「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (83) 「無実の証拠=メール」 1/10/2012 

#検察なう (83) 「無実の証拠=メール」 1/10/2012

映画「マルサの女」をご覧になった方はお分かりになると思いますが、国税局査察部の強制捜査(ガサ入れ)は通常、被疑者の不意をついて行われます。それは被疑者が証拠を隠蔽することを避けるためです。

ところが私の場合には、マル査のガサ入れこそは全く予期していませんでしたが、それに先立つ1ヶ月間国税局資料調査課(隠語で「リョウチョウ」、強制捜査権を持たないため、マル査より優秀な捜査官が集められると言われる)の税務調査を受けていました。それは査察部にとっては、不利ではなく、むしろ証拠採集に有利に働いたはずです。

2008年12月16日の朝8時、査察部査察官が突然、私の金沢の実家に来ました。そして偶然実家にいた私に査察官の一人が一番最初に指示したことは「八田さん、パソコンをお持ちですね。私の目の前で起動して、メールボックスを開けて下さい。そして、税務調査開始の第一報を受けた直後のメールを見せて下さい」でした。

私は、税務士から税務調査の第一報を受けた時バンクーバーに住んでいました。国税局は「なるべく資料はご自分でも収集して下さい」と言ってきました。会社関係の資料を全くバンクーバーに持ってきていなかった私は、会社に資料提供を要請しましたが、協力できない旨伝えられました。当時会社に在籍していた元部下や同僚・後輩も会社から緘口令を敷かれ、連絡が取れませんでした。私は、税理士及び既に会社を辞めている元部下・同僚・後輩と頻繁にメールをやり取りして情報の収集に努めました。

想像して下さい。税務調査開始から予期せぬ強制捜査までの1ヶ月間のメールを全てご覧になったとして、そのメールの送受信者が「1億円以上の脱税を意図的に行った結果、発覚を恐れて戦々恐々としている人間」なのか、あるいは「当初は自分は全く関係ないと思っていたのに、まず申告漏れの事実を知って驚き、そして追徴税額が当初の予想を大幅に越えて予期せぬ1億円以上を追徴されることとなってショックを受けている人間」なのか、簡単に見分けが付くと思いませんか。

税務調査開始の第一報は、海外渡航前に国内税務処理のため納税管理人として、それ以前に確定申告をお願いしていた税理士の先生からメールでもらいました。その前に電話を頂いていたのですが、余りにも早朝(多分、東海岸との時差を間違えたのだと思います)だったためその電話を取れず、メールをもらったものです。

2008年11月6日
税理士
「取り急ぎお知らせしますが、国税局より八田様の所得税に関しまして、至急、連絡を取る方法を教えてほしいとのことです。現在、海外にお住まいの旨を伝えましたが、電話等含め、一番効率のよい連絡方法を検討していただきたいとのことでした。
ちなみに何が問題になっているのか聞いてみましたところ、クレディスイス在籍時において、ストックオプションやその他の報酬制度(現金支給)の受取について確認したいようです。つまり給与所得(源泉徴収票に記載された)以外の所得があるのではないかということです」

この税務調査開始第一報に対する私の返答は
「了解です。クレディスイスは会社都合で退社していますので、クリーンな支払いで手を切ってます。ストックオプションは支給されていませんでした。全ての報酬は税務署提出の給与明細に明らかなのですが、どういう背景なのでしょうか。アドバイスお願いします」
でした。

私はその時点では、賞与・退職金の一部の株式報酬として現物株はもらっていたが、ストックオプションをもらったことはなかったと思い込んでいました。実際には、3年間の税務調査対象期間の間に受け取った5回の株式報酬のうち、1回はストックオプションとしてもらっていましたが、そのことを全く忘れていたものです。そしてもらっていたと理解していた現物株に関しては、給与天引きで源泉徴収されていると思っていました。また源泉徴収票という言葉も出てこないくらい税金に疎く、このメールではそれを給与明細と言っています。

また同日のその後の税理士とのメールのやり取りは
税理士
「八田様の見解を国税局に伝えましたところ、担当者が今夕、事務所に来所され、私に経緯を説明することとなりました。その場において(必要ならば)今後提出を求められる資料が明らかになると思いますので、またご連絡申し上げます」

そして私の返信は
「了解しました。以前は仕事が忙しくて、税金関係は会社と税理士に任せっぱなしで、その税理士が4-5年確定申告をほったらかしにしてても気づかないという税金音痴です。もしなんらかの誤謬がありましても、あくまで無知(理由にはなりませんが)の結果です。もちろん税金は少ないにこしたことはありませんが、違法行為を働くつもりは毛頭ありませんので、払うべきものは払いますのでおっしゃって下さい。給与関係も細かいことは全く気にしていなかったので、記憶は不確かです。会社に記録が残っているはずですので、人事に確認するのが一番確実だと思います。よろしくお願いします」
でした。

同じ日の親しい友人へのメールです。「マル査」と題して
「税理士から連絡があって、職権で俺の口座を調査してるらしい。連絡を取りたいって。うざいなあ。一般人はほっといて欲しいよな。税金の追徴とかあると暗くなるなあ。俺は小室ほどは稼いでないぞ」
などという、もし不都合なメールを削除するならば、当然削除するであろうメールもその他にも多々メールボックスには残っていました。

その後税理士や会社元同僚・後輩とのメールのやり取りで申告漏れの事実(株式報酬の無申告)を知りましたが、当初は申告漏れが何によって起こったかも理解しておらず(つまり、もし脱税犯が最初から「株式報酬は給与天引きだと思っていた」と言い訳するのであれば、一番最初からそう主張するはずです)、そして追徴額がそれほどの金額になると思っていませんでした。

後日、それが数千万の金額になるかもと知ってビビりました。実際には更に億を越えてしまうのですが。

2008年11月8日
友人からの
「考えようによっては、今年入ったら来年入られないからラッキーなのかも」
に対し、私の返答は
「多分数千万は払わないといけないだろうから、ラッキーとは言えんなあ。税理士のところに国税の調査官が3人も来たらしい。やつらも取れるところから取ろうと真剣だな。ああ、うざい」
でした。

その後、税理士や会社元同僚・後輩とのやり取りが連日続き、ほ脱税額の金額がほぼ認識されるのは11月20日のことでした。
2008年11月20日 友人に送ったメールです。
「やばいなあ。追徴額が億を越えそう。辛すぎる」

つまり脱税と国税局が主張する過少申告の金額の認識は、税務調査開始から2週間も経った以降のことです。もし故意に脱税しようとしていたのであれば、いくら脱税したかの認識が全くないということがありうるでしょうか。

追徴額が最終的に1億5千万円程度になることが分かった同じ日に、会社後輩に送ったメールです。
「例のマル査の件。なんか国税局いわく会社の方から確定申告をしなきゃいかんと指示があったはずだとか言ってんだけどね。そんなん知らんわって感じ。今も会社に電話したら『担当は全てシンガポールですので、そちらにお問い合わせ下さい』とか言いやがったくせに、『そうですよね。東京の人事はなんにも関与してませんよね。国税局がこんなことを言ってるんですけど』って言ったら、突然『検討して折り返します』とか。会社の責任逃れが丸見え。株式の取得価格・時期とか売却価格・時期とか全く手元にないから問い合わせようと思って。下手すると1.5億以上取られそう」

そして非常に重要なポイントは、この時点やそれ以降も全く延滞税のことを気にしていないことです。もし自分が脱税をしていたのであれば、税務調査開始当初から、いくら税金を払わなければいけないか、そしてそれに賦課される1日数万円の延滞税を認識してとにかく早く延滞税を止めようとするはずです。当時は全くそうしたことも分かっていませんでした。つまり犯罪を行っていたのであれば、当然予想するであろう「ばれたらどうなるか」ということを全く認識していないのです。

ライブドアの事件でも、最終的に有力な証拠とされたのはメールでした。海外に住んでいる私がコミュニケーションの手段として(証拠として残らない電話の会話ではなく)メールに依存していたことから、証拠の保全は十分なはずです。

検察特捜部の取調べでも、メールに関して、私のメールが取調べの対象になることはありませんでした。取調べで取り上げられたメールといえば、元部下や友人が「なぜばれちゃったんですか?」とか冗談で言ってきたメールでした。検事は「彼らはあなたが脱税をしていたのを知っていたのではないか」と責めます。全くあほらしい。大体、脱税してたんだったら、そんなメールあっという間に消去でしょ。

まだふたを開けてみないと検察がどのような論理構成で故意ありとしてくるかは分かりませんが、相当無理やりのこじつけ論法なんでしょう。慎重に構えて事に当たりたいと思います。引き続き応援お願いします。

1/10/2012


category: クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件

2012/01/09 Mon. 09:57 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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