「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (338) 「虚偽自白について」 10/17/2013 

#検察なう (338) 「虚偽自白について」 10/17/2013

(強制捜査から1766日、控訴審初公判まで29日)

「虚偽自白」。文字通りそれは「真実とは違うことを自ら白状する」ことを意味します。PC遠隔操作事件以来、最近の流行り言葉のようですがそれを聞いて皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。何か拷問に近い肉体的あるは精神的に苦痛を与えられて追い詰められ、捜査当局の言うがままの白状を強要されるシーンを思い浮かべるでしょうか。

虚偽自白を防ぐ手立てとして、前2回のブログで論じた取調べの可視化が有効であると思われている方も多いのではないでしょうか。あるいは「自分は真実を貫くため絶対屈しない。虚偽自白なんかしない」と思う方もいるかもしれません。

虚偽自白のはっきりとしたデータがあるわけもないのですが、私は虚偽自白の多くは自発的なものであり、何ら強要されることなくなされると考えます。虚偽自白がもし自らの意思でなされた場合、取調べをいくら可視化したところでこうした虚偽自白は防ぐことができないことはお分かりかと思います。

映画『それでもボクはやっていない』の一シーンをそのシナリオ原稿から拾ってみます。

警察署内の留置所、いわゆる「代用監獄」の接見室で主人公の徹平と国選弁護人の浜田が接見するシーンです。

徹平 「(刑事が)嘘をつくな。このまま裁判になっても勝ち目はないぞ。認めて罰金を払ったらすぐ出してやる。そればっかりだ。だけど本当にやってないんだ」
浜田 「・・・・・裁判は大変だよ」
徹平 「・・・・・?」
浜田 「はっきり言うけど、この種の軽微な事件でも、否認してれば留置場暮らしだ。裁判にでもなれば、被害者証言が終わるまで、へたをすれば三ヶ月くらい出てこられない。僕は半年勾留されてた人を知ってる。当時、認めりゃ罰金五万円の事件だった。その上、裁判に勝てる保証は何もない。有罪率は99.9%。千件に一件しか無罪はない。示談ですむような痴漢事件で、正直、裁判を闘ってもいいことなんか何もない」
徹平 (唖然としている)
浜田 「もちろん、弁護士として、やってはいない罪を認めろと勧めることはできない。でも、これが日本の現状だ。認めて示談にすれば、誰にも知られず、明日か明後日には、ここを出られる」
徹平 (じっと弁護士を見て、言われていることの意味を理解しようとするが、頭が混乱している)
浜田 「いいかい、このまま否認してれば、三週間はここで取調べを受ける。それで起訴されれば裁判だ。無罪を争えば、まず一年はかかる。その上、本当に無実でも、無罪になる保証はない。今認めて示談にすれば、それでお終いだ」
徹平 (あまりの展開に唖然として声も出ない)
浜田 「示談するなら、すぐにお金が要る。誰か身内でお金を用意してくれる人はいるかな」
徹平 「・・・・・やってないんだ」
浜田 「(徹平の切実な言葉に)そうだね。悪かった。だけど裁判は大変だ。多分、君には想像できないくらいに」

ここをクリック→ 周防正行監督 『それでもボクはやってない』 予告編

私も、全く同じ経験をしています。刑事告発された後、人づてに紹介された弁護士と会いました。彼が私の説明を聞いた後に言った言葉は「ご存知かどうか分かりませんが、刑事裁判では無罪を取ることは非常に困難だというのが現実です。積極的に勧めるわけではありませんが、納得することも必要です。痴漢の冤罪と同じですよ」というものでした。

私は、その瞬間に「こうして冤罪というものは作られるのだな」と冤罪製造のシステムを見切ったと直観しました。社会そのものが冤罪を作るマッチポンプとなっています。弁護士のような「物が分かった人」に言われれば、仕方ないと不本意ながらも虚偽の自白をする人は少なくないのではないでしょうか。

「自分は絶対真実を曲げて自白はしない」と思っている人も、もし否認をすることで数ヶ月間逮捕勾留され、仕事を失い、その後も裁判で多大な時間とお金を失うことになり、しかも無罪を得ることは絶望的に低い確率であることを知れば、気が変わる人もいるのではないしょうか。

それが「人質司法」と言われるものです。

その具体例です。PC遠隔操作事件の公判前整理手続後の弁護団による記者会見の一幕です(1分動画、9/24/2013収録)。

ここをクリック→ PC遠隔操作事件に見る人質司法

また郵便不正事件でフロッピー・ディスクのデータ改ざんをした前田元検事を犯人隠避した罪により一審、二審ともに有罪、上告を断念して有罪が確定した大坪弘道元大阪特捜部長の著書『勾留百二十日 特捜部長はなぜ逮捕されたか』には、検察が自白を得る手段として「人質司法」を活用している様が現場にいた人間の言葉で生々しく書かれています。

「否認する被疑者の保釈を阻み、長く拘置所に閉じ込めておくのは、検察の常套手段である。これを人質司法という。否認を続けると保釈が容易に認められず長く勾留されてしまうのでは......という被疑者の不安・恐怖心理を利用し、自供を迫る。それをほのめかすか、暗黙のうちにやるかは人それぞれだが、これは検察官の大きな武器である。弁護士接見の拡大、被疑者国選弁護人制度の導入など、検察に対して種々の掣肘(せいちゅう)が加えられる中にあって、ある意味で検察に残された唯一のカードがこの人質司法である」

「人質司法」は否認をしている被疑者の自白強要の手段として捜査当局に使われていますが、その実態を知った被疑者がそれを怖れて避けるため、自発的に虚偽自白をする要因にもなっています。

「人質司法」を是正するには、この誤った刑事司法手続きに数多くの被疑者が累々と身を投じ、その犠牲者が声を出し続けて、社会が「人質司法」を許さないという沸点に達するまで我慢し続けるしかないと分かっています。また、それを怖れて虚偽自白をすることは「人質司法」を許すことに等しいとも思います。しかし、現状の刑事司法で無実の者が否認をすることのダメージは、その期待リターンに比してはるかに大き過ぎます。

逮捕されずに、そして無罪判決を得た私ですら、いや敢えて言うならそうした私だからこそ、逮捕され、しかも無念の有罪判決となった人たちの苦難が分かります。それを考えると、「無実ならそれを貫くのがあるべき道だ」と安易に言えない自分がいます。

私が否認をすることを決意したきっかけは、虚偽自白を勧めてくれた友人のおかげです。告発の報道の後、「やってないんだ」と言う私に、友人の多くが「それなら認めちゃだめだよね」と言ってくれました。その中で一人だけ、彼の知り合いの弁護士に話をして、私に連絡をくれました。

「おっさん(彼にかかると仲のいい年長者はみんな「おっさん」呼ばわりです)否認してたら逮捕されるよ。風河(私の息子の名前です)のこと考えたら、絶対逮捕は避けた方がいいって。また報道されるし。慎重になった方がいいよ」

私もそうした事情は知っており、彼の言葉までは逮捕に正直ビビってました。でも「息子のことを考えたら」という言葉でむしろふっ切れました。しかし、いまだにその決断が正しかったかどうか迷いが全くないわけではありません。もう5年も正義を求めて戦っていますが、さっさと諦めて仕事をしていればよかったのではないか、と考えることもあります。やってないことはやってないとしか言えない選択以外自分ではできないことは百も承知しているのですが。

自分にそうした迷いがあることが、人にも「無実なら否認を貫くべき」だと強く言えないことにつながっているのだと思います。

「人質司法」を怖れて無実でありながら自発的に虚偽自白をすることが、冤罪の温床になっていることの決定的な打開策を私はこの時点では持ち合わせていません。是非、皆さんもこの問題をご理解頂き、一緒に考えて頂ければと思います。

10/17/2013












法廷画が冊子化されました。正(第2回公判~第7回公判、400円)、続(第8回公判~第11回公判無罪判決、500円)の2冊です。代金(実費)は、無償で法廷画を描いてくれた漫画家にカンパされます。ご希望の方は sienhatta@gmail.com までご連絡下さい(送料9冊まで80円、10冊以上160円)。

#検察なう


ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―





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category: 刑事司法改革への道

2013/10/17 Thu. 04:02 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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