「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (511) 「袴田事件におけるちゃぶ台返しは、刑事司法に対する信頼を失わせるのみ」 10/29/2015 

#検察なう (511) 「袴田事件におけるちゃぶ台返しは、刑事司法に対する信頼を失わせるのみ」 10/29/2015

冤罪に全く関心がない人でも、袴田事件と聞いて知らない人はいないと思います。しかし、関心がなければ、昨年3月の袴田巌氏の刑執行停止による釈放の映像を見て、「無罪放免になったんだ。48年も無実の罪で投獄なんてひどいよね」と思っている方も少なくないのではないでしょうか。

実際には、確定判決を再審理する再審はこれからで、しかも検察の即時抗告により、現時点では、再審開始決定が妥当かどうかの抗告審理が行われているという状況です。

静岡地裁(村山浩昭裁判長)の再審開始決定文の末尾はこう結ばれています。

「袴田は、捜査機関によりねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ、極めて長期間死刑の恐怖の下で身体を拘束されてきた。無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在、これ以上、袴田に対する拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反する状況にある。」

不正義に対する裁判官の憤りが伝わってきます。

しかし、これほど明快に袴田氏の救済こそが正義であるという再審開始決定を受けながら、現在進行中の抗告審理の雲行きが怪しくなっているという状況が伝えられています。

そもそもDNA型鑑定は、袴田事件においては、袴田氏の無実を立証する証拠としてはダメ押しのダメ押しとして扱われるべきものですが(注1)、検察の論理は「DNA型鑑定こそが決定的証拠であり、それを崩せば袴田無罪の立証は崩れる」と意図するものです。

再審開始決定文では、DNA型鑑定に関しては、

「5点の衣類の血痕は、袴田のものでも、被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる」

「白半袖シャツ右肩の血痕は袴田のものではない蓋然性が高まった」

「検査方法としては弁護側鑑定の方がより信頼性の高い方法を用いているから、検察側鑑定の結果によって、弁護側鑑定の結果の信用性が問われることはない」

としています。

5点の着衣の中で、白半袖シャツ右肩の血痕が重視されているのは、そのほかの血痕は被害者が殺害された際の返り血とされていますが、この白半袖シャツ右肩の血痕だけは袴田氏のものとされている(彼は事件時の消火活動の際に、右上腕部に引っかき傷を作っています)からです(注2)。

袴田事件 白半袖シャツ

検察が問題にしているのは、弁護側鑑定の鑑定結果ではなく、裁判官が「より信頼性の高い」とした方法そのものの信頼性です(そもそも科学鑑定は、誰がやっても同じ結果になる再現性が重要視されるはずですが、「弁護側」「検察側」という時点で、お手盛り感一杯です。いっそのことアメリカのイノセンス・プロジェクトに依頼するとか、もっと誰もが納得するすっきりした方法にしてもらいたいものです)。

弁護側鑑定が取った方法は、複数種類の組織(唾液や皮脂、汗など)が付着していることが考えられる試料から、血液のDNAのみを選り分けて取り出す「選択的抽出方法」というものでした。その鑑定方法が適正であることを立証せよと検察が主張し、弁護側も容認したのは①科警研で保存している20年前の古い血痕だけの試料、②新しい血痕に別人の新しい唾液を混ぜた試料、からそれぞれ選択的抽出方法で血液のDNAだけを取り出せるかどうかというものでした。

そして今回の報道にあるように、弁護側が反対しながらも裁判所の職権で行うことになった実験とは、③20年前の古い血痕に別人の新しい唾液を混ぜた試料からでも血液のDNAのみが取り出せるかどうかというものです。

付着したDNAは、時間の経過とともに分解して減少します。それに新しい組織を混ぜ合わせた場合、古い組織のDNAを鑑定しようとして増幅すれば、当然新しい組織のDNAがより強く増幅され、古い組織のDNAは全く反応しなくなることが容易に考えられます。

異議を唱える弁護団に対し、裁判官は、「それなら加える新しい唾液をごく微量にすればいいじゃないか」として、この実験に踏み切った模様です。どれだけの微量が、新旧のDNAの混合試料に影響を与えないかといった科学的根拠の全くない「ごく微量」を裁判官が主張しているということです。これは、弁護側の取ったDNA型鑑定法が適正ではないという結論を導き出したいがための指揮ではないかと危惧されるものです。

そしてもしDNA型鑑定が信用ならないとされたなら、それを言い訳にして(ほかのより重要な無罪の証拠を無視して)、再審開始決定取消ということにもなりえます。そうなれば当然刑の執行停止は取り消され、袴田巌氏はまたもや塀の向こうへ押し込められるということになります。

袴田巌氏の残り限られた人生を更に踏みにじる不正義が許されるべきではないことは言うまでもありませんが、私が憂慮することは別にあります。

冒頭で述べた「無罪放免になったんだよね」と思っている人が、そうなった時にどう思うか。彼らの一部は「へー、やはり彼を犯人だとした警察・検察や有罪判決を出した方の裁判官がやっぱり正しかったんだ」と思うかもしれません。しかし少なからず、いやあれほど大々的に釈放が報じられ少しは事件の内容を知った人の多くは、「ひでー!また同じ過ちを繰り返して人の人生を台無しにすんのかよ。とんでもねえな。やはり日本の司法は中世並みだわ」と思うのではないでしょうか。

「自分たちは間違っていない」と言い続ければ、それを真に受けて信じるというほど国民は愚かではありません。なぜ検察や一部裁判官にそのことが分からないのか。

百万歩譲って、検察と裁判官が神の目を持っていて、真実のところ袴田氏が真犯人だとしても、彼を再び投獄して、彼らが得るものと失うものを比べた場合、失うものの方がはるかに大きいという、なぜ長期的ヴィジョンに立った「ビジネス・ディシジョン」ができないかということを本当に残念に思います。そこで失うものとは、国民の信頼です。そして正義に与えられた力は、国民の信頼に裏打ちされたものであり、国民の信頼を失えば、いずれその力は彼らから奪われることになります。

せっかく勇気ある裁判官が再審開始というお膳立てをしたのに、それをちゃぶ台返しすることのリスクとリターンを検察・裁判官は重々理解すべきだと思います。

(注1)
ここをクリック→ #検察なう (385) 「犯行着衣が捏造でないことと袴田巌氏が犯人であることは両立しない」

(注2)
犯人性に直接関係するのが5点の着衣の中の血痕でも、白半袖シャツ右肩の血痕だということです。

そのほかの血痕に関しては、もし被害者のものでなければ、5点の着衣は犯行着衣ではありえず、捏造の疑いが強くなり、捜査機関の主張は根底から覆って(結果として)袴田氏が犯人ではないということになります。

弁護側鑑定も検察側鑑定も、白半袖シャツ右肩の血痕に関しては、袴田氏と同一型のDNA型は検出できず。5点の着衣のほかの血痕に関しては、弁護側鑑定は被害者と同一型のDNA型は検出できずとしながら、検察側鑑定では、「緑色のブリーフについた血痕は、被害者由来のものであるという可能性を排除できず」という実に微妙な結果でした。

ちなみに、上半身の着衣が体を動かしてずれる場合には、常に上方にずれるため、もし体についた傷の血液が付着する場合、血痕の位置は傷より下(上方にずれた衣服と位置が一致する)にあるはずですが、白半袖シャツ右肩の血痕の位置は、袴田氏の右上腕部の傷より上にありました。

10/29/2015















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category: 袴田事件

2015/10/29 Thu. 08:27 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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