「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (321) 「そもそも会社に源泉徴収義務はなかったのか」 8/15/2013  

#検察なう (321) 「そもそも会社に源泉徴収義務はなかったのか」 8/15/2013

(強制捜査から1703日、弁護側控訴答弁書提出期限まで22日)

私は、過少申告の事実を知って以来、一貫して過少申告の責任は自らにあるとして、その責任を他人に転嫁することはありませんでした。そして脱税という犯罪に関しては、故意性が要件となるため、わざと過少申告をした事実がないことから、犯罪そのものが存在しないと主張してきました。

過少申告を知った時は、なぜサラリーマンの会社給与が過少申告となるのか最初理解できなかったものの、「給与の一部が海外で支払われていたため、会社に源泉徴収義務がなかった」と言われれば、それを疑問に思うことなく素直に信じていました。この事件を聞いた皆様も、特に税務に専門知識がなければ私と同じ状況だと思います。

果たして海外で支払われた給与に関して会社に源泉徴収義務がなかったのか。調べてみると実は非常にグレーであることが判明しました。結論から言えば「法解釈次第」ということになります。

もし会社に源泉徴収義務があったのであれば、従業員の申告漏れによる脱税という結果は生ずることがなく、過少申告の責任が従業員に帰されることはありません。勿論、私が脱税の容疑を着せられることなど端からありえないということになります。

この点に関し、詳しく見ていきます。

会社の源泉徴収義務は、所得税法第138条に規定されています。

「居住者に対し国内において給与等の支払いをする者は、その支払いの際、その給与等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない」

ここにある「国内において」という解釈が問題となります。国税庁のホームページから、「源泉徴収の対象となる所得の支払地の判定」を参照します。

ここをクリック→ 国税庁ホームページ 「源泉徴収の対象となる所得の支払地の判定」

国内払いの定義として、「支払い事務が国内で取り扱われたもの」とし、「支払い事務」の内容としては「支払い額の計算、支出の決定、支払資金の用意、金員の交付等の一連の手続き」を挙げています。

クレディ・スイス証券における雇用契約ほか会社文書で明らかなところは、従業員に対して株式報酬を支給するか否か、支給するとしてその支給額を決定するのは日本法人たるクレディ・スイス証券でした。株式報酬は日本法人の親会社であるクレディ・スイスグループAGから支払われていましたが、その費用は日本法人たるクレディ・スイス証券が実質的に負担しており、権利付与された株式報酬の支給に備えて引当てまで積んでいました。

即ち、先の「支払い事務」の中で、日本法人は「支払い額の計算、支出の決定、支払資金の用意」まで行い、最後の「交付の事務」だけを海外法人で行っていたものです。実質的には国内払い、形式的には海外払いというのがクレディ・スイス証券における株式報酬支払いの様態でした。

税務の取扱いは実質に基づくことが税務制度の本来の姿であるべきだということは、国税局も理解しているはずです。

形式的に給与を海外払いとすることで会社に源泉徴収義務がなくなるのであれば、会社は給与払いの事務を海外子会社に委任することにより、会社は源泉徴収義務を免れ、給与の見かけ額を増やすことができます。過失ないし故意の過少申告により所得税の取りっぱぐれすら頻発するリスクがあります。

そもそも源泉徴収という給与所得者に一律適用されるべき制度に例外規定を設けることは、税務の基本理念である「公平・中立・簡素の原則」にもとるものです。

それでもなぜ国税局が特殊な税務を認めたがるかという理由は、より多くの過少申告加算税を取りたいからという役所の都合だと思われます。現在ではクレディ・スイス証券を含む外資系金融機関の多くが株式報酬の源泉徴収を行っていますが、依然源泉徴収をしていない外資系金融機関には株式報酬の支払状況の報告義務を課しています。本来あるべき源泉徴収義務を会社に課すことなく、税務署はその報告と個人の申告をチェックして申告漏れを見つけ、過少申告加算税を徴収しようとするものです。その発想は、スピード違反のネズミ取りと同じく、エラーを起こしやすい状況を狡猾に利用するものです。

実質的な支払者である会社に源泉徴収義務があるとする議論は十分に有効なもので、弁護団もこの論点には早くから注目していました。法務・コンプライアンス本部長の証人尋問前には、一審裁判体にこの論点の報告書を提出し、尋問における重要ポイントとして注意喚起を行っています。

しかし、弁護団は敢えてこの論点を法律上の争点として公判で主張することはしませんでした。それはなぜか。それは、法律上の解釈で無罪を主張する姿勢は、故意があるとされた場合の防御壁のようにも映り、弱腰の印象を与えかねないと判断したためです。私の故意性の有無という最重要事項に論点を絞り込み、真正面から中央突破を狙った弁護方針でした。

私に無罪判決を下す場合には不要な論点ですが、私を有罪にするためにはこの会社の源泉徴収義務に関する法的判断は避けられないものです。脱税事案を多く手掛けた一審裁判体は、賢明にもこの法的判断について判決文で一切言及していません。傍論として安易に法解釈を示せば、大きな影響があることを十分理解しているためです。そうした背景も理解せず、控訴趣意書にて一審裁判体を「確定申告制度すら理解していない」という暴論を吐く検察のセンスのなさは驚く限りです。検察は彼らの控訴趣意書でも、有罪を求めるのであれば不可欠な、会社に源泉徴収義務がなかったことの論証を一切していません。検察こそが確定申告制度を理解していないものです。

役所のご都合主義の恣意的な法解釈を許すことなく、正しい税務制度のために、私の公判での結果を越えても、議論を尽くすべき論点かもしれません。

8/15/2013













ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―





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category: クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

2013/08/15 Thu. 06:00 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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