「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (318) 「「チョコレート缶事件」と論理則・経験則違背」 8/5/2013 

#検察なう (318) 「「チョコレート缶事件」と論理則・経験則違背」 8/5/2013

(強制捜査から1693日、弁護側控訴答弁書提出期限まで32日)

私の一審無罪を不服とする検察控訴趣意書を読んでいて、私は不思議でなりませんでした。検察は「論理則・経験則違背」という言葉を連呼していながら、その言葉が指し示す事柄は私には全く論理則・経験則に照らして不合理とは思えませんでした。検察は、一審で私の故意性に関して合理的な疑いを越える程度の立証すらできなかったのに、なぜ敢えて一審判決が「誰にでも明らかに間違っている」という主張をするのか分からなかったものです。

それは走り高跳びで、110cmのバーでさえも越えられなかったのに、敢えてバーを130cmに上げてそれを飛び越えようとしているようなものです。

調べているうちになぜ検察が「論理則・経験則違背」という文言にこだわっているかが分かりました。それは平成24年2月13日最高裁判例を受けてのものでした。

その判例が出された事件は「チョコレート缶事件」と呼ばれるものです。この事件は、裁判員裁判において、全面無罪判決が言い渡された第一号事案であるとともに、その判決が事実誤認の理由により高裁で破棄された第一号事案でもあり、これにより被告人が上告したことから、注目を浴びていた事件でした。

事件の概要をかいつまんで説明すると、海外から偽造パスポートの密輸を繰り返していた被告人が、渡航先で偽造パスポートのブローカーから、日本のバイヤーに手土産として持たされたチョコレート缶の中に覚せい剤が隠されていたことが通関手続きで発見されたというものです。その偽造パスポートの運び屋が、覚せい剤を持たされていたことまで知っていたかどうかが争点でした。

一審では、被告人が実際に偽造パスポートを所持していたこと、(偽造パスポートの入った袋はバッグの底に入れていたのに対し)チョコレート缶をバッグの最上部に無造作に収納していたこと、(偽造パスポートの入った袋の開披検査は拒否したのに対し)チョコレート缶のX線検査に躊躇なく同意していることなどから、裁判員裁判により無罪判決となりました。

それを不服として検察が控訴、控訴審では職業裁判官により原判決破棄の有罪判決となったものです。

被告人上告後、最高裁で弁論が開かれることになりました。そこでの弁護人の弁論が振るっています。引用します。

「かつて、刑訴法学者の平野龍一教授が、「我が国の刑事裁判はかなり絶望的である」と述べました。その後、時代は変わり、裁判員裁判が始まりました。一審の審理は、従来の調書に依存する審理ではなく、「見て聴いて分かる」裁判になりました。日本の刑事裁判は大きく変わったのです。しかし、変わらなかったものがあります。それは高等裁判所の裁判官です。本件の控訴審判決を見て下さい。かつて絶望的と言われた刑事裁判の姿が、相も変わらず、我々の前に立ちふさがっているのです。今こそ、「絶望的」と言われた古い時代の刑事裁判とは完全に決別しなければなりません。」

この事件を弁護した弁護人による『「チョコレート缶事件」最高裁判決と弁護活動』と題した資料を添付します。

ここをクリック→ 『「チョコレート缶事件」最高裁判決と弁護活動』

最高裁は原判決を破棄し、一審の控訴に理由がないとして棄却、それにより一審の無罪判決が確定しました。

この最高裁判決に関する解説を、元東京高裁判事原田國男氏の『事実誤認の意義』から引用します。

「最高裁は、その平成24年2月13日判決において、控訴審における事実審査に関する新たな基準を提起した。すなわち、刑訴法382条の「事実の誤認」の意義について、「刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており、控訴審は、第一審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく、当事者の訴訟活動を基礎として形成された第一審判決を対象とし、これに事後的な審査を加えるべきものである。

第一審において、直接主義・口頭主義の原則が採られ、争点に関する証人を直接調べ、その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され、それらを総合して事実誤認が行われることが予定されていることに鑑みると、控訴審における事実誤認の審査は第一審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理的、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって、刑訴法382条の事実誤認とは、第一審判決の事実誤認が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。

したがって、控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。」

これにより実務がどのように変わるべきか、原田國男氏はこう述べています。

「記録により、有罪・無罪の心証を採り、その上で、その心証に照らして、第一審判決に論理則・経験則違反が指摘できるかを検討し、それができれば、心証に応じて第一審判決を破棄することになり、それが指摘できなければ、本判例が適用され、心証に反した結論でも第一審判決を維持せざるをえない。」

ここをクリック→ 原田國男氏『事実誤認の意義』

控訴審裁判体には、一審裁判体のように「予断排除の原則」は適用されず、一審裁判記録からまず自らの心証を形成するであろうことは前回のブログで述べたところです。

ここをクリック→ #検察なう (317) 「控訴審とは」

これまでの実務では、高裁裁判体の心証と一審の判決が異なる場合には、自らの心証に従って高裁裁判体は第一審判決の認定、量刑を変更する場合が多かったようです。これは本来の事後審の在り方とは違っているのですが、事後審のあるべき在り方を確認したものが「チョコレート缶事件」の最高裁判決です。もし一審判決が自分の心証と違っていたとしても、その判決が論理則・経験則違背であることが言えないのであれば、その判決を維持すべきであるというものです。

これが、私の無罪判決を不服とする検察控訴趣意書で検察が「論理則・経験則違背」をむやみやたらと連呼していた理由です。

検察控訴趣意書における彼らの根幹の主張は、「確定申告をする者はすべからく収入を把握しているのだから、自分の収入を理解していなかったという主張は論理則・経験則違背である」というものです。どうも検察は、論理則・経験則違背の意味を十分に理解していないようです。

論理則・経験則違背の実例として好適なのは、陸山会事件に関わる捜査報告書捏造問題で田代元検事を不起訴としたことでしょう。

取調べのプロである検察官の中でもエリート中のエリートの特捜部検事が、その取調べにおいて2日前の内容と3ヶ月前の内容を「記憶の混同」として取り違えたと言い訳し、それをかばう最高検部長が「2日前のことを全て正確に記憶しているか、私でも自信はない」とすることこそが、正に「そんなことありえないだろう」という論理則・経験則違背の実例です。

この言い逃れが通用するのであれば、全ての不合理な言い訳も通用するという排除すべき事例として、『検察講義案』『法曹時報』『刑事弁護』等の文献に納め、後代に残すべきものだと思われます。

私の控訴審は、新たな最高裁判例が実務に影響を与えるのかを見極める重要な意味を持っています。是非ご注目下さい。

8/5/2013














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#検察なう


ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 被告人最終陳述

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category: 刑事司法改革への道

2013/08/05 Mon. 06:30 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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