「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (485) 「再審請求審における証拠開示~周防正行氏著『それでもボクは会議で闘う』を読んで」 7/30/2015 

#検察なう (485) 「再審請求審における証拠開示~周防正行氏著『それでもボクは会議で闘う』を読んで」 7/30/2015

先日、周防正行氏著『それでもボクは会議で闘う』を読みました。これは法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員となった映画監督周防正行氏の、法制審議会での奮闘記です。

それでもボクは会議で闘う

「会議は踊る、されど・・・・」と題された第1部は、法制審議会での審議の成り行きを記したもので、私は元原稿を雑誌『at プラス』で読んでいたため、特に新しい発見はありませんでした。

at plus
(元原稿は、雑誌『at プラス』第19号と第20号に掲載)

法曹関係者ではない人間が、刑事司法の実情を知れば知るほどいかにナンセンスで非効率・不道理な状況か、というところが周防氏の原動力であり、それは一般人として共感するところは大きいのですが、どんなに抵抗しても、結局、法務官僚及び警察・検察関係者にいいようにしてやられましたという法制審議会における議論の趨勢の評価は微妙なものがあります。

席を蹴って出れば、全会一致を目標としていた法制審議会は頓挫し、結局何も変わらないという、それこそ警察・検察関係者(特に警察)が望むところであるというぎりぎりの選択だったという事情は十分理解し、また、では他の誰が委員となって法務官僚及び警察・検察関係者と対峙して望むような結果が得られたかということを考えても、特別部会の答申の批判は自分としては控えたいところです。

しかしごくごくわずか、全刑事事件のたかだか2-3%の事案の取調べ可視化のバーターとして、捜査協力型司法取引導入と盗聴法の対象事件拡大を捜査権力に許す特別部会の結論は、検察不祥事を契機とした一連の刑事司法改革としては、やはり法務検察官僚の焼け太りだと言わざるを得ないところです。

それゆえ、刑事司法改革の方向性を憂慮する者としては、特別部会の審議を報告した第1部や、「なぜボクは妥協したのか」と題した第3部よりも、より自由に刑事司法の問題点を指摘した第2部に一番読み応えを感じました。

とはいえ、やはり刑事司法の今日的問題をフォローするには、全体として『それでもボクは会議で闘う』は最良の書の一つであり、いずれ機会を見てこのブログでもその内容を掘り下げてみたいと思っています。

今回は、私が興味深く読んだ第2部の中で、一番興味深かった点を挙げておきます。それは再審請求審における証拠開示の問題でした。

私が素人考えで、日本の刑事司法の現状で一番おかしいと思うところが、検察は自分に不利な証拠(即ち、被疑者・被告人の無罪を証明しうる証拠)を開示する必要がないという点です。警察・国税局や検察は、強大な権力をもって捜査・取調べをしながら、そこで収集した証拠のうち、有罪立証に積極方向の証拠のみを公判に提出するということが許されているというのは、どう考えても納得がいかないものです。

今日、死刑・無期懲役が判決として可能性のある通常審の一審においては、裁判員裁判に付されることになっています。そしてそこでは公判の期日を短期化するため、公判前整理手続が取られます。そして公判前整理手続のルールとして、公判に入って審理する争点を絞る代わりに、関係証拠の開示が検察側に義務付けられています。つまり公判前整理手続を採用することにより、一定の証拠開示が担保されるものです(刑事訴訟法第316条の35)(注1)。

しかし、それはあくまで裁判員裁判制度施行以降の話ということになります。周防氏が問題点として挙げているのは、裁判員裁判制度以前の公判で、死刑ないし無期懲役となった事案の再審請求のケースで、それらがもし今日一審が行われていれば証拠の開示が行われているはずであるのに、再審請求審では証拠の開示が十分に行われていないというものです。

『それでもボクは会議で闘う』から小野正典委員(注2)の発言を拾ってみます。

(以下引用、注は引用者注)
さて、証拠開示については、再審についても検討せねばならなかったはずだが、事務当局試案は、再審について触れていなかった。

これに異議を唱えたのは小野委員だ。第27回会議で東電女性社員殺害事件(いわゆる東電OL事件)においては、DNA型鑑定が再審の決定的証拠となったが、それだけでなく、被告人のゴビンダさんの血液型はB型なのに、被害者の左右の乳房付近についていた付着物の血液型がじつはO型であるという科捜研の鑑定書を、検察側は出さなかった。再審段階で検察官は弁護側の請求を「証拠あさり」とまで言ったが、実際にはこうした重要な証拠を隠していたのだ(注3)。袴田事件の再審開始決定では、証拠隠しばかりでなく、ねつ造の疑いも指摘された。

「証拠を隠しながら有罪判決を維持し、再審でもそれに応じてこないという事態が、今回の再審開始決定で明らかになったわけです。こういった証拠隠し、ほとんど犯罪だとしか言いようがないと思いますけれども、それについて、最高検も法務省も何の対処もしようとしていない。警察も放置したままだ。こういうことで新時代の刑事司法制度特別部会は、それを放置しておいて良いのかという問題があると思うのです」
(引用以上)

そして周防氏は、この問題に関してこう結論づけます。

(以下引用)
おそらく、再審請求審において証拠開示制度が整備されないのは、もしすべての証拠が開示されれば、次々と無罪が明らかになるからではないのか。法務省も検察も警察も、そして裁判所もそれを一番恐れているに違いない。それ以外に、ここまで再審請求審における証拠開示制度づくりに消極的な態度をとる理由が思いつかない。
(引用以上)

捜査権力の証拠隠しにより無実の者が罪に陥れられ、裁判所がそれを追認するという経緯により冤罪は構造的に生まれています。そしてその雪冤をしようとする冤罪被害者と弁護団を頑なに阻むのが、再審請求審における証拠開示制度の不備・不在です。まさに暗闇の深淵をのぞき込むような気分にさせられます。

(注1)
私と弁護団は、公判前整理手続の証拠開示範囲の拡大というメリットは認めながらも、敢えてそれを採用することはありませんでした。
ここをクリック→ #検察なう (88) 「証拠開示と公判前整理手続」

(注2)
小野正典氏 弁護士(第二東京弁護士会)
ここをクリック→ 東京リベルテ法律事務所 弁護士紹介

ここをクリック→ 座談会「法制審・刑事司法制度特別部会の結論を受けて」

(注3)
ここをクリック→ #検察なう (294) 「犯人血液型当てクイズ」

7/30/2015













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category: 刑事司法改革への道

2015/07/30 Thu. 05:35 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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この記事に対するコメント

この刑事訴訟法改正の経緯を見るに、刑事司法改革に関して言えばこういう審議会形式での法改正には余り期待できないと思います。特に自民党政権化ではこれ以上は難しい気がします(そもそも自民党自体が刑事訴訟法をいじる事について積極的でない)

左翼もしくはリベラル勢力による政権交代、多分あと5年間は厳しい気がしますが、が実現した時に議員立法で一気にやるしか、抜本的改革ができないと思います。

証拠の全面開示義務化(及び証拠へのアクセスの自由)、弁護士の取り調べ同席、全事件の完全可視化、先進国では当たり前に実現しているこれらの制度は今のペースでは実現までにゆうに20年かかっても不思議では無いでしょう。その間にまたどれだけの冤罪被害が出るか考えるだけで憂鬱になります。

Tri #6Aros7K. | URL | 2015/08/01 Sat. 00:56 * edit *

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