「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (417) 「物語―孤独のなかの「転落」自白」 9/11/2014  

#検察なう (417) 「物語―孤独のなかの「転落」自白」 9/11/2014

前回ブログで、なぜ無実の人が虚偽の自白に「転落」するのかを議論しました。

ここをクリック→ #検察なう (416) 「全ての自白は虚偽自白の可能性がある~『転落自白 「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか』を読んで」

私が、参考としたのは『転落自白 「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか』という本です。

転落自白

『転落自白 「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか』
内田博文氏、八尋光秀氏、鴨志田祐美氏編著
2012年出版
日本評論社

この本は、虚偽自白が有罪立証の決め手となった過去の冤罪事件(足利事件、富山氷見事件、宇都宮事件、宇和島事件)を分析することにより、虚偽自白が起こる構造を克明に解き明かしたものです。

専門的な内容ですが、「ウソの自白」がなぜ起こるかを理解することは、我々は誰しも裁判員になる可能性がある以上、有権者の素養として理解しておかなければならないものだと思われます。そうでなければ、我々も冤罪を作りだすことに加担することになり得るからです。編者の視点もそこにあり、専門的な内容を、法律的な知識がない一般人でも読み解けるように丹念に解説しています。

一人でも多くの人に読んでもらい、虚偽自白がなぜ起こるかを理解して頂ければと思い、編者の八尋弁護士(ツイッターつながり)、鴨志田弁護士(フェイスブックつながり)の両先生及び出版社の了承を得て、第一章に掲載された「物語」を全文そのまま引用させて頂きます。

この物語を読んで、興味を持たれた方は是非この本を手に取って下さい。

「物語―孤独のなかの「転落」自白」

<有罪判決>

「これから判決を言い渡します」

裁判長は丁寧な口調で僕に正面に立つよう指示した

「シュブン ヒコクニンヲチョウエキゴネンロクゲツニショスル ミケツコウリュウニッシュウチュウニジュウニチカンヲ ソノケイニサンニュウスル ソショウヒヨウハ……」
(主文 被告人を懲役5年6月に処する。未決勾留日数中20日間をその刑に参入する。訴訟費用は......)

僕は弁護士さんのほうを横目でみた。弁護士さんは下を向いて、首を横に振っている。僕に目を合わせようとしない。僕にとって厳しい内容だということが感じとれた。裁判長の声がまだ続いていた。でも僕にはなにを言っているのかうまく耳にはいってこない。とにかく僕は有罪で刑務所に連れて行かれるらしい。ひとごとのように「嘘だろう」という言葉が浮かんだ。

僕はなにもやっていない。どんな犯罪があって、どのようなことがなされたのか。ほんとうのことはなにも知らない。裁判長はいつも僕を見ていた。ひょっとしたら僕がやっていないと見抜いてくれるかもしれない。見抜いてくれるに違いないと信じた。その裁判長はいま下を向いて、僕の有罪判決を読み上げている。みんながとてもちっぽけに見えた。

<事件の発生>

A子は5月28日午後11時45分ころ、友人との「女子飲み」があり遅い帰宅となった。駅前でタクシーを拾いマンションの見える角でおりた。築30年をすぎた7階建の賃貸マンションに単身で住んでいる。数メートル歩いて玄関前までくると、エレベーターホールのあたりから男がでてきた。抱きかかえひきずられ、エレベーターホール横の暗がりに押しこまれた。ナイフのようなものを左手にもっている、そう見えた。もみあっているうちに、ブラウスのボタンがひとつちぎれ、いろんなところをさわられた。こわくて何もできない。どれくらいの時間がたったのかわからないが、身を硬くしながらやっと声がでた。必死で助けをよんだ。男はハンドバックをつかんで外へ駆けだした。そこでやっと大声を出せた。

<僕のアリバイ>

残業を終えた僕は缶コーヒーを飲んでいた。午後8時を過ぎると腹ぺこで、頭がぼんやりする。煙草を一口吸って、コーヒーをすする。そこで上司に呼び出された。いつも小言を聞かされる。語尾をはっきり言え。相手の目をきちんと見ろ。身体を揺するな。姿勢を正せ。接客業でもないのに、そんなことはどうでもいいと、心の中で言い返していた。ところが今夜は飲みに誘われた。上司の機嫌は良かった。僕を工場近くの焼鳥屋に連れていき、今夜は俺のおごりだと言い放った。いつもの説教口調だったが、これからは僕のことをすこし信頼し期待もするらしい。おまえはやればできる。頭も決して悪くない。性格も素直だ。おれはおまえのことを評価している。

店を出てお礼を言って上司と別れた。僕のアパートは工場から川沿いの道を2キロほどのぼったところにある。いつもよりゆっくり歩いて酔いをさまそうと思った。川面をわたってくる風が心地よい。昼すぎまで降った雨の匂いを感じた。

薄曇りで月はなかった。携帯電話をとりだして友人に電話を掛けた。留守電に「元気でやっている」と伝言をした。携帯のディスプレイが5月28日午後11時39分を表示した。気持ちがすこし晴れた。アパートの近くのコンビニでスポーツドリンクを買って部屋に帰った。

<端緒と初動捜査―帽子と靴>

現場を押さえて署に帰り、被害者と通報者の聴き取りをした。

通報者はタクシーの運転手。被害者を現場マンションの路地にはいる角でおろした。記帳をすませて社に連絡を入れた。社の指示を受けて待機場所に向け発車しようとしたその時だった。女性の悲鳴が聞こえ、路地から男が飛び出してきた。とっさに車外に出て男を追っかけた。100メートルくらいあとを追った。男はつかんでいたハンドバックを投げつけ、そのまま公園を横切って駆け去った。ハンドバックが左肩をかすめて後方に落ちた。ハンドバックと散らばった中身を集めて、悲鳴を聞いた現場に引き返した。エレベーターホール横の片隅に女性がしゃがみ込んでいた。ハンドバックをそばに置いて、車の無線で警察に通報した。45歳男性、乗務歴8年のタクシー運転手はそう話した。

被害者はA子。派遣社員としてコールセンターに勤務する21歳の小柄な女性。現場では取り乱していた。いったん部屋に帰し、なだめながら身体の打ち身や擦過傷、服の破損箇所などの写真撮影をし着替えさせた。現場での指示説明のあと署に向かった。署での事情聴取では落ち着いた様子だった。男は知らない人で帽子をかぶっていた。背丈は165センチから170センチくらいの中肉中背。年は20代半ばから30代半ば。服装は覚えていない。ほかに特徴は思いつかない。心あたりもないと言った。

犯人の背格好と帽子の形を通報者にも確認した。通報者であるタクシー運転手が指示し、現場近くの公園に数個の足跡を認めた。犯人のものと思われる足跡だ。その足跡には靴底の波形がくっきりと刻まれていた。

通報と同時に緊急配備をしいたが、容疑者らしき不審者はかからなかった。

<軽犯罪法違反の前歴>

僕はとても不愉快な思いをしたことがある。この町にやってきてまだ慣れないときのことだ。繁華街にある古本屋で立ち読みにふけった日曜日の夜9時ころ、駅をおりてアパートまで1キロくらい歩いていた。気がつくとまえをゆく若い女性に20メートルくらいまで近づいてしまっていた。ほかに人影はなかった。その女性は後ろの僕を気にしながら歩いているようだった。僕は歩をゆるめて距離をあけようとした。同じように彼女も歩をゆるめた。それでなんだか妙な感じになった。僕はできるだけなにもないように自然に歩こうとつとめた。あとをつけていると思われるのは心外だし、彼女がだんだん緊張してきたようにも感じたからだ。でもそれが真逆になって20メートルよりもっと近づいた距離で歩くことになった。仕方なく僕は早足で追い抜こうとした。すると彼女も早足になった。僕はこのさい追い抜いてしまおうと走りだした。彼女はあわてて走りだし転んでヒールが脱げた。僕が助けようと思って近づくと、彼女は悲鳴を上げて素足のまま駆け出した。僕はヒールをひろってあとに続いた。街灯をともした近くの家に彼女は助けを求めた。大騒ぎとなりパトカーまでがやってきた。僕は事情聴取を受けた。彼女は泣き続け、僕は二度と同じことはしませんという謝罪文をかかされた。「不安または迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者」として、軽犯罪法違反の前歴をつけられてしまった。2年くらい前のことだった。このとき以来僕は、駅からの帰宅の順路はほかの道を選んでいる。

<任意同行>

保存した足跡の波形からスニーカーの品名が特定できた。そのサイズもいくつかの断片をあわせることによってわかった。エレベーターのまえに設置されたビデオには、ハット型帽子を目深にかぶった男の姿が映っていた。横についたロゴからその帽子のメーカーを突きとめた。現場やハンドバックから被害者以外の指紋を採取した。

事件から1週間が過ぎて前歴情報があがった。同じ町の川向うで2年前の4月に起きた軽犯罪法違反事件。夜道で若い女性をつけねらって追い回した男がいる。女性と近隣者に騒がれ、ちょうど通りかかったパトカーで確保した。それまでには前科前歴はなく、所持品を検査したが不審物はなにも出てこなかった。署まで連行し事情を聴取した。現場はすこし遠回りではあったが、男の言う通り帰り道でもあり得た。女性につきまとったことをはじめ否認したが、女性に不安や迷惑をかけたことは間違いないと認めた。謝罪をさせて釈放した。身長168センチ中肉中背、32歳独身で一人暮らしの工場勤め。いまも同じアパートに住んでいる。本件犯行現場から直線でおよそ800メートル、経路上では橋を渡りまわり込んで1.8キロの距離。

警察は被害者と通報者に面割をさせる必要があると判断した。聞き込みで、この前歴者は、5月28日の帰りが遅く深夜だったこと、ときどきハット型帽子をかぶって外出していることなどを確認した。翌朝早く任意同行することにした。

<不安>

遠くから誰かが呼んでいるようだった。部屋の呼び鈴が鳴り続けていた。外はまだ薄暗い。時計がわりに携帯を見ると6時前だ。もう1時間は寝ていたかった。仕方なしにドアを開けると目つきの鋭い男が3人入ってきた。刑事だと名乗った。伺いたいことがあるので署まできてくれと言う。ほかに3人の警察官が廊下で待っていた。アパートの前の駐車場にパトカーが1台とまっていた。落ち着こうと思った。なにかの間違いだろうとも思った。とにかく近所の人に知られないうちに、警察官もパトカーもこの場から離れさせたかった。

僕はパトカーじゃないほうに乗せられた。警察官が1人横にのってきた。僕の顔をじろりと見て、前の席にいた刑事に間違いありませんと答えた。会社に遅れるかもしれないな。今日は工場に出られるだろうか。上司にどう言いわけをしたらいいんだろう。そんなことが頭の中で回りはじめた。

署の取調室で自分のことを聞かれた。他県の農村で生まれ育ったこと。父が42歳、母が36歳での遅い出産だったこと。きょうだいは12歳上の姉がひとりいて、隣町で夫と子どもふたりの4人家族で生活していること。田舎では仕事がなかったので、2年前に姉をたよりこの町に移り住んで仕事をえたこと。そんなことを自分から話したり、確認されたりした。そのうち5月28日午後11時過ぎころ何をしていたかを聞かれた。僕は、なにもしていなければ8時ころには帰り、そのあとアパートにいたと思うと答えた。

2、3時間して取調室がざわついてきた。取調べの刑事が小声で話し合ったり、入れかわったりしている。僕は仕事のことが気になっていた。いまならまだ間に合うので仕事に行かせてほしいと頼んだ。ちょっと待てと言ったまま、刑事が席を外した。横の方でメモをとっていた警察官に、僕は工場にでられるのかどうかを聞いてみた。俺は刑事ではないのでわからないが、たぶん無理だろうといった。

<エレベーター前のビデオと取調室の男>

同じ朝、警察は通報者と被害者A子を呼び出した。刑事はまずふたり別々に、犯行現場のエレベーター前で撮影されたビデオを見せた。ビデオの男が当夜の犯人と似ているかどうか確認させた。ふたりとも犯人と同じ人間だと言った。そのあとまた別々に、取調室を見せた。そこに落ち着きなく、うつむき加減の男が取調べを受けていた。刑事に尋ねられるたびに視線をそらしたり、身構えたり、指をかんだり、頭を抱え込んだりしている。さっきみたエレベーターに映った男とよく似た背格好だった。男はいきなり緊張した面持ちでなにかをしゃべり、またうつむいた。

A子はさきほど見せられたエレベーター前のビデオの男に似ていると思った。刑事にあのときの男と比べてどうですかと聞かれ、よくわかりませんけど似ていますねと答えた。運転手さんも似ていると言っていますがどうですかと聞かれ、やはり犯人に似ていると答えた。刑事が最後に、間違いありませんかと問い、A子は間違いありませんと答えた。

通報者であるタクシーの運転手も同じように、取調室の男が犯人に似ていると言った。

<任意から強制へ>

僕はずいぶん長い時間放っておかれた。

警察は犯行当夜は自宅で寝ていたという容疑者の否認調書、被害者および通報者の「犯人に似ている」という一致した目撃供述調書、ビデオとともに鑑識による現場ビデオの男と容疑者の身長および体型が類似しているという画像解析結果、容疑者の前歴調書などをとりそろえた。捜査本部の決済をへて、裁判所へ逮捕令状を請求した。午前11時50分のことだ。午後4時45分になって裁判所は逮捕令状を出した。

夕方になって刑事が戻ってきた。僕はすこし怒って早く帰してくださいといった。刑事はなにをそんなにいらだっているんだと言い返してきた。だって会社になにも連絡せずに休んでしまったじゃないですかと、僕はもう泣き出しそうな顔になって言った。ほんとうに疲れきっていたし、これ以上はここにいることはとてもできないと思った。なにもかもが混乱して、なにがどうなっているのかさっぱりわからなかった。

刑事は落ち着いた声で僕をさとすように言った。会社にはもう連絡したし、署の者がおじゃまをしている。君の部屋もいま捜索しているところだ。さっき令状がとれたんだよ、君を逮捕するための令状だ。落ち着いて、よく考えて、そして正直に話してほしいんだ。

(続く。次回掲載は来週木曜の予定です)

9/11/2014















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category: 刑事司法改革への道

2014/09/11 Thu. 02:29 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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