「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

05« 2017 / 06 »07
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

#検察なう (388) 「報道被害について考える~刷り込まれる『推定有罪』(2)クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」 4/17/2014 

#検察なう (388) 「報道被害について考える~刷り込まれる『推定有罪』(2)クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件」 4/17/2014

前回に続き、報道被害について考えてみたいと思います。今回のケース・スタディは、私が巻き込まれたクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件を定点観測します。刑事告発の報道から、検察上告断念=無罪確定まで朝日新聞の報道を追ってみます。

この事件に関し、全ての新聞・テレビでまず第一報を打ったのが朝日新聞のデジタル版でした。タイトルは「所得20億円申告漏れ クレディ・スイス社員100人」です。

ここをクリック→ 朝日デジタル 刑事告発報道①

タイム・スタンプは2010年2月19日未明です。国税局は、警察や検察と異なり、公式の記者会見を行いません。つまり国税局関連の報道は全て非公式のリークに基づくということになり、各社の情報量には差異が生じます。朝日新聞が第一報を打ったのも、彼らが当局に近く、より詳細にリークを受けていたためと思われます。

実際には、私の告発は前年の2009年12月にされていたことが後から分かりました。国税局は報道のアナウンスメント効果を最大限引き出すため、確定申告シーズンまでリークを押さえていたものです。

その日の朝日新聞の朝刊です。タイトルは「外資社員、甘い法意識 「海外口座ばれぬ」」です。

ここをクリック→ 朝日新聞 2/19/2010朝刊 刑事告発報道

報道各社はこの記事をもってゴー・サインが出たと判断し、テレビは昼のニュース、朝日新聞以外の新聞も夕刊で一斉報道することになります。

かぎ括弧は普通、会話を引用する際に用いますが、敢えて「海外口座ばれぬ」とかぎ括弧でくくるところは、あたかも申告漏れをした者がそう言っているかのような印象を受けます。

この報道以降、ほぼ全ての報道が「ストック・オプション」を連呼するようになりますが、実際にはストック・オプションは申告漏れとなったもののごく一部で、大部分は会社の現物株です。それは、現金の代わりに現物支給された株式報酬です。「ストック・オプション」と限定することで、何か特別な雰囲気を醸し出そうとしているような作為を感じます。

また記事の中で言及されているゴールドマン・サックス証券では、当時から株式報酬は源泉徴収されており、そうした者たちに、株式報酬が源泉徴収されていない会社の状況を聞いても全く意味がないと思われます。彼らが実体験ではなく類推で語る言葉の中で、都合のよいものだけを抽出するということが記事の構成で行われています。

ちなみに「申告漏れ」とは計上忘れや会計処理の判断が税務署の考え方と違っていた場合の事を指し、株式報酬を申告しないことは「無申告」と言います。クレディ・スイス証券の税務調査対象者は約300人でしたが、「300人のほとんど全てが「申告漏れ」により修正申告、そのうち100人が株式報酬を「無申告」で過少申告であった」とするのが正しい用語の使い方です。

報道各社に先んじるこの時点での報道は、私個人の刑事告発の報道ではありませんでした。その報道がなされるのは、やはり朝日新聞デジタル版が先んじています。タイムスタンプが同日15時2分の以下の記事です。タイトルは「クレディ・スイス元部長も脱税容疑 3.5億円所得隠し」。

ここをクリック→ 朝日デジタル 刑事告発報道②

この記事では私の過少申告が故意であったと断定しています。それが「所得隠し」という用語です。

ここをクリック→ 「申告漏れ」「所得隠し」「脱税」何が違うの?

前回のブログの「岩手17歳女性殺害事件」公開捜査のポスターで、被疑者を「犯人」とすることと全く同じことが全国紙の報道で行われています。

更に、内容に関して目を引くのは、やはり「クレディ・スイス証券元部長の脱税容疑の構図」と題されたチャート図ではないでしょうか。金融機関の名前を並べて、資金の流れを→で示しただけなのですが、「何やら怪しいことをしている」雰囲気がプンプン漂ってきます。極め付けは、爆発マークに囲まれた「約3.5憶円申告せず」という文言でしょう。多分、この爆発マークはびっくりマーク「!」10個くらいの強調ということなんでしょう。「申告せず!!!!!!!!!!」ということです。

記事の内容で明らかに事実に反し、有罪方向に印象付けようとしているのが「ナンバーアカウント」の記述です。私が資産を管理していたのは、(記事にあるCSのスイス本店のプライベートバンクではなく)シンガポールのUBS銀行のプライベートバンクです。私の知人息女がそこに就職して、口座を開けてほしいと頼まれたため、随分以前に日本の銀行から送金して開設したものです。プライベートバンクでは、確かにナンバーアカウントと呼ばれる無記名口座を開設することもできましたが、私はその必要性を感じなかったため、普通の記名口座を開設して、それを使っていました。

そのシンガポールの口座が記名口座であることは、国税局は重々承知していたため、この部分は、「スイス=プライベートバンク=ナンバーアカウント」という怪しげな方向への想像力をたくましくして朝日新聞の記者が書いたものです。実際には、そのプライベートバンクはスイスでもなければ、ナンバーアカウントでもなかったのですが。

更に私が悪質だと感じるのは、最後に顧問税理士の言葉を引用している点です。「守秘義務があるので個別の話は答えられない」という実に当たり前のことをさも仰々しく引用していることで、「怪しいから隠しているのでは」という懐疑心を煽ろうとしている意図があからさまです。

朝日新聞の当日夕刊ではタイトルこそ微妙に違え、内容は全く同じ記事が掲載されました。

ここをクリック→ 朝日新聞 2/19/2010夕刊 刑事告発報道

私は当事者として、これまであまり匿名報道の重要性を感じていませんでした。それはいかに匿名報道であっても、この朝日新聞の記事のように悪意を持って犯人視された記事の方がよほど報道被害としては甚大だと思っていたからです。この刑事告発の時点では、顕名・匿名が入り混じっていましたが、1社でも顕名とすれば、ネット検索ですぐに誰か特定できるので、「我が社の報道は匿名だから人権に配慮している」などとは(少なくともこの朝日新聞の記事を読んで)当事者の私は同意することができなかったものです。そこには、顕名の記事を書くからには内容に関してもより慎重に扱い、報道後もきちんとフォローアップする責任が生ずるという期待もありました。

しかし、その考えが揺らいでいるのが現状です。それは英語で「Takashi Hatta Credit Suisse」とググって頂ければ分かります。一番上にヒットするのは、共同通信社が刑事告発の際に、顕名報道したもので、彼らはその後、私の無罪判決、無罪確定といった一連の記事を英語で発信していないため、日本語以外の報道(先の英語の記事は私が確認しただけでも、フランス語、ドイツ語に翻訳されて配信されています)では、私はいまだに刑事告発された脱税犯扱いという状況です。

このように、「顕名報道→その後、無罪となっても報道されない」という事件報道の状況は、著しい人権侵害をもたらすということは言えると思います。

ある事件報道を見て、その事件報道が「推定有罪」に基づくものでないことをどのように判断すべきでしょうか。それは簡単です。被疑者・被告人の言い分が書かれているかどうかです。

この一連の朝日新聞の記事の中に、私が「無実を主張している」と一言でもあったでしょうか。そしてそれがあれば、少なくとも当局と私の言い分が違っていると人は知ることができると思います。捜査当局の一方的な情報に基づいて書かれた記事は、相当「推定有罪」を織り込んでいると考えていいと思います。

ここでは朝日新聞を取り上げていますが、そのほかのメディアも似たり寄ったりの状況でした。私が、刑事告発後、記事を書いたある全国紙の記者の方と話をした際には、「八田さんは起訴され、有罪になります。そうじゃなければ、私たちは怖くて記事が書けないですから」と言われました。

また、ある記者の方がこの事件は無罪になる可能性があると後輩記者に注目するようにと言った際に、「~さん、どっちの味方してんですか!」と言われたと嘆いていました。番記者が捜査当局にべったりということがよく分かる事象です。

その後の、朝日新聞の報道を見て行きます。まず一審無罪判決報道。タイトルは「脱税事件で無罪判決」。

ここをクリック→ 朝日新聞 3/1/2013朝刊 一審無罪判決報道

「脱税事件」というタイトルは頂けないとしても、内容は過不足ない感じです。この記事はそのほかの社の記事と比較するとかなりいい方でした。ただ刑事告発時の、思い入れたっぷりの記事のトーンではないことは確かです。やはり査察・特捜事案で史上初の無罪判決なのですから、歴史が変わったくらいに書いてほしいものです。また私のコメント以外に、捜査の問題点を指摘する言葉は一切ありません。

これが、控訴審の検察控訴棄却、あるいは検察上告断念で無罪判決確定の報道となると、探すのも大変なくらい小さな扱いです。

控訴審の検察控訴棄却 「証券会社元部長 二審も無罪判決」

ここをクリック→ 朝日新聞 2/1/2014朝刊 控訴審無罪判決維持報道

検察上告断念で無罪判決確定 「脱税訴訟、高検が上告断念」

ここをクリック→ 朝日新聞 2/15/2014朝刊 無罪確定報道

これらの記事は、社会面(いわゆる三面記事)ではなく、更にページをめくった第3社会面と掲載される場所も相当格下げされています。それでも掲載されるだけよしとしなければならないということなのでしょうか。これらを報じないメディアもあったくらいなので。

最後に、無罪確定後の報道の姿勢に言及した江川紹子氏の記事を添付します。

ここをクリック→ 江川紹子氏『無罪確定。されど・・・』

この具体例を通して、報道被害の問題を一緒に考えて頂ければと思います。

4/17/2014

















ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 経緯説明 「真実は一つである」

ここをクリック→ 被告人最終陳述

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―

ここをクリック→ #検察なう フェイスブック・コミュニティ





TwitterやFacebookでの拡散お願いします。

category: クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

2014/04/17 Thu. 01:28 [edit]   TB: 0 | CM: 1

go page top

この記事に対するコメント

公務員の違法行為

ずっと以前から検察リークって立派に国家公務員法違反なのに全然立件されなくて問題じゃないのかと感じています。結局、検察官は同僚検察官や仲良くしている警察の犯罪行為に対して極めて甘く、立件しようと思えばできるのにしないのは恣意的にやらないんでしょうね。

実際に、同じ行為を民間人がやったら即逮捕拘束される様な事案も、警察官や検察官であれば在宅起訴で済ます例が多々有ります。

冤罪とは別の話ですが、こういった公務員の職権に関わる悪質な違法行為については検察庁とは関わりのない、独立した訴追機関を作るべきだと思います。

Tri #6Aros7K. | URL | 2014/05/10 Sat. 04:01 * edit *

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://fugathegameplayer.blog51.fc2.com/tb.php/693-f76bb77c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top