「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (499) 「再審制度運用の現状~恵庭OL殺人事件における弁護団特別抗告申立補充書より」 9/17/2015 

#検察なう (499) 「再審制度運用の現状~恵庭OL殺人事件における弁護団特別抗告申立補充書より」 9/17/2015

再審とは三審制で確定した判決をもう一度審理することです。再審は請求すれば必ず審理されるものではなく、その請求手続きは肥大化し、再審開始はそのまま逆転無罪を意味するというのが実態となっています(注1)。

そもそも無罪を取ることのハードルが相当高いことは、このブログをお読みの方は理解していると思いますが、そうした理解があれば、一旦最高裁まで行って確定した判決をひっくり返すことは、ほぼ不可能であると感じられるのではないでしょうか。

それでもその不可能を可能にするべく努力している人たちがいます。真実無実である冤罪被害者とその弁護団ならば、やはり不可能だからといって諦めきれず、人知を尽くして不可能を可能にしようとするものです。

恵庭OL殺人事件は、私が冤罪だと確信している事件ですが(注2)、その再審請求の手続きである特別抗告で弁護団が提出した申立補充書に、再審の実態を見ました。その一部を引用させて頂ければと思います。

(以下引用)
不利益再審を廃止した現行法の下で、再審が「無辜の救済のため」の制度であることを否定する者はいない。しかし、この制度が、法によって期待された「無辜の救済機能」を現実に果たしているかと問い直された場合、「十分に果たしている」と答える法曹は多くない筈である。特に、えん罪の救済に日夜各地を奔走している弁護人サイドからみると、再審制度は、「事実上ないに等しい」状態に陥っているように見える。

かつて、最高裁判所は、白鳥・財田川決定という画期的な決定を続けて出し、その後1980年代には、4人の死刑囚が次々に死刑台から生還するという劇的な場面もあった。しかし、最近の下級審におけるこの制度の運用は明らかに硬直化している。白鳥・財田川決定は、「『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則」が再審事件においても適用されると宣明したが、現実の運用では、この鉄則が守られていない。むしろ、それは、白鳥決定以前に実務を支配していた「疑わしいときは確定判決の利益に」という考え方に先祖返りしてしまったようにすら見えるのである。

もっとも、21世紀に入ってから、足利事件、布川事件、東電OL殺害事件(以下「東電事件」)、富山氷見事件等一連の事件では、再審無罪判決が確定した。確かに、これも画期的なことには違いない。しかし、これらの再審無罪判決の大部分は、DNA鑑定とか真犯人の発見・逮捕のように、それ自体で請求人の無実を示す決定的証拠が存在する事案(つまり、「総合評価説」によらず「孤立評価説」によってでも再審開始が可能な事案)であった。そのような証拠が発見できないまま、旧証拠と新証拠を総合評価することにより確定判決の認定事実が「疑わしい」とされ無罪判決に至ったのは、布川事件だけである。

新たなDNA鑑定が可能となったり真犯人が逮捕されたりするのは、余程の幸運が重なった数少ない事件である。そういう幸運な事件ですらこれだけの誤判・えん罪(不正義)が明らかになったという事実は、そうでない多くの事件では、さらに多くの不正義が行われているという推測を可能とする。裁判所は、「その種の不運なえん罪者は、決定的な新証拠が発見されない以上、身の不運を我慢せよ」とでも言うのであろうか。

もちろん、そんな言い方が許される筈はない。

現に再審法の原点とも言うべき白鳥・財田川決定は、再審を開始するために、無実を証明する決定的証拠など要求していない。白鳥決定は、つとに、明白な証拠の意義を、「確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」であると定義した。その上で、同決定は、明白性の判断に当たっては、「(新証拠が)確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断」するべきである旨宣言したのである。この決定が出された時代には、DNA鑑定などまだ開発されていなかったのであるから、足利事件や東電事件のような形で再審が開始されることは全く想定されていなかった。現に、1980年代に死刑4事件で再審無罪に至ったのは、いずれも新旧全証拠の総合評価の結果である。

このように、判例は、新証拠の明白性の意義及びその判断方法について、明確な判断基準を示しているのである。これは、当時の最高裁判所が、誤判・えん罪の悲劇を直視した上で、不幸なえん罪者の救済に強い熱意を示していたことを示している。

それであるのに、近時の下級審実務では、「再審請求は棄却するべきもの」という相場が決まってしまったような印象を受ける。上記足利事件など以降の主要な裁判例では、福井女子中学生殺し事件、大崎事件第2次、飯塚事件、北陵クリニック事件、姫路郵便局事件、高知白バイ事件、名張毒ぶどう酒事件第8次、特急あずさ号事件などで、次々と再審請求が棄却された。珍しく再審が開始された袴田事件、東住吉事件では、検察官の即時抗告によって長期の延長戦に突入している。今回、本件でまた、再審請求棄却決定に対する即時抗告が棄却されたのである。

ところが、これらの棄却決定は、いずれも説得力皆無であって、決定を読んだだけで多くの疑問を抱かされる。

再審制度運用の現状は、以上のとおりである。せっかく立派な法制度と格調高い最高裁判例を持ちながら(なお、言わずもがなのことではあるが、白鳥・財田川決定の前記判示は、現在でも当然判例として拘束力がある)、再審制度が誤判・えん罪の救済にほとんど役に立っていないのは、無念極まりないことである。

白鳥・財田川決定及びその後の死刑4事件判例の後、再審に関する下級審の運用が再びこのように硬直化してしまった原因は何か。それには種々のことが考えられるが、その最大の原因が、刑事裁判官の多くにみられる「確定判決をできるだけ擁護したい」という意識であるように思われる。それは、白鳥決定以前に実務を支配していた「法的安定性の尊重」と同じ意識であり、それを具体的に示すのが「疑わしいときは確定判決の利益に」の考え方である。確かに、刑事裁判官にとって、多くの先輩が関与し最高裁まで争われて確定した有罪判決が誤りであったと認めるのは、気の重い作業であるに違いない。この意識に、「わが国の最高裁は、再審制度の活用に消極的であり、ごく一部の例外を除き、再審請求を棄却した決定が最高裁で覆った例はない」という現実が拍車をかける。下級審裁判官としては、先輩のした判決の誤りを指摘することなく、強引な論法によってでもこれを擁護する決定をしている限り、最高裁から誤りを指摘される危険がないのである。

しかし、これではえん罪者はたまらない。人間のする裁判に誤りはつきものである。不運にもえん罪の陥穽に落ちた者に対し、「お前は運が悪かったと思って諦めよ。」と言うのでは、「何のための裁判所か。」と言われても反論できないではないか。裁判所としては、再審制度をできるだけ柔軟かつ積極的に活用して、不運なえん罪者を一人でも多く救済するべきである。

「裁判所の誤りで生じたえん罪を救済できるのは裁判所だけである」ことを、十分意識していただきたい。
(引用以上)

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (296) 「再審制度の問題点再考」

(注2)
ここをクリック→ 冤罪ファイル その13 「恵庭OL殺人事件」

ここをクリック→ #検察なう (486) 「恵庭OL殺人事件再検証 (1) ~ 再審請求で原告側即時抗告を棄却」

ここをクリック→ #検察なう (487) 「恵庭OL殺人事件再検証 (2) ~ 燃焼実験」

ここをクリック→ #検察なう (488) 「恵庭OL殺人事件再検証 (3) ~ 燃焼実験 その2」

ここをクリック→ #検察なう (489) 「恵庭OL殺人事件再検証 (4) ~ アリバイ」

ここをクリック→ #検察なう (490) 「恵庭OL殺人事件再検証 (5) ~ プロファイリングにより真犯人像に迫る」

9/17/2015












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category: 再審

2015/09/17 Thu. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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