「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (476) 「北海道砂川市ひき逃げ容疑事故に思うこと」 6/25/2015 

#検察なう (476) 「北海道砂川市ひき逃げ容疑事故に思うこと」 6/25/2015

実に痛ましい事故です。事故そのものに関しては多く報道されているので、ここで詳しく述べる必要はないと思います。

ここをクリック→ 毎日新聞「北海道4人死亡:後続車も「赤」で交差点進入か」

テレビの報道に接して、まず違和感を覚えたのが、シボレー運転者Kの容疑を「未必の故意が立証されれば、殺人罪での立件もありうる」とする法曹関係者のコメントでした。事故を引き起こした運転者を擁護するつもりは毛頭ありませんが、その報道時点では、その運転者は「人をひいた認識はない」としていました。被疑者の言い分を全く考慮せず、世間に迎合し、煽るかのような姿勢は、メディア上でのコメントとしていかがなものでしょうか。

効率を重んじる検察が、この事件で殺人罪を求刑するとは到底思えません。問題となるだろう蛇行運転に関しても、「ゴミがひっかかっていた」と供述されればそれを突き崩すのは容易ではなく、そもそも殺人罪で求刑しても、有期刑となることが想定されるケースで、同等の罪が危険運転致死傷罪の法定刑の上限(20年、併合罪加重や再犯加重の場合30年)で十分カバーされるため、敢えてハードルの高い殺人罪を検察が求刑することは、私には想像がつきません。

危険運転致死傷罪は、2001年の刑法改正で故意犯たる傷害罪の一部として新設されました。その後、適用基準の不明確さから消極的な運用がされていましたが、2011年、飲酒運転により3児が死亡した「福岡海の中道大橋飲酒運転事故」(2006年)の判例で、「危険運転致死傷罪の規定の解釈については事故の状況を総合的に考慮すべき」とし、危険運転にあたるかどうかを柔軟に判断することが可能になりました。そして2013年に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が制定、危険運転致死傷罪の適用対象が拡大されるとともに、「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」を新設し、逃げ得(時間が経過した後での逮捕でアルコール濃度が事故当時からは変化していたり、車を隠した後でさらに飲酒をしたり、事故を起こした後に大量の水を飲んで血中アルコール濃度を下げるなど隠蔽工作を図ったり、身代わりを頼む例もあった)を防ぐ対策が行われました。同法は2014年5月より施行されています。

今回の長男ひき逃げ容疑に関し、そのほかテクニカルな点では、第一の事故(BMWの軽ワゴン車衝突)がなければ、第二の事故(シボレーによる長男人身事故)がなかったという点でのBMW運転者Tとシボレー運転者Kの罪の加重・軽減や、被害者の過失(定員オーバー及びシートベルト着用義務違反。軽自動車の定員は4人であり12歳以上は定員通りカウントされ、後部座席のシートベルトは足りていなかったため、長女と長男は車外に放り出されたと思われる)は量刑で勘案されるものと思われます。

今回のケースでは、事故を起こした2台にはそれぞれ同乗者がおり、それら同乗者に危険運転致死傷罪の幇助が適用されうることは、あまり報道されていないようです。刑法では、「正犯を幇助した者は、従犯とする」(刑法62条1項)とされます。幇助犯は狭義の共犯であるとされるものです。もし幇助(正犯を幇助する行為と意思があった)が認められれば、同乗者にも危険運転致死傷罪の厳罰が科されることになります(従犯軽減の規定、刑法63条、により正犯よりも刑は軽減されますが)。過去の判例(最高裁判例平25.4.15)では、同乗者にも危険運転致死傷罪の共犯としたものがあります。

この事件に接し感じたことは、厳罰化が必ずしも抑止効果を持っていない犯罪があるという点です。確かに危険運転致死傷罪の一形態の飲酒運転は、厳罰化により著しく減少したと思います。それは飲酒をすれば、「酒気帯び運転の検問で摘発されるかも」という想像力が働くからです。しかし、危険運転致死傷罪を犯す者が、その罪を犯す前に「危険運転で人を死傷させるかも」という想像力が働くことは考えられず、それが抑止効果を持つことはないということです。勿論、危険運転による人の死傷に際しては、厳罰をもって処することは必要ですが、それはあくまで事後的なものでしかないという点に、危険運転致死罪の厳罰化の限界があります。

そして、厳罰化が今回のように「ひき逃げ」という発覚を怖れた隠蔽を招く可能性もあることは留意すべき点です。

それでは、刑法の厳罰化に頼るのではなく危険運転を減らすことは可能でしょうか。

厳罰化という観点では、運転免許の行政処分に関してはその余地が残されているかもしれません。現時点では、致傷では欠格期間5年ないし7年(傷害の治療期間による)、致死では欠格期間8年となっていますが、例えば「永久欠格」のアナウンスメント効果による抑止は期待できないでしょうか(それでも、ひき逃げが増えるかもしれないという懸念は残ります)。

発想の転換で、車の構造上、危険運転を予防する措置は講じられないでしょうか。例えば、呼気のアルコール濃度を検出する装置を義務化して、アルコールを検知した場合、エンジンがかからなくなるとか(シラフの運転者が酩酊者を同乗させる場合はどうなんだ、ということはありますが、例えばです)、一般道では、一定速度以上では燃料カットのリミッターが働き、高速道路のゲートを通過した時に、そのリミッターが解除されるようなシステムを開発するとか、そういったことを考えます。

誰でも危険運転の被害者となりえるため、これは我々みんなが考える問題です。みなさんも是非考えてみて下さい。

こうした事故の被害者が一人でも少なくなる社会を作る義務を我々は負っています。最後に、今回の事故の被害者となった永桶さんご一家のご冥福をお祈りします。

6/25/2015











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category: 刑事事件一般

2015/06/25 Thu. 08:23 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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この記事に対するコメント

厳罰化は万能薬では無いですね

厳罰化で満足させられるのは被害者と世間であって、これがイコール発生防止の為の万能の予防薬になるかどうかというと、そうでは無いでしょう。

ドライバーとしてやっていい事、悪いことを徹底してドライバーの頭に叩きこむには、教習所段階での教育を徹底する事。八田さんが提案された様な、酒の息を感知して停止するシステムも有効だと思います(どこかで研究していたという記事を読んだ気がしますが、まだ実用化されていないのかな?)

また、あまりに罰が厳しすぎるとそれを恐れて逃亡してしまい(つまりひき逃げになる)罪が重くなる上に、救助行為をしていれば助けられた命が助からないというリスクが高まるでしょう。一か八か、発覚しない方に賭けて逃げる人間は確実に出てきます。

交通事故の場合、場所と時間帯に寄りますが、加害者ドライバーがそのまま第一発見者となる場合も多いでしょう。いたずらに罰を重くする事で生存者の生存確率が下がる要素にも考慮に入れるべきだと思います。

Tri #6Aros7K. | URL | 2015/06/30 Tue. 06:53 * edit *

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