野球で例え、ピッチャー検察の投げた球を審判である裁判官が判断するとします。

ピッチャー検察はいつもはストライクゾーンど真ん中の球しか投げません。100球も1000球もど真ん中の球しか来ないとなると、その結果何が起こるかと言えば、審判である裁判官も球を注視することがなくなり、ごくたまに検察が投げるくさい球も「ん?ま、いいや。ストライク!」と判定するルーティーンに陥るものと思われます。ピッチャー検察がストライクゾーンをはずしてごくたまに投げるくさい球の許容範囲が、私の言うところの「検察基準」です。

裁判官もルールブックに従うという建前ながら、彼らの判断は彼ら自身の自由心証に基づいていますから、時にはとんでもない判定が出ることもあります。ワンバウンドの球やバッターの後ろを通った球ですら「ストライク!」とコールする場合すらあります。再審請求審によくある、「なぜこんな判決がありうるの?」というのは、キャッチャーが取れないような暴投でも、「ストライク!だって検察が投げたんでしょ。誰が何と言おうと、ストライク!」というものです。世の中の基準に照らせばどれだけ不合理なものであったとしても、審判の判定は絶対です。

今回の私の事案で言えば、ピッチャー検察の投げた球を審判である裁判官がきちんと注視した上で「ボール!」と判定し、無罪判決となりました。そこで色をなしたピッチャーが、マウンドから下りながら、

「ボール!?なんだと、ごらー!どこがボールなんじゃい(ほんとはボール2つ外れてたけど)。ストライクやないけ(だって、今までそのコースは半分目つぶってストライクって取ってたやん)。審判代われ!もう一球投げたるわ。今度はいつも通り、半分目つぶって見とけや(それでもほんとはボールなんだけどね)。」

というのが今回の控訴です。

投げたピッチャーも最初からボールと分かって投げていますが、これまでの実務上の検察基準ではストライクと判定してくれると考えているのが検察の控訴を巡る状況です。

佐藤裁判長自ら「私も初心を忘れずに」という説諭は、実に深い意味を持っていると思いますが、その意味するところの一つが、「これからはルールブック通りに判定するよ。これからの時代、検察基準は通用しないからね。」というものであったと考えています。検察の期待した「阿吽の呼吸」はないとする強いメッセージです。

この無罪判決にある、法と証拠に則って、公正中立に判断するという実に至極真っ当なことが、驚き、感動、賞賛を持って迎えられるということが、刑事司法の現実です。

なぜ検察基準当たり前の刑事司法の世界で、ルールブック通りの私の無罪判決という「奇跡」が起こったか。

それは、感度の高い一審裁判体が、時代の変化を感じ取ったことが大きいと思っています。

郵便不正事件以来、検察に対する国民の目は厳しくなり、刑事司法を適正化する要請が高まっています。私の無罪判決は、その時代の要請を一審裁判体が理解した結果の判決だったと思っています。ボールと分かって投げてくるピッチャー検察に審判が与しているとなると、国民の検察不信は裁判所不信に変わり、刑事司法制度の根幹を揺るがす事態になるとの危惧もあったのだと思います。

なぜ検察組織が時代の変化に対応できないか。

例えば食品偽装事件が起こったとします。製造日付の捏造や、不適切な材料を混入して製品を作ったことが発覚した場合、その食品メーカーは、徹底的に原因解明及びその改善に全精力を使って努めます。そうしなければ誰も製品を買ってくれず、市場から淘汰されるからです。

検察はどうでしょう。彼らは有罪が彼らの製品だと思っています(実は根本的な間違いはそこにあるのですが、ここではそれは不問とします)。いかに社会からバッシングされようと、有罪を作り続ける工程が止まらなければ、彼らの業務には何ら支障がないということになります。つまり裁判官が彼らの検察基準を容認している以上、敢えて検察は襟を正す必要はないということです。

これが検察改革が進まない最大の原因だと思います。

検察の意思決定は組織でなされるのに対し、裁判官の意思決定は個人の判断です。それゆえ自分の考えを行動や判断に反映する裁判官のフットワークは検察のそれに比して圧倒的に軽いものです。そして感度の高い、センスのある裁判官は、時代の変化や時代の要請を確実にキャッチしています。

これが「時代が判決を導く」という意味合いです。

時代が直接実務を変えることはなく、そのことが検察改革が進まない過渡期の現状を示しています。勿論、検事一人一人では、そうした時代の変化を十分認識していることも考えられますが、依然、決定権を持つ上層部の意識改革はなされていないというのが、今の状況だと思います。

しかし判決が彼らの意向に沿うものでなくなれば、彼らの危機感は一気に高まることとなります。そして実務は判決の趨勢に合わせざるを得なくなります。そうしなければ有罪を作り続ける工程が止まることになるからです。

これが「判決が実務を変える」という意味合いです。

高裁での検察の作戦は目に見えています。証拠に基づく接近戦では、その主張は全て弁護側にひっくり返されることは一審で証明済みです。それゆえ、検察基準に慣れ切った、「初心」からほど遠い高裁判事に証拠を精査させないよう、「この金額を過少申告して過失というのはありえないでしょ」「半分目をつぶって球を見ずに判定してくれればいいんですよ」という推定有罪で、冤罪の責任を姑息にも裁判所に押し付けてくるものと思われます。高裁判事が、検察の期待する検察基準を容認した阿吽の呼吸を見せるのかどうか、是非ともご注目下さい。

「時代」は「世論」と置き換えることもできます。「(時代の)空気」や「(時代の)雰囲気」と言ってもいいと思います。

そしてこと検察の問題に関しては、この時代の変化を促すのは、これまでは非常に困難でした。検察はその危険性を十分に認識しているため、既存メディアをがっちり押さえて、メディアコントロールをしているからです。普段から正式ルートではないリーク情報を恣意的に流して、既存メディアを餌付けしています。

私の公判における検察論告と弁論を並べれば、法律の専門家でなくとも、一審判決と同じ結論になることは明らかです。事実認定は法律関係者の専売特許ではなく、一定水準以上の判断力があれば、誰でもができます(それが裁判員裁判制度といった市民参加型司法の精神です)。しかし、既存メディアの記者の誰が私の検察控訴を受けて、「検察理念はどこに行った」と記事を書いたでしょうか。

残念ながら新聞・テレビは、検察リークの情報や検察の行動をアナウンスするだけの検察の「広報部」となっています。それは彼らが御用記事を書かなければ、検察は彼らを出入り禁止にするというあまりにも幼児的な発想しか持ち合わせていないことから、いたしかたないことなのかもしれません。それではいけないと問題意識を持っている記者も少なくないとは思いますが、彼らは、その問題意識を公表すると、記者のみならず会社が検察からリーク情報をもらえなくなるため、嫌々ながら検察の広報部という立場に甘んじているのだと思います。

しかし今日では、情報源は新聞やテレビといった既存メディアだけに限りません。インターネットを媒介とする情報伝達方法の重要度は日々増しています。そして口コミがベースとなったツイッターやフェイスブックといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の存在は時代を変える力を持っています。かつては「ペンは剣よりも強し」でしたが、現代では「SNSはバズーカ砲よりも強し」です。

インターネットの世界では玉石混淆の情報が氾濫しており、その精度を精査する情報リテラシーが受け手に必要とされます。それは、社会の公器たる記者が、ある程度スクリーニングしてくれる既存メディアにはないリスクです。しかし、スクリーニングされないがゆえの、既存メディアでは報道できない真の情報がその中にあることは今や常識です。

今、このブログを読んでいらっしゃる方は、判断の根拠となる情報源が既存メディアに限定されていない人であり、こうした時代の変化を肌で感じていると思います。

そしてあなたのつぶやきが時代の流れを作ります。是非、この事件に注目して頂き、一緒に刑事司法の変革を目指しませんか。私の無罪判決に対する検察控訴は、その千載一遇のチャンスです。引き続きご支援のほどよろしくお願いします。

3/18/2013













ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―





TwitterやFacebookでの拡散お願いします。

category: 刑事司法改革への道

2013/03/18 Mon. 06:50 [edit]   TB: 0 | CM: 2

go page top

この記事に対するコメント

こちらのブログを最近知り、お邪魔させていただいております。現在カリフォルニアに住んでおります。
大逆事件から横浜事件まで治安維持法で犠牲になられた方々や、冤罪事件に関する本をいろいろ読んできました。
日本の司法は基本的に戦前と変わらない。検察は起訴したら、何が何でも有罪にしないとメンツがたたない。一審で無罪は無罪でしょう。なぜ無駄に裁判を長引かせるのか(それが仕事)?
”初心忘れずに”の佐藤裁判長、確かに素晴らしいけど、それが本来あるべき姿で特別なことではないはず。日本の裁判が異様で異常なのです。。。
ゴビンダさんを逆転有罪にした裁判官のように、何も咎められることもなく、良心の呵責もなく裁判官でいられるのですから。本当に怖い!
理不尽に一人で立ち向かっておられる八田さんに心より敬意を表します。
どうかお体には十分お気をつけ下さい。    りえ

長坂 #Vk7Fgo26 | URL | 2013/03/19 Tue. 04:57 * edit *

ありがとうございます

ただ、きれいごとではなく、一人で立ち向かっている意識ではないです。長坂さんのように応援してくれる人があって、ここまで来ていると思っています。146通の嘆願書、60通の上申書、249通の陳情書と、形に表して支援してくれる人がいることは、彼らの勇気をもらっているような感じがしています。ここまで来たら、検察控訴をむしろ日本国民全体のチャンスと考えて、刑事司法を変えてみようと思っています。せっかく控訴されたのだから、ただ無罪になるだけじゃ面白くないですよね。冤罪が少しでもなくなるよう、努力したいと思っています。引き続き応援お願いします。

八田


> こちらのブログを最近知り、お邪魔させていただいております。現在カリフォルニアに住んでおります。
> 大逆事件から横浜事件まで治安維持法で犠牲になられた方々や、冤罪事件に関する本をいろいろ読んできました。
> 日本の司法は基本的に戦前と変わらない。検察は起訴したら、何が何でも有罪にしないとメンツがたたない。一審で無罪は無罪でしょう。なぜ無駄に裁判を長引かせるのか(それが仕事)?
> ”初心忘れずに”の佐藤裁判長、確かに素晴らしいけど、それが本来あるべき姿で特別なことではないはず。日本の裁判が異様で異常なのです。。。
> ゴビンダさんを逆転有罪にした裁判官のように、何も咎められることもなく、良心の呵責もなく裁判官でいられるのですから。本当に怖い!
> 理不尽に一人で立ち向かっておられる八田さんに心より敬意を表します。
> どうかお体には十分お気をつけ下さい。    りえ

八田隆 #- | URL | 2013/03/19 Tue. 05:52 * edit *

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://fugathegameplayer.blog51.fc2.com/tb.php/520-177ee517
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top