「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (526) 「大崎事件の真相に迫る (5) ~ 関係者供述の信用性」 1/7/2016 

#検察なう (526) 「大崎事件の真相に迫る (5) ~ 関係者供述の信用性」 1/7/2016

大崎事件の冤罪被害者原口アヤ子さんは、逮捕以来、一貫して自らの無実を訴え続けました。しかし、確定判決に至るまで、彼女の訴えを裁判所が聞かないということにはある事情がありました。

それは殺害の共犯者とされた中村善三氏、喜作氏及び死体遺棄に関与した善則氏が彼らの公判では自らの罪を認めかつアヤ子さんが主導したことを供述し、彼らを裁いた同じ裁判体がアヤ子さんを審理したためです。「他人を罪に陥れる」供述は、本来その信用性が問われる性格のものですが、彼らの供述には同時に「自分の罪を認める自白」という特殊性がありました。彼らは、自分たちの公判では、その自白を翻さなかったものの、分離して審理されたアヤ子さんの公判では、自白・供述は虚偽であったと述べています。

この事件には物的証拠らしい物的証拠は全く存在せず、確定判決では、殺害及び死体遺棄の共犯者とされた3人の供述のみによりアヤ子さんの有罪の事実認定が行われています。しかし、彼ら3人は知的障害者でした。喜作氏は収容時「精神薄弱者及びこれに準じて処遇する必要のある者」に分類され、善則氏は受刑中の分類調査表に「IQ=64」とされています。

刑事事件の判例では、知的障害者の自白や目撃証言は慎重に扱われます。

ここをクリック→ 知的障害者の証言能力をめぐる判例の傾向

大崎事件においても、第一次再審請求審で、3人の供述の信用性は再評価して否定され、一旦は再審開始が決定されました。しかし、彼らの供述の信用性は、即時抗告審における棄却決定でも、やはり大きく揺らいだものの、犯行の前後にアヤ子さんと喜作氏の会話を聞いたとする喜作氏の妻であるちり氏(「ちり」とは変わった名前ですが、今で言うキラキラネームの走りかもしれません)の供述によってその信用性が増強され、肯定されました。

そのちり氏の供述は、確定判決時には、ほとんど問題とされなかったものですが、3人の供述の信用性が問題となった時に突然浮上してきたものです。

彼女が警察の取調べで語ったところは次の通りです。

「私が小便をするために外に出たところ、ちょうどかま屋の前の庭のところに主人とアヤ子さんが立っていましたので、私も側へ行ったところ、アヤ子さんが主人に「邦夫をうっころすので加勢しやんせ」と言いました。主人は「うん」と言いましたが、その話を聞いても、私は止めることができませんでした。アヤ子さんに逆らったらどんな目に会うかわからなかったからです」

これは典型的な伝聞証拠であり、証拠能力が否定されるべきものです。更に重要なのは、ちり氏には既に逮捕されていた彼女の夫の罪を軽くすべく、アヤ子さんが主犯であり、彼女の主導で夫は犯罪に巻き込まれたと証言するインセンティブがあったという点です。この点に関しての裁判所の判断は、「自分の夫が殺害に関与したという不利な証言ゆえ信用に足る」というものでした。「物は言いよう」です。

第二次再審請求棄却に際し、突如浮上したちり氏の供述の信用性を問うべく(注1)、第三次再審請求では、新証拠としてちり氏の供述の心理学鑑定が提出されています。

親族の殺害というとんでもない状況下の会話でありながら、躊躇なく何らの異議も唱えず、また同意するにしても、その具体的な内容に一切踏み込まない二人の言葉を聞いたとする供述は虚構である(心理学的に言えば「相互行為調整局面での著しく不自然なコミュニケーション不全が認められる」)とするものです。ちり氏が二人の言葉を聞いた後、それを自分の夫に問い質すことなく当たり前のように就寝したと供述していることからも、彼女の供述はあまりに不合理と言えます。

極めて信用性の疑わしい共犯者及び関係者の供述のみにより有罪とされたアヤ子さんの再審開始決定が、現在継続中の第三次再審請求で認められることは正義であると強く感じます。是非、ご注目下さい。

(注1)
ちり氏の証言に関して、元判事の森炎氏は、彼の著書『教養としての冤罪論』の中で一定の重要性を認めていました。

ここをクリック→ #検察なう (522) 「大崎事件の真相に迫る (1) ~ 大崎事件の概要」

参考文献
鹿児島大学『法学論集』「再審の現在―大崎事件第三次再審請求で問われるもの―」中島宏
法学セミナー2012年3月号「大崎事件―つづら折りの事件史あるいは奮闘記」鴨志田祐美
法学セミナー2014年12月号「大崎事件第2次再審請求から見た刑事司法の課題」鴨志田祐美
『叫び 冤罪・大崎事件の真実』 入江秀子

1/7/2016















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category: 大崎事件

2016/01/07 Thu. 06:59 [edit]   TB: 0 | CM: 5

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この記事に対するコメント

はじめまして!先日死刑制度について考える(5)〜死刑制度維持にかかるコストのブログを拝見したんですが、現在大学の授業で死刑制度についてレポート作成をしているのですが、八田さんのブログの内容を参考にしたいので、八田さんがこの記事を書くにあたり使用した参考文献教えていただけませんか?

もも #- | URL | 2016/01/08 Fri. 11:37 * edit *

メッセージありがとうございます

#検察なう (526) 「大崎事件の真相に迫る (5) ~ 関係者供述の信用性」でしょうか。記事の最後に、書き忘れていた参考文献を追加しました。ご参照頂ければ幸いです。また何かありましたら、お問い合わせ下さい。

八田隆 #- | URL | 2016/01/08 Fri. 11:41 * edit *

返信ありがとうございます!
大変申し訳ないのですが先ほどの参考文献ではなく2015年の1月1日に書かれた『死刑制度について考える(5)〜死刑制度維持にかかるコスト』の参考文献を教えていただけませんか?

もも #- | URL | 2016/01/08 Fri. 12:05 * edit *

失礼しました

当該ブログの添付のリンク以外の情報として、ポイントになるのは「一般に公判1回300万円」という点と、「死刑囚の収監費用は、一般の収監費用の3~4倍」という点かと思います。前者は弁護士からの聞き取り、後者はネット検索で読んだものと記憶しています。どちらもざっくりしたものですが、自分の感覚として当たらずとも遠からずという印象です。数値化するのが難しいものですので、これ以上精緻な情報があるかどうかは申し訳ありませんが不明です。はっきりしたことを言えずにすみません。

八田隆 #- | URL | 2016/01/08 Fri. 12:16 * edit *

返信ありがとうございます!
気になってた部分をピンポイントで返していただいてすごく驚きました∑(゚Д゚)

詳しく教えていただきありがとうございます!
すごく助かりました〜❤️

もも #- | URL | 2016/01/08 Fri. 12:36 * edit *

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