「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (487) 「恵庭OL殺人事件再検証(2)~燃焼実験」 8/6/2015 

#検察なう (487) 「恵庭OL殺人事件再検証(2)~燃焼実験」 8/6/2015

前回ブログに引き続き、恵庭OL殺人事件を再検証します。
ここをクリック→ #検察なう (486) 「恵庭OL殺人事件再検証(1)~再審請求で原告側即時抗告を棄却」

この事件で最大の鍵を握る証拠の一つが、遺体の焼損状態でした。被害者橋向香さんの遺体は殺害後、何らかの理由で(その理由も重要だと考えますが、ここでは敢えてそれを推認することは保留します)、犯人により焼かれていました。

橋向さんは身長165cm、体重60kg、学生時代には陸上部に所属しており、筋肉質の体格でした。その遺体は、焼損の結果9kgも重量を失っていました。その重量減少が物語っているように、焼損状態は内臓までも炭化するほどでした。検察の主張に基づき確定判決が認定したことは、「灯油10Lを死体に散布して着火し焼損した(そして犯人は5分間だけ現場にいた)」というものでした。そして大越美奈子さんが、事件直前に灯油10Lを購入したことが、有罪立証の最重要証拠の一つとされました。

はたして灯油10Lを一度に散布して燃焼した程度で、内臓まで炭化し15%もの重量が失われるのでしょうか。被害者の遺体を扱った納棺業者は、「灯油を何回もかけ時間をかけてじっくり焼いたか、ガソリンかジェット燃料で焼いたように思われる」旨、供述しています。

弁護団は公判に提出する証拠として、豚の死体を使った燃焼実験を繰り返しましたが、確定判決では「豚と人間とでは皮膚の厚さや体毛が違うから、豚を使った実験は、被告人の無実を証明するものではない」と退けられました。裁判官の論理は、実施不能な人体実験による立証を要求するかのようです。

再審請求に際し、弁護団は更に燃焼実験を行うと同時に伊藤昭彦氏(弘前大学教授、燃焼学・混相流工学、東住吉事件で弁護側鑑定人、注1)に科学鑑定を依頼します。

弁護団が行った燃焼実験では、豚の皮を剥いだ上での実験も試みられました。その燃焼実験の模様がこちらです。

ここをクリック→ 燃焼実験の模様(『北方ジャーナル』)

弁護団の燃焼実験あるいは燃焼工学の権威による科学鑑定でも、灯油10Lによる燃焼では9Kgもの重量減少とはなり得ず、結果はそれとはかなりかけ離れた4Kg弱の重量の減少でした。

この弁護側の新証拠を退けるために裁判官が採用したのが「脂肪の独立燃焼説」です。これは、検察側証人須川修身氏(東京理科大学教授、社会システム工学・法火災科学、東住吉事件で検察側証人、注2)が供述した、実験に基づかない「灯油が燃焼し終わった後にも、体脂肪が独立に燃焼し続けるから、灯油10Lでも、本件死体のような焼損状態を惹起することはあり得る」という仮説によるものです。

「バーベキューで肉を焼いていて、燃料の炭がなくなっても肉の脂がそのまま焼け続けるから真っ黒こげになりうる」とでもいうような、一般常識からはかけ離れた仮説が、実験結果に基づいた科学的事実を否定するというのですから、裁判官の「自由心証」というのは恐ろしいものです。

特別抗告申立書で弁護団は、裁判官の姿勢を次のように激しく批難しています。
「当然のことではあるが、科学的争点について専門家の意見が大きく対立している場面において、科学に素人である裁判官が「素人の常識」によって独断的に判断することは許されない。裁判官は、その問題について専門的知識がないことを自覚した上で、謙虚に専門家の意見を聴き、その上で慎重に判断するべきである」(注3)

遺体の焼損状況は、次回以降のブログで再検証するアリバイとも深く関係してきます。大越さんの現場不在証明を成立させないためには、彼女が犯人だとすれば、遺体に火を放った後、ただちに現場を立ち去る必要があります。もしただちに現場を立ち去ったとしても、実に微妙な時間的制約の中で(ただちに立ち去ったとしても、検察が犯行時間を15分ずらすよう画策しなければアリバイが成立するくらい)、まして遺体を十分に焼損させるべく、その場に立ち止まっていたとすれば、大越さんの完璧なアリバイが成立します。

そして検察が隠していた目撃者の証言の中に、散歩の前後及び途中で数回炎を目撃し、最初に炎を見た後(最初の炎の大きさが「ビニールハウス2棟分の高さ」)、一旦納まりかけた炎が、50分後にも当初の1/3の程度に大きくなったというものがあります。

判決では、この長時間の燃焼は「脂肪の独立燃焼」によるものであり、結果、15%もの重量減少を引き起こしたとされました。

百歩、いえ十万歩譲って「脂肪の独立燃焼」によって長時間の燃焼が可能だったとしても、追加の燃料投与なしに、炎が再度大きくなることはありえません。燃焼実験では、炎の大きさは着火後短時間のうちに最大となり、「着火後3分で炎は最初の高さの半分以下(100cm)となり」、以降は「間欠的に燃えてはいたが、炎の大きさは最大でも30cmに満たない大きさであった」とされています。

これら「灯油10Lを一度に散布して燃焼させ、15%もの重量減が生じた」であるとか、「一旦小さくなった炎が、燃料の追加なしにひとりでに大きくなった」といった非科学的な「素人の常識」が判決の基礎になっていることは、もはや裁判所の信頼を著しく損なわせているとしか言い様がありません。

そして、更に私が重要視しているのが、遺体焼損現場付近の地面の露出状況です。

判決では、「被害者の遺体から燃え上がった炎が北側から吹いてきた風にあおられて、南南西に流れ出していた灯油に引火したことにより、元々厚みが小さかった南南西側の雪が北北西側の雪よりも早く溶け終り地面が露出するととも、その部分に黒いすすが付着したと認定することが出来る」とされました。

遺体が焼かれたとされるのは3月の北海道の夜の11時頃です。「地面に流れ出していた灯油に引火」は科学的にありえません。それは灯油の引火点が40度以上だからです。

ここをクリック→ Wikipedia 「灯油」

燃料が地面に漏れ落ち、それに引火したために、地面の一部が黒くすすけたとするならば、それは引火点が相当低い燃焼物でしかありえません。つまりそれはガソリン(引火点-40度以下)ないしワイドカット系のジェット燃料(引火点-20度程度)であり、遺体を処理した納棺業者の供述とも一致します。

ここをクリック→ Wikipedia 「ガソリン」

ここをクリック→ Wikipedia 「ジェット燃料」
(「ケロシン系」のジェット燃料の場合、引火点は灯油とほぼ同じです)

大越さんが事件前に灯油10Lを購入したということが有罪立証の最重要証拠の一つですが、遺体が焼かれた燃料は灯油ではないということが、遺体焼損現場付近の地面の露出状況から推認できます。

恵庭OL殺人事件は「科学裁判」であり、大越さんの無実は科学的客観証拠で立証されていながら、裁判官の結論ありきの非科学的なこじつけにより真実がねじ曲げられたものということがお分かり頂けたのではないでしょうか。

(注1)
ここをクリック→ 伊藤昭彦氏

(注2)
ここをクリック→ 須川修身氏

(注3)
特別抗告申立書より
「原決定は、「伊藤鑑定は、灯油の有無に関わりなく死体の脂肪が独立に燃焼することによる熱量を考慮せず、脂肪の燃焼による水分や脂肪等の減少を考慮していない点で、不合理と言わざるを得ない」として信用性を否定している。しかし、この判断も不当極まりないというほかない。

なぜなら、伊藤教授は、原審新弁第4号証において、きちんと上記の燃焼における体重減少量を脂肪の燃焼の点も含めて具体的数値で示しているからである。すなわち、「体重減少分9kgの脂肪の量は約2.3kgであり、脂肪は灯油の発熱量の80%であるから地面に流れた脂肪を度外視して灯油に換算した燃料の総量は9.8kgになる(灯油10L [8kg] +2.3kg x 0.8 = 9.8kg)。その結果、灯油10Lと脂肪2.3kgの燃焼による水分の蒸発分は1.38kgとなるため、脂肪の燃焼による体重の減少分2.3kgをこれに加えると、体重の減少は3.7kgになる」旨を、きちんとした計算式を用いて数値で示している。しかもこの数値は、弁護団がアイスバーン状の雪の上で皮を剥いだ52.5kgの豚を灯油10Lで焼いた燃焼実験における体重減少値3.52kgとほぼ符合しており、正確性が高い。このように伊藤教授は原審新弁第4号証と同第18号証において、灯油10Lと脂肪が燃焼した場合の体重減少量を合理的に算出しているものであって、原決定の上記判断は明らかに誤りである。」

8/6/2015















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category: 恵庭OL殺人事件

2015/08/06 Thu. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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