「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (540) 「冤罪が確実に増える刑訴法改正をどう捉えるか」 5/30/2016 

#検察なう (540) 「冤罪が確実に増える刑訴法改正をどう捉えるか」 5/30/2016

郵便不正事件を端として刑事司法改革、特に検察改革の国民的要請により発足したのが「検察の在り方検討会議」。その第1回会議は2010年11月でした。当時の私の状況と言えば、その年の2月に刑事告発され、いつ逮捕されるかと構えながら特捜部の取調べを待つばかりでした(特捜部の取調べは、結局、翌年2011年の9月まで始まらず)。

郵便不正事件は、私の刑事裁判主任弁護人の小松正和弁護士と私の間では「神風」と呼ばれています。もし郵便不正事件がなければ、私の無罪判決という奇跡も起こらなかっただろうと、当事者は肌で感じています。

それから6年、「新時代の刑事司法制度特別部会」の審議を経て、先日、刑事訴訟法の一部改正が議会で可決されました。

冤罪被害者の当事者感覚をもって述べれば、大変期待した刑事司法改革が、このような結果になったことには落胆せざるを得ません。冤罪を減らすために始まったはずの刑事司法改革が、冤罪を増やすとしか思えない制度改正になってしまったからです。

今回の改正での目玉とされた取調べの全面可視化に関して言えば、義務化対象事件が全刑事事件の3%に過ぎない裁判員裁判対象事件と特捜独自捜査事件に限定されたことが問題ではありません(それも問題ですが)。最終的には裁判員裁判の対象となる事件であっても、別件逮捕や任意同行の取調べの間の録音・録画が義務化されておらず、かつ(プライバシー保護とかのお題目があれば)捜査官の任意で録音・録画を停止することができ、また録音・録画資料を検察の恣意的な編集で公判での証拠とできることがより重大な問題です。そうしたループホールがあれば、今回の刑訴法改正のとりあえずの成果とされる3%の取調べ可視化ですら全く無に帰する可能性があるからです。

その破壊力が実証されたのが、この4月に一審有罪判決が下された栃木県今市市の女児殺害事件の裁判員裁判でした。自白の録画がなければ判断できなかったと裁判員が認めている(注1)事件ですが、証拠とされた録画は、約80時間の録画のうち本人の自白を含む7時間が編集されたものです。私が裁判員であれば、「その7時間は見なくてもいい。どうせ検察官の主張を裏付けるように編集されたものだから。それ以外の部分を見せてほしい。特に被告人が否認から自白に転じたその前後を」と言いたいところです(実際には彼が最初に自白したのは、別件逮捕の時であり、その状況は録画されていません)。

そして今回の刑訴法一部改正では、取調べの可視化と抱き合わせで、「密告型取引司法」(注3)と「盗聴法拡大」(注4)が盛り込まれ、まさに捜査権力の焼け太り、盗人に追い銭という状況です。法務検察官僚は、この結果をさぞかしほくそ笑んでいることだと思います。

この状況は、私が以前ブログに書いたところの危惧が現実化したものです。
ここをクリック→ #検察なう (467) 「取調べ可視化が目的化することのリスク」

今回の刑事訴訟法一部改正の問題点を的確に指摘したのが、神保哲生氏のインタビューを収録した荻上チキ氏のラジオ番組です(注2)。是非、お聞き下さい。
ここをクリック→ 5月24日放送 TBSラジオ セッション22 神保哲生×荻上チキ「改正刑事訴訟法が成立。神保哲生さんが感じる不自然なポイント」

特に神保氏の「捜査権限がフェアなものになっていないと、仮に有罪になっても、本当に有罪かどうか疑義が残ってしまう。せっかく、ちゃんと捜査をやってちゃんと有罪にしても「でもあの制度の下でだろ」という話になっちゃうと一番もったいないと思うんですよ」という捜査機関の信頼性を損ねる改正だという指摘は重要です。

それでは、この改正は「改悪」でしょうか。この時点での評価はそうせざるを得ないと思います。しかし、この改正が「蟻の一穴」となる可能性をもって、私はその評価を留保したいと思っています。この改正の歴史的評価は今後の運用次第、あるいは我々の姿勢、働き掛け次第で変わると思っているからです。

今回の刑訴法一部改正を評価する人とそうでない人の最大の差は、この改正が「最初の一歩」なのか「最初で最後の一歩」なのかの認識の差です。

ギブ・アンド・テイクにおいて、今回の刑事訴訟法一部改正で、捜査権力はフルにテイクしましたが、ギブしたものはごくわずかです。そして彼らの譲歩を引き出すのは、実はこれからの課題という状況です。「新時代の刑事司法制度特別部会」に参画した、市民を代表する改革派の村木厚子氏や周防正行氏も、今後、見直しを継続的にするという条件があって、この非常にアンフェアな改正を飲んだと理解しています。

そして我々国民が、この結果を批判的に評価し、今後の運用にたがをはめ、よりよい刑事司法改革を目指すことにより、今回の改正が「蟻の一穴」になると考えます。

その意味で、冤罪被害者が中心になって声を上げ、そしてこれからも批判し続けると宣言している動向は勇気づけられるものです。「なくせ冤罪!市民評議会」の今回の刑訴法一部改正を受けての声明をご一読下さい。

「「刑事訴訟法等の一部改正案」の可決は、司法の自殺行為」
ここをクリック→ なくせ冤罪!市民評議会緊急声明「「刑事訴訟法等の一部改正案」の可決は、司法の自殺行為」

これが最終到着地点ではなく、出発点だという認識が我々国民に求められているものです。我々の日々の安全に直結する深刻な問題だと、お考え頂ければ幸いです。

(注1)
ここをクリック→ 下野新聞「取調べ映像「見て印象固まった」裁判員ら会見、宇都宮地裁」

(注2)
ラジオ番組は16分でしたが、興味のある方は是非、ビデオニュース・ドットコムの神保哲生氏と宮台真司氏が同じ問題をディスカッションしたビデオ(42分)をご覧下さい。
ここをクリック→ ビデオニュース・ドットコム「冤罪のリスクを上昇させる刑訴法の改悪をなぜ止められないのか」

(注3)
司法取引が多用されているアメリカで行われている「自己負罪型」(自分で罪を認める代わりに裁判の手続きを簡素化したり減刑したりするもの)ではなく、「捜査訴追協力型」(他人の罪を証言すれば自分の罪が軽減されるというもの)が、「日本型司法取引」。「自己負罪型」を認めないのは、「俺たちが逮捕して立件しているのに、それを取引の材料とするのはけしからん」という発想に基づくものと想像します。

(注4)
「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」の対象事件が現行の組織的殺人、薬物、銃器、集団密航の4つから大幅に拡大され、詐欺、窃盗、強盗、傷害、児童ポルノ事件が加えられました。それ以上に重要なことは、これまで傍受に際しては通信事業者の立ち会いが必要とされていましたが、これからはそれが不要とされ、捜査権力による通信傍受の監視が事実上全くなくなったというのが今回の改正です。

5/30/2016










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category: 刑事司法改革への道

2016/05/30 Mon. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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