「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (358) 「刑事弁護に勝機あり~攻めに弱い検察」 12/26/2013 

#検察なう (358) 「刑事弁護に勝機あり~攻めに弱い検察」 12/26/2013

(強制捜査から1837日、控訴審判決まで35日)

刑事裁判の有罪率が99.9%を越えることは(少なくとも法曹関係者には)広く知られた事実です。それゆえ、刑事弁護と言えば「どうせ勝てない」と諦めがちなのではないでしょうか。公判は真実を見極める場ですが、もし勝ち負けのゲームだとしても、私は弁護側にも十分勝機はあると考えます。

私のケースでは、国税局査察部と検察特捜部は、そもそも見つかるはずのない私の故意性に関する決定的証拠を見つけるため、強制捜査から検察取り調べ開始まで3年近くを要しました。そして公判に提出してきたのは、箸にも棒にも掛からない証拠の山でした。その鼻クソのような証拠の中で、一応最ももっともらしいものが「ストックオプション行使書に引いた斜線」でした。

会社の給与の一部であった株式報酬を私が故意に申告しなかったというのが検察の主張です。株式報酬の大部分は現物株でしたが、一部ストックオプションも含まれていました。税務調査開始時には、私はストックオプションをもらったことすら忘れていました。

現物株と異なり、ストックオプションの場合には、「行使する」という意思表示の契約書が交わされることになります。そして問題とされたのは、次の文言を含む設問全体を斜線で消去していることでした。

"only applicable if there is a tax withholding obligation on the exercise of Options"

この英文を読んで、この文言を含む設問に斜線を引くことが、検察の主張する脱税の故意性の証拠であるとにわかに理解できる人はどれだけいるでしょうか。

検察のストーリーは、「『オプション行使に際し(会社が)源泉徴収をしている場合のみ』という文言が含まれた設問を斜線で消去している」→ 「会社が源泉徴収をしていないことを理解していた」→ 「故意の脱税」というものでした。

こんなものが一番有力な証拠であれば、そのほかの証拠がいかにショぼいものかお分かりになって頂けると思います。

このストックオプション行使書に関しては、実際には私は、シンガポールの株式報酬担当者に電話をして、彼女の指示通りに記入しました。設問に斜線を引くということも、誤記入を避けるためと思われる彼女の指示でした。

14ページの英文の契約書を読み解くには、優に30分はかかります。仕事と全く関係のない総務関係の書類を自分で読んで理解するより、顔見知りの担当者に電話をして、記入の仕方を聞く方がよほど効率的だと思います。そうすればものの3分で事は済みます。それは、仕事に忙しいサラリーマンであれば実に合理的な行動だと思います。そして私はその通りの行動を取りました。

そのシンガポールの株式報酬担当者は、中国系シンガポール人で日本語が話せません。彼女は来日して検察特捜部の取調べを受けました。そして彼女の供述調書が検察により証拠調請求されました。読めない日本語の調書に彼女は署名しています。

私の弁護人は、その調書を英訳して再度彼女に署名を求めることを検察に請求しましたが、それを検察は拒否しました。その時点で、調書は検察が作文し放題であったことは明らかです。その調書は弁護側一部不同意にも関わらず、彼女が証人として公判に出頭することを拒否したことで刑事訴訟法第321条1号2項の「供述不能」の規定によりいわゆる「二号書面」として証拠採用されています。

検察が作文した調書ですが、その作文の仕方に彼らのセンスのなさを感じます。じっくり検証してみたいと思います。

作文の選択肢としては次の3つが考えられます。どの選択肢が私を有罪に追い込むには有効でしょうか。

検察にとって一番望ましいストーリーは、私がそのシンガポールの株式報酬担当者と話していないというものです。そうすれば、私が自分で読んで内容を理解していることを主張できます。株式報酬担当者調書の作文の最初の選択肢は、「私は八田さんとは話していない」という供述内容です。

あるいは、会社は株式報酬の個人による確定申告を指導していたとする内容の供述もありえます。第2の選択肢は、「私は確かに八田さんと話した。そしてその際に、会社は株式報酬に関しては源泉徴収をしていないので、各人確定申告をするようにと説明した」とするものです。

そして第3の選択肢は、その両方を折衷して、「私が八田さんと話したかどうか記憶にはないが、もし話したとしたら個人の申告の説明をした」というものです。

その3つの選択肢のうち、どれを選択すれば私を有罪とするのに一番有効でしょうか。

検察特捜部が選択したのは3番目の選択肢でした。しかもご丁寧に、「説明をした」という点に関し「絶対に」という副詞までつけています。そしてなぜ説明をしなければならなかったのかの説明は全くありませんでした。

不正解です。検察特捜部が選択すべき正解は2番目の選択肢です。

1番目の選択肢は、私が「話した」とする供述と真っ向対立するものです。水掛け論となれば五分のようですが、あることを「経験した」という記憶と「経験していない」という記憶は、「した」とする記憶の方がより信憑性があります。経験したことをただ単に忘れている可能性があるからです。この主張をするのであれば、「個人税務のアドバイスはしないため、ストックオプションに関する問い合わせに関しては、一切受け付けていなかった」といったようなもっともらしい説明が必要になると思われます。そしてこの選択肢の最大のリスクは、私が彼女と話したことが立証されることです。それは針の穴ほどの可能性でしたが、弁護人は一審の公判でその針の穴を通しました。(注)

2番目の選択肢は、私の「話した」という供述内容と一致するため、その点では全く争うところがないことになります。それゆえ供述の信用性が上がることになります。そして、説明をしたという論理的な理由を加えればかなり説得力ある供述になります。例えば、「東京オフィスの従業員から問い合わせが多い内容だったので、申告漏れがないよう留意して説明することを自分のマニュアルとしていた」とかといった理由付けです。

2段構えであるかのような第3の選択肢は、かなり弱々しい主張です。「なぜ話したことすら記憶していないのに、「絶対に」説明したと言えるのか」とは、誰しもがもつ印象ではないでしょうか。「二兎を追う者は一兎を得ず」の好例です。また「絶対に」と言いながら、説明しなければならない理由を全く説明していないのも、杜撰な作文の印象が強くなるものです。「あー、やりすぎちゃってるなあ」と検察の作文によく見られる悪例です。

証拠の評価ですらこの杜撰さですが、そもそもの証拠の収集の仕方もかなりセンスがありません。

検察は過失であっても何ら矛盾のない些末な間接事実や、そもそも何ら関連性のない事実を証拠として山のように請求しています。決定的な証拠がないからといって、なんでもかんでも証拠として請求すればいいというものではありません。こんなものしか証拠として出せないのか、という心証が強くなるからです。

具体的には、20年近い以前の証券会社入社時の資格試験のテキストブック(『外務員必携』)に「証券税務」という項目があるからといって、そのテキストブックを証拠請求することは、その後の日常業務でその税務知識が必要とされないことを示唆します。証券外務員試験の証券税務は個人の税務を対象とし、私の顧客は全て機関投資家でした。そして、証券税務と給与の確定申告はそもそも関連はありません。

また、告発報道後の私の部下や近い友人から「なぜばれちゃったの」といった冗談メールを彼らの取調べをすることなく証拠調べ請求すれば、メールという重要な証拠の中には、こんな冗談メールしか有罪方向にこじつけるものがなかったという印象を強めます。

「グレーな証拠をいくら積み重ねても所詮グレー」とはよく言われますが、私はそれは正しくないと思います。グレーな証拠でも、互いに白い部分を塗りつぶすように立証に使えれば黒く、即ち有罪方向の証拠となりえると思います。しかし、それぞれの証拠そのものがあまりに薄いグレーであれば、そのグレーを重ねれば重ねるほど、どんどん白くなっていきます。有力な証拠が全くない印象を強めるからです。

検察の立証は、このように非常に薄いグレーの証拠を積み上げて、自ら私の無罪を印象づけるようなものでした。

更に、最もセンスがないのが、控訴趣意書で一審裁判体を愚弄したことです。いかに控訴審で新たに審理を開始するためには、原審判決が「経験則・倫理即違背である」という高いハードルを越えなければいけないとしても、経済犯を集中審理する裁判体をもってして、「確定申告制度が何たるかを理解していない」と言ってのけることは、あまりにも愚かな行為です。自爆テロ犯が、自分のアジトで仲間を巻き添えにして誤爆して、組織を自ら壊滅させたくらいセンスがない行動だと思われます。

日本の最強捜査権力である検察特捜部にして、なぜこのように素人にダメ出しされるほどの作文や立証しかできないのでしょうか。これは彼らが常に勝ち戦しか戦ってこなかったことによるものだと思われます。甘い立証でも裁判官は認めてくれるという環境下ではやはり能力の向上は見込めないものです。厳しい戦いを戦わないと、逆に攻められたときには弱さを露呈してしまいます。この状況は、基本負け試合を何とかひっくり返そうといつも知恵を絞る意識の高い弁護士には勝機ありと言えるものです。是非とも刑事弁護をする弁護人は諦めることなく、攻めの姿勢で弁護活動をして欲しいと思います。武器には相当なハンデはあっても、検察の基本戦闘能力は相当低く怖れずに足らずと自信を持って臨んで下さい。

(注)
ここをクリック→ #検察なう (215) 「ストック・オプション行使指示書の日付のミステリー」

12/26/2013















法廷画が冊子化されました。正(第2回公判~第7回公判、400円)、続(第8回公判~第11回公判無罪判決、500円)の2冊です。代金(実費)は、無償で法廷画を描いてくれた漫画家にカンパされます。ご希望の方は sienhatta@gmail.com までご連絡下さい(送料9冊まで80円、10冊以上160円)。

#検察なう


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category: 刑事司法改革への道

2013/12/26 Thu. 01:05 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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