「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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冤罪ファイル その9 「福井女子中学生殺人事件」 

冤罪ファイル その9 「福井女子中学生殺人事件」

冤罪の一つの類型として、被害者が社会的弱者、被差別者というケースが往々にしてあります。

精神薄弱、部落民、在日、前科者、犯罪常習者、非白人の外人。あるいはレッテルを貼られた有名人という場合もあるでしょう。「彼(彼女)ならやっていそうだ」という予断がそこにはあり、また差別する側の「強者の論理」、人を蔑む心が、冷静な判断を妨げることになります。

差別意識は、多くが劣等感の裏返しであり、他者を貶めてしか優越感を得ることができないというところからくるものですが、選民思想的な非常に傲慢な考え方を背景としてできる場合もあると思われます。

司法試験という狭き門を勝ち抜いた裁判官、検察官は無論のこと非常に優秀な人たちです。彼らが、社会的弱者や被差別者に相対した時に、高いところから見下して、「裁いてやる」という奢った気持ちにならないものか、そうしたことがあるのではないかと思ってしまいます。立場は違えど、弁護士の方々も同じ過ちに陥らないかと(例えば足利事件の一審弁護人のケースのように)心配してしまいます。

ここで取り上げる福井女子中学生殺人事件も類似のケースではないでしょうか。

この事件は最近、再審開始決定が取り消されたことが報道されたため、その際に、知人と話題に上ったことがあります。私の出身は石川県と、この事件のあった場所とは比較的近隣です。そして、「彼を直接知るという人からまた聞きした」という知人の言葉は、「でも彼はシンナーの常習者で手が付けられなかったってよ」でした。「だからやっぱりやってたんじゃないの」というニュアンスでした。

多分、その知人は、この事件が一審無罪であったことや、一旦は決定した再審開始ということがどれだけ大変なことかを知らないであろうと思い、半分聞き流しました(と言いながら、半分独り言で事件の説明をしてしまいました。多分、理解はされなかったと思いますが)。しかし、その時に差別観が予断を生むということを実感したものです。

<事件経緯>
1986(昭和61)年3月19日の未明、福井市内の市営団地の一室で、その日卒業式を終えたばかりの15歳の女子中学生が殺害された。手口は、ガラス製灰皿で頭部を殴打し、電気カーペットのコードで首を絞め、ビニール製こたつカバーを顔面にかぶせ、少なくとも文化包丁2本でコタツカバー越しに顔面や首を刺すという、せい惨で複雑なものである。メディアは当初、捜査本部は、非行グループによるリンチや複数による怨恨犯を想定して捜査を進めていると報じた。

警察は、被害者の交友関係を洗い出せば、すぐに犯人に辿り着くと楽観的だったが、その見通しは甘かった。当時、地元の不良グループの間でシンナー遊びが流行していたが、被害者もこうしたグループと付き合いがあった。このため、交友関係は学外にまで広がり、捜査は難航した。

前川彰司さん(逮捕当時21歳)は、中学生の頃からシンナー遊びの仲間に加わり、二十歳を過ぎてもそれは続いていた。このため、事件発生直後には容疑者のリストにも入っており、事件発生2週間後に事情聴取を受けたものの、年齢層が異なる上に、被害者との接点が見当たらず、アリバイについても自宅で家族と共に食事をしていたということが確認されたため容疑対象から外された。

ところが、捜査が難航する中、当時、捜査本部の置かれた福井警察署に別件の覚せい剤や窃盗事件で逮捕・勾留されていた暴力団員(前川さんの中学校時代の1年先輩)が、面会に来た知人らに、「犯人を知らないか。犯人が分かると自分の刑が軽くなるかも知れない」等と情報提供を求め、さらに、同棲中の女性宛に、「前川のことだけどよく思い出してくれ。殺人事件の事が俺の情報で逮捕できれば、俺は減刑して貰えるから頼むぞ」として協力を求める手紙を出した。そして事件から半年ほど経った頃から前川さんの犯行をほのめかす供述を始めた。

警察も当初は、その暴力団員の証言には見向きもしなかった。その暴力団員が福井警察署から、刑務所に移管されるという時から、暴力団員の証言は拡大していく。それは刑事から、「お前の供述で調べる必要が出てきた場合には、福井署にいてもらうことになる」と言われたからである。

当初は難しい事件にも見えなかったが、容疑者を絞り込むことができない捜査本部に焦りの色が見え始めた。そして捜査本部は、その暴力団員の証言に食い付いたのである。暴力団員は、「事件の夜、顔や服に血の付いた前川を後輩の男が車に乗せてきた」と供述した。

福井警察署は、この後輩の男を犯人蔵匿容疑で逮捕。否認する後輩の男に「前川を現場の市営住宅まで車に乗せていったやろう。前川は血だらけで戻ってきたんやろう」と迫った。ところが、車の持ち主が、車を貸したのは別の男性と証言したため、十数日後、後輩の男は誤認逮捕であったとして釈放された。

今度は、車の持ち主が車を貸したというその男性が福井署に呼び出された。その男性も否定したが、捜査員から、「他はそう言ってない」と連日責め立てられ、結局、「血の付いた服を着た前川を見たのは、事件当日の3月19日の夜でした」とする内容の調書に署名させられた。その時点で、暴力団員の供述は、前川さんを車に乗せてきたのはその男性と翻る。

<裁判経緯>
第一審の公判で、その証人男性は、「前川を見たのは3月19日ではない。警察に言われて思い込んだ」と供述を再び翻した。

福井地裁は、「服に血を付けた前川さんを見たとの関係者の供述は、いずれも重要な点で変遷を来しており、それらの供述は相互に裏付けられていると即断することは危険であり、許されない」として無罪判決。

無罪判決後の控訴審での審理中に、先の証人男性は、別の事件に関与した容疑で福井県警の取調べを受けた。取調べをしたのは女子中学生殺人事件取調べの警察官だった。この警察官は、男性に「お前の容疑は見逃してやるから、控訴審で調書の通り証言してくれ」と迫り、男性は、身の保身からこの取引に応じて、控訴審で再々度証言を翻し、調書通りの証言をした。

名古屋高裁金沢支部は、「関係者供述は変遷はあるものの、核心部分が大筋一致し信用できる」「シンナー乱用による心神耗弱の状態で事件に及んだ」と認定して懲役7年(検察求刑は13年)の逆転有罪判決。

最高裁第2小法廷、弁護側上告は「単なる事実誤認の主張であって、適法な上告理由にあたらない」として棄却。異議申立も退けられ有罪判決確定。

(90年9月) 第一審無罪(西村尤克裁判長)→ 検察控訴→ (95年2月) 第二審逆転有罪、懲役7年(小島祐史裁判長)→ 弁護側上告→ (97年11月)最高裁上告棄却(大西勝也裁判長)、異議申立も退け有罪確定→ (03年3月) 前川さん医療刑務所に服役後、満期出所→ (04年7月) 再審請求→ (11年11月) 名古屋高裁金沢支部は再審開始決定(伊藤新一郎裁判長)、検察異議申立→ (13年3月) 再審開始の取消決定(志田洋裁判長)→ 現在、最高裁へ特別抗告中

<争点>
前川さんは一貫して犯行を否認しています。物証は全くありません。

前川さんが逮捕された日に、警察は、白いスカイラインを犯行車両として報道陣に公開しました。そして車内から被害者の血痕が検出されたと発表しました。しかし、公判が始まってからも、検察側から証拠として提出される気配はありませんでした。不審に思った弁護団は、「新聞に『逮捕の決め手』と書いてある。どうなったのか」と問い詰めましたが、検察は答えません。とうとう裁判官が釈明を求め、仕方なく検察は「間違いであった」と認めました。血液型は一致したものの、さらに詳細な血液型形式について違うことは既に分かっていたものです。しかし、公判で裁判官に促されるまで、警察・検察はその事実を隠蔽していました。

凶器とされた2本の包丁は現場に残されていましたが、指紋すらありません。

公訴事実は、「シンナーを吸引して心神耗弱になった状態で被害者宅を訪ねてシンナーに誘ったところ、断られたため、激昂の余り被害者を殺害した」というものですが、指紋を残さないといった周到かつ、コードで首を絞めこたつカバー越しに刺すという複雑な殺害の様態は、心神耗弱の状態で、激昂した末の殺害とは全く相容れないものです。

前川さんが事件当日血だらけであったのを見たと証言した暴力団員の証言も、二転三転します。前川さんを自宅に送って行く途中で、彼が血の付いた衣服や靴を捨てた、と供述した川を、警察は大規模な川ざらいを行いますが、何も発見できませんでした。するとこの暴力団員は、「今も隠し持っているが、その場所はちょっと言えない」と供述を変えます。さらにその次には「何回も移し替えたので、隠した場所を忘れた」と言い出す始末でした。

一審無罪後、新証拠らしい証拠を提出できずに、検察すら諦めていたといわれる事件です。そしてその有罪の根拠は、変遷を繰り返す暴力団員の証言及び、彼に口裏を合わせるように同じく変遷するそのほかの関係者の証言だけです。

控訴審における、弁護人による尋問に対する暴力団員の証言は次のようなものでした。

暴 「正直言って、この裁判で立たされて、なんで僕が責められないかんのかなーと。」

弁 「いや、責めてるんじゃない。あなたの言い分を聞いているのです。」

暴 「だから、最初簡単な気持ちでポンと言うたことを、今は違うと、お前は全然言うてることが違う、君は全然信用性がないと、言いたいんでしょ。」

弁 「いえ、あなたの言い分を聞いているのです。」

暴 「だったらそんなもん、端から言ってるように、僕は最初の段階はいい加減なことも言ったし、嘘もついたし、そんなもん。だったら、はっきり言ってることを何遍も聞く必要もないでしょ、何も。僕はもう弁護士さんにかまってもらうつもりは、いっこもありませんから。」

有罪判決文には、こう書かれています。

「投げやりともとられるような不真面目な供述態度を取っているのは、弁護人により詳細かつ重複とも思える尋問がなされたこととの関連性も否定できない」

恐るべしです。

再審に際し、検察が開示した証拠により、第三の凶器がある可能性が指摘されています。現場に残された二本の包丁は被害者の家にあったものです。

日本大学医学部教授押田茂實博士の鑑定では、被害者の体に付けられた50ヶ所以上の刃物による刺創のうち、少なくとも2ヶ所は、現場にあった二本の包丁で刺したものではない、という結果が出ました。刺創の深さと入口の長さを測定したところ、どちらの包丁とも合わない、つまり第三の刃物によって生じた刺創であることが判明しました。

「第三の凶器」の存在は何を意味するのでしょうか。犯人は前もって凶器を準備し、この家を尋ねているということです。そして、犯行後に前川さんを見たという証言をする者で、彼が刃物を持っていたと証言する者はいません。

再審開始決定の際には、無罪方向の証拠とされた「新証拠」でしたが、取消決定においては、「解剖時の計測上の誤差」と退けられました。

<論評>
再審請求の際、弁護団は証拠の開示を再三求めましたが、検察は応じませんでした。しかし、異例ともいえる名古屋高裁による二度の勧告により、殺害現場の状況写真29通、物証66点、捜査段階の供述調書など125点が開示されました。特に物証(現場指紋対照結果回答書、被害者が作成し現場で破られて発見された氏名や電話番号メモ、包丁、こたつカバー等を含む)は、有罪判決を受けた控訴審に提出されていれば、判断が変わった可能性があるとして、弁護団は検察の証拠隠しと非難しています。

捜査権力の捜査権限、証拠収集の権限は国民によって預託されたものであり、捜査の費用は税金によって賄われています。つまり、証拠は捜査権力の所有物ではなく、所有権は国民にあるはずです。そこで収集された証拠を開示することなく、有罪方向のものだけを恣意的に選別して、公判に提出するということがなぜ許されるのでしょうか。

郵便不正事件では、証拠の捏造が発覚し、検察は指弾されることとなりましたが、証拠の捏造と無罪方向の証拠を隠すことと、どこが違うというのでしょうか。そうしたことが当然のように常態化していることを、国民は知らず、そして捜査権力も全く悪いことと思っていない、虚構の法治国家に我々は生活しているのです。

前川さんの母親は、前川さんがシンナーに溺れていても、いつも一緒にいて、唯一の味方でした。前川さんは、その母親にすら罵声を浴びせ続けたと言います。シンナーの依存症の治療のために病院の精神科に通うようになり、また非行や暴力事件に絡んで鑑別所や少年院を転々としました。殺人事件が起こったのはちょうどその頃でした。

事件のあった夜、前川さんの母親は、姉夫婦と共に、近くの中華料理店から料理を取り寄せて、前川さんと一緒に食事をしています。誰よりも前川さんが無実であることを知っている母親は、息子に警察の尾行が付いた時ですら「悪い遊びができなくていいわ」と冗談めかして、気に留めなかったそうです。

しかし、控訴審の有罪判決は気丈な彼女を打ちのめしました。裁判所が真実を見誤る、という事態は彼女には受け入れ難いことでした。その後、次第に認知症の症状が出るようになり、寝たきりとなりました。そして再審請求を前に04年6月に亡くなりました。

前川さんの父親は、前川さんが逮捕当時は福井市の財政部長、市の予算を取り仕切る責任者で「親分」とあだ名されていました。将来の市長と目されていましたが、この事件でそれも消えました。辞職も考えましたが、それでは息子の罪を認めることになると、定年まで勤め上げました。シンナー依存症の後遺症で体調がおもわしくない前川さんを支え、彼よりもむしろ前面に出てこれまで冤罪と闘ってきた前川さんの父親も既に80歳。再審開始決定の取消の時はあまりのショックで、報道陣の前に姿を現すことはありませんでした。

戦争と冤罪は国家の犯罪です。そしてその国家に権限を与え、税金を払っているのは我々です。こうした状況を看過することは、我々の責任でもあります。

再審弁護団による再審請求の経過と現状の報告です。

ここをクリック→ 再審弁護団による再審請求の経過と現状の報告

参考資料: 『冤罪File 2011年11月号』 「暴かれた虚偽証言!『福井女子中学生殺人事件』」 里見繁












ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―





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category: 冤罪ファイル

2013/05/09 Thu. 07:00 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

日本は法治国家ではない!

日本は法治国家では無いようです。
実態は以下のとおり酷い。
 虚偽事由で提訴(訴訟詐欺)することは正当な弁護士業務だと主張する黛千恵子(坪田)・坪田康男・八木宏らは、詐欺罪で告発受理(2014~2015)されていたようですが福井弁護士会は、反省も謝罪もせずに知らぬ振りして何らかの処置もしていないようです。
 それどころか、福井弁護士会は、「虚偽事由で提訴することは正当な弁護士業務だ」と議決して擁護(教唆・幇助)し続けているらしいです。
 被害者は、更なる侮辱や訴訟詐欺にあう事を恐れ恐怖の日々を過ごしているみたいです。
 権力を有した組織的な犯罪が放置される中で正義など通用するはずもなく、おそらくは一人ひとりと食い物にされることになるのでしょう。
日本には、国民の安全安心は保障されていないようです。

匿名 #- | URL | 2016/02/13 Sat. 10:40 * edit *

二枚舌を使う者

>原発訴訟団の弁護士島田宏は、「国民の常識が司法に生かされ国民の安全と基本的人権が守られる時代の到来を期待しています」と述べた。 とありますが、そんな発言を本当にしているんですか?
弁護士の島田宏は、「虚偽事由で提訴したり侮辱したりすることは正当な弁護士業務」 と福井弁護士会長のときから胸を張って主張している人物です。
どうして平然とこの様なことを言えるのでしょうか。
しかも、あろうことか 消費者庁消費者教育員の職におり詐欺撲滅をうたい文句にしてるとか。
詐欺の件、疑うのであれば以下の件、本人に確認下さい。

弁護士は虚偽事由で提訴する!
実態は以下のとおり酷い。
 虚偽事由で提訴(訴訟詐欺)することは正当な弁護士業務だと主張する黛千恵子(坪田)・坪田康男・八木宏らは、詐欺罪で告発受理(2014~2015)されていたようですが福井弁護士会は、反省も謝罪もせずに知らぬ振りして何らかの処置もしていないようです。
 それどころか、福井弁護士会は、「虚偽事由で提訴することは正当な弁護士業務だ」と議決して擁護(教唆・幇助)し続けているらしいです。
 被害者は、更なる侮辱や訴訟詐欺にあう事を恐れ恐怖の日々を過ごしているみたいです。
 権力を有した組織的な犯罪が放置される中で正義など通用するはずもなく、おそらくは一人ひとりと食い物にされることになるのでしょう。
人権擁護や正義などは眼中に無いようです。

匿名 #- | URL | 2016/05/13 Fri. 20:36 * edit *

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