「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (384) 「袴田事件再審開始決定に思うこと」 3/31/2014 

#検察なう (384) 「袴田事件再審開始決定に思うこと」 3/31/2014

事件の経緯に関しては、散々報道もされているので今更論ずる必要もないかと思います。そして再審開始決定(+死刑の執行停止+拘置の執行停止)という歴史的な判断を下した村山浩昭裁判長の英断は高く評価されるものだと思います。その判断は市民感覚では当たり前のものですが、今までその当たり前のものが当たり前でなかっただけに。

それについては、裁判官の義憤が乗り移ったかのような江川紹子氏渾身の記事をお読み頂ければと思います。

ここをクリック→ 『「刑事司法の理念からは耐え難い不正義」――袴田事件で再審開始&釈放を命じた決定を読む』

DNA型鑑定が冤罪救済にパワフルであることは、アメリカのイノセンス・プロジェクト(注1)の成果を見ても明らかですが、DNA型鑑定を抜きにしては冤罪を防ぐことができないかのように考えるのは大変な間違いだと思います。

そもそも袴田氏が自白させられた時点では、犯行着衣をパジャマと自白しているにも関わらず、1年以上後に犯行着衣を味噌樽から見つかった5点の着衣とする訴因変更を裁判所が認めたことに冤罪の原因があります。その相矛盾した虚偽自白と証拠が有罪の最有力証拠であるということが袴田事件の根本的問題で、それは証拠の捏造以前の問題です。この構図は、未解決の冤罪事件である御殿場事件(注2)と全く同じものです。

また真相究明に大きく寄与したのはDNA型鑑定ではなく、600点にも及ぶ証拠開示です。その中には、一審公判に提出されていれば、有力な無罪方向の証拠も複数含まれており、検察による悪質な証拠隠しが冤罪を作ったものです。これも証拠の捏造以前の問題です。この構図は、東電OL事件(注3)と全く同じものです。

袴田事件のような露骨な証拠捏造はもう起こり得ないと事件を極めて稀な例外扱いすることは冤罪原因の矮小化以外の何物でもなく、上に指摘した冤罪の構図はこれからも普通に起こり得るものです。そして正しい原因究明が行われなければ、適切な防止策を講じることができず、冤罪は繰り返されるばかりです。

メディアに関して。

再審開始決定を受けて、袴田氏がいかに悲惨だったか、捜査当局の捜査がいかに杜撰であったかの突然の大合唱です。私はふと、これでもし再審請求が棄却されていたら報道はどうであったろうかと思ってしまいます。再審が開始されようがされまいが、事実は全く変わらないにも関わらず、もし棄却であれば袴田氏の悲惨さや捜査当局の捜査の杜撰さは全く批判されることがなかったのだろうと思います。それは25日付で再審請求が棄却された仙台筋弛緩剤事件(注4)の報道を見れば分かります。今日31日には飯塚事件(注5)の再審開始可否の決定がなされます。今後のメディアの動向にも注意したいと思います。

また事件当時のメディアリークに関しては神保哲生氏が批判しています。

ここをクリック→ 『袴田事件再審決定・捜査情報を垂れ流したメディアに警察・検察を批判する資格があるか』

「刑事司法の理念からは耐え難い不正義」とまで不当・違法な捜査が裁判所から批判されながら、よもや検察は再審開始決定に対し不服申立の即時抗告するほど愚かでもないと思いますが(今日31日がその期限)、検察幹部の彼らに不利な判決・決定に対して、いつもながらの裁判所の判断が間違っていると言わんばかりの「主張が認められず遺憾である」という発言は一体何なのでしょうか。私は、是非若い検察官に彼らの率直な意見を聞いてみたいと思います。これだけ有名な事件ですから、法曹関係者であれば誰しも袴田事件は知っているはずです。そして事件の内容を知れば、これが冤罪であることは明らかです。それでも彼らはこの発言をした検察幹部と同様に、「検察主張が認められず遺憾である」と言うのでしょうか。自分で過ちを認めなければ、虚構の無謬性を固守できると考えることは実に愚かしく哀れなことです。検察幹部をして一般市民はもう少し賢いと思った方がいいと思います。

袴田氏個人の救済は彼本人と周りの支援者に任せる問題です。我々がすべきことはこれをどのような教訓とするかということです。冤罪問題に触れるといつも感じることは、個別冤罪被害者救済に焦点が当たり過ぎて(それはそれで必要なのですが)、包括的な予防的観点がおろそかになっているということです。我々が考えることは、いかに将来の冤罪を防ぐことかだと思います。

また捜査当局や司法当局の過誤を必要以上に糾弾することも慎んだ方がいいと思われます。郵便不正事件から陸山会に係る虚偽不正事件の検察の対応の変化を見ても、結局は隠蔽や矮小化を招くだけです。

なぜ冤罪が起こるのかという原因究明なくしては、予防策の講じようがありません。その原因究明のために袴田事件をケーススタディとする原因究明委員会を捜査当局、司法当局の権限の外に作り、その結果を現在行われている法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」にフィードバックする必要があると思われます。

そしてこれをきっかけに再審を審理する第三者機関の設立の議論を起こすべきです。なぜ確定判決を覆す可能性のある再審を開始することが「ラクダを針の穴に通す」ほど困難か。それは再審請求審が確定判決を下した裁判所でなされるからにほかなりません。

イギリスでは、1974年に起こった「バーミンガム・パブ爆破事件」(注6)により、6人が16年間投獄される冤罪被害がありました。彼ら「バーミンガム6」が無罪釈放された後、社会的に大きな議論が起こります。そしてそれをきっかけに再審審査委員会が設置され、以降、再審の審理はその特別委員会でなされています。イギリスでできたことが日本でもできないようでは、いつまでたっても日本の刑事司法は国際スタンダードでは「中世並み」ということです。

自分あるいは自分の愛する人が冤罪被害者となるリスクはリアルです。東京で災害対策の準備をしている人は少なくないと思います。ではその1300万人の中で実際に被災した経験のある方と冤罪被害者ではどちらが多いでしょうか。冤罪は構造的に生まれ、その被害者の数は一般の方が知るよりはるかに多いと思われます。袴田事件は氷山の一角です。

我々は過去を変えることはできませんが、未来は変えることができます。今が刑事司法の未来を変える千載一遇のチャンスです。我々自身、そして我々の子供を守ることは我々の責任です。それは国のお偉いさんがやってくれるだろうではありません。是非、未来のヴィジョンを持って考えて下さい。

袴田事件の再審開始決定の瞬間を捉えた一連のツイートをまとめました。是非、歴史が動いた瞬間の興奮を疑似同時体験して下さい。

ここをクリック→ 「袴田事件再審開始決定の瞬間をタイムカプセル(#検察なう)」

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (146) 「イノセンス・プロジェクト」

(注2)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その6 「御殿場事件」

(注3)
ここをクリック→ #検察なう (294) 「犯人血液型当てクイズ」

(注4)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その11 「北稜クリニック事件/仙台筋弛緩剤えん罪事件」

(注5)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その3 「飯塚事件」

(注6)
ここをクリック→ Wikipedia 「バーミンガム・パブ爆破事件」

3/31/2014













ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

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category: 袴田事件

2014/03/31 Mon. 01:14 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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この記事に対するコメント

八田さんからのコメント拝見致しました!私も少し感情的な文章になり少々過激だったのでは?と反省しておりましたが「全くおっしゃる通り」と言うご返事に意を強くしているところです!私は日本の警察・検察は優秀だと思って
おります。がしかし反面、何故こうも冤罪を引き起こすのか…もしかして取り調べの中で、当初「クロ」と思ったのが「シロ」だったが、マスコミなどの報道により「クロ」にしてしまった以上引き返せない状況に組織そのものがなっているのでは?などと考えてしまいます。組織とは都合の良いものでいつしか個人ではなくなっているのです!よって個人としての罪の意識が薄くなり組織という傘の中で何でも有りの取り調べが行われる状況が出来、自白偏重の調書の作成に繋がっているのでは?そんな気が致します。被疑者・被告人にも家族がおります。
裁判で無罪となっても、ときに一生の傷となって残るのです。
罪人に仕立てようとした?加害者である警察・検察は常にお咎め無し…で
終わりです。やはりこれっておかしくありませんか?少なくとも
法律違反をしているのは警察・検察ですよ!密室の中で行われていることは
まさに、法律違反そのものと思います。刑事裁判を経験して日本の国は本当に
法治国家といえるのか?そんな思いを強く感じました。また、八田さんが
揶揄したのかどうか分かりませんが「新検察の理念」まさに実態はその通りだと思います。いまは、多くの方にこの実態を知っていただき世界に誇れる
法治国家として生まれ変わって欲しい…と思っています。八田さん頑張れ…そんな思いでブログを拝見させていただいております。

nanasi #- | URL | 2014/03/31 Mon. 18:54 * edit *

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