「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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ブック・レビュー 『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』 青木理著 

ブック・レビュー 『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』 青木理著

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『誘蛾灯』―実に魅力的なタイトルである。そして内容もタイトルに負けず劣らず妖しい魅力にあふれていた。

青木氏の新刊(2013年11月発売)が鳥取連続不審死事件を扱っていることは知っていたが、ワイドショー的な事件の印象から、全く食指を動かされることはなかった。それがこの本を手に取るきっかけになったのは、首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗被告人がブログでこの本のことに触れていたからである。首都圏連続不審死事件も全く興味はなかったため、事件のことはほとんど知らないが、未決勾留囚がブログを書いたということに興味を覚え、そのブログを読み、ブログを書くきっかけになった木嶋被告人が嫉妬したという本を読んでみる気になったものである。

勿論、実在のしかも公判が現在進行形の事件を扱っているだけに、その事件の内容がどうかということはあるのだが、とにかく読ませるのは、青木氏自身が事件周辺の状況に次第に吸い寄せられていくようにはまり込んでいくさまに、読んでいる自分も同じく引き込まれるからである。「なぜ場末のスナックの容姿に劣った肥満の5人の子持ちホステスに、家庭も仕事もある男性がなぜ次々と生活全てを投げ出して取り込まれていくのか」という疑問の答えを探しているうちに、その事件の背景にある鳥取の経済格差や貧困ビジネスといった深淵を覗きこんで更に迷宮に迷い込んでいく。

上田被告人が勤めていたスナックはママが70歳になる肥満女性、チーママも60歳を越える肥満女性で、青木氏はこのスナックに取材といいながら数十回も通っている。彼女らが嬌声を上げて青木氏と飲み、カラオケに興じるシーンが何度も出てくる。青木氏も、上田被告人にではないが、事件の周辺の状況に誘われて取り込まれた一人であるのだろう。

事件の公判は、控訴審が終わったばかりで、一審死刑判決が控訴審でも維持され、上田被告人は即日上告している。しかし、事件の状況は実に不可解であり、何ら事実の解明が行われていないのではないかという印象を受ける。上田被告人の周りでは6人が不審死しているが、検察に起訴されている強盗殺人容疑の被害者とされているのはそのうち2人。残りの4人は自殺ないし事故死となっている。殺人の直接証拠が全くなく、有力な証拠とされたのは、上田被告人と逮捕当時同棲しており共に詐欺を行っていた男性の証言。公判に関する青木氏の率直な感想として次のように書かれている。

脆弱な間接証拠を積み上げた砂上の楼閣の如き検察側の立証活動も相当にお粗末な代物だったが、美由紀の弁護団による活動も相当にレベルの低いものだった。「検察もヘボなら、弁護側もヘボ」。

つまり、真相は全く明らかにされないまま、上田被告人は死刑判決を受けている。そして本書は、一審死刑判決を受けた後の上田被告人と面会したシーンで結ばれている。

青木 「あなたが二件の強盗殺人の犯人かどうかは、いまも分からないと私は思っています」
上田 「はい」
青木 「それでも警察や検察の言う通り、仮にあなたが犯人だとするなら、~さん(同棲相手)がまったく無関係だとは思えません。しかし、逆に、あなたの弁護団が主張した通り、もし~さんが「真犯人」だとしても、今度はあなたがまったく無関係とも思えなくなる」
上田 「それは当たり前の考えです」
青木 「当たり前ですか?」
上田 「だから、そこを私が今後お話ししていくので、そこで判断してくださいっていうことなんです。判決は分かんない。私の主張は、してないからしてないって、それは変わってないです。二審でも変わらない。分かって頂けますか?」
分からない。はっきり言って、まったく分からなかった。事件の真相も、美由紀が言っていることも、美由紀の心の奥に潜んでいるはずの本当の感情も。しかし、明確に分かったこともあった。この期に及んでも美由紀は、まだウソを吐き出し続けている。しかも、すぐに分かるような薄っぺらい大ウソを、平然と。
(中略)
警察だって、検察だって、~(同棲相手)だって、全員が明らかにウソをついている。肝心の裁判も、そのウソにうすうす気づきながら、正面から疑義を突きつけることなく、丸呑みしてしまった。誰もが事実から眼を背けたままウソを積み重ね、偽りだらけの塔を築き上げて欺瞞と保身の殻に閉じこもっている。それでも刑事司法の手続きは粛々と進行し、美由紀のみに冷酷な死の刑罰が突きつけられ、結論が覆ることは今後もおそらくない。

このまま真相は闇の中なのであろうか。青木氏には続編を期待したい魅力ある一冊だった。

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category: ブック・レビュー

2014/03/30 Sun. 01:09 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

八田さんのブログいつも拝見させていただいております!現在の日本の司法に
対する問題点など分かり易く説明されており、是非共多くの方々に見て
いただければ…と思っております!私も刑事裁判の被告人となった経験から
大変興味深いお話に司法の現実に怒りさえ覚えます!過激な意見かも
知れませんが、遠隔操作ウィルス事件で片山被告の前に逮捕された4人の方の
うち二人が自白をさせられております。村木事件しかり、小沢事件しかり何で
こうまでして事件を創るのか?日本の警察・検察は優秀であると思っておりまが人間である以上間違いも犯すでしょう!しかし、無実であるかも知れない方をストーリー有きで何がなんでも有罪に持ち込もう…とするのは犯罪と同じでは
ありませんか?人は罪を犯せば罰せられて当然ですが、裁判に於いて無罪と
なってもそれまで犯罪者扱いをして絶望の淵まで追い込んだ警察・検察に
お咎めがあった話しなど聞いたこともありません!いつもの常套語です「取り調べは適法におこなわれた」です。裁判にても検察側にとって不利になる証拠は
出さない…これって証拠の隠滅と同じじゃないですか?
人質司法で保釈を認められないのは必ず「逃亡の恐れと証拠隠滅です」
どちらが証拠を隠滅しているのか…と聞きたいものです。やはり、ストーリー
有きのいまの司法は歪んでいると思います。取り調べの中で真実を探るのが
当たり前と思いますが、まずストーリーが優先されそれに合わせ密室で
ありとあらゆるプレッシャーを掛け自白に追い込んでゆく…このような事が
平気で行われ、取り調べる側において法律の順守など微塵の欠片も持ち合わせていないのが実態と思います。この密室でどれほどの冤罪者が罪人とされたのか?
そして、いまもなお声も出せずに苦しんでおられることか?「取り調べの可視化」「証拠の全面開示」は当然ですが、自白の強要を行った取り調べ官の名前くらいは最低報道すべきと考えます。人の人生を変えるのです。取り調べる側も
自分の人生が変わるくらいの思いで取り調べに当たるべきと考えますが…私の
考えはやはり過激でしょうか…

nanasi #- | URL | 2014/03/30 Sun. 20:40 * edit *

コメントありがとうございます

1点の誤りもない、全くおっしゃる通りです。

「取り調べる側も自分の人生が変わるくらいの思いで取り調べに当たるべき」まさにそこだと思います。私が特捜部の取調べで、検察官に向かって言った(「怒鳴った」ですね。お互いヒートアップしてくるとあり得ない位の大声で怒鳴り合いますから。勿論、敬語で)、「私は冤罪で人生を棒に振るかもしれない。人生を賭けている。取り調べるあなたは、もし間違ったら腹をかっさばくつもりで取調べに臨んで下さい」という言葉を思い出しました。

人命を預かる医者であれば、医療過誤の責任を個人で取らなくてはならない。司法当局や捜査当局も同じく人の人生を左右する大きな責任を負っています。それなのに、過誤があっても責任を取らなくてもいいということではやはり緊張感を失う、あるいは自分たちの利益が常に優先してしまうということになるのではないでしょうか。国は間違いを認めない、認めなくていい、間違いを犯してもペナルティがない、ということでは大きなシステム上の欠陥があるように思えてなりません。

まずはあなたがご理解なさっているレベルのことを多くの方の共通認識とする。そうすれば、自然発生的にいい知恵が浮かんでくるはずです。そうした啓蒙活動と、それでもやはり関心が国民全体に広がらない前提で、システムを変える努力もする、という同時進行の努力なのではないかと考えています。大きな青写真ですが。

意識の高い方とお見受けしましたので、敢えて「ご注目下さい」ではなく「一緒に努力をお願いします」と言わせて頂きます。これからもよろしくお願いします。

八田

八田隆 #- | URL | 2014/03/31 Mon. 02:18 * edit *

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