「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (469) 「推定無罪原則を理解することの難しさ」 5/25/2015 

#検察なう (469) 「推定無罪原則を理解することの難しさ」 5/25/2015

推定無罪原則を観念的に理解することはできても(注)、真に理解することは、やはり理念と実践の差があり難しいといえます。まず、「お釣り4万5000円多く受け取りそのまま持ち去り逮捕」と題する先週土曜日の以下の報道をお読み下さい。

『スポーツ報知』 5月23日(土)7時4分配信

「店員が誤って多く手渡した釣り銭を受け取ったとして、宮城県警石巻署は21日、詐欺の疑いで石巻市内に住む会社員XX(注:記事は実名)容疑者(47)を逮捕した。

逮捕容疑は3月25日午後6時10分ごろ、石巻市内のコンビニエンスストアで携帯電話の利用料金を支払った際、約3000円の釣りのところを約4万8000円を渡され、それを間違いと知りながら持ち去った疑い。XX容疑者は「気が付かなかった」と容疑を否認している。

同署によると、XX容疑者は約10万2000円の金額に対し、10万5000円を支払った。その際、アルバイト店員がレジに約15万円と誤って打ち込み、釣りが約4万8000円と表示。その金額を手渡したことから、XX容疑者は約4万5000円も多く受け取った。

売り上げとレジの金額が合わなかったため、店で確認をする中で、利用金額の請求書の名前などから、XX容疑者が浮上した。店員は「単純にレジ打ちを間違えた」と話しているという。」

釣り銭が多いことにその場で気付いたけれども、そのまま受け取ってしまえば詐欺罪(刑法第246条)、その場では気付かなかったが、その後別の買い物の時など、財布の中のお金が多過ぎることに気付きながらもそれを返さなければ占有離脱物横領罪(=遺失物等横領罪、刑法第254条)となります。

ただ釣り銭間違いの場合、店側の落ち度もあるため、被害弁償によって起訴猶予となることが多いようです。

突っ込みどころは、「携帯電話料金に10万円ってどういうことよ?」ではありません。私は、この記事を自分のフェイスブックにアップしながら、次のようなコメントをつけました。

「うーむ、これで逮捕+実名報道か。金額が金額だけにねえ。店員が間違えなかったら、そんなことは起こらなかったのに、酷っちゃ酷だけど、仕方ないのかな。」

すかさず、FBつながりの弁護士の方から、コメントがありました。

「まさに否認したから逮捕という人質司法の典型の事件でしょうか。お釣りを受け取ってそのまま財布に入れてしまって増減が分からないこともあると思うけどな。」

まさにこれが推定無罪原則を理解しているかどうかの分かれ目です。冤罪被害者の私としたことが、かなりセンスのないコメントだったと理解しました。

この容疑者の方は否認しています。否認しているからこそ、逮捕され実名報道までされています。これがもし(虚偽自白でも)認めてしまえば、起訴猶予で全くおとがめなしという可能性すらある程度の事件性です。少なくとも、犯罪行為が事実であった場合、嘘をついてやっていないとすることにはかなりメリットが少ないように思えます。痴漢冤罪と似通った構図です。

お釣りの3000円と4万8000円を間違って受け取り、気付かなかったという弁明を、「千円札3枚のお釣りと、1万円札4枚+5千円札1枚+千円札3枚のお釣りを取り違えるなんて言い訳は不合理極まりない」と排除することは、推定無罪原則を理解していないからこその思い込みです。「言い訳としては、余りにもお粗末過ぎて、むしろ真実だからこそそのように語っているのでは」と推定すべきでした。

ここまでは推定無罪原則に則った記事の読み方ですが、もう一歩進んで弁護する立場になってみると、事件の違った見方ができます。その弁護士の方が更に示唆したのは、コンビニ店員横領の可能性でした。

「4万5000円はどうなったかですね。わざわざ店員が打ち間違えをしてそれを盗るとは考えられないとも言えるけど断定できないよね(飽くまで報道事実からの推理です)。」

なるほど、10万円札が日本で流通していない以上、現金払いのお釣りに1万円以上ということはあり得ません。「単純にレジ打ちを間違えた」として漫然と4万8000円のお釣りを払ったというコンビニ店員の主張も検討する余地があるように考えられます。これが「弁護士脳」かと感じました。

やはり事件の報道は、捜査当局の発表を元に作られているため一面的な部分がありますが、実は、かなり多面的な見方ができ、それはそもそも推定無罪原則が理解されていなければできない、ということがよく分かりました。

皆さんも、事件報道をお読みになる際の参考にして頂ければと思います。

(注)
ここをクリック→ #検察なう (159) 「疑わしきは被告の利益に」

5/25/2015














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category: 刑事事件一般

2015/05/25 Mon. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 3

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この記事に対するコメント

内心の問題

コンビニ等の買い物の場合、釣り銭の受け渡し自体に注意が行かなければ、そのまま財布に入れるという事は十分あり得ると思います。本人が釣り銭の間違いに気づいていたかどうか、というのは本人のそのときの内心の問題であり、外的証拠によってそれを立証するのは難しいのではないでしょうか。

また、この事件で逮捕までされてますが、身元がしっかりしているのであれば逃亡の恐れも低く、事件の性質から証拠隠滅の恐れも無い、ましてや凶悪事件では無い以上、否認していたとしても十分在宅で取り調べができたはずです。仮に起訴するとしても、どうしても逮捕しなければならない必然性がありません。裁判官が逮捕令状を審査するときに丁寧に事案を精査していれば、逮捕令状を発行しないという選択肢も十分有り得たはずです。(もっともその場合、他の審査の緩い簡裁へ持って行って令状を取りそうですが)。この逮捕は人質司法の典型例で、勾留する事によって有罪を認めさせる強要行為としか映りません。

嘆かわしい事ですが、この国では立場によっては正義を求める事自体が非常に高いリスクと負担を強いられるシステムになっている様です。

Tri #2AuWRls6 | URL | 2015/05/25 Mon. 22:49 * edit *

おっしゃる通りです

否認していれば、起訴猶予にも略式にもできないという、日本の歪んだ刑事司法の姿が表れたケースだと思います。この場合、もし冤罪であったとしても、虚偽自白の方が、どう見ても本人のためという実に皮肉な状況です。そしてどのような状況になろうとも、今後、この事件の報道はなされないであろうことが、メディアの問題を浮き彫りにするものです。今更ながら、無力感に襲われています。

八田

八田隆 #- | URL | 2015/05/25 Mon. 23:04 * edit *

軽微な事件の場合

こういう凶悪事件、重大事件に至らないケースの場合は予め担保としてある程度の金額を裁判所に供託して、民事に限定して事実関係を争い、負けた場合は供託金をそのまま賠償金として支払って解決する、という制度にした方が良いのでは、とかんがえる事があります。

刑事事件になって逮捕・懲役のリスクを背負うより、賠償金として例えば痴漢事件等で100万の金銭的リスクの方が背負えるでしょう。これで仮に負けたとしても、追加でもう50〜100万上乗せする事により内々の和解として、事実関係に関してはお互い棚上げとする、というのも大人の解決法としてはアリだと思います。

今の制度だと白黒つける為に人生が終わる、もしくは深刻な傷を残すリスクを個人に背負わせるのは、さすがにどうなんだろう、と考えざるおえません。混雑時の電車とか、今回の釣り銭勘違いの件にしても両者認識してなかった状況下で発生した可能性を考えると、実名報道と逮捕までするほどのでしょうか。

人間完璧では無いので、制度を考える上で人間が犯すミスや勘違いというものを計算に入れるべきだと思います

Tri #6Aros7K. | URL | 2015/05/26 Tue. 14:53 * edit *

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