「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (344) 「郵便不正事件の真相は今も隠されたまま~村木厚子氏著『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』を読んで」 11/7/2013 

#検察なう (344) 「郵便不正事件の真相は今も隠されたまま~村木厚子氏著『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』を読んで」 11/7/2013

(強制捜査から1787日、控訴審初公判まで8日)

郵便不正事件は、私にとっても個人的につながりの深い事件です。2010年9月の村木厚子氏無罪判決を報道で知ったバンクーバーにいる私に、私の弁護人である小松先生が電話口で「八田さん、神風ですよ!」と言ったことを覚えています。

その時はどのような影響があるかピンと来ていなかったのですが、振り返って考えると、もしこの事件が1年早ければ、私は刑事告発されることはなかったでしょうし、もし1年遅ければ私は逮捕され、「#検察なう」も生まれず、全く違った公判の戦い方になったと思われます。(注1)

この10月25日に上梓されたばかりの、江川紹子氏が構成を手掛けた村木厚子氏著『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』を手に取り、ページをぱらぱら繰って驚いたのは、村木氏の部下で公文書偽造の罪で有罪判決を受けた上村勉氏の写真が目に入った時です。この本には、江川氏が進行を務める村木氏と上村氏の対談が第二部に収録されています。

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郵便不正事件においては、公文書偽造が上村氏の単独の犯行であることは知られていますが、村木氏の無実ばかりがフォーカスされるあまり、彼が事件にどのように関与していたのか、あまり知られていないのではないでしょうか。少なくとも私は、この対談を読むまでは理解していませんでした。私の上村氏のイメージは、偽の障害者団体と結託した悪い奴というものでした。

その彼が、村木氏と対談をするということに驚きました。そしてその対談を読んで、私の認識が完全に間違いであったと理解しました。彼は何ら利益を得ていたわけでもなく、ただ単に偽の障害者団体に騙されて証明書を発行しただけでした。その際に、あまりの業務の忙しさに、適正な手続きを端折って、証明書を発行してしまったものです。そこには悪意はありませんでした。

あれだけ世間を騒がした大事件の郵便不正事件ですから、さぞかし凶悪犯罪があり、その犯罪に無実の村木氏が巻き込まれそうになったと思っている人は多いのではないでしょうか。しかし、その事件そのものは、偽の障害者団体が郵便料金の優遇を得ようと虚偽の申請をし、それに騙された厚労省職員が証明書を発行したというものです。

その証明書発行の際、ただ単に適正な手続きを踏まなかった単純な事件を、彼の上司である村木氏を巻き込み、更にその証明書発行の背景が政治家の便宜を図ったという凶悪犯罪の構図に仕立て上げたのは、検察特捜部の壮大な幻想であったというのが事実です。火のないところに煙を立てたのが検察特捜部です。上村氏も検察のストーリーに沿う虚偽の自白を強要された被害者と言うべきだと思います。

対談の一部を引用します。

上村 「逮捕から数日して、村木さんの名前が出てきました。僕は単なる駒で、本当のターゲットは村木さんや石井議員なんだな、と分かってきて、事件が実際よりはるかに大きなものになって、自分に迫ってきました。でも、どうしてこんな大ごとになっているのか、自分ではさっぱり分からない。」

江川 「そもそも上司からの指示があるなら、こっそり証明書を作る必要もなかったわけですよね。」

上村 「そうです。課長(注:村木氏のこと)が了解している話なら、僕だって自分でやらないで、部下に任せますよ。けれども部下の係員が二人とも異動したばかりで、彼らに任せるのは酷かなと思って自分で抱え込んでしまったのです。僕が自分で証明書を作ったのは、前任者からの引き継ぎもないし、凛の会(注:偽の障害者団体)側の態度からして、前任の対応に不満があるようだったので、僕がやらないとまずいなと思ったからなんです。ただ予算の仕事もあって先送りしているうちに、催促もあり・・・・。障害者団体がまさか悪いことをするとは思っていなかったし、障定協(注:障害者団体定期刊行物協会)から「営利目的には使わないという念書を取ってあるので、証明書を出してください」という紙も来ていたので、課長が出すのも、僕が作って出すのも同じだろう、少しでも負担を減らせるならば、障害者のためになるだろうと、安易な気持ちになって、作ってしまった。それが真相です。」

江川 「ですから、書類は一応整っていたんですよね。なのに、決裁などの手間を惜しんで、必要な手続きを省略してしまったという、単純な事件です。」

上村氏の言葉に表れているように、偽の証明書発行をした彼に悪意がないのは明らかです。上村氏は、検察の取り調べで村木氏が関与していたという虚偽の供述調書を取られますが、それを公判での証言で自らの過ちを訂正しました。

「どうしても、自分が一刻も早く拘置所から出たいという、他人を犠牲にしてでも、自分のことばっかり考えるようになっていく、そういう卑しい自分になりました」と証言する上村氏を傍聴していた村木氏の次女が、「上村さんに、『もう怒ってないよ』って言ってあげたい」と言ったというエピソードもこの本には書かれています。

郵便不正事件では、証拠の中にあったフロッピーディスクのプロパティの日付が、検察の描いたストーリーと矛盾するため、主任検事であった前田恒彦元検事がその改竄をしたということが大きく取り扱われ、前田元検事は逮捕、実刑に処せられました。しかし、そもそも事件のないところに事件を作り出した検察特捜部の捜査のやり方や、無理矢理そのストーリーに合わせた自白を強要して供述調書を作った取調べの是非は全く不問に付されています。

郵便不正事件後の調査には第三者を入れることなく最高検自ら行っていますが、その調査は事件を矮小化して、責任逃れをしている以外の何物でもありません。

検察組織に、郵便不正事件を総括する自浄作用がなく、メディアもそれを報じないという事実は、我々国民にとって悲劇としか言いようがありません。そして事件の実態を知るには、当事者と意識の高いジャーナリストによる検証を待つしかないというのが現状です。

付録として上村氏の被疑者ノート(注2)もあります。
「だんだん外堀からうめられている感じ。逮捕された私から村木の関与の供述が得られれば検察のパズルは完成か。」
「検事のいいところどり作文→こういう作文こそ偽造ではないか。」
「夜一人になると動悸がして絶望感におそわれる。」
「罪のない人をおとし入れることになりはしないか、そのことを私が一生背負って生きていかなくてはならないと訴えたが全々まともにとりあってくれない。」
「眠い。けど眠れない。一人になると心臓がドキドキしてパニックになる。」

非常に生々しい告白です。私も検察の取り調べの過酷さはよく理解しています。

「おわりに」で、村木氏はマスコミ、メディアに関して、「「制度改革」ではなく、まさしく、自らの努力に期待するほかありません」と述べていますが、私は若干異なる意見です。私は捜査当局のリークを厳しく取り締まるべきだと思います。

国家公務員法の第100条1項に「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」とされ、それに違反する者は一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金(第109条12号)とされている以上、捜査当局のメディアへの捜査情報のリークは明らかに違法です。

秘密保護法などという得体の知れないものを作る前に、既存のルールの枠組みの中で人権を守ることを国民に約束するのが筋というものだと思います。

この本は是非、全ての刑事裁判官の方々に読んでほしいものです。そうすれば、検面調書の特信性(注3)などは危なかっしくて容易に認められるものでないことが分かってもらえると思います。

江川氏は「<解説>真相は今も隠されたまま」と題する論考の最後を以下の文で結んでいます。

「密室での取り調べがもたらした、村木氏の冤罪事件。その真相は今なお、検察の密室の中にしまわれたままだ。」

それでもなおこの書はその密室の中の真相に迫る良書だと思います。是非お手に取って下さい。

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (327) 「「クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」とはどういうものであったか」

(注2)
弁護人が被疑者に取調べ内容を備忘としてつけてもらうもの。
ここをクリック→ 日弁連 「被疑者ノート」

(注3)
この本では要所要所に江川氏の解説が加えられており、読み応えのあるものになっています。

「特信性」について
「捜査段階の調書は、弁護側の同意がなければ証拠採用されないのが原則。ただし、検察官作成の調書の場合、法廷での証言より調書の方を「信用すべき特別の情況」(特信性)があると裁判所が判断した場合に限り、例外として証拠採用できることになっている。この規定が刑事訴訟法三二一条一項二号の規定に書かれていることから、法律家の間では、「二号書面」と呼ばれる。
建前上は「二号書面」の採用は例外扱いだが、実際の裁判では、検察側が請求すれば証拠採用されるのが当たり前になっている。「信用できない特別の情況」があった場合のみ不採用となるのが現実、と言っても過言ではない。」

11/7/2013












法廷画が冊子化されました。正(第2回公判~第7回公判、400円)、続(第8回公判~第11回公判無罪判決、500円)の2冊です。代金(実費)は、無償で法廷画を描いてくれた漫画家にカンパされます。ご希望の方は sienhatta@gmail.com までご連絡下さい(送料9冊まで80円、10冊以上160円)。

#検察なう


ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―





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category: 刑事事件一般

2013/11/07 Thu. 00:57 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

「密室における取り調べ」が問題視されている中、裁判官も検察が
どのような取り調べをして検面調書を作成しているのかなど理解して
いると思います。分かっていても知らぬ振りをしているのだとも思って
います。所詮ひと事なのだと・・・それがいまの司法の現実だとも思っています。裁判官が検察官にどのような取り調べを行ったのかなどと
裁判で質問した話しなどまず聞いたことがありません。これも裁判官と
検察官の暗黙の了解なのだろう…と思います。村木事件然り遠隔操作誤認逮捕
事件然り、日本全国、同じような取り調べ同じようにして「検面調書」を作成し事件を創り上げていく構図は変わらないのだと思います。
違法な取り調べをしようが作文しようが検察官が罪に問われることなど
ほとんどありません。稀に運が悪く捏造が発覚した場合にのみ糾弾されますが、どの検察官も同じようなことをしているのではないか?それが実態なのではないか?八田さんもそう思われているのではないですか?
上村さんが述べているように真実を訴えても全然まともに取り合ってくれない…いいとこ取りの作文…これが現実です。人を罪に落し入れるための作文調書は
罪にならないのか?「検面調書」優先で判決が決まる現実…中世の裁判司法と
揶揄されても当然だと思います。
八田さんのブログを見るにつけ少しでも早く全面可視化、弁護士立会いの
取り調べ、人質司法の見直しなどと共に検察官の横暴を防ぐためにも
違法な取り調べがあった場合の刑罰の立法化を急いでほしいと願います。
八田さんの控訴審まで一週間余り、良い結果となりますように!


名無し #- | URL | 2013/11/07 Thu. 13:57 * edit *

冤罪の生まれる理由

 こんにちは。フォローしているツィッターで2ヶ月ほど前にこちらのページを知り、最近通っている、家賃減額裁判(ツイッター名)です。自分が株式相場で力の無さを思い知らされている関係で、「優秀そうな相場関係者が、冤罪問題の世界に!八田様には気の毒だけど、社会にとっては希望の星では!!」と期待しています。
 昨晩、私は、2chまとめで「痴漢冤罪で勤め先と妻子、130万円の費用を失った」という方の記事を読み、怒りのあまりに家にあったお菓子を片っ端から食べてしまい、「メタボが・・・」と後悔しました。痴漢冤罪というものが、たくさんの悲劇を生んでいて、それを無くすのは難しくはないことなのに、社会の有力者の人たちが、誰も何も言わないことに、私はいつも、怒りを感じています。
 私が「冤罪を生む大きな理由」と考えていることが、八田様が「刑事司法のことを知れば知るほど、市民感覚ではありえないことが起こっていることを目の当たりにして」とおっしゃっていることと、ズバリ通じていると感じたので、ここにコメントさせていただきます。
 まともな市民感覚では、「女性が痴漢だと名指ししただけで、問答無用で有罪」となる痴漢冤罪が、日本に、当たり前のように存在できる理由は理解できないと思います。そんな暗黒裁判のような状態が放置されているのは、状況を改善できる力のある人たちが偽善者ばかりで、女性の敵と思われたくないために口をつぐんでいるせいだという理由によるものでしかなく、状況そのものは簡単に改善できることでもあるのですが、ここでは関係ないので、書きません。
(私がもしその社会的立場にあったら、痴漢冤罪など一瞬で1万分の1にできます。誰にでもできることです。この問題に口を出すと自分の損にしかならないと値踏みして、地位や立場のある人で、自分的には損でも正義のために問題に触れようという人がいないだけです。たいていの社会問題は、人々の自己保身のために放置され続けているだけです)
 八田様は、何人もの人たちの人生を破綻させている痴漢冤罪、それを生む「痴漢認定の基準」が、どういう思想の元に決定されたか、ご存知ですか?私も、かつて読んで「嘘だろ・・・・」と絶句したのですが。
 痴漢は、女性が痴漢だとして名指しすると、それだけで事実上有罪です。触っていないことを証明するのが、事実上不可能だからです。そして、痴漢犯罪の取り扱いが、そう決められた基準の根拠は「女性にとって、痴漢されるということは非常に恥ずかしいことで、その恥ずかしさを乗り越えてまで、痴漢だと言うのだから、真実に違いないから」と、警察だったか(ずいぶん前に読んだ記事なので、具体的な地位は忘れました。出版経由の情報なので、著者が間違っていなければの話ですが)の偉い人が考えたから、だそうです。
 こういう状態が始まったこと自体は、自分が女性だということを売りにしている活動家の人の、勝手な、委任状を出したわけでもない一般女性の代表と称しての運動の結果なので、警察の偉い人だけのセンスというよりも、「警察の偉い人」と「活動家の人」という、世間の常識とはかけ離れた感性の人たちが、完全に女性を馬鹿にし、差別している「女性は保護対象」という視点においてだけ、ぴったり気が合った結果なのでしょう。
 いったい、現在日本社会のどこに、「痴漢されたことが恥ずかしい」と思う女性がいるのでしょうか。私も女性で、高校生時代には痴漢にあいもしましたが、確実にその手を確保、車内で赤恥をさらしてやるのを楽しみにしていました。それって、30年も昔のことです。私だけじゃなく、そんなに昔の偏差値上位校でも、痴漢に触られることを恥ずかしいとか、知られたないとかいうクラスメートなど存在しませんでした。その頃よりもずっと女性が開放的になった現代で、どこに、「恥ずかしくて言えない・・・」なんて女性がいる可能性があるのか、警察にとってだけは、日本はイスラム国だったのか?という感じです。
 サラリーマンが同僚とつるんでいるように、警察官も同僚とつるむので、仲間内の常識が、一般社会と離れていても気がつかず、警察内部の基準を決める偉い人たちは、隔離された状態で何十年もすごして、ほとんど化石のようになっているのだろうと思います。
 でも、人間社会において、考え方が現実とかけ離れて行く人たちがいるのは当然のことです。私としては、いちばん悪いのは、「自分の損になりそうな正義感は持たないようにして、自己保身に徹し、誰からも嫌われないことだけに全力を尽くす人しか、決定権を持てるような立場にはなれない現在の社会であり、発言の価値を発言者の地位でしか見ない一般の人たち」だと思います。
 いい加減、人間についてる値札だけで発言の価値を値踏みするのをやめて、自分の頭と常識で、何が正義なのか考えませんか? そして、自分で考えた結果を、発言したり、支持したりしませんか? と、私は思います。

家賃減額裁判 #MSC2Ux4E | URL | 2013/11/08 Fri. 11:48 * edit *

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