「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (416) 「全ての自白は虚偽自白の可能性がある~『転落自白 「日本型えん罪」はなぜうまれるのか』を読んで」 9/4/2014 

#検察なう (416) 「全ての自白は虚偽自白の可能性がある~『転落自白 「日本型えん罪」はなぜうまれるのか』を読んで」 9/4/2014

冤罪の当事者になると、事件報道の正確性の判断には自然と慎重になります。特に、捜査権力側の一方的な情報で報道がなされている場合、「ん?本当かな」と、思わず眉につばをつけたくなります(「眉つば」は狸や狐に化かされないおまじないです)。

そういう私でも、「被疑者は犯行を認めている」と、自白がなされたことを知ると、「ふーん、やはりそうなのか」と納得しがちです。しかし、過去には虚偽自白による冤罪が累々と築かれている事実があります。

虚偽自白にフォーカスした専門書『転落自白 「日本型えん罪」はなぜうまれるのか』(日本評論社)を読みました。専門書とはいえ、編者(内田博文氏、八尋光秀氏、鴨志田祐美氏)は法律的なバックグラウンドがない一般の人が読んでも理解できるように心を砕いていることがよく分かる良書でした。誰しもが裁判員となり人を裁く可能性があることを踏まえ、そうした人たちへのメッセージとも取れるこうした良書が編まれたことは、非常に心強いものです。

転落自白

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ある有名な無期懲役冤罪事件の取調べにおいて、被疑者が落ちたその瞬間のやり取りをテープから書き起こしたものを引用します(『転落自白』より)。

検事  「なんで僕の目を見て言わないの、そういうこと。さっきから君は、僕の目を一度も見てないよ」
Sさん (沈黙・約20秒。小さくむせび泣くような声)
検事  「うん」
Sさん (沈黙・約20秒。その後、涙声で)「ごめんなさい。すいません」
検事  「うそだったの」
Sさん (沈黙・約5秒。すすり泣くような声)
検事  「そうだね」
Sさん (涙声で)「ごめんなさい。勘弁してください。勘弁してくださいよお」
検事  「いいから」
Sさん (おえつの後)「勘弁してくださいよお」
検事  「うん」
Sさん (泣き声。その後涙声で)「すいません」
検事  「僕はね、本当のことを聞きたいっていう言葉を何回も言うよ」
Sさん (涙声で)「はい」
検事  「わかんないこともいっぱいあるから」
Sさん (涙声で)「はい、すいません」
検事  「それは言う。言うけどね、うそをつけっていうことじゃないんだよ、僕は」
Sさん 「はい」(はなをすする音)
検事  「僕はね、別にうそをついたから怒るとか、そういうことじゃないけども、何と言うかな、人をあやめたんだったら、ね。本当に反省してもらいたいと思うわけ」
Sさん 「はい」
検事  「ね。あやめてないんだったらさ、認める必要はないわけで」
Sさん (沈黙・約3秒)
検事  「こんな草むらに置かれて死んでっちゃったMちゃんかわいそうだと僕は思うしね」
Sさん 「自分も思います」
検事  「君が本当に違うんだったら、Mちゃんだって浮かばれないし」
Sさん 「はい」
検事  「かと言って、本当に罪を犯しているのに罪を免れるんだったら、それこそかわいそうで仕方ない。だから、僕は本当のことを言ってもらいたいと思ってる。ね」
Sさん (沈黙・約10秒)
検事  「それで、話しているわけでね」
Sさん (約15秒沈黙後、涙まじりの声で)「すいません・・・・」
検事  「間違いないんだな?Mちゃんの事件は間違いないんだね」
Sさん 「はい」
検事  「やったの?」
Sさん 「後は知りませんけども(注)」
検事  「Mちゃんのは間違いない」
Sさん 「はい。すいません」
(注: SさんにはMちゃん殺害のほか2件の女児殺人事件の嫌疑がかかっていた)

実は、この取調べの模様は足利事件での冤罪被害者菅谷利和氏を検事に割ったまさにその瞬間のものです。菅谷氏は、人が声を荒げたりすると迎合してしまう気質があり、この取調べ以前に相当高圧的な取調べがあったことが想像されますが、それにしてもここでの検事は真実を引き出そうとしているように思えます。そしてこのような(暴力的でもなければ、嘘でも何でもいいから自白させようと強要するものではない)一見普通の取調べ状況でも、虚偽の自白がされたことに驚かされます。

法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」でも、(PC遠隔操作事件の)虚偽自白に議論が及んだ際、警察関係者から、「嘘の自白が見抜けなかった」という発言があり、それが通信傍受や司法取引といった更なる捜査権力拡大の言い訳とされたという経緯があります。それは全く(確信犯的な)的外れもいいところで、実態は、彼らの能力が足りなかったどころか、捜査権力の取調べ技術が「無実の者にも虚偽自白をさせる程」長けていたということだと思います。

『転落自白』には、同じく虚偽自白が原因となった冤罪事件の富山氷見事件(下記注)の捜査過程と自白供述を詳細に分析した、浜田寿美男教授(奈良女子大名誉教授法心理学者)による誤判研究レポートが引用されています。

そこでは自白への転落過程として、どういう取調べの状況が虚偽自白へと「転落」させるかという8つの指摘があります。

1. 日常生活からの隔離
2. 他者による支配と自己コントロール感の喪失
3. 証拠なき確信による長期間にわたる精神的屈辱
4. 事件に無関係な捜査と人格否定
5. 全く聞き入れられない弁明
6. いつまで続くかわからない未来への展望の喪失
7. 否認することの不利益を強調
8. 取調官との「自白的関係」

概ね明らかですが、若干の説明を加えます。

1. 情報の遮断は、心理的に被疑者を追い込みます。身内すらも自分を信じていないと示唆されればそれを確認する術すらなく無力感、絶望感に苛まれることになります。

2. 食事、排泄、睡眠の基本的生活まで他者に支配され、自分が取調官のコントロール下にあるという心理を免れることができなくなります。

3. 被疑者を犯人だと思い込んで自白を迫る取調官によって、極悪非道の人間として非難され、罵倒され、精神的屈辱を受ける状況が否認するかぎりいつまでも延々と続きます。

4. 事件に関係ないことで、例えば、結婚適齢期を越えてなお独身で、女性との安定した関係を持つことができないとか、職を転々として、十分な職業生活を営めていないと、失格者の烙印を押されることは、抵抗力を奪います。

5. 全く聞き入れてもらえない状況は、日常であれば自ら立ち去ることができますが、取調べではそれが許されず、延々と「やった」「やらない」の水掛け論は人を無力感、絶望感に追いやります。

6. 人はどんなに辛くても時間に限りがあれば我慢できますが、それがいつまで続くか分からない、そして否認する限り永遠に続くかのように思えてしまうと、やはり無力感や絶望感にさらされてします。

7.  家族や勤務先に捜査の手を広げると脅され、周囲の人に多大な迷惑をかけることになるとか、否認を続ければ情状が悪くなり、かえって罪が重くなると諭されたりします。

8.  自分の将来の処遇を握っている取調官に迎合的になり、時折見せられる温情にほだされ、感謝や謝罪の言葉を述べることになります。

これらは、なぜ無実の人が自分に不利になる嘘の自白に追い込まれるのかという理由として述べられていますが、非常に重要なことは、これらは捜査当局が、犯罪をしながら嘘をついている者の真の自白を取ろうとするテクニックそのものだということです。

客観的な証拠があればそれを被疑者に突きつけて、不合理な否認を崩すことができますが、物的な証拠がない場合、自白がなければ公判が維持できないと捜査権力が考えることで、自白を強要するかのような長く、厳しい取調べとなります。それは私自身経験したことでもあります。

初めに「犯人ありき」の決めつけが、いかに客観証拠が脆弱であろうが、とにかく被疑者を割ろうとする誤った職業倫理感と、捜査権力に与えられた強大な権限(特に他国に例を見ない長期間の拘束=「人質司法」)が虚偽自白を生み出すものです。それが、私がタイトルとした「全ての自白は虚偽自白の可能性がある」という意味です。そしてそれは結局のところ、捜査権力は推定無罪原則に則る人権の擁護などはどうでもいいと思っている、有罪至上主義の表れだと思います。

あなたが裁判員になった時に、自白があったからといって、必ずしもその自白が信用に足るものではないということは、必ず覚えていてほしいと思います。自白が真の自白であるか、虚偽自白であるかどうかの見極めに関しては、また機会を改めて述べたいと思います。

(注)
2002年3月及び5月に富山県氷見市で起こった2件の強姦及び強姦未遂容疑で、当時34歳の男性が逮捕された冤罪事件。彼は取調べにおいて(虚偽の)自白をし、裁判でも一貫して罪を認め、控訴せずに2003年11月に懲役3年の刑が確定。その後、刑期を終え2005年1月出所。2006年11月に、別の暴行事件で鳥取県警に逮捕された男が氷見市の2件の事件も自分が真犯人であると自供。再審では、検察が無罪の論告求刑を行い、男性の無罪が判じられた。2009年5月に国家賠償訴訟を提訴。現在係争中。

9/4/2014














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category: 刑事司法改革への道

2014/09/04 Thu. 07:16 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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この記事に対するコメント

虚偽自白もいろいろ

 全ての自白は虚偽自白の可能性がある。全くその通りだと思います。私は世の中を騒がせた「PC遠隔操作事件」の片山被告の自白、「自分が犯人」というのも虚偽だと思っています。現在、第15回公判まで裁判は進んでいますが、雲取山に関して「自分が埋めた」という供述は事実とはかけ離れています。被告は雲取山でUSBを埋めていないのです。「疑わしきは罰せず」でいくと無罪ということになり、有罪になれば冤罪になります。

和モガ #xnz7s2KM | URL | 2014/09/07 Sun. 10:18 * edit *

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