「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (81) 「田中周紀著『国税記者 実録マルサの世界』」1/6/2012 

#検察なう (81) 「田中周紀著『国税記者 実録マルサの世界』」1/6/2012

私の事件を収録した田中周紀氏の著作「国税記者 実録マルサの世界」の売れ行きが好調のようです。じっくりこの本の紹介をしようと思っていたところ、大学後輩から本の感想に関してメッセージが届きました。結構、いい着眼点だと思ったので、そのまま引用させて頂きます。

<以下メッセージ>

八田さん、ご無沙汰しています。

「国税記者 実録マルサの世界」がクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件について書いていると聞き、買って読んだので、感じたことを記しますね。

第七章の「外-外のカネを追え」で、八田さんともう一人、ジョンソン・エンド・ジョンソンの元代表取締役社長・廣瀬氏が取り上げられていましたね。お二人とも、外資系企業に勤務し、報酬として得た親会社のストックオプションや株式を億単位で“脱税”した容疑がかけられたという点でそっくりだと思いました。時期も2005年から2007年の所得についてですし、各々2009年秋、2010年初春に国税局から告発されているし。

違うのは、廣瀬さんが脱税を認め、2010年6月には有罪の判決を受けているのに対し、八田さんは容疑を否認し、2011年12月に起訴されたけれど、今現在まだ裁判が始まっていないという点だと思います。それ以外はそっくりです。

2つの案件で、進むスピードが全く違うのにも驚いたのですが、二人のケースを比較しながら読んでみると、“似て非なるもの”であると感じました。

廣瀬さんの場合は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの社員及び元社員の中から一人だけが国税局の調査対象になってるみたいです。対して、八田さんのケースではクレディ・スイス証券の社員及び元社員約300名が調査対象になっていますよね。全社員が700名程度の規模の会社で、元社員も合わせてとは言え、約300名が調査対象になり、その殆どが修正申告することになり、内約100名は無申告だったというのは、常識的に考えれば、会社のシステムに問題があったとしか思えません。約3人に1人の人が“脱税”したのか? 会社のシステムに問題があったのか? 普通の人ならば、後者に違いないと断言するでしょう。私もその1人です。まさにクレディ・スイス証券集団申告漏れ事件たる所以です。万が一前者であったとしたら、何故八田さんだけが告発されたのでしょうか? 金額が一番大きいから? と、はてなマークが沢山つきます。

手口というか、お金の移動の仕方も全く違いますよね。廣瀬さんはシンガポール等の第三国に法人名義で口座開設をし、複雑なルートを経由してカネを移し替えています。一方、八田さんは、やはりシンガポールにある銀行口座にカネを移したけれど、それは本人名義の口座ですよね。これは大きな違いだと思います。もし八田さんが脱税をしようと思ったら、本人名義の口座(しかも、税務署が把握している口座!)に直接お金を移動するなんてマヌケなことはするとは考えられません。廣瀬さんのように誰のものか特定しにくい口座に何回かのステップを経て移すことでしょう。それどころか、私が思いつかないような、もっと天才的な手口を考えつくのじゃないでしょうか?

また、お二人の年齢、調査対象になった時期に占めていたポジションも違います。これは私が民間企業で現役として働いているからピンとくるのかもしれませんが、かなり重要な違いだと思うのです。廣瀬さんは、既に70歳を過ぎて、現役を離れ名誉職を務めるいわば“半隠居”のような立場。私の勤務する企業にも同じような立場の顧問の方がいますが、週に1回程度出勤し、会議に出席する程度です。責任も大してなく、偉そうなことだけ言ってれば良くて「気楽でいいなあ」といつも思っています。これまで培ってきた人脈なんかがたまに役立ったりするんですけどね(笑)。

一方、八田さんは40代半ばでマネージング・ディレクターでした。企業によってタイトルとその占める位置が違うのではっきりは分かりませんが、事業本部長みたいなもので、現場の責任者ってことだと思います。責任も重く、且つコミットする時間も精神力も並大抵のものではないはずです。プレッシャーもすごいでしょうし。

税金を”どうこうする”ことに費やす余裕は、廣瀬さんにはあったかもしれないけれど、八田さんにはあまりなかったんじゃないでしょうか? 勤務している時間以外も仕事のことを考えているでしょうし、もし少しでも余裕があれば、リフレッシュできるような趣味や家族・友人との交流に時間を割くんじゃないかという気がします。

・1人の申告漏れ 対 300人の集団申告漏れ

・法人名義口座へのカネ移動 対 本人名義口座へのカネ移動

・半隠居の悠々自適な立場 対 一線の現役としての激務

こうやって挙げてみると、形(高給取りの外資系企業元幹部、親会社のストックオプション・株式、億単位の申告漏れ)は似ているけれど、中身、つまり、背景や状況、お二人の年齢・立場が全く違うので、「外資系企業で高額な報酬をもらっていた人間が欲に眩んで脱税をした」と一括りに捉えてしまうことは、もし八田さんを知らないとしても、私には出来ないと思いました。

以上が本を読んでの感想です。他の章も含めた本全体は、脱税の手口やスキームを紹介した「脱税の参考書」的なため、人間の業を描くような作品が好きな私にはちょっと合いませんでした。

それから、思ったことがあります。八田さんは容疑者というよりも犠牲者なんだなあ、と。クレディ・スイス証券という会社の経理や人事のシステムがしっかりしていなかったことによる犠牲者。他にも犠牲者になった人は300人もいるけれど(修正申告や追徴課税をする羽目になった)、ただ金額が最高だったからというだけで、実名報道による社会的ダメージ、起訴といった、“申告漏れ”に対する“罰”としては他の人と比較にならないものを受けているんですね。

そして、本の感想ではあるのですが、私にとってはとても印象的だったので、敢えて最後に記したいことがあります。廣瀬さんと八田さんの人生における価値観の違いが浮き彫りになる記述があったのです。
「子どもや孫のために資産を残したかった」と脱税動機について語った廣瀬さん。
「息子にも、自分を信じて戦う父親の姿を見せたいと思います」と否認を続けることを決意した八田さん。
お二人の人生における優先順位の置き方が違うということがはっきり分かります。廣瀬さんには面識がないので欠席裁判みたいで申し訳ないのですが、廣瀬さんは幸せをもたらすものとしてお金に高い優先順位を置いている気がします。八田さんは、“自分に嘘をつかない(やってないものをやったとは言えない)”の優先順位が高いと思っているのはないですか? もし、容疑を認めれば罰金(?)で済み、容疑を否認して裁判で戦って負けたら全財産を没収されるとしても、否認したのではないですか?

PS
昨日の嘆願書1/145を読みました。
いつもとは違って平易な文章で読みやすかったです。
そして、風河君の嘆願書には感動しました。父への思いやりと愛情、それから人間の尊厳に対する確かな考えを持っていることが現れている素晴らしいものでした。
石巻のボランティアでもご一緒した時にも、「やさしくて不言実行の良い子だなあ」と思いましたが、その考えを新たにしたところです。
あんな息子さんがいてうらやましい限りです。

<メッセージ以上>

1/6/2012


category: クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

2012/01/06 Fri. 02:58 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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