「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (428) 「美濃加茂市長事件藤井氏被告人質問傍聴記」 10/26/2014 

#検察なう (428) 「美濃加茂市長事件藤井氏被告人質問傍聴記」 10/26/2014

先日の私の国賠審の際、代理人チームの郷原信郎弁護士に「24日に藤井市長の被告人質問がありますが、八田さん傍聴に来ませんか」と言われたのをいいことに、スケジュールをやりくりして(と偉そうに言っても歯医者の予約だったりするのですが)、名古屋入りして藤井浩人氏の被告人質問を傍聴しました。

これまでツイッターでのつながりはありましたが、「生」藤井市長は初めてです。「被告人質問頑張って下さい」と挨拶したところ、私の本を読んでくれていた藤井氏は、「私は、八田さんほど強くないですから、緊張してます」と言いながら、相当余裕のスマイルでした。それがこれです。

藤井市長

公判開始。名古屋地裁は東京地裁に比して、かなり立派です。さすがシャチホコ絢爛豪華の文化。大理石張りの壁に、観音開きの裁判官出入口には鳳凰(ほーおー)の飾りっすよ、鳳凰!ま、そんなことはどうでもいいんですが。

被告人質問は、午前中が弁護側主質問、午後には検察側反対質問と裁判官の補充質問が行われました。

贈収賄事案では、贈賄側の言質を取った上で立件というのがパターンです。美濃加茂市長事件では、金銭授受が行われたという2度の現場には藤井市長、贈賄供述者の中林氏のほかに共通の知人が2度とも同席していました。この3人のうち、捜査当局はまず中林氏の自供を取り、残りの2人のうちどちらかを割ることができればそれで上がりと考えたと思われます。「(警察曰く)ハナタレ小僧」の藤井市長か、自分のことではない知人のどちらかは割れるだろうと考えた愛知県警の2人に対する取調べは相当過酷だったようです。しかし彼らは否認を貫きました。その時の模様が被告人質問では、当事者本人の口から語られました。

金銭授受を客観的に裏付ける証拠として考えられるのは、入手経路が不明な入金です。現金を受け取ったとされる日時と近接したタイミングで、類似金額の入金の記録があり、その入手経路の合理的な説明がなければ、その原資が賄賂であったと認定できます。

午前中の弁護側主質問のハイライトは、3人が会った2日後に入金された9万5千円の入手経路の解明でした。検察ストーリーでは、藤井市長は、贈賄供述者の中林氏と昨年4月2日にガストで会い、現金10万円を受け取ったとされます。

4月4日に9万5千円が、藤井氏の経営していた塾名義の銀行口座に入金された記録を見つけた時、捜査当局は色めき立ったと思われます。逮捕の時点では、相当有力な客観証拠であったこの入金記録ですが、押収されたパソコンのデータに、塾の月謝の入金記録が発見され、いとも簡単にその現金の入手経路が解明されると共に、捜査当局のこの証拠に対する評価は一気にトーンダウンした模様です。

もし藤井氏が、市議会議員の俸給しか収入がなければ、確かに突然の9万5千円の入金は目を引くところです。しかし、彼にほかの現金収入の手立てがなかったかどうかの捜査が、逮捕以前には十分にされていなかったものです。かなり捜査の杜撰さを感じます。

そして驚いたのは、藤井氏と中林氏が知人同席で会った後、藤井氏だけが中林氏に車で送ってもらったという事実です。賄賂を渡すのに、「ガストで、知人が席を立った際に渡した」というより、よほど「二人きりになった車中で渡した」という方が合理的に思えます。

この疑問を昼食時に弁護団にぶつけたところ、「中林はメールに書かれたこと以外、全く覚えていないんですよ」とのこと。つまり中林氏の供述は、メールに書かれたことから検察が作ったストーリーに沿っただけということが強く推認されます。

検察は、自供も取れず、有力な客観証拠もつぶれるという、『北斗の拳』で言えば「お前はすでに死んでいる」という状態に早くから陥っていたことが伺われます。その状況が、藤井弁護団の郷原・新倉弁護士によって行われた午前中の被告人質問で明らかにされました。

午後は、検察の反対質問です。傍聴していて、当初は、検察もうまくやっているように感じました。検察お得意の「寸止め」を多用し、周辺をわさわさ叩きながら、攻め込んでくるぞという不気味な感じを醸し出していました。ところが、反対質問が進むにつれ、本丸に攻め込んでくるどころか、後ずさりして、どんどん遠ざかるような印象を受けました。雄叫びだけで、実は逃げていくような感じです。

ちなみに「寸止め」とは、公判においてよく使われる戦術です。

「当時、藤井さんはとてもお忙しかったですね」
「はい」
「それでも中林氏から、『本日会いたい』とのメールをもらってその日に会っていますね」
「はい」
(「そこまでして会うのは賄賂がほしかったため?」という雰囲気を漂わせて質問を打ち切る。それを尋ねると否認する機会を与えるから敢えて聞かない)

「『忙しいので外で会えないか』というメールを出しながら、実際には店内で会っていますね」
「はい」
(「わざわざ店内で会ったのは、賄賂を受け取る時に人目を避けるため?」という雰囲気を漂わせて質問を打ち切る)

「ドリンクバーを注文したことはレシートから確認されていますが、藤井さんは取調べの時に『ドリンクバーに行ったイメージがない』とお答えになってますね」
「はい」
(「ドリンクバーに自分で行ったイメージがないということは、同席者の知人が代わりに取りに行き、中林氏と二人になった時間があった?」という雰囲気を漂わせて質問を打ち切る)

裁判官の心証を取りにいく常套手段です。

ところが、いくら質問が進んでも、現金授受を裏付ける内容に切り込んでいかない、切り込んでいけないという状況が明らかになっていきます。

極め付けは、藤井氏が中林氏に送ったメールの文言。

「本当にいつもすみません」

検察の主張は、「藤井氏の携帯メールから抽出される「すみません」という言葉に、「本当に」と「いつも」とがついているのはこの一回だけである。この深い感謝を表す「本当に」と、繰り返しを示す「いつも」というのは、複数回現金をもらったからこそ出た言葉なのではないか」でした。

どひゃー!

そのメールに関し延々と繰り返し問い質したのが、検察反対質問のクライマックスでした。なんというセンスのなさ。そんな些末な証拠に拘泥すればするほど、いかにも証拠がないということを自ら暴露しているようなものです。

いくら証拠がないからといっても、名古屋地検はもう少し公判での訴訟技術を研究した方がいいのではと思いました。私の公判も似たり寄ったりではありましたが、もう少しましだったかと。

事件を俯瞰すると、やはり一番重要なのは動機です。藤井氏が中林氏提案の浄水プラント設置を積極的に働きかけていたという外形的事実はあります。そしてそれ自体は、中林氏の請託があろうがなかろうが、何ら問題がないものです。そこに現金の授受があったかどうか、贈収賄があったかどうかが問題です。

藤井氏が浄水プラントを積極的に推していたのは、彼が、本当にそれが市民のためになる、いざというときのためであると信じていたということは重要です。彼が浄水プラントの利点も理解せず、金を積まれたから推したということとは全く異質なものです。

公判後にお会いした江川紹子氏の言葉が、この美濃加茂市長事件の全てを象徴していると私は感じました。

「(名古屋地検は)特捜になりたくて、なりきれなかったんだろうね。」

桁が3つも違う融資詐欺を見逃しても「バッジを挙げたい」という幻影が検察をして狂わせてしまったというのが、この事件の背景だと思われます。

「記憶がはっきりとはしない」とする藤井氏に、同じ状況に関する質問を繰り返す検察官に対し、「記憶がないということを前提に質問して下さい。誤導になります」とさえぎったり、検察官がぐだぐだ続ける質問を「関連性がありません」と断ち切った鵜飼祐充裁判長の訴訟指揮はきびきびして好感を持ちました。

公判後に、藤井氏と主任弁護人の郷原氏がビデオニュース・ドットコムに出演していますので、その映像もどうぞ。終了間際に、この捜査機関の不祥事を問責するにはどうすべきか、ということの議論がされていますので、是非ご覧下さい。私が国賠審を戦っている意味もご理解頂ければ幸いです。

ここをクリック→ ビデオニュース・ドットコム「主張すべきことは主張できたと思う 被告人質問を終えて藤井市長が生出演」

10/26/2014














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表紙1




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category: 美濃加茂市長事件

2014/10/26 Sun. 05:30 [edit]   TB: 1 | CM: 0

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