「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (538) 「訴因変更に見る特捜の弱気~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(4)」 5/9/2016 

#検察なう (538) 「訴因変更に見る特捜の弱気~国循官製談合事件、いわゆる「国循サザン事件」(4)」 5/9/2016

先日、大阪で桑田成規さんにお会いした時に、私は彼に、ダンテックにいかなる情報を渡したのかを尋ねました。

彼は、持っていたラップトップコンピューターを開き、「この資料をメールに添付してダンテックに送りました」と言いました。私は、その資料を見て少なからず驚きました。なぜなら、競争入札を有利にする情報を渡したと特捜が主張している以上、私は、その情報とは入札価格に関する見積書といった計算書や、少なくとも「数字」を想定していたからです。

彼が、ダンテックに渡したとする資料のイメージを再現してみました。
ここをクリック→ 資料のイメージサンプル

「何ですか、これは?これでNECの入札価格が推定できるものなのですか?」
「これは私が、当時、「現行の保守・運用体制表だと思って」送付した資料です。この網掛け(注:黄色部分)は私がしたものですが、保守・運用の「現行の」常駐の人員数を示しています」

桑田さんは、慎重に言葉を選んでいるように見えました。

「人件費には常駐の者だけではなく、非常駐の人員数もカウントされます。しかし、この表での常駐以外の人員数全てが非常駐というわけではなく、非常駐の人員数を何人としているのかは分かりません。また、人件費はコストの約1/3です。つまり、常駐の人員数だけでは、入札価格の概算すら困難だと思います」

桑田さんは、ダンテックからNECの現行の保守・運用の人員数を聞かれ、競争入札を公正に行うために、彼らにそれを示す資料を渡そうとしました。現行の保守・運用の人員数は、既得権業者であるNECは当然知っていますが、競争入札に参加するほかの業者は知りようがないからです。

この「現行の保守・運用体制を、既得権業者以外の競争入札参加業者に知らせる」行為が、競争入札の「公正を害する」即ち官製談合防止法に抵触するものでないことは、むしろ公正を期するために行われた行為であり、かつ、その情報では入札価格の推定が困難であることから、明らかなように思えます。

官製談合は、発注する行政官が、通常は金品の見返り(あるいは天下りの就職先提供という場合もありますが)を得ることを動機として、競争入札に関わる情報を漏洩するものです。つまり、官製談合は贈収賄とセットであることが通常のパターンです。

国循サザン事件においても、特捜の当初の見立てはそうであったに違いありません。しかし、現金授受の事実がないことが分かったため、贈収賄罪の立件がなされることはありませんでした。当然、官製談合そのものも実際にあったかどうかを疑うべきところ、振り上げた拳を収めることができない特捜は、官製談合防止法違反のみの立件を狙ったものです。

しかし、桑田さんがダンテックに渡した情報は、入札価格を推定させるためには不十分であると理解した特捜は、官製談合防止法違反の立証すら危ういと考えたに違いありません。

桑田さんの起訴は、2014年12月8日にされました。主な罰条は、「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反」(いわゆる官製談合防止法)第8条(注1)でした。

そしてその起訴から1年3ヵ月も経た、今年2月29日に、特捜は突然、訴因変更(注2)をして、罰条に「高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反」第11条を追加しました。

「高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律違反」第11条の条文は以下の通りです。

「国立高度専門医療研究センターの役員及び職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用してはならない」

この訴因変更は、どのような意味を持つのでしょうか。

ダンテックから現行の保守・運用体制を尋ねられた桑田さんは、国循で入札実務を担当する事務方にその資料の用意を依頼しました。その後、彼のデスクの上に、ある資料が置かれていました。彼はその資料を見て、現行の保守・運用体制表だと思って、pdf化し網掛けの処理をした後、メールに添付してダンテックに送付しました。2012年の3月のことでした。

もう一度、上に添付した体制表のサンプルをご覧下さい。桑田さんは、右肩の「2012年3月時点」という記載を見て、「現行の保守・運用体制表」だと思ったものです。

しかし実のところ、この資料は、NECが翌年の競争入札のために用意した資料の一部でした。表題の「2012年度」が翌年の保守・運用体制表であることを示しています。

つまり彼は、事務方の用意した資料が、入札に関わる資料の一部であることに気付かず、それをダンテックに渡してしまいました。そのことが、競争入札の公正を害するとまで言えなくとも、入札に関わる資料は「職務上知ることのできた秘密」であるという主張を特捜がするであろうと思われます。それが訴因変更の意味です。

法定刑の上限が7年である受託収賄罪に問えなかった特捜は、法定刑の上限が5年である官製談合防止法違反を狙ったと思われます。しかし、それも厳しそうだと見ると、法定刑上限が1年の国立研究開発法人に関する法律違反を「つっかえ棒」として加えました。しかも起訴から1年3ヵ月も経過した後に、です。この訴因変更から、本丸(といっても受託収賄罪に比較するとはるかにインパクトは小さいものですが)の官製談合防止法違反の立証には、特捜が相当弱気であるということが読めます。

桑田さんが資料の準備を事務方に頼み、その資料を事務方が用意したということを桑田さんは供述していますが、それを裏付ける事務方の証言はありません。事務方がなぜそのことを記憶していないと言ったかに関しては、次の4つの可能性が考えられます。

① 本当に記憶になかった
② 事件に巻き込まれたくなかったため、「記憶にない」と言ってしまった
③ 頼まれたことは記憶していたものの、特捜の取調べにより、彼らの都合のよい証言に誘導された
④ 桑田さんを陥れる悪意をもって、虚偽の証言をした
(一応、考えられる可能性の高い順に並べました)

実際のところ、事務方の記憶がなかったとしても、何ら不思議はありません。2年前に業務で頼まれた資料のコピーをしたことの記憶のある方がおかしいとも言えます。また、検察の取調べにおいて、彼らに不利な「記憶にありません」は執拗に取調べがされる(そして往々にして彼らの意向に沿った調書となる)のに対し、彼らに有利な「記憶にありません」は、「そうでしょう、そうでしょう。それでは、その旨記述されたこの調書に署名して下さい」と特捜は、易々と受け入れるに相違ないからです。

桑田さんの公判においては、多くの検察側「敵性証人」の証言が予定されています。競争入札の実務を担当する事務方もそのうちの何人かだと思われます。彼らの「桑田さんに資料の準備を頼まれた記憶はない」という証言をもって、桑田さんが、自分で資料を用意しダンテックに渡したという立証を、特捜は狙ってくるものと思われます。

桑田さんが資料をダンテックに渡したことは、争いのない事実です。しかし、その事実をもって、競争入札の公正を害したとする官製談合防止法違反の特捜の主張を裁判所が受け入れるのか。また、その資料が入札に関する資料だとは気付かず、あくまで過誤で渡したという桑田さんの主張を虚偽だとして、国立研究開発法人に関する法律違反という立証が通るのか。

くもの糸のような証拠と立証にすがる特捜を、裁判所が救うのかどうか、今後の展開に注目です。

(注1)
「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反」第8条

職員が,その所属する国等が入札等により行う売買,貸借,請負その他の契約の締結に関し,その職務に反し,事業者その他の者に談合を唆すこと,事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により,当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは,5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

(注2)
訴因変更
検察官が公判の途中で、起訴状に記載した事実の範囲内で該当する罪名を変更したり追加したりすること。

5/9/2016












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category: 国循サザン事件

2016/05/09 Mon. 22:46 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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