「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン

クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件(http://goo.gl/v0xQYP)において、国税局査察部告発、検察特捜部起訴の事案で史上初の無罪判決。 著書『勝率ゼロへの挑戦 史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)。 ツイッター(@thatta0529)で「#検察なう」の情報発信を続けます。

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#検察なう (540) 「冤罪が確実に増える刑訴法改正をどう捉えるか」 5/30/2016 

#検察なう (540) 「冤罪が確実に増える刑訴法改正をどう捉えるか」 5/30/2016

郵便不正事件を端として刑事司法改革、特に検察改革の国民的要請により発足したのが「検察の在り方検討会議」。その第1回会議は2010年11月でした。当時の私の状況と言えば、その年の2月に刑事告発され、いつ逮捕されるかと構えながら特捜部の取調べを待つばかりでした(特捜部の取調べは、結局、翌年2011年の9月まで始まらず)。

郵便不正事件は、私の刑事裁判主任弁護人の小松正和弁護士と私の間では「神風」と呼ばれています。もし郵便不正事件がなければ、私の無罪判決という奇跡も起こらなかっただろうと、当事者は肌で感じています。

それから6年、「新時代の刑事司法制度特別部会」の審議を経て、先日、刑事訴訟法の一部改正が議会で可決されました。

冤罪被害者の当事者感覚をもって述べれば、大変期待した刑事司法改革が、このような結果になったことには落胆せざるを得ません。冤罪を減らすために始まったはずの刑事司法改革が、冤罪を増やすとしか思えない制度改正になってしまったからです。

今回の改正での目玉とされた取調べの全面可視化に関して言えば、義務化対象事件が全刑事事件の3%に過ぎない裁判員裁判対象事件と特捜独自捜査事件に限定されたことが問題ではありません(それも問題ですが)。最終的には裁判員裁判の対象となる事件であっても、別件逮捕や任意同行の取調べの間の録音・録画が義務化されておらず、かつ(プライバシー保護とかのお題目があれば)捜査官の任意で録音・録画を停止することができ、また録音・録画資料を検察の恣意的な編集で公判での証拠とできることがより重大な問題です。そうしたループホールがあれば、今回の刑訴法改正のとりあえずの成果とされる3%の取調べ可視化ですら全く無に帰する可能性があるからです。

その破壊力が実証されたのが、この4月に一審有罪判決が下された栃木県今市市の女児殺害事件の裁判員裁判でした。自白の録画がなければ判断できなかったと裁判員が認めている(注1)事件ですが、証拠とされた録画は、約80時間の録画のうち本人の自白を含む7時間が編集されたものです。私が裁判員であれば、「その7時間は見なくてもいい。どうせ検察官の主張を裏付けるように編集されたものだから。それ以外の部分を見せてほしい。特に被告人が否認から自白に転じたその前後を」と言いたいところです(実際には彼が最初に自白したのは、別件逮捕の時であり、その状況は録画されていません)。

そして今回の刑訴法一部改正では、取調べの可視化と抱き合わせで、「密告型取引司法」(注3)と「盗聴法拡大」(注4)が盛り込まれ、まさに捜査権力の焼け太り、盗人に追い銭という状況です。法務検察官僚は、この結果をさぞかしほくそ笑んでいることだと思います。

この状況は、私が以前ブログに書いたところの危惧が現実化したものです。
ここをクリック→ #検察なう (467) 「取調べ可視化が目的化することのリスク」

今回の刑事訴訟法一部改正の問題点を的確に指摘したのが、神保哲生氏のインタビューを収録した荻上チキ氏のラジオ番組です(注2)。是非、お聞き下さい。
ここをクリック→ 5月24日放送 TBSラジオ セッション22 神保哲生×荻上チキ「改正刑事訴訟法が成立。神保哲生さんが感じる不自然なポイント」

特に神保氏の「捜査権限がフェアなものになっていないと、仮に有罪になっても、本当に有罪かどうか疑義が残ってしまう。せっかく、ちゃんと捜査をやってちゃんと有罪にしても「でもあの制度の下でだろ」という話になっちゃうと一番もったいないと思うんですよ」という捜査機関の信頼性を損ねる改正だという指摘は重要です。

それでは、この改正は「改悪」でしょうか。この時点での評価はそうせざるを得ないと思います。しかし、この改正が「蟻の一穴」となる可能性をもって、私はその評価を留保したいと思っています。この改正の歴史的評価は今後の運用次第、あるいは我々の姿勢、働き掛け次第で変わると思っているからです。

今回の刑訴法一部改正を評価する人とそうでない人の最大の差は、この改正が「最初の一歩」なのか「最初で最後の一歩」なのかの認識の差です。

ギブ・アンド・テイクにおいて、今回の刑事訴訟法一部改正で、捜査権力はフルにテイクしましたが、ギブしたものはごくわずかです。そして彼らの譲歩を引き出すのは、実はこれからの課題という状況です。「新時代の刑事司法制度特別部会」に参画した、市民を代表する改革派の村木厚子氏や周防正行氏も、今後、見直しを継続的にするという条件があって、この非常にアンフェアな改正を飲んだと理解しています。

そして我々国民が、この結果を批判的に評価し、今後の運用にたがをはめ、よりよい刑事司法改革を目指すことにより、今回の改正が「蟻の一穴」になると考えます。

その意味で、冤罪被害者が中心になって声を上げ、そしてこれからも批判し続けると宣言している動向は勇気づけられるものです。「なくせ冤罪!市民評議会」の今回の刑訴法一部改正を受けての声明をご一読下さい。

「「刑事訴訟法等の一部改正案」の可決は、司法の自殺行為」
ここをクリック→ なくせ冤罪!市民評議会緊急声明「「刑事訴訟法等の一部改正案」の可決は、司法の自殺行為」

これが最終到着地点ではなく、出発点だという認識が我々国民に求められているものです。我々の日々の安全に直結する深刻な問題だと、お考え頂ければ幸いです。

(注1)
ここをクリック→ 下野新聞「取調べ映像「見て印象固まった」裁判員ら会見、宇都宮地裁」

(注2)
ラジオ番組は16分でしたが、興味のある方は是非、ビデオニュース・ドットコムの神保哲生氏と宮台真司氏が同じ問題をディスカッションしたビデオ(42分)をご覧下さい。
ここをクリック→ ビデオニュース・ドットコム「冤罪のリスクを上昇させる刑訴法の改悪をなぜ止められないのか」

(注3)
司法取引が多用されているアメリカで行われている「自己負罪型」(自分で罪を認める代わりに裁判の手続きを簡素化したり減刑したりするもの)ではなく、「捜査訴追協力型」(他人の罪を証言すれば自分の罪が軽減されるというもの)が、「日本型司法取引」。「自己負罪型」を認めないのは、「俺たちが逮捕して立件しているのに、それを取引の材料とするのはけしからん」という発想に基づくものと想像します。

(注4)
「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」の対象事件が現行の組織的殺人、薬物、銃器、集団密航の4つから大幅に拡大され、詐欺、窃盗、強盗、傷害、児童ポルノ事件が加えられました。それ以上に重要なことは、これまで傍受に際しては通信事業者の立ち会いが必要とされていましたが、これからはそれが不要とされ、捜査権力による通信傍受の監視が事実上全くなくなったというのが今回の改正です。

5/30/2016










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2016/05/30 Mon. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (509) 「捜査官に「熱い正義感と使命感」は必要か」 10/22/2015 

#検察なう (509) 「捜査官に「熱い正義感と使命感」は必要か」 10/22/2015

先日、国税庁の資料を目にしました。彼らの採用関連の国税庁を志望する人向け(主には学生向け?)の資料のようです。

ここをクリック→ 国税庁調査査察部紹介

その中で、「調査査察部査察課」という名称がありました。「(東京)国税局査察部」というのは私が散々お世話になった部署だと理解していますが、「調査査察部査察課」という部署名に馴染みがなかったので、国税庁の組織図を見てみると、確かに国税庁直属にそうした名称の部署がありました。

ここをクリック→ 国税庁組織図

説明には「国税局査察部が行う国税犯則取締法に基づく査察調査に関する事務の指導及び監督を担当しています」とあります。どうも実動部隊ではなく、彼らを監督・管理する部署のようです。

私の目に留まったのは、査察課の「熱きマルサ」と題する紹介文でした。それは次のようなものです。

「厳正な査察調査に基づき、各国税局の査察官達と一丸となって、悪質な納税者の刑事責任を追及しています。熱い正義感と使命感を胸に、申告納税制度の「最後の砦」として日本を支えています。」

私の取調べに際し、「証拠はありません。しかし、我々の仕事はあなたを告発することです」と面と向かって言ってのけ、実際に私を刑事告発した彼らのその言葉に、彼らの本音や「真の使命感」が表れているのであれば、ここで紹介されたものは、あくまで彼らの理想とするところであり、表向きの看板と言えるかもしれません。

とは言っても、私はこれが彼らの真意であるかないかということは余り問題にするつもりはありません。物事に裏と表があることはつきものです。そして、これを読んで「本当にそうなのか?」と思う人はいても、「それは間違っている」と思う人はあまりいないかもしれません。しかし、私はこれがそもそも間違っている、しかも大いに間違っていると感じます。彼らが「熱い正義感と使命感」を持たなければならないということに関してです。

勿論、仕事に熱意は必要です。私も、仕事には(特に脱税をしたと言われたタイミングのベア・スターンズ証券在籍時には、仕事以外のことは全く考えられないほど)熱意を持っていました。しかし民間企業の、同業他社が競争相手にいる状況と、役所仕事は必ずしも同じとは考えられません。

彼らには、正義の味方を標榜するよりまず、公益の代表者としての使命があるのではないかと強く感じます。

余計な正義感は、外形的にルールにもとるものを「悪」だと受け止める素地を生み、それを罰することが自分たちの使命だと思い込むきらいがあるのではないでしょうか。そうしたことが、国税局が私に対して誤った判断をしたことにつながったのだと私は感じています。

国家権力は個人にはない強大な権限を持っています。その権限の行使が、彼らの考えるところの「正義」という大義名分の下に、国民の一人である個人の権利を踏みにじるところに過ちが起こり得ます。

更に強大な権力を持った検察はどうでしょうか。彼らは日本のあらゆる権力組織において、最大の権力をもった組織です。彼らは、逮捕権と強制捜査権という、人の自由を奪い、人の人生を完全に葬り去る権限をもっています。そして、彼らを監査・監督して縛るものは事実上何も存在せず、「秋霜烈日」の気概という彼らの自律規範のみです。

そうした彼らが「熱い正義感と使命感」を持って職務を遂行することに、私は大きな危機感を持ちます。査察官も検察官も税金で禄を食む以上、まずは国民の利益を最優先し、謙虚に職務を遂行すべきではないでしょうか。

敢えて理解してもらおうとは思いません。彼らの「熱い正義感と使命感」の犠牲になった者の戯言と聞いて頂ければ結構です。

私は、同様の犠牲者を出さないように、何かできないかと考え行動するアクティヴィストでありたいと思っています。その直接的舞台が私の国賠審です。引き続きご支援頂ければ幸いです。

10/22/2015










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2015/10/22 Thu. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (502) 「盗聴法対象事件拡大のリスク~衆議院法務員会における山下幸夫参考人の意見より」 9/28/2015 

#検察なう (502) 「盗聴法対象事件拡大のリスク~衆議院法務員会における山下幸夫参考人の意見より」 9/28/2015

自分の電話が盗み聞きされていれば、不快に思わない人はいないのではないでしょうか。それがたとえ警察によって盗み聞かれ、自分に全くやましいところがなかったとしても、そうした気持ちは起こる方が普通でしょう。

ジョージ・オーウェルの『1984年』は政府(ビッグ・ブラザー)による監視の恐怖を描いたものですが、それが絵空事にならない可能性が今日の日本でもあり得ると感じさせるのが刑事司法改革法案に盛り込まれた盗聴法改正です。

盗聴法の正式名称は「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」。傍受の対象となるのは、電話(固定電話・携帯電話)のみならず電子メールやFAXも通信に含まれます。また傍受の方法は、通信線に傍受装置を接続して行う「ワイヤータッピング」です(通信装置を介さない会話を直接盗聴する「バッギング」は含まれません)。

現行法において、通信傍受による捜査が許容される対象犯罪は、「通信傍受が必要不可欠な組織犯罪」、具体的には薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航及び組織的に行われた殺人の捜査についてのみに限定されています。それを一般犯罪まで拡大しようとする改悪が、今回の刑事司法改革法案に盛り込まれています。

この改革法案は、先頃閉会した通常国会の参議院での審議が先送りとなり、11月上旬から開かれる予定の秋の臨時国会で継続審議される予定です。

この改革法案は、既に衆議院で可決されていますが、本会議の審議に先立つ法務委員会で審議され、盗聴法の対象事件拡大についても議論されました。その際、参考人として呼ばれた山下幸夫弁護士の原稿が、救援連絡センター発行『救援』に掲載されていたので、それを引用させて頂きます。

彼の発言は、衆議院インターネット審議中継のアーカイブで見ることができます。

ここをクリック→ 2015年7月29日法務委員会

「盗聴法改悪に強く反対する」

盗聴法(通信傍受法)改正案を含む「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」は、衆議院法務委員会で、与党が民主党、維新の党との修正協議を経て、本年8月5日に多数決により可決され、8月7日に衆議院本会議でも可決されて衆議院本会議でも可決されて、参議院に回付された。8月21日に参議院本会議で審議入りしたが、本稿執筆現在、参議院法務委員会での審議には入っておらず、本国会での成立が阻止できる可能性が出てきている。

私は、今回の法案の中でも最も問題が大きいのは盗聴法(通信傍受法)の改正案であると思う。それは、1999年の通常国会で、あれだけ多くの国民や野党の反対の中で、与党自身が大幅な修正をして縛りをかけることでようやく成立した法律を、警察のやりたいように縛りをはずそうとするものであるからであり、今回の法案が成立したら、今後、警察のやりたいように何度でも改正されて監視社会化が一気に進むと懸念されるからである。

今回は、本年7月29日の衆議院法務委員会で、参考人として呼ばれて話した意見を紹介することで、その問題点を伝えることにしたい。

「私が弁護士になって10年目の平成11年の通常国会において通信傍受法の政府案が国会で審議されましたが、当時、私は、大変に問題の多い法案であるとしてこの法案に反対していました。国民世論や野党からも強い反対があり、結局、当時の与党の公明党の主導により大幅に修正されて通信傍受法の現行法が成立し、翌平成12年に施行されました。通信傍受の実施状況の推移を見ても、最近は、ほぼ年間10件程度しか実施されていない状況です。すなわち、通信傍受法は、当初の政府案に大きな縛りをかけ、捜査機関にとって非常に使いづらい法律になったことが分かります。

今回の法案の元になった法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会は、大阪地方検察庁特別捜査部が立件した厚生労働省元局長無罪事件などを受けて設けられた「検察の在り方検討会議」を経て、検察官に過度に取調べや供述調書に依存する風潮があったことを改めるべく設置されたものであり、当時、検察だけでなく、警察においても選挙違反事件に関するいわゆる志布志事件などの冤罪事件が明らかになっている中で、捜査機関全体の問題として、冤罪防止のために、いかに捜査機関による権限を抑制し、自白獲得型の捜査を根本的に見直すかが求められていたはずでした。

ところが、特別部会においては、通信傍受法を、いかに使い勝手の良い法律にする方向での議論がなされました。作業分科会の議論では、通信傍受という捜査手法が有用か必要かという観点から対象犯罪の拡大が議論されました。

その結果、捜査機関の捜査権限を大幅に拡大するものとなり、特別部会の当初の目的とは正反対の方向のとりまとめになってしまったと考えられます。

今回の法案は、当初の政府案に戻ろうとしていると考えられます。すなわち、現行法が成立する際にこれにかけていた縛りを完全にはずそうとするものです。その意味で、本改正案は現行法を質的に転換するものであり、これを認めると、今後も通信傍受を拡大していくことがとめられなくなると考えられます。

以下、本法案に即して、具体的に指摘させていただきます。

まず、対象犯罪の拡大についてです。現行法は、①薬物犯罪、②銃器犯罪、③集団密航、④組織的殺人の4類型だけを対象犯罪としています。これらは、性質上、組織犯罪といえるものでした。本改正案は、財政犯である窃盗・強盗、詐欺・恐喝を加えるとともに、殺人、傷害、傷害致死、現住建造物等放火、爆発物使用などの殺傷犯、逮捕・監禁、略取・誘拐、児童ポルノの提供罪等のそれ自体組織犯罪ではない一般犯罪を対象としようとしています。そのため、これらを別表第二の犯罪として、いわゆる組織性の要件を傍受令状の要件として要求しています。

しかし、その要件は、組織犯罪処罰法の組織性の要件と比較すると緩和されています。これは特別部会での議論の中での妥協の産物として認められた経緯があり、要件としては極めて不十分であり、十分な歯止めにはならないと考えられます。

対象犯罪がこれだけ広く拡大されると、これまで年間10件程度であった通信傍受は、年間数百件に増えるおそれがあると考えられます。

また、今回、対象犯罪を決めるに当たっては、捜査にとって通信傍受が有用か必要かという基準によったことから、今回の法案が成立した後も、捜査当局からは事あるごとに、通信傍受が有用・必要という理由で通信傍受の対象犯罪が拡大していくことが強く懸念されます。

特別部会においては、いわゆる振り込め詐欺や窃盗団を対象とすることが議論されていましたが、それならば、組織犯罪処罰法にある組織的詐欺を対象にしたり、新たに組織的窃盗罪を新設するなどし、それを対象犯罪にすることも考えられたのに、詐欺罪や窃盗罪、さらには恐喝罪・強盗罪を対象犯罪としており、一般犯罪の共犯事件についても通信傍受が可能になるおそれがあります。

次に、通信傍受手続の合理化・効率化についてです。これは、まさに、捜査機関にとって使い勝手の良い制度にするためのものであり、捜査機関がやりたかった捜査手法だと考えられます。

本改正案は、現行法が認める方式に加えて、通信事業者の施設で行う一時的保存方式、特定電子計算機を用いて捜査機関の施設で行うリアルタイム方式と一時的保存方式の3つの方式を可能にしようとしています。

このうち、特に問題の多いのは、捜査機関の施設で行う方法です。この場合には、暗号化等を行う機能を有する特定電子計算機を利用して、通信事業者の施設から捜査機関の施設に、対象となる通信を暗号化して伝送し、これを捜査機関の施設で復号化して伝送し、スポット傍受を行うというものですが、立会人による立会いや原記録の封印は不要となります。現行法上の通信傍受は、全国で一箇所とされる通信事業者の施設に、捜査官が出向き、立会人をあらかじめ全て準備しなければ実施できないという点で、極めてハードルが高い捜査手法でした。それ故に実施件数も少なかったと考えられますが、この方式によると、先程の対象犯罪の拡大と相俟って、通信傍受の実施は飛躍的に増え、無関係な市民の通話が聞かれる頻度が高くなると考えられます。

現行法の立会人は、通信内容を聞くこともできず、切断権も認められていないために、外形的チェックを行うものとされてきました。これは、元々、現行法自体が、立会人の権限を限定したことに問題があったと考えられます。現行法ができる前に検証許可状を使って電話傍受した事案についての最高裁平成11年12月16日第三小法廷決定は、立会人に電話を聴取して切断する権利を認めていた事案であることに留意する必要があります。ただ、現行法によっても、立会人がいることによって、捜査機関が無関係通信を傍受するなどの濫用をしないことを抑制する効果があったと考えられます。そして、これは、通信傍受が憲法違反にならないための要件の一つをなしていると考えられます。

そうであるとしたら、本改正案が、捜査機関の内部で第三者の立会人がいない状態で通信傍受を実施することについては、その公正さに疑問を持たざるを得ません。

政府は、暗号化する機能を有する特定電子計算機を用いることを立会人の不要の理由として説明していますが、暗号化は伝送の際に情報が漏洩しないための措置であり、傍受手続の現場での外形的チェックに変わるものではありません。ちなみに、伝送による漏洩の危険は暗号が絶対に破れない訳ではないことから、専用回線によることが望ましいとしても莫大な予算が必要となります。

したがって、少なくとも、特定電子計算機の技術的措置の適正性等を、第三者が随時に抜き打ち的に監査を実施することは最低限不可欠であると考えられますし、現行法上認められた傍受記録に記録された通信の当事者に与えられた不服申立てがほとんど利用されていない現状において、捜査機関の施設において立会人のいない状態で通信傍受が行われるようになるのであれば、第三者機関が裁判所に保管された原記録の全て又はアトランダムに聴取して事後的チェックを行う制度は不可欠というべきです。

その他、本改正案には極めて問題が多く、このままで成立させるべきではないと考えます。国会による良識ある審議を期待して、私の意見を終わります。」

今通常国会でこの法案の成立に反対の声を挙げ続けたい。

弁護士 山下幸夫 (2015年8月31日記)

9/28/2015














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2015/09/28 Mon. 00:35 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (498) 「刑事司法改革法案、賛成すべき?反対すべき?」 9/14/2015 

#検察なう (498) 「刑事司法改革法案、賛成すべき?反対すべき?」 9/14/2015

今国会での成立は先送り、秋の臨時国会で継続審議される刑事司法改革法案について、人に問われました。

「八田さんは賛成してるの?それとも反対しているの?」

私の答えは「分からない」でした。そして「いかなる結果になろうとも、注視し続けることが必要なんだけどね」と付け加えました。

昨日9月13日にも冤罪被害者を中心にした市民集会が開かれ、この法案の廃案が訴えられました。
ここをクリック→ 「9.13 ニセ可視化・司法取引・盗聴拡大を許さない市民集会」。

これに対し、ジャーナリストの江川紹子氏は、廃案に疑問を呈しています。
ここをクリック→ 『江川紹子の事件簿』「可視化実現の意義は大きい、参議院民主党の体たらく」

この刑事司法改革法案を支持するか、支持しないかという問題の複雑さは、単に、現時点の改革案のメリット・デメリットを天秤に掛けて、将来の冤罪抑止につながるのかどうかの評価の問題ではないからです。

この刑事司法改革法案に盛り込まれた司法取引の危険性については、これまで度々論じてきました。最近放送されたNHK『クローズアップ現代』でも特集され、かなり要点をまとめていたと思います(注1)。導入が見込まれる「捜査協力型」(その実態は「密告型」)司法取引により、自分の罪を軽くするために無実の他人を引っ張り込む新たな冤罪が増えることは必至だと思われます。

自分たちの筋立てで有罪立証ができれば、それで一件落着とする捜査権力ならまだしも、なぜ日弁連ですらこの新たな冤罪を生みかねない刑事司法改革法案を推し進めようとするのでしょうか(注2)。

支持する、支持しないの違いは、この刑事司法改革法案が「最初の一歩」であると考えるのか、それとも「最初で最後の一歩」であると考えるのか、という違いから生まれていると言ってもいいと思います。

「捜査協力型」司法取引導入+盗聴法対象事件拡大とのバーターで、実現にこぎつけた取調べの可視化は、全刑事事件のわずか2-3%に過ぎず、その運用には捜査官の恣意性に委ねられる重大な抜け道もあると指摘されています。

捜査権力側と被疑者・被告人・弁護人側の相反するメリット・デメリットをギブ・アンド・テイクで考えると、捜査権力側がテイクするものは100%であるのに対し、ギブアップしているのは数%というのが、この刑事司法改革法案のイメージです。

この刑事司法改革法案が「最初で最後の一歩」であるなら、到底許容できないと考えるのもむべなるかなと感じます。

最初の私が受けた質問に戻ります。

「八田さんは賛成してるの?それとも反対しているの?」

この質問は、私にとっては、「この刑事司法改革法案は「最初の一歩」なの?それとも「最初で最後の一歩」なの?」と同じ意味を持ちます。

そしてそれに対する答えが「分からない」というものです。

実際のところ、この刑事司法改革法案が「最初の一歩」であるのか、それとも「最初で最後の一歩」であるのかは、誰にも分からないと思います。そしてそれを「最初の一歩」にするのか、それとも「最初で最後の一歩」にするのかは、我々国民の今後の意識・活動によるところが大きいと考えています。いかなる結論になろうとも、現時点においては、それは好ましい完全な状態ではなく、捜査権力の運用を常に批判精神を持って注視し、よりよい状況を目指さなければならないということです。

まず法案成立に際しては、現時点の刑事司法改革法案は通過点であり、到達点ではないと明文化し、それを周知徹底することが重要であると考えます。

それでは到達点は、何を目標にすればいいのでしょうか。私個人は別の考えを持っていますが(注3)、そのお題目は、「全刑事事件の完全可視化」と、「証拠の全面開示」でいいと思います。

これら最終到達点にどのようにして辿り着くか、そしてもし一気に辿り着くのが不可能であれば、どうすればよいかを考え続ける必要があります。是非、一緒に考えてみて下さい。

(注1)
ここをクリック→ NHK『クローズアップ現代』「えん罪は防げるか 司法取引で変わる捜査」

(注2)
ここをクリック→ 日本弁護士連合会「取調べの可視化の義務付け等を含む「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」の早期成立を求める会長声明」

(注3)
ここをクリック→ #検察なう (267) 「刑事司法改革のためにすべきこと」

9/14/2015















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2015/09/14 Mon. 00:01 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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#検察なう (497) 「刑事司法改革法案、今国会での成立見送り」 9/10/2015 

#検察なう (497) 「刑事司法改革法案、今国会での成立見送り」 9/10/2015

今国会で審議されており、衆議院で可決された刑事司法改革法案(「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」)は、参議院での審議の時間が十分でないとの理由から今国会での成立が見送られる見込みです。

ここをクリック→ 毎日新聞「刑事司法改革法案:可視化導入見送り 自公が方針」

この刑事司法改革法案は、取調べの可視化と引き換えに、捜査協力型司法取引導入と通信傍受法対象拡大(注1)が抱き合わせとなっていたものです。

取調べの可視化の対象事件が、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件という非常に限られたもの(年間約9万件の刑事事件の2%ないし3%、注2)であるのに対し、捜査権力が得たものは相当強力なものであり、郵便不正事件という検察不祥事がこの刑事司法改革の契機となったにもかかわらず、捜査権力の焼け太りと言われています。

複数別々の改革案を一括採択としてパッケージ化したところが、法務・検察官僚の実にしたたかなところです。

特に、この改革法案で導入が見込まれる司法取引は、司法取引の本場アメリカにおいても、冤罪の温床になっていると警鐘が鳴らされているものです。

自分の罪を認める代わりに量刑の軽減を求める「自己負罪型」司法取引ではなく、他人の罪を供述することで自分の罪の量刑軽減を求めるのが「捜査協力型」司法取引です。自分の保身のために無実の他人を引っ張り込む危険性があることは容易に想像できます。

これまでのブログでもその危険性について論じてきましたが(注3)、最近放送されたNHK『クローズアップ現代』で特集されましたので、それを紹介します。

放送の内容の全文書き起こしがこちらのリンクで読め、ダイジェスト動画もあります。

ここをクリック→ NHK『クローズアップ現代』「えん罪は防げるか 司法取引で変わる捜査」

今回の司法取引導入に際し、法務・検察官僚が冤罪の抑止力となると述べている虚偽供述の罰則規定、司法取引の協議における弁護士の同席、司法取引による供述の裏付け捜査といったものは、必ずしも十分ではなく、司法取引の全過程の録音・録画による記録化(可視化)が非常に重要であるということが、アメリカの実例を元に検証されています。

今国会での成立が見送りになったといっても、これは廃案になったわけではなく、秋の臨時国会での継続審議が予定されています。我々国民の生活に直結する可能性がある刑事訴訟法の改正に、より深い理解が必要であり、議論を深めていかなければならないと考えます。

(注1)
ここをクリック→ TBSラジオ『デイキャッチ!』「取調べ全過程の録音・録画を義務付けへ。法制審議会が試案。(青木理)」

ここをクリック→ NHK時論公論「通信傍受拡大へ 解かれる封印」

(注2)
ここをクリック→ 裁判員制度の対象となる事件の数(最高裁判所資料)

(注3)
ここをクリック→ #検察なう (491) 「捜査協力型司法取引のリスク~法務委員会における笹倉香奈参考人の意見より」

ここをクリック→ #検察なう (492) 「捜査協力型司法取引のリスク その2~市川寛氏ブログより」

9/10/2015











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category: 刑事司法改革への道

2015/09/10 Thu. 01:29 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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