「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

05« 2017 / 06 »07
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

#検察なう (491) 「捜査協力型司法取引のリスク~法務委員会における笹倉香奈参考人の意見より」 8/20/2015 

#検察なう (491) 「捜査協力型司法取引のリスク~法務委員会における笹倉香奈参考人の意見より」 8/20/2015

刑事訴訟法改正法案が衆議院本会議を通った以上、刑訴法改悪は現実のものとなりそうです。

ここをクリック→ 『日本経済新聞』「刑訴法改正案が衆院で可決、今国会で成立見通し」

大勢は決したとはいえ、やはり我々に問題認識があるとないとでは、何か違うのではないかと期待を込めて、刑事訴訟法に新たに盛り込まれる司法取引について議論したいと思います。

司法取引と言えば、アメリカで多用されていると知る人も多いのではないでしょうか。その本場アメリカでの司法取引には大きく分けて、自分の罪を認めることで量刑減免等を得る「自己負罪型」と他人の罪を証言することで自分の罪を軽減してもらう「捜査協力型」があり、今回日本で導入が見込まれているのは後者です。

「捜査協力」と言えば聞こえはいいのですが、要は他人を密告して自分の罪を軽くすることを認めるというのがこの刑事訴訟法の改正による刑事司法の導入です。

先のブログでも紹介した衆議院法務委員会でのディスカッションで、この司法取引導入に異を唱えたのが、笹倉香奈甲南大学准教授でした。

ここをクリック→ 甲南大学 研究者詳細

彼女はイノセンス・プロジェクト(注1)で冤罪事件の調査に関わってきた経験を元に、アメリカでは捜査協力型司法取引が冤罪の温床となっている実態を、法務委員会の参考人として意見陳述しました。

その14分間の意見陳述は衆議院インターネット審議中継で見ることができます。

ここをクリック→ 衆議院インターネット審議中継ビデオライブラリ(2015年7月1日)

「この法案のままでは、更なる虚偽供述を生み、引いては新たな冤罪を生む危険性があるのではないか」とする彼女のポイントをまとめてみました。

彼女が指摘する最重要事項は、今回の司法取引導入に当たり、「アメリカの司法取引における現状の検討が十分に行われていない」「アメリカにおける、ここ10年のおける捜査協力型司法取引の議論が全く考慮されていない」という点です。

捜査協力型司法取引は、情報提供者あるいは「密告者(”snitch”)」が、「より寛大な処罰・量刑」「不起訴の約束」「身体拘束の回避」と引き換えに捜査への協力=情報提供をするものですが、それはアメリカにおいては冤罪を生み危険であるという認識が高まっており、個別の州で実際に改善の努力がされているものです。

捜査協力型取引が冤罪原因になっている実証として、イノセンス・プロジェクトで雪冤を果たしたケース(今日現在までで330件がDNA型館鑑定により無罪、そのうち20名が死刑確定者)が分析されています。

その結果明らかになった問題点には以下の3点があります。

①  「情報提供者の証言が冤罪の大きな原因になっている」

ノースウェスタン大学ロースクールのロブ・ウォーレン教授の2004年の研究によれば、当時明らかになっていた死刑冤罪の45.9%の原因が誤った情報提供者の証言であり、冤罪原因の第1位。

2004年カリフォルニア州の報告でも、州の冤罪事件の20%の原因は、虚偽の情報提供者の証言であった。

2005年サミュエル・グロスらによる研究によると、殺人冤罪事件の約半数が逮捕勾留されている情報提供者その他何らかの恩典を得た者の偽証が関わっている(注2)。

2011年、ブランドン・L・ギャレット、イノセンス・プロジェクトで雪冤がなされた最初の250件を詳細に検証した結果、情報提供者の証言が確定判決の有罪認定を支える証拠となっていたものが52件、つまり21%の冤罪の原因。それは誤った目撃証言や誤った科学鑑定に次ぐ原因だった。

②  「当該取引過程が妥当なものであったのか、情報提供者の証言が虚偽ではなかったのかという事後的な検証が行われにくい」

司法取引が秘密裏に行われることが少なくなく、それが冤罪の原因であることが分かっても、その内容が明らかになりにくい。それは情報提供者と捜査側のやり取りが記録されていないためである。

訴追側は、情報提供者の証言によって有罪立証をすることができるため、その証言が虚偽であるかどうかを精査する訴追側のインセンティブは低い。

③  「情報提供者が法廷で虚偽あるいは信用性の低い証言を行う場合にも事実認定者(アメリカでは陪審員)はそれを見抜くことができない」

司法取引導入擁護派は「反対尋問を通してその信用性を判断することが可能である」とする。しかし、アメリカにおける最近の実証研究によれば、陪審員は恩典を受けた情報提供者の証言を低く評価するとは限らない、即ち、本来信用性が低い可能性がある証言も有罪立証の証拠となりえる。

2000年代以降アメリカでは、捜査協力型司法取引の改革や提言がなされてきています。

第一に、「適宜な証拠開示が必要」とされています。

イリノイ州2000年の改正法では、逮捕勾留された者が情報提供者である場合、特別な証拠開示ルールが定められています(情報提供者の犯罪歴、恩典の内容、情報提供者が聞いたとされる原供述の内容、原供述が行われた日時や場所、情報提供者によって初めて情報が捜査機関に伝えられた日時や状況、過去に情報提供者が証言を行った事件、そのほか情報提供者の信用性に係る全ての情報を開示しなければならないとされる)。

第二に、「情報提供者の証言のみにより有罪立証はできず、被告人の犯人性を裏付ける補強証拠が必要である」とされています。

テキサス州・マサチューセッツ州の法律では、薬物事件の情報提供者の証言や収監中の情報提供者の証言には補強証拠が必要であり、補強証拠の範囲は被告人の犯人性を裏付けるものでなければならないとされます。そのほかの州においても、情報提供者の証言には特に留意し詳細に検討しなければならないとする説示を事実認定者である陪審員に対し、裁判官が公開の法廷で行うことが求められています。また、情報提供者の証言は録音録画されなければならないとされます。

これらアメリカにおける改革案の共通点は、秘密裏に行われる司法取引を透明化することで、冤罪原因としないことです。

今回の刑事訴訟法改正に当たり、冤罪原因となることを防ぐ方策として3つが挙げられていますが、それらは有効ではないと考えられます。

一つ目の「弁護人の関与」に関しては、司法取引に同席する弁護人は、引きこむ側の弁護人であり、ターゲットとされる被告人の弁護人ではないため、冤罪を防止することにはなりません。

二つ目の「合意内容書面の請求」に関しては、合意内容書面作成の経緯やそれ以前の取調べが可視化されていないため、やはり冤罪を防止することにはなりません。

そして三つ目の「虚偽供述に対する処罰規定」に関しては、むしろそうした処罰規定があれば、虚偽供述の事実を隠し通すことにつながり、やはり冤罪を防止することにはなりません。

これらは、引きこみ供述の防御の手当てとは到底言えないということになります。

司法取引は捜査当局には利益となるものですが、アメリカにおいて司法取引を導入することで多数の冤罪を生んできたということにも学ぶべきだと思われます。

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (146) 「イノセンス・プロジェクト」

(注2)
ここをクリック→ 「米2013年の再審無罪、過去最高に迫る」

8/20/2015
















ここをクリック→ Amazon 『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』 カスタマーレビュー

表紙1


ここをクリック→ Wikipedia クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

ここをクリック→ 八田隆ツイッタ―

ここをクリック→ #検察なう フェイスブック・コミュニティ






TwitterやFacebookでの拡散お願いします。

category: 刑事司法改革への道

2015/08/20 Thu. 01:03 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://fugathegameplayer.blog51.fc2.com/tb.php/900-5a605a24
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top