「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (356) 「調書主義と対抗する方法」 12/19/2013 

#検察なう (356) 「調書主義と対抗する方法」 12/19/2013

(強制捜査から1829日、控訴審判決まで43日)

裁判官と掛けて、ヤギと解く。そのココロは。

「どちらも紙が好き」

私はヤギに餌をやった経験がないので、彼らが本当に紙を食べるのかは分かりませんが、裁判官は相当に紙、即ち書証(書面による証拠)が好きです。

一般人の私が刑事司法の世界を覗き見ると不可思議なことが多いのですが、控訴審直前にも驚かされることがありました。それは期日前協議(公判の前に行われる裁判官、検察官、弁護人による三者協議)がないと知った時の、私と主任弁護人の小松正和弁護士とのやり取りでした。

私「全く弁護人や検察官から話を聞かないというのは、勿論、その必要がないくらい明らかということなんでしょうが、それでも膨大な資料を読むより直接当事者の話を聞いた方が早いでしょ」

小松先生「八田さん、裁判官にその感覚は全くありませんよ。それでなくても「書面で提出するように」と言いますから」

仕事をしていて山ほどの書類を前にすると、それを読むより、自分よりよく事情を知る者に聞いたり、担当者に直接聞いたりする方がよほど効率的だと思うのが一般的な感覚なのではないでしょうか。ところがそうした感覚は裁判官には一切ないようです。

上訴となれば、証拠は全て記録上残されて引き渡さないといけないという事情は理解します。しかし、書面の方が本人の言葉より信頼できるという理屈は全く理解できません。その根拠は、「公開の法廷より密室での検察官との取調べの方が本当のことを言い易い」というものです。「なんだかなあ」です。

調書を重視することは「調書主義」と呼ばれますが、それに対する概念は「口頭主義」です。

「あんたはそう言ってるけど、ここにはこう書いてあるんだよ」というのが調書主義で、「ここにはこう書いてあるけど、本当のところはどうなの」というのが口頭主義です。

調書主義を理解する検察は、被告人を有罪にするという目的を達成するためにそれを最大限に利用します。起訴となれば公判で被告人を有罪とするための調書作りが、検察の取調べの目的と言っていいものです。

笠間元検事総長が就任当時に、検察の調書至上主義に対し警鐘を鳴らしましたが、それは実態がそうであることの証左であり、検察が公判を勝ち負けのゲームと考えている以上変わるものではありません。

ここをクリック→ NHKニュース『笠間検事総長「調書至上主義改めよ」』

密室の中で弁護士のアシストもなく強権的な取調べが行われ、検察の恣意的な作文によって公判での最重要証拠が作られるという状況をいかに克服するべきでしょうか。

さらに弁護側にとって飛び越えなければならないハードルがあります。それが「伝聞例外」の問題です。

被告人や証人の供述調書は「伝聞証拠」とされています。そこでは見間違い、記憶違い、言い間違いや嘘をついている可能性があるため、原則これを証拠とすることはできません(刑事訴訟法第320条)。調書が証拠採用されるには対立当事者の「同意」が必要であるのは、それが原則的には証拠にできないからです。

そのことから調書が「不同意」とされれば、公判で被告人質問や証人尋問を行って調書の内容を再現することを試みることになり、調書は公判に証拠採用されることはないはずです。しかし、実際はそうではありません。刑事訴訟法第322条に定められた「伝聞例外」のケースでは、「不同意」とされた検面調書が証拠採用されることになります。

その「伝聞例外」のケースとは

1 被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき。

または

2 特に信用すべき状況の下にされたものであるとき。

というものです。

「または」で結ばれているのが曲者で、普通の感覚であれば調書が証拠となるには「特に信用できる状況」で作成されたものだと思われますが、この条文の意味するところは、「被告人に不利益な事実」が調書に記載されてしまうと、「特に信用できる状況」で作成されたものでなくとも、公判で証拠採用されるというものです。

つまり調書が「伝聞証拠」であり、原則証拠採用されないというのは法律論の建前に過ぎず、被告人に不利な事実が記載される検面調書は証拠採用されるというのが実態です。

これは非常にゆゆしいものです。検察の取り調べで一旦自白調書を取られると、いかに弁護側がそれを不同意にしても証拠採用され、かつ公判で被告人が否認しても、調書の方がより信用され「一旦認めたんだから有罪」という状況になるという事態を招きます。

それほど被告人取調べ調書の影響はパワフルです。

それなら検察に調書を作らせなければいいと黙秘を勧めることが弁護戦略として考えられます。私はそれにはあまり感心しません。黙秘を貫くことは、それほど簡単ではありません。やはり人間は間違った嫌疑をかけられると弁明したくなるものです。そして何より裁判官の心証が悪くなるリスクがあると思います。「どうせ自分に都合が悪いから反論できないのだろう」と邪推されかねないものです(黙秘権は被疑者・被告人の正当な権利であり、黙秘に対する予断は排除されるべきという建前論はあるとは思いますが)。

是非弁護士の方々に考えて頂きたいのが「署名拒否作戦」です。被疑者・被告人に黙秘をさせるのではなく、思う存分取調べを受けさせ、その供述を調書として証拠化した上で、署名だけをさせないというものです。調書に署名、押印さえしなければ、その調書が「伝聞例外」の適用を受ける「被告人の署名若しくは押印のあるもの」とならず、いかに不利益な事実が記載されても、弁護人の同意なしに公判で証拠提出とされることはありません。そしてその調書は「一部不同意」にして存分に弁護人が一部墨塗りによる作文をするとことができます。検察官の作文には弁護人の作文で対抗です。そのためには調書に署名をさせないことが必要です。

関係者証言の甲号証の(弁護側「不同意」でも証拠として採用される)いわゆる「二号書面」化を防ぐことは(関係者に署名拒否をさせるのは相当至難の業だと思われますので)無理としても、被告人の乙号証の「伝聞例外」化をこれにより防ぐことができます。

この作戦は相当効くはずです。私も検察特捜部の取調べで一度だけ署名を拒否したことがあります(注)。その時の検察官の「署名をしないとなると、取調べをする必要があるかどうかともなりますが」という言葉は、調書に署名をしなければ取調べをする意味がないとまで彼らは考えているということです。そのため検察官は相当執拗に署名を迫ってくるはずです。その脅迫・恫喝に被告人が耐えることができるかどうか、弁護人は被告人をいかにサポートできるかがこの作戦の成功の鍵です。

また、逮捕をされると弁護活動が著しく困難になります。そして、否認しながら逮捕されないようにするということは相当難しいものです。もし逮捕前の弁護で被疑者が否認する場合には「逮捕されたら調書には署名させない」と書面で申し入れるのもいいかもしれません。

私は完全否認+無職+海外居住でありながら、奇跡的に逮捕されることはありませんでした。それは記者の方に「戦後初めてではないですか」と言われたくらい稀有なことです。その理由にはいろいろな要素がからんでいると思われますが、検察取調べ開始時に、小松弁護人が「逮捕されたら署名させない」と示唆していたこともその一因かもしれません。

刑事弁護をされる弁護士の方々はこの「署名拒否作戦」を是非御一考下さい。

(注)
ここをクリック→ #経過報告 (60) 「検察取調べ第十五回で大バトル」

12/19/2013














ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―

ここをクリック→ #検察なう 冤罪と戦う八田隆を支援する会





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category: 刑事司法改革への道

2013/12/19 Thu. 00:04 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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